正解の模索(BW2・元プラズマ団とメイ)
注・胸くそ悪い暴力表現・解釈があります。あまり後味もよくないです。ちょっとヒュウメイ表現あります。
「で、おまはんプラズマ団は悪いと思うか?」
「・・・・・・わたしは、そうは思わないな」
何故だろう。シズイさんの問いかけに、わたしはヒュウちゃんを裏切るような言葉を返してしまった。ヒュウちゃんは優しいけど、プラズマ団のことになるとすごく怒る。ドジなわたしをしかりつける時みたいな、あったかい怒り方じゃなくて、それは本当に冷たい。冬の凍てつく風みたいに。だから、こんな変なことを言ったわたしに、ヒュウちゃんは冷たく怒ると思ったけど、何も言わなかった。その後の反応はびっくりするくらい普通だった。だから、後になってそれに対して聞いて見たことがある。
「どうしてヒュウちゃんは、あの時プラズマ団は悪くないって言ったわたしに怒らなかったの?」
ヒュウちゃんはプラズマ団の人がお世話をしているミネズミを撫でていた。ヒュウちゃんはあの事件の後しょっちゅう元プラズマ団の人たちのところに来て、罪滅ぼしのお手伝いをしている。いわゆるネズミに分類されるポケモンが、わたしは好きだ。だから後で触らせてもらおうかなって、真面目なことを聞いてるのに考えていた。
「逆に聞くけど。なんでオマエはあの時、プラズマ団は悪くないって思ったんだよ」
ミネズミとハリーセン・・・・・・じゃないや、ヒュウちゃんの目が、私を見ている。わたしはちょうおんぱを食らった気分になった。頭がこんらんしちゃったのだ。考えてみればわたしは、ヒュウちゃんが怒らなかったことばかりに気が言っていて、どうしてあんなことを言ったのかは、自分の頭の中でも整理ができてなかった。もちろんわたしは困った。ヒュウちゃんの言葉を借りれば、わたしはすっとぼけている。でもこういうことは、人の言葉を借りずに自分で考えなくちゃいけないんだ。
「えーっとね・・・・・・もちろん、ヒュウちゃんの妹ちゃんのチョロネコ取っていったプラズマ団の人は酷いと思うよ。人のポケモンを奪って、変な機械でポケモンを操るなんて、最低だと思う。でも、ここに残ってる人たちとか、そうでなくても世界征服だけを考えている今のプラズマ団にがっかりしてやめちゃった人とかは、やり方は酷かったのかもしれないけど、最低って言うのはなんか・・・・・・違うんじゃないかなって」
「・・・・・・元プラズマ団だって、人のポケモンを奪ったり、誰かを傷つけたのに変わりはなくても、違うっていうのか?」
ヒュウちゃんはミネズミと一緒にわたしを見てたけど、冷たい風みたいな声じゃなかった。わたしを試してるみたいな言い方だった。
「・・・・・・うん、違うんだと、思う。もちろん、いけないことをしたって今は思ってたとしても、自分たちのしたいことをするために、人とポケモンを傷つけたのは、酷い。・・・・・・ただ、そこだけじゃなくて、ポケモンを救いたいって思った気持ちだけを考えたら。最低だって、酷いってだけで、流しちゃいけないと思うの」
穏やかで優しいヒオウギを出て、いろんなことを知った。行く先の風が優しいものばかりじゃないこと。踏む地面が歩きやすい平らな地面ばかりじゃないこと。風や地面にいろんなものがあるように、人の気持ちもいろんなものがあった。元プラズマ団の人達の考えに影響されて、モンスターボールで捕まえずにポケモンと暮らしている男の人がいた。考えに賛同してポケモンと別れて、無気力な生活をしているおじいさんがいた。別れたポケモンとまた出会って、ポケモンとの絆を確かめたおばさんがいた。プラズマ団の人たちがしたことは、いいこともよくないことも全部まとめて、いろんな人にいろんな影響があったみたい。
「・・・・・・怒った?」
「別に」
ミネズミを撫でながら返事をしたヒュウちゃんは、怒っても泣いても笑ってもいなかった。
「トレーナー探しがはかどる吉報が入ったんですよ」
