ポケモン・ザ・ワールド〜希望の魔法使い〜 - 第3楽章 新たな伝説のはじまり−Recitativo−
046 僕に行かせて下さい

 クライシスのアジトの一角では、ソナタが頭を抱えながら顔をゆがめている。寒くなってきたこの時期なものだから、風邪が真っ先に疑われた。しかし、何度熱を測っても病院にかかるレベルの体温には達しておらず、喉の痛みなんかの症状もない。かといって、いつも付け狙っているモモコのように天気の変化に弱い体質でもない。
 ここ最近になって、ソナタの具合が悪くなることが多くなった。特にチームカルテットと接触した後は、きまって苦しそうにしている。いつものエステ通いもショッピングも、もう何日も行っていない。
 こう言うとまるで、原因不明の体調不良のようにも聞こえる。実際、ドレンテも最初は顔色の悪いソナタを見ては心をひどく痛めていた。

「うぅっ……」
「大丈夫かい、ソナタ。冷や汗が出ているよ」
「だ、大丈夫よ。アンタも仕事があるんでしょ? あたしに構ってないで、持ち場につきなさいよ」

 しかし、ドレンテはここ最近になって、ある心当たりを見つけた。
 たぶん、自分が支払った対価の期限が切れかかっているのだろう。それが、自分とソナタが闇の魔法使いとしてここにいる理由。そのキッカケとなった“魔法”が、フッとろうそくの火のように消えようとしている。それがさらにドレンテに不安を植え付けているのだ。
 2匹がこんな調子なものだから、グラーヴェも調子が狂う。モモコに執着心、ミツキに憎悪をそれぞれ抱くドレンテとマイペースなソナタ。2匹は同時にクライシスにやってきた。闇の魔法使いになる前から、何らかのつながりがあるとは聞いている。

(妙だ)

 ただ、同じ三幹部のよしみだというのに、この心の距離は何なんだろう。自分達は、この世界を闇に染め上げるという崇高な目的のために集った者同士ではないのか。単なる同僚かもしれないが、グラーヴェにとってドレンテとソナタは愛着のある仲間だと思っている。だからこそ、2匹の調子が悪い中、自分が頑張らなくては。もやもやする気持ちを抱えながらも、グラーヴェは仲間と仕事のことを同時に考えていた。
 今の自分達の目的は、ポケモンのミュルミュール化とその時に生まれるエネルギーの回収。そして、これまではモモコの捕獲を目的としてきたが、ユウリの命令でそれが変わった。ミツキ、ライヤ、コノハにも捕獲の対象を広げることになったのだ。
 ユウリが何を考えているのか、グラーヴェにもはっきりとしたものは分からない。しかし、ユウリの言うことが自分達の理想実現につながると信じてやまないグラーヴェは、頭の中でしっかりと計画を立てていた。

(あの中で一番簡単に狩れそうなのは、ライヤだな)

 同じ頭脳派として、一歩引いたところから仲間達を見ているライヤ。グラーヴェは、ライヤがどこか自分の立ち位置と似ている気がした。



* * *



 魔法のほうきに乗りながら見下ろす星空町は、ポケモンの通りが少なめだ。日に日に寒くなっていくものだから、外に出たがらないポケモンが多いのかもしれないと、ミツキは予想する。ここ最近、空中パトロールはいつもこんな感じだ。ミュルミュールが突然現れる以外の大きな出来事は、ほとんど起こらない。
 このまま一日、何事もなく終わればいいけど。そうぼんやりと考えていた時、先頭にいたライヤがふと思い出したように振り向いてきた。

「言い忘れてたんですけど、僕、聖なる夜の祭りの日は実家に帰るかもしれないです」
「いいんじゃねーの? 他のヤツらの帰省は年末年始に集中してるし」
「ライヤなら地元もここだから、電車使うワケでもないっしょ?」

 帰省。実家に帰る。帰る家が特にない自分にとっては縁のない話だ、とモモコは聞き流す。とはいえ、マジカルベースには家庭に特殊な事情を持っている魔法使いは何匹かいる。彼らとのんびり年の瀬を過ごすことになるんだろうな。それはそれで、ちょっと楽しみかも。そう思っていたところで、ライヤから思わぬ提案がなされる。

「それで、もしよかったらなんですけど……。4匹でうちに来ないかって、母さんが言ってるんです」
「いいのか?」
「ミツキには一回お世話になってますし、レイもみんなに会いたがってるんです」
「レイって、ライヤの弟くんだっけ? 運動会で一等賞取ってた」

