03追放
エイトがゴールしたときには、 もうマタドガスがゴールしており、周りは活気に満ちていた。
「やったな!マタドガス」
「新しいリーダー万歳!!」
エイトはその光景をどこか他人事のように眺めていた。
「皆ありがとう、これからは頼むぜ!!……あっ、マサキさん!!」
すると人混みのなかからエイトの父であるグラエナのマサキがやって来た。
「おめでとう、君は辛い試験の数々をよく耐え抜いた。このチームのリーダーを任せるのに相応しいのは君だよ」
といったマサキは体につけたバッチをマタドガスにわたした。これは正式な『水流』のリーダーとしての証であり、このことが正式にリーダーがマタドガスに譲られたことを示していた。
「よし、皆で新しいリーダー誕生を祝して祭りだ!!」
うぉー!!
ヨッシャ!! 踊るぞー!
周りから歓声があがる。
そんななかマサキはエイトに向かってきて告げる。
「わかってるな。」
エイトは頷く。
『水流』の選挙において、最終試験に勝ち残った4名のうち、リーダーになれなかった3名はチームから追放されるのがルールとなっている。
これはリーダー就任後、リーダーの権力をより高めるため、またリーダー自身の自覚を高めるために定められたルールである。
これによってリーダーは普通のポケモンとは一線をきす覚悟を身につけ、高いリーダーシップとカリスマ性を身につけることができる。
ただ、追放されたポケモンは辛い。『落選組』として如何なるチームにも所属出来ないように『水流』自身が仕向けており、また独立したチームも作れないようにされている。もしもつくろうものなら『水流』自らが真っ先に壊滅するルールとなっている。
つまり、落選組は野生として孤独に生きるか、トレーナーとともに生きるかしかない。ただ、トレーナーに捕まるのは屈辱としか考えないものが『水流』のなかではほとんどなのでその多くは今も形見の狭い思いをして野生で生きている。
エイトにももちろんそのことは知っており、そうして生きていく覚悟はあった。
ただ、どこかでリーダーに必ず成れるということを決めつけていたためか、いざ追放という時になっても、受け入れられない自分がいる。
エイトは輝く親友の姿を見て、今までのことが走馬灯のように思い出される。
「あれ…、別に死ぬ訳じゃないのに…」
エイトは物心がついて、初めて泣いた。
「全くお前がリーダーなんて『水流』もおわりだな!!」
「バカが!今までで最高のチームにするよ!」
落選組は一般的には誰にもいわずにチームをさるのだが、マタドガスがエイトの姿を見つけて最後の話をする。
表面上はいつもと変わらないが、お互いにお互いの今後が分かっているので何ともビミョウな空気である。
リーダーはチームの部隊すべてを束ね、地方を支配する、名実ともにトップに君臨する。一方では他チームだけでなく一般のポケモンからも煙たがれる。まさに天と地ともいえる差が既に生まれている。
「…そうだ、エイトおまえに手紙書くよ!それとさ、また機会があったら…」
「おいおい、おれらとチーム『水流』のメンバーは接触禁止だろ?もうおまえはリーダーなんだからな?しっかり頼むぜ?たとえ追放されたとしても、この『水流』は俺の故郷なんだからさっ。頼むぜリーダー!!」
エイトが柄にもない言葉をいい、マタドガスは驚いた顔をする。
「…バーカ、エイト!俺はな、…
「うじうじうるせえよ!てめえはてめえの自覚を持て!!」
そういってエイトはマタドガス率いる『水流』を後にした。