ある日、元プラズマ団の人達のところに遊びに行ったら、そんなことを聞かされた。うれしそうに私に話して聞かせてくれたプラズマ団の人は、奥の部屋から真っ黒な毛並みの、遠目から見たら人にそっくりにも見えるポケモンを連れてきた。ゾロアークだ。わたしがもらった、ゾロアが進化したらこの姿になる。
「このゾロアークは、Nさまの使いなんだそうです。Nさま本人は来られませんが、この、イリュージョンで人にも変化できるゾロアークなら、ポケモンの言っていることを通訳して、私たちにトレーナーの情報を伝えられるんです。ちょうど聞いた情報から割り出したトレーナーに、今からこのズルッグを返してあげに行くところで」
足下のズルッグを手で指して、スラスラと事情を話してくれるプラズマ団の人は本当にうれしそうに見えた。それはそうだと思う。元のトレーナーが見つからないポケモンたちが多くて大変そうなところに、この子の登場はまさに渡りにラプラスくらい大助かりに違いない。
「やめといた方がいいと思うけどねえ」
うれしそうなプラズマ団の人を、聞き慣れない声が止めた。声は、さっきゾロアークが立っていたところに代わりに立っていたプラズマ団の人が発したものだった。やめたほうがいいと言ったプラズマ団の人は、うれしそうにしていたプラズマ団の人と、服も顔も全く同じ。いつの間にかさっきのゾロアークがプラズマ団の人にイリュージョンしたみたい。
「どういうことだ、ゾロアーク。まさかさっきオレに教えてくれた、このズルッグのトレーナーに関する情報がウソってことはないだろ?」
「まっさかあ。他ならぬNの頼みだもの。イリュージョンするのは姿だけさ。でもさ、気づかないのアンタ。足元のズルッグ、さっきから黄色い顔が真っ青じゃないか」
ゾロアークの指さす、足元の小さなズルッグを見てみると、黄色い顔が真っ青かは知らないけれど、確かに顔色が悪い。そわそわして落ち着かない感じ。しかられる前の子どもみたい見えるけど・・・・・・ちょっと違う。ヒュウちゃんのあの冷たい風みたいな怒りを何故か思い出した。
「本当だ・・・・・・どうしたんだろう、さっきまで元気だったのに」
「どうもそいつは、トレーナーのとこに帰りたくないみたいだな・・・・・・理由までは教えてくれなかったからわからないけど」
「まさか! 今まで自分のポケモンと会えたトレーナーはみんな、オレたちに怒りこそ向けど、自分のポケモンに会えたのを喜んでくれた! コイツだって、長いことトレーナーに会ってないから、ちょっと不安なだけに決まってる!」
「そう言うならボクも止めはしないけど・・・・・・情報提供者として、引き渡し現場にはついて行かせてもらうよ・・・・・・ヒマならアンタも来たら?」
「わたしも?」
思わぬところから誘いが来て驚いた。でも、わたしもこのズルッグは心配だし・・・・・・。うれしそうにしていたプラズマ団の人の顔を見ると、メイさんにはいろいろお世話になりましたから、同行したいというのならぜひ、という返事が来たのでついていくことにした。
引き渡し現場は、何故か人気のない森の中。連絡を取った相手からの指定なんだって。プラズマ団としては、こっちが一方的に悪いから向こうが指定してくればそれに従うしかないんだろうって、ゾロアークは言ってた。ちなみにゾロアークはプラズマ団の人と同じ姿のままついてきている。
ゾロアークは珍しいポケモンだから、そのままだと目立つもんね。でも同じ顔が二つ並んでいるというのはそれはそれで目立つんじゃないかなあ。ゾロアークの姿のままよりはいいと思うけれど。待ち合わせの場所に立っていたのはごく普通の男の人だった。あらかじめ目印としてつけてくると言っていた、腕の赤いバンダナがなかったら、人気のない森の中でもそのまま通り過ぎてしまいそうなくらいだ。ゾロアークは同じ顔が並んでたら向こうも困惑するだろうからと茂みの奥に隠れてしまった。今更のような気もするけど。