 はい、とライヤはうなずく。モモコはレイと直接話したことがないが、秋の運動会で大活躍していた姿は記憶に新しい。

「ナイスアイディアね! アタシも久々に、レイくんに会いたい!」
「俺も賛成。祭りの日に仕事だけってのも、なんかもったいねぇし」
「わたしも、ライヤの親御さんがよければ」
「決まりですね。そしたら実家には僕から__」

 

「ライヤにいちゃーん!」



 地上から、チームカルテットに割って入るように、ハリのある子どもの声が聞こえてくる。見下ろしてみると、星空町の大通りの中に1匹のピチューがこちらを見上げていた。ぴょんぴょん飛び跳ねているその姿は、とても幼い子どものように見える。

「ウワサをすればレイですね」

 このピチューこそライヤの弟・レイ。チームカルテットはレイのもとに向かうために、地上まで下りてくる。レイもまた、ライヤに会えて嬉しいのかものすごいスピードで突進してきた。さすがは運動会のかけっこ一等賞__ライヤ以外の3匹は、心の中でユニゾンしていた。

「レイくん久しぶり! また身長伸びたんじゃない?」
「えっへへ! 2学期に入ってから、もう4ミリは伸びたんだよ!」
「ライヤのこと抜かすんじゃねーか?」
「そ、そんなぁ!」

 レイと親し気に話しているあたり、ミツキとコノハも彼と長い付き合いになっていることが伺える。一人っ子のミツキと姉がいるコノハにとっても、レイは身近な弟的存在なのだろう。

「そんなことないよ! ライヤにいちゃんはオレよりもずーっと大きいから!」

 それにしても、きょうだいとはいえどもライヤとレイは全く違うタイプだ。世にも珍しいのろまピカチュウである一方、頭が良く物腰も低いライヤに対して、レイはハキハキした印象が強い。元気いっぱいのレイの姿を見て、モモコはふと自分の弟のことを思い出す。自分が家を出て行った時の弟も、レイと同じぐらいの歳だった。

「レイ。聖なる夜の祭り、みんなで家に帰ることにしたよ」
「ほんと!? ライヤにいちゃん、帰ってくるの!?」
「うん。だから、お父さんとお母さんに伝えておいてくれるかな?」
「もっちろん! そこの新入りくんも来るんだよね?」

 不意にレイが、話の矛先をモモコに向ける。新入りくんって、もしかして自分のことか__なんて頭の片隅で考えながら、モモコは目線をレイに合わせて答える。

「うん。聖なる夜の祭りの日、お邪魔するね」
「しかたないなぁ、お邪魔されてあげるよ」

 この年頃の男の子なだけあり、売り文句も年相応だ。えへんと小さな胸を張るレイの姿は、チームカルテットからすればどこか微笑ましく見えた。

「んじゃオレ、この後ふしぎ博士のとこに遊びに行くから!」
「気を付けて行くんだよ」

 チームカルテットは、ふしぎ博士の研究所へ向かうレイの背中を見送る。ヘッポコ科学者と言われているふしぎ博士だが、星空町の子ども達の間ではカルト的な人気があるらしい。ふしぎ博士のユニーク且つフレンドリーなキャラクターも手伝っているのだろう。
 自分達4匹もまだまだ子どもだが、もっと小さな子どもを見ていると「元気だなぁ」としみじみ思う。大人達に囲まれた生活を送っているものだから、よけいにそう見えてしまうのかもしれない。

「ライヤが敬語使ってないのって、ちょっと新鮮かも」
「そうでしょうか?」

 たわいもない話をしながら、チームカルテットは空中パトロールへと戻っていく。この一部始終を、じっと物陰から見ていたポケモンが1匹いることに、気付かないまま。



* * *



 あくる日。チームカルテットはルーティンのように、フローラが仕分け作業をするポスト部屋にやってきた。聖なる夜の祭りが近づく中だが、フローラの顔は晴れ晴れとしている。以前、両親の墓参りに行った時、モモコやフィルに自分の気持ちを受け入れてもらった。その時から、フローラの中で何か踏ん切りがついたのだろう。

「あ、チームカルテット! 依頼ぼちぼち来てるよ」
「去年の2倍は、アタシ達宛ての依頼が増えてるわね」
「まぁチームカルテットは新聞にも載ったし、よくも悪くも有名になってるからね」

 悪くも? とミツキはフローラにガンを飛ばす。実際、きっかけは何であれ、チームカルテットが星空町の中でも名の知れた魔法使いになっているのは事実だ。不名誉なウワサが半分より少し多めのところを占めているが、ウワサが広がるのと同時にいい話も出回ってくる。ミュルミュールの浄化に一生懸命取り組む、若き魔法使い__なんて評判もゼロではない。

