ああご主人！　世界一大好きで、バカな僕らのご主人！　ご主人をバカとか言ってる理由はとりあえず置いておいて、ボクの名前はダイゲンキ。コアラッコ、じゃないやミジュマルのころからご主人のそばについて一緒に冒険しているまあ古株なポケモンだ。（株）ポケモンじゃないよ、似てるけど。ご主人からはマルっちって呼ばれてる。ミジュマルの時につけられたニックネームが進化した今も使われているんだ。僕の横ではゼブライカのライカが心配そうに横たわったご主人を見ている。横顔がきれいだと思うのは彼女がメスだからだろうか。

　ああそうそう、なんで愛しくてバカなのかを言っていなかったね。ご主人は優しいんだ。何しろ、プラズマ団が悪さをしていたら、進んで逮捕に協力するくらいだし、そのプラズマ団にいたトモダチとやらが、間違った野望を持って世界を変えようとした時も、トモダチのために単身、アジトである城に乗り込んでいったくらいで、困ってる人を放っておけない人なんだ。それでいつでも僕らをいたわってくれているから、ケガをしたらすぐに回復してくれるんだけど、そうするとやっぱり薬代がバカにならないんだよね。だから薬代が安くすむように、なるべく安価で回復力が高いものを探していたんだ。最初はミックスオレが一番いいって買い込んでたんだけど、町の市場でモーモーミルクが安く売ってたのと、ミックスオレと大して値段が違わないのにミックスオレより回復するのとで、ご主人はミックスオレに鞍替えをしたんだ。と、ここでハッピーエンドといかないのが世の常さ。

　なんと、大量に買い込んだモーモーミルクが腐っちまったんだ！　考えてみれば取れたて新鮮な牛乳がいつまでも取れたて新鮮な牛乳でいてくれるわけがない！　ご主人は何を勘違いしていたんだろうね！

　もちろん優しいご主人だから、そんな腐ったもんを僕たちに飲ますなんて、プラズマ団も裸足で逃げ出すような外道なことはしない。だけどね、ご主人は優しくてバカで、しかもちょいとケチンボだったんだ。優しいから僕たちにへんなものはあげられない、でもちょいとケチンボと来たらどういう行動を取ると思う？　そう、なんと自分で腐ったミルクを飲んじまったのさ！

「チーズだって腐ったミルクみたいなもんだし、僕はチーズもミルクも大好きだからからいけるいける」

　なんて明るく言ってたけど、いけるわけがなかったのさ！　牛乳を廃棄する損害より、お医者にかかるお金の方が高いって、ちょっと考えればわかるのにね。ポケモンじゃないんだから、ただで体調を整えてくれるわけがないのにさ。

　ご主人は腐ったミルクを笑顔で飲んで、それから数十分後に死にかけの形相のウパーみたいに真っ青な顔をして遠くの茂みの奥深くに走っていった。茂みの奥深くで何をしていたのかは、ご主人の名誉のために伏せておこう。だいたい想像つくでしょ？

　一時間くらいして、すこしやつれたように見えるご主人が茂みから這い出てきて、そしてうつ伏せに倒れた。「医者には行きたくない･･････注射や入院は嫌だ･･････」とダダをこねるご主人の意志を尊重して、手持ちの道具で治そうという話になったんだけど、さっきも言ったとおり、僕らがケガをするとすぐに治してくれるご主人は、あいにくなんでもなおしもどくけしも、モモンのみも持ち合わせがなかったのさ。しかたがないからケンホロウのマメにピカチュウよろしくおつかいに行かせて、僕とライカはご主人の看病をしているんだ。怪しい露店のおっちゃんから買った、モモンスカーフというスカーフを、雨が降ろうが砂嵐だろうが取らないご主人の帽子ごしにかぶせておいた。帽子の上にスカーフは大変シュールだ。別の部分でもよかったかもしれない。怪しい露店のおっちゃんいわく、これは別の世界で発明されたもので、毒を｢防止」する効果があるそうだから、気休めになるかもしれないと思ったけど、「防止」ならなっちゃった後はこうかが　ないようだ･･････状態かもしれない。実際死にかけのウパー顔に全く変化が見られない。

　さっきからご主人がピクリとも動かないんだけど、まさか死んでないよね？　死んでないと言ってほしい、頼む！　しっぽで脈を取ったけど、スゴイ勢いで動いてた。死んでたまるかって勢いだった。よかった主人はまだ生きてる。マメはまだおつかいから帰ってこないんだろうか。途中にあるスイミツトウをかじるのに夢中になってるとか、そんなことはまさかないと思うけど。こんなことなら僕もみかんばこをかぶってマメを追跡するんだった。

　ああご主人、世界一愛しくてバカな僕のご主人！　どうか、どうか死なないで！　なみのりで豪快に冷やした濡れタオルを、帽子をかぶったままのご主人の額にのっけていると、マメの特徴的な、体を急降下させる風切り音が聞こえた。



　後書き。
自分のＢＷのメンバーで描いてみました。なんとなくあれだけのことする主人公はいいやつだけど変なやつでもあるかなあと。