「このたびは、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
プラズマ団の人は、まず最初に男の人に丁寧に頭を下げた。印象の薄い男の人は、人のよさそうな笑みを浮かべて、いえいえと首を振った。
「こちらとしては、返していただけるのなら何も言うことはありませんよ。どうか頭をあげてください」
「これも我々がしてしまったことの償いですから。こうした謝罪も、我々の自己満足ですけどね・・・・・・さ、ズルッグ、オマエのトレーナーさんだ。お行き」
「久しぶりだね、ズルッグ。さあ、僕と一緒に帰ろう」
プラズマ団の人は、脚にくっついていたズルッグを優しくうながした。けど、ズルッグは元のトレーナーさんのところに寄って行こうとしない。
それどころか、プラズマ団の人の脚に、さっきよりも強く抱きついていた。
「どうしたんだ? ほら、トレーナーさんの元に帰るんだ」
「ほら、ズルッグ。あまり迷惑をかけたらいけないよ。さあ」
さあ、のところを男の人が強く言うと、ズルッグはしかたなくって感じでプラズマ団の人の脚から離れて、男の人の方に歩いていった。
「お前がいないあいだ、生活に張り合いがなかったよ。一緒に帰ろう」
しゃがみこんだ男の人の手が、ズルッグの体に触れた瞬間──。ズルッグが、男の人の手から逃げ出した。
「っ! ・・・・・・このやろう!!」
それまで穏やかだった男の人の声が急に怖い色に変わって、背中を向けて逃げようとしたズルッグを足で蹴り飛ばした。軽いズルッグの体は5メートルくらい吹き飛んで、ゴロゴロと地面を転がる。
「おいっ! 何をするんだ! お前はこのズルッグのトレーナーじゃないのか!」
わたしが信じられない光景に固まっていると、プラズマ団の人がズルッグの元へ歩いて行こうとする男の人に立ちふさがるようにして、叫んだ。男の人はふわっと空気を変えて、また人のよさそうな笑みを浮かべる。
「いやいや、これは見苦しいところをお見せしました。しつけですよしつけ。これ以上人さまの手をわずらわせたらいけませんからね」
「しつけなもんかっ!! おれのお母ちゃんだってゲンコツぐらいで、こんなひっぱたき方しなかったぞ!!」
蹴られたズルッグは、急所にでも当たったのかピクリとも動かない。わたしの体も動かなかった。印象の薄い人だけど、人のよさそうな男の人に見えた。
「この子は前からイタズラが過ぎるものですから、このくらいしないとわからないんですよ」
「それにしたって、もっとやり方があるだろ!」
「・・・・・・ちっ、うっせーな」
つい手を出してしまったことに対するごまかしが通用しないとわかったのか、男の人の声が低く、怖くなる。またヒュウちゃんの冷たい風みたいな怒りを思い出す。すぐに似ていないと思い直す。ヒュウちゃんのあの冷たい怒りは、ヒュウちゃんなりの優しさが出てた。おじいちゃんの捕まえてくれたチョロネコを想う気持ちから来る怒りだ。この人のは、もっと根底から冷たい。思い通りにならなかったから怒った、という感じだった。
「ポケモン解放だかなんだか知らねーが、人のポケモン横取りするような、底辺の犯罪ドロボウ集団ごときが、人さまに説教垂れてんじゃねーよ」
「うっ・・・・・・!!」
男の人の、ある意味では真実である言葉に、元プラズマ団の人は動けなくなった。氷づけになったポケモンみたいに固まってしまった元プラズマ団の人の横を通って、男の人がズルッグの元に歩いていく。
「オラ、とっとと起きろ、気色の悪い皮ヘビ野郎。てめーがいない間ストレス解消道具がいなくてイライラしてたんだ。さっさと帰るぞ、オラッ!」
さっきの重い一撃をもう一度ぶつけようと、男の人の右足が、ボールでを蹴る寸前みたいな格好になる。危ない。わたしが固まっていた体を無理矢理動かして、走り寄ろうとした瞬間──。
「やめろおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
元プラズマ団の人が、男の人にたいあたりをした。男の人がバランスを崩した隙に、元プラズマ団の人は倒れて動かないズルッグを守るように、その黄色くて小さな体に覆い被さる。
「いてえな、何しやがる!! クソ集団の三下風情がよおっ!!」
「お前がズルッグを蹴ろうとするからだろ! オレたちが悪く言われるのは当然だけど、このズルッグが暴力を振るわれる理由は、どこにもないじゃないか!!」
「それこそてめーに関係ないだろ。人が自分のものをどうしようと勝手だ」
「ポケモンは物じゃない!!!」
「・・・・・・さっきから黙って聞いてれば。調子こいてんじゃねーぞ、頭のおかしい格好の三下ヤロー」
「頭がおかしいのはどっちだ!!」
「っ・・・・・・テメー!!!」
自分より下だと思っている人に言い返されるのが頭に来たのか、男の人の足は、ズルッグをかばう形になっている元プラズマ団の人の体に振り下ろされた。踏みつけられて、蹴られて、灰色と白の元プラズマ団の服が土と泥まみれになる。それでも元プラズマ団の人はズルッグの上からどこうとはしない。
わたしは立ち止まったままだった体をもう一度動かした。離れたところに立っている男の人めがけて、わたしのウィンディのワンディみたいに、とっしんする。男の人は元プラズマ団の人を蹴るのに夢中で、わたしが接近してることに気がつかない。体と体がぶつかって、ゴッ、と鈍い音がして、また男の人がバランスを崩した。
「いてえな、コンニャロー!! 乳臭いガキと基●外集団の三下のくせに、人をコケにしやがって!!」
「い・・・・・・今のは、プラズマ団の人悪くないもん!! 悪いのはズルッグ蹴ったお兄さんじゃない!!」
すごく汚い言葉をぶつけてくる男の人に、わたしも負けじと言い返した。後先なんかぜんぜん考えてなかった。怒った男の人は、私に拳を振り下ろす。わたしは怖くて体のバランスを崩したまま動けない。せめて目だけはつぶらないでいよう、と思って男の人をにらみつけた瞬間、男の人の体が吹き飛んだ。
「はいはい、そこまでー」
元プラズマ団の人と同じ格好をした人が、おもしろくもなさそうに、男の人がいた場所に立っていた。さっきどこかに行ってしまったゾロアークだ。元プラズマ団の人の格好をしたゾロアークは、吹っ飛んだ男の人にわたしのワンディもびっくりなこうそくいどうで走り寄ると、真っ黒な衝撃波をぶつけて更に男の人を吹き飛ばした。叫び声をあげながら後ずさりをする男の人の胸ぐらを掴むと、ゾロアークはドロン、と元の姿に戻って、真っ青な瞳で男の人をにらみつけながら、ぞっとするような声で男の人に「命令」した。テレパシー越しの、ザラリとしたとても聞き取りにくい声だった。
『──帰れ』
「ひ、ひいいい、ごめんなさい、ごめんなさいっ、帰る、帰りますっ!!!」
男の人は、わたしや元プラズマ団の人に対する強気な態度がウソみたいに逃げ出してしまった。真っ赤なたてがみを持った元の姿に戻ったゾロアークは、パサッとたてがみをかきあげる。たてがみが元の位置にもどった時には、また元プラズマ団の人の姿になっていた。
「お気をつけて。帰り道が一生続くまぼろしじゃないといいねえ」
にやりと人の姿で笑うゾロアークは、どこまで本当のことを言っているのかがわからない。イリュージョンするのは姿だけ、と言っていたけれど、言葉にも幻影がかかっているみたいで、本当のようなウソのような、どっちとも取れるようなところがある。もし本当だとしても、それをとがめる気にはなれなかった。
「何度聞いてもそのズルッグが口を割らないものだから、敢えて返した後、元のトレーナーが何かしでかすかどうかこっそりついていって張ろうかと思ったんだけどね。まさかこんなに早くしっぽを出すとは。化けるならもっとうまく化けないとダメだよ」