「よくもとも言ったよ、よくもとも!」

 どうどう、とライヤはミツキとフローラをなだめる。ちょうどその時、少し離れたところから自分の名前を呼ぶような声が聞こえてきた。



「ライヤの弟ですか? ウチには来ていませんが……」



 よくよく話を聞くと、直接呼ばれたワケではない。しかし、ライヤにとっては、ひいてはチームカルテットにとっては気になる話題だ。4匹はポスト部屋を後にし、声のする方へと足を運ぶ。
 入口で話し込んでいるのは、マナーレと1匹のライチュウ。ライチュウは焦燥しきった顔をしており、マナーレも「何があったのだろう」と不思議がっているのが一目で見て分かる。
 ただ、ライヤにとって重要だったのは、このライチュウだった。

「お、お父さん!? どうしたんですか?」

 魔法使いの親族が、直々にマジカルベースにやってくることは少ない。ライヤの弟__レイを表すような言葉も出てきたし、何かよっぽどのことがあったのでは。ぶわっと黒いもやがかかったように、ライヤは胸騒ぎがした。
 その予感は悲しくも的中する。ライヤパパは重い口を開き、ことのいきさつを説明する。

「レイが昨日から帰ってこないんだ。ふしぎ博士さんのとこに遊びに行って、それっきりで……」

 チームカルテットと別れた後、レイはふしぎ博士のところに遊びに行った。とすれば、ふしぎ博士あたりがレイの足取りを知っていてもおかしくない気もする。

「ヘッポコ科学者のところからは、もう帰ったの?」
「うん。ゴロンダ師範のとこの子達と遊びに行って、一緒に帰ったんだって。でも、師範の子達と別れた後の行方は、誰も分からないみたいなんだ」

 してやられた。ライヤの実家は住宅街の中にあり、ポケ通りが多い場所ではない。暗くなるのが早い今の季節、レイを見たと言うポケモンはきっと少ないだろう。
 考えられるものとして、ふしぎ博士のところから家に着くまでの間に、道に迷ったのではないか__いや。ライヤは心の中で首を横に振る。地元っ子のレイは、しょっちゅうふしぎ博士のところに遊びに行っていると聞く。それに、星空町は平らな土地が多く、不思議のダンジョンがあるにしても町の外だ。迷うような道はないハズだ。
 だとすると、あまり考えたくないが、他に考えられるのは__。

「あなた! 大変よ!」

 もう1匹、別のライチュウがマジカルベース本部に飛び込んでくる。1枚の紙切れを握っており、切羽詰まっている様子がうかがえる。

「こ、今度はお母さんまで!?」
「保安官に捜索願を出したら、家のポストにこれが……!」

 ライヤが『お母さん』と呼ぶライチュウの女性は、持っていた紙切れをライヤに手渡す。ライヤは紙切れに書かれた文を読み上げてみたが、そこには誰もを驚かす内容が書かれていた。



 お宅のピチューは預かった。返してほしければ1000万ポケを用意し、『地雷の砂丘』に来い。



「こ、これって誘拐ってこと!?」
「どうしましょう、あなた! レイが、レイが……ッ!」

 コノハは愕然としており、ライヤママはライヤパパにすがるように涙を流す。今のご時世、誘拐事件はさほど珍しくない。しかし、なんでレイがそんな目に遭っているのか。誰もその理由を思いつくことはできなかった。

「『地雷の砂丘』……荒野地帯にある危険区域のことか。『紅の荒野』から、少し北の方にある」

 荒野地帯__暗黒魔法が特に集結している極めて危険な場所。並大抵の魔法使いでは、生きて帰ってくることも難しい。クライシスのアジトもその近くにあるというウワサもあり、下手をすれば鉢合わせて戦いになることも予想される。
 その中でも、特に『地雷の砂丘』は危険区域として指定されている。足を踏み入れるだけで、辺りが爆発してしまうとも言われていた。

「マナーレ」

 ライヤは落ち着いた声で、しかしはっきりとマナーレに告げる。危険な場所だとは分かっている。だからこそ、そんな場所に連れて行かれたレイを、何としてでも助けなければいけない。
 これは魔法使いとしての自分の気持ちだけでなく、兄としての自分の気持ちもある。

