短編集
マネネというポケモン(アニポケ・コジロウのマネネ)
 マネネは、名が体を表す通り、人の行動を真似して気持ちをはかり、相手に敵意がなければその対象を楽しませたり励ましたりする、実に楽しいポケモンだ。そのマネネが、のんびり楽しく、リズムを取りながら、時に街を歩く人の遊び疲れて曲がった背中、スキップしながら遊びに行く足取りを真似ながつつ、これというあてもなさそうに歩いていく。

 まるでチラシをばらまきながら歩く旅芸人一座のように、楽しそうに歩いていたマネネは、前方に悲しそうに泣いている女の子を見つけた。
 
 髪の毛を二つに結んだ、年齢的には小さなマネネよりもずっと小さそうな女の子だ。迷子なのか、時々お母さんを呼びながら、目頭を押さえぐすんぐすんと泣き続けている。
 
 マネネはその女の子の前に立ち、女の子と同じポーズで泣き真似を始めた。これは女の子をからかっているのではない。マネネはベイビィポケモンらしくイタズラが大好きだけれども、意地悪はしない。こうやって悲しんでいる相手の動きを真似することで、ただ見るだけではわからない、相手の気持ちをマネネなりに探ろうとしているのだ。

「グスン・・・・・・グスッ・・・・・・あれ、あなたどうしたの?」

 小さな女の子が、泣き真似をしているマネネに気づいたようだ。自分よりもちっちゃなポケモンが泣いているのに気がついて、泣くのも忘れてマネネの心配をしてしまったらしい。目頭を押さえるのをやめてきょとんとした女の子の動きを真似して、マネネが手で目を押さえるのをよして、きょとんとした顔をする。つぶらなお目目にもちろん涙はない。

「なーんだ、うそなきだー」

 泣いたヤミカラスがもう笑う。子どもはマネネと同じ、楽しいことが大好き。そこに楽しいことがあれば、ちょっと前のつらいことなんて、ケロッとケロマツみたいに忘れてしまう。女の子が笑ったので、マネネもニッコリする。女の子がこんにちはと手を振れば、まねっこマネネも手を振り替えす。そうしてるうちに、すっかり涙は渇いてしまった。

「ユウコー、どこにいるのー?」

 遠くから、どこかのおばちゃんの声がする。女の子が声を聞いてハッとなり、立ちあがった。この女の子の名前はユウコちゃんと言って、ユウコちゃんを呼ぶおばちゃんは、お母さんのようだ。女の子が駆け出す。お母さんに向かって。

「ユウコ、勝手にどっか行っちゃだめって言ったでしょ。あなたはすぐ迷子になるんだから」
「ごめんなさい。でもね、お母さんがいない間、あの子が遊んでくれたんだよ、ほら!」

 そうして指さす女の子の先には、すでに楽しいポケモンの姿はない。まるで風のように現れて風のように去る旅芸人一座みたいに、影も形もなかった。



 子どもがマネネと同じなら、マネネも子どもとおんなじだ。女の子が安心できるお母さんをみつけたらすぐ駆けだして行ったように、マネネも安心できるだれかを見つけたら、すぐに駆けだして行ってしまう。

「見つけたぞー、マネネ。ダメじゃないか勝手にどっか行っちゃー」
「ソォー、ナンスッ!」
「まったくもー、ちょろちょろふらふらして、危なっかしいったらないわ」
「まったくニャ」

 マネネが駆けだして行った先には、青い髪の青年と、赤い長髪の女性と、真っ青な体のソーナンスと、人間みたいに二つの足で立っているニャースがいた。走るマネネは、その勢いのまま青い髪の青年の腕めがけて飛び込んでいく。

「おー、どうしたどうした? 心細かったのか?」
「・・・・・・そうはぜんぜん見えないんだけど」
「笑ってるニャ」
「ソォー、ナンスッ!」

 マネネの飛び込んだ青年の胸には、マネネの赤っ鼻と同じような色の、真っ赤なRの文字が描かれている。ワルそうな胸の文字とは裏腹に、青い髪の青年は飛びついてきたマネネにデレデレするのにいそがしい。

「そうかそうかー、何か楽しいことがあったんだな?」
「マネネ、マネッ!!」

 マネネが笑っているのは、青年の表情を写し取ったのか、それとも自分が楽しいのか。

 話は変わるが、マネネの愉快な動きとピエロのような容姿は、ずっと昔、まだマネネがマネネという名前でもなく、愉快な動きとピエロの姿もなかったころ。芸をして日銭を稼ぐ人間達の動きが楽しそうだったから、ピエロのような楽しい動きと容姿を真似たのだという説がある。

 この説はいやこれは人間がマネネのマネをして路上パフォーマンスをするようになったのだという者もいて、どっちがどっちのマネをしたという言い合い、水掛け論か言葉遊びのような趣になっている。またまたややこしいことに、最近見つかったばかりのマネネがずっと昔から存在したという証拠がどこにあるという者までいて、何だかその辺の界隈はとてもややっこしい。

 マネをしたのかされたのか、はたまた急な突然変異かなんて、青い髪の青年の小さなマネネは知らないし、考えようとも思わない。

 ただ泣いていた女の子のような誰かが、抱きしめてくれている青い髪の青年が笑ってくれるから、小さなマネネは今日も大道芸人のピエロのような格好をして、誰かの真似っこをしているのである。



 ロケット団のマネネがかわいすぎたから書きました。ロケット団のマネネにするか別個体にするか迷いましたが、ロケット団の人らを一度書いてみたかったのでコジロウのマネネになりました。 

しらたまごはん ( 2014/08/21(木) 00:33 )