変装の名人のゾロアークにダメだしされたら、あの男の人も立つ瀬がないだろう。未だに腰が抜けたままのわたしと、ズルッグに覆い被さったままの元プラズマ団の人を交互に見て、ゾロアークはため息をついた。
「・・・・・・あんたらポケモントレーナーだろ? なんでトレーナーがヤバい人間と直接対決してんのさ。とくにそこのお嬢さん。あんまり無茶するとハリーセンの彼氏が心配するよ」
「ひゅ、ヒュウちゃんはハリーセンじゃないし、彼氏でもないもん!」
「ふーん、まあどっちでもいいけど。そこのアンタも。いつまで倒れてんのさ」
いきなりからかわれてカアッとなったわたしを無視して、元プラズマ団の人の格好をしたゾロアークは、元プラズマ団の人の手を引っ張って助け起こす。まるで自分自身を助けているような、そんな気がした。
「あいたたた・・・・・・」
「ざまあないね、アンタも。ヤバいのが言ってた三下って部分は否定できないね」
「ははは・・・・・・いてっ」
蹴られたわき腹の辺りを押さえた元プラズマ団の人に、ズルッグが心配そうに寄り添った。まだ体が痛いみたいだけれど、ズルッグの行動に気持ちがなごんだのか、元プラズマ団の人はそっとズルッグの頭を撫でてやった。
「この黄色いのも、なんでああも頑なに口を割らなかったんだか・・・・・・告げ口したらまた酷いことされると思ってたのかね」
あきれたような口調だけど、人の格好をしたゾロアークの顔にはハッキリ「心配してた」と書いてある。ゾロアークは仲間意識が強いポケモンだとアララギ博士に聞いたことがある。それは他の種族のポケモンに対しても同じなのかもしれない。
「で、どうすんだい、この黄色いの。まさか今更はいどーぞなんてわけにもいかないだろう」
「それはもちろんだ。でも、どうしよう・・・・・・ズルッグの生息地に逃がしてやろうか」
元プラズマ団の人が言うと、ズルッグはムギューッて感じで元プラズマ団の人に抱きついた。ゾロアークは肩をすくめて笑ってる。
「・・・・・・どうも黄色いのはアンタから離れたくないみたいだよ」
「そうみたいだな」
元プラズマ団の人は複雑な顔をして、ズルッグの頭を撫でていた。なおもくっついたままのズルッグに「もうどこにもやらないから、安心しろ」と言うと、ようやくズルッグは落ち着いて、元プラズマ団の人に寄り添うように座り込んだ。
「・・・・・・元のトレーナーのわかるポケモンは、みんな返してきた。返すときいろんなことを言われたよ。それこそ今日の男が言ったようなことだってね。自分のポケモンを取り返すなり、殴られたこともある。それはオレたちのやったことの報いだからいい。でも・・・・・・、」
そこで言葉を切って、元プラズマ団の人はボロボロと涙を流し始めた。ケガが痛むと思っているのか、ズルッグが心配そうに元プラズマ団の人に寄り添う。
「今日みたいな、自分のポケモンが戻ってくるなり・・・・・・あんな、道具みたいに蹴ったやつなんて、始めて見たよ。今までポケモンを返して来たトレーナーは、みんな反応はどうあれ、自分のかわいがってたポケモンが帰ってきたことを喜んでた。オレを殴ってきた人だって、それはポケモンを大事に思うがゆえのことだった。あの人たちの喜びや怒りは、絶対ウソじゃない。みんな、オレたちには冷たくたって、ポケモンにはあたたかかった。だから、オレたちのやったことは絶対しちゃいけないことだったんだって、間違ってたんだって、思ったのに、あんな・・・・・・、ゴメンな、気づかなくて。痛かったろ」
元プラズマ団の人は、自分の方がたくさん蹴られたのにズルッグのことを心配していた。元プラズマ団の人に撫でられて、ズルッグはグルグルと鳴いている。その光景を見て、わたしは、元プラズマ団の人のポケモンを想う気持ちだけは間違っていないと思ったのは、間違ってなかったんだと思った。
「その黄色いのに、なにか兆候とかはなかったのかい? 虐待されてたポケモン特有の、人を見ておびえるとか、そういうの」