「僕に行かせて下さい」
「お前、正気で言っているのか!? 一度『紅の荒野』に行って、ボロボロになっているというのに!?」

 ライヤの気持ちはよく分かっているつもりのマナーレだったが、先行する感情は『心配』だった。
 紅の荒野といえば、モモコがドレンテに連れて行かれた場所だ。雨に打たれながら、全員がボロボロになりながら帰ってきた記憶がよみがえってくる。誰もが命の危険を感じていたあの日は、あと少し遅かったら全員が無事では済まなかっただろう。

「今度はわたしもいるよ! あの時はミツキ達に助けてもらったけど……今は戦えるもん!」
「確かに今日は天気が悪いワケでもないし、4匹なら何とかなりそうだな」

 モモコとミツキも続けた。仲間が大切にしているものは、チームみんなで守りたい。そんな気持ちが伝わってくる。

「モモコ……ミツキも」

 しかしながら、大人としては子どものことが心配でならない。特にライヤママは、レイの安否が分からない今、ライヤにまで何かあったらと思うと気が気ではない。

「……あなたにもしものことがあったら、お母さんどうすれば……」
「大丈夫よ、ライヤママ! アタシ達がしっかりライヤについてるから!」

 コノハはいつものように、自信満々に笑顔でそう言う。しかし、本当であればコノハも怖いハズだ。暗黒魔法の力を敏感に感じ取り、誰よりもその力の強大さを知っている。だが、ここで怖がって立ち止まっていては、救えるポケモンも救えない。

「そんなワケで、ライヤの周りを固める布陣はバッチリ! マナーレ。ここはチームカルテット総出でレイくんを助けに行かせてくれる?」

 マナーレは改めて、チームカルテット全員の顔を見る。絶対にレイを助け出したい。溢れんばかりの思いが、これでもかというほど伝わってくる。そう、チームカルテットはいつだって、自分のことのように他のポケモンのことに一生懸命だ。こうなることは、よく分かっていたつもりだったが、マナーレもまた多くの魔法使いを『預かっている』責任がある。その責任に身を委ねるあまり、魔法使い達の思いを尊重をすることを忘れてはいけない。

「お前達なら、そう言うと思っていた」

 あまのじゃくなマナーレは、仕方なさそうに呟くと、今度はライヤの両親に向き直る。

「お父様、お母様。ここは彼らに任せて下さい。ライヤについても、サポートしてくれる仲間が3匹もついているので」

 ライヤの両親も、本当であれば同行したいところだったが、2匹は魔法使いではない普通のポケモン。荒野地帯に行くこと自体が危険を伴っていた。
 両親として、心配な気持ちをぬぐい切れないところはある。だが、自分の息子は、これまでも友達と危険な局面を乗り越えてきたのだろう。強い決意を秘めたライヤの目を見て、両親もそこにかけようと思ったのだ。

「気を付けてね、ライヤ」
「みんな、危険な目に遭わせて申し訳ない。でも、うちの子達を頼んだよ」



* * *



「相変わらず荒野地帯は、不穏な空気が漂うわね」

 大きな砂丘を見上げながら、コノハがぶるっと身震いする。ちょっとでも風が吹くと、目に砂が入ってしまうこの砂丘。荒野地帯に位置するだけあって、暗黒魔法の力を強く感じるようだ。おまけに、住み着いているポケモン達もみんな気が立っているため、戦いは避けられないだろう。
 ミツキの隣では、モモコが何か思い詰めたような顔をしている。どうしたのだろうかと思い、ミツキはじっとモモコの顔をのぞき込んだ。ここ最近、こんなやりとりが続いているものだから、ミツキも心配だった。

「どーしたモモコ。ビビってるのか?」
「そ、そんなことないよ!」

 モモコはそう強がるが、実際のところは緊張感が高まっていた。荒野地帯といえば、前に自分が風邪で寝込んでいたところをドレンテにさらわれたときに来た場所。当時のことを思い出さずにはいられない。
 あの時はミツキ達が助けてくれたからよかったものの、あんな苦しくて恐ろしい思いは二度としたくないとさえ思っていた。でも、だからこそ、レイに怖い思いを少しでもさせたくないという気持ちもあるのが、正直なところだ。

「3匹共、来てくれてありがとうございます。僕の家族のために……」
「当たり前だろ。大事なダチの家族なんだから」

 フッ、と微笑みかけるミツキは、いつだって頼もしい。この優しさにはついつい頼ってしまうが、そのための仲間なんだ。ここ最近でライヤは、自分の力でそう思えるようになっていた。一度ミュルミュールにされたことが、自分を見つめなおす機会になったのだろう。

「のわぁっ!?」

 コノハが思わず素っとん狂な声を上げ、飛び跳ねた。彼女の目の前では、何かが爆発したような跡が残っている。シュウ、とブレスのような音を立てて、黒い煙なんかも上がっていた。

「あ、気を付けて下さい。この『地雷の砂丘』って、無暗に歩くと爆発するんです」
「他の森や洞窟にあるような『ばくはスイッチ』とは違うの?」
「そうみたいですね……」

 足元もおぼつかない場所で、油断ならない。こんなところにレイは連れて来られたというのか。ケガとかしていないだろうか、無事でいて欲しい。
 ライヤはレイのことを思うと、いっそう気が引き締まった。



* * *



 地面に埋め込まれた地雷や野生ポケモンをかき分け、チームカルテットは砂丘をひたすらに上っていく。進めば進むほど、コノハの顔が険しいものになっているのがよく分かる。暗黒魔法の力を強く感じ取っているのだろう。
 ここまでレイの姿はない。だとすると、レイのいる場所は、最も暗黒魔法の力が強い場所と予想できる。もしそうであれば、もしものために体力を温存しておかなければ。でも、急がなければいけない。様々な葛藤を抱えながら、チームカルテットは前へ前へと進んでいく。体力を使う配分を考えながら、慎重になっていた。
 やがて、先の道がない場所へとたどり着く。行き止まりになっていることから、ここが砂丘の頂上とも考えられる。

「行き止まりだぁ!」
「ここまでずっと進んできたけど、レイいねぇな」

 辺りを見回すが、ポケモンの気配はまるでない。風の音と砂を踏む音だけが、バックミュージックになっていた。もしかして、ライヤママが受け取った手紙はワナだったのか__ミツキが早合点する傍らで、ライヤは顎元に手を当て、考えるポーズを取る。

(そもそも、今回の誘拐事件の犯ポケも分かっていない。何のためにレイを誘拐したのかも、ここに呼び出した理由も、何も分からない)

 するとその時。どこからともなく聞き慣れた声が聞こえる。どっしりとした、でもどこかねっとりとした大人の男性の声。

「フッ、ようやくお揃いか」
「その声は!」

 まるで瞬間移動でもしたかのように、チームカルテットの目の前に現れたのはグラーヴェ。そして、グラーヴェの糸によって縛られているレイが、彼の背中の上に乗せられていた。

「ライヤにいちゃん!」

 悲痛な声を上げるレイ。これでハッキリしたのは、グラーヴェこそがレイを誘拐した犯人__もとい犯ポケであるということだ。

「どういうことですか、グラーヴェ。なんでレイを!」
「チームカルテットの身内の誰かに手を出せば、必ずお前達は助けにやってくる。そうすればお前達をおびき寄せ、仕留めることもたやすいからな」

 グラーヴェに対して許せない気持ちが湧き上がるチームカルテット。まだ自分達よりも小さな子どもポケモンにまで、手を出すほどの外道だとは思っていなかったのだろう。ミツキはぐっと拳を握り、モモコはキッとグラーヴェをにらみつける。コノハに至っては、既にウェポンのハートのステッキを構えており、戦いをしてでもレイを助ける気でいる。
 チームカルテットの姿に面白さを感じたのか、グラーヴェは鼻でフンと笑う。続けて、レイを背中から乱暴に落とした。

「そして、お前達は戦うことができるのか?」

 続けてグラーヴェは、暗黒魔法のエネルギーを溜め込むと、レイに全て打ち込む。

「お前のスピリット、開放するがいい!」
「うわぁああぁあああーッ!」

 レイは縛られたまま、クリスタルの中へと閉じ込められる。スピリットは分離し、別のクリスタルに覆われていた
 クククと小刻みに笑うグラーヴェは、レイのスピリットを掲げ、ミュルミュールを生み出す。仲間がミュルミュールになったことも何度かあるチームカルテットだが、自分達より幼い身内を相手に、マトモに戦えるだろうか。

「ミュルミュール、お前の思いをぶつけるがいいッ!」

 レイのスピリットから生まれたミュルミュールは、大きな糸に包まれた繭だった。分かりやすい表現をするならば、『でかいカラサリスかマユルド』だろう。むしタイプに苦手意識を持つモモコは、「ひぇっ」と小さく声を上げる。
 レイを誘拐しただけでなく、ミュルミュールに仕立て上げるなんて。ますますチームカルテットの闘争心は高まる。コノハの「行くわよ!」という掛け声と共に、チームカルテットはレイのミュルミュールに立ち向かっていくこととなった。

花鳥風月 ( 2020/04/19(日) 19:59 )