「少しはあったのかもしれないけど・・・・・・主人と引き離されて、まだこっちに慣れてないんだと思ってた。それもしばらくしたら、なくなってたし」
「へえ。この黄色いのにとっては、まさにドロボウされたのが「救い」だったわけか」
元プラズマ団の人の格好をしたゾロアークは、自分もしゃがみ込んでズルッグの頭を撫でてやった。同じ顔の二人に同時にもみくちゃにされて、ズルッグは?と混乱したような顔をしている。なんだかそれが場違いにおかしい。
「ポケモン解放ねえ・・・・・・確かに黄色いのみたいなやつにとっては、それは救いだったのかもしれないね。まあボクは、Nと一緒にいると楽しかったから、あんまり賛同できないけど」
ゾロアークの言葉で、わたしはわたしが考えていたことが正解でもあって不正解でもあるのだと実感する。元プラズマ団の人のポケモンを救いたいという気持ちは本当でも、もしあれが本当に起こっていたら、悲しむポケモンも人もいっぱいいたはずだ。
「二年前のプラズマ団の野望が実現するのと、しないのと、いったいどっちが良かったんだろうな・・・・・・どっちにしても、ゲーチスさま・・・・・・じゃないや、ゲーチスの考えてたことは、オレの理想と全く違うものでしかなかったんだけど」
泣きはらした元プラズマ団の人の顔は、怒っても笑っても悲しんでもいないみたいだった。
ヒウンアイスはおいしい。ポケモンじゃなくて、人間でも。冷たくてフワリと溶けて柔らかで、頭のずっと上の方にある雲まで飛んでいけそう。ヒュウちゃんはベンチに座ったわたしの隣に座って、サイコソーダを飲んでいる。ヒュウちゃんの頭がハリーセンみたいなのは、ソーダを飲んではじけちゃったからなのかな。
「ようするに、お前はまたムチャクチャなことをしたわけか」
「ごめんなさい、だって・・・・・・」
「まあ、メイだしなッ! 約束ごとが飛んでいってすっとぼけたことしてもしかたねー」
ヒュウちゃんにこの前の元プラズマ団の人の話をしたら、何だか複雑な顔をされた。それからちょっと座るか、って言われて、わたしはヒウンアイス、ヒュウちゃんはサイコソーダを飲みながら、こうしてベンチに座っている。
「・・・・・・この前のな、なんでお前がプラズマ団は悪くないって言ったとき怒らなかったかって話。あんときは正直そんなの問いつめてるヒマなかったし、お前には協力してもらってる立場だったからな。お前が何をどう思おうと、言う権利はないと思ったんだ」
でもさ、とヒュウちゃんは言った。すこしだけソーダの匂いがする。
「正直、今はよくわかんねえんだ。今でもプラズマ団のこと許せねーって気持ちと、もういいって気持ちがあって。それが頭んなかぐちゃぐちゃにして、もう、全然。だからさ、メイがオレに、何がどういけないのか・・・・・・そんなふうに聞いてきたって、オレもわかんねえッ! って言うしかねえんだよな」
「そっかあ・・・・・・」
例えば、ヒュウちゃんとわたしは・・・・・・その、恋人同士じゃないけれど、こうして二人でベンチに座って離しているのは、恋人に見えるのかもしれない。忙しそうなヒウンシティの人たちを見て、かわいそうと思ったとして、仕事を必死に頑張っている人は、かわいそうだと思われるようなつらいことばかりとは限らない。見える世界は位置と角度を変えると全然違うものに変わって、どれが本当で正解なのか、バカなわたしには全然わからない。
溶け始めたアイスを持ったまま頭のずっと上の雲を見上げれば、それはどんどん流されていって、いつも同じ形ではいてくれないのだ。
シズイにプラズマ団は悪いかどうか? って聞かれた時に思いついたネタ。ずっと書きたかったネタでもあります。思想だけ考えたらプラズマ団は悪いとは限らないかなあと私は思います。誰の肩も持たないような感じにしたけどどうだろう。何だかんだ元プラズマ団の方の思想自体は嫌いじゃないなあと思ってるので贔屓っぽく見えるかもしれません。