ポケモン・ザ・ワールド〜希望の魔法使い〜 - 第3楽章 新たな伝説のはじまり−Recitativo−
045 オレが思ってた通りの方でした

「スゲぇー!」

 魔法屋は星空町の大通りにオープンされていた。魔法使いのマントのような紫色のテントには、金箔が星屑のように散りばめられている。お店屋さん、というよりもまるで占い館のようにも見えた。
 チームカルテットとタクトがテントの入り口をくぐると、中は夜のように薄暗かった。燭台の上にセットされたろうそくが炎を揺らしている。そのおかげで、辺りが何も見えないということはなかったが、同時にミステリアスな雰囲気も醸し出している。
 テントの中をぐるりと見回すと、チームカルテット達と同じぐらいの高さの棚が、規則正しく並んでいる。モデラートの書斎に置いてありそうな鈍器のような本、濁った緑色の液体がたっぷり入れられている小瓶。いかにも謎めいた、青い粉が入っている透明な袋。普段寄っているお店では見られないシロモノばかりだ。
中でも目を引くのが、テントの奥に佇んでいる大きな水槽。目を凝らしてみると、ライトポケモンのランターンが水に揺られながらくつろいでいた。魔法使いのマントを羽織っていることから、あのランターンも魔法使いなのだろう。

「客? 客?」

 ランターンはチームカルテット達の気配を察知し、水槽からひょこりと顔を出す。『客』という言葉から、ランターンがこの店の主であることが分かる。この集団を代表して、ライヤがランターンにあいさつの言葉を交わそうとしたところ、ランターンはその大きな瞳をさらにカッと見開く。そして、水槽の水が飛び散る勢いでばしゃばしゃと音を立てながら、子どものように大はしゃぎし始めた。

「ついに客がきたぁあああああああああああああ! うああああぁあああああああああ!」

 あいさつをするために水槽に近づいていたライヤは、飛び散った水しぶきを頭から被ってしまった。水に弱いコノハとタクトは、さっと水が届かないように距離を取る。そのとばっちりを食らうかのように、モモコが代わりにびしょ濡れになっている。冬場にこの仕打ちは、なかなか苦しいものだ。
 ランターンの突然の豹変ぶりに、ミツキはやや引いている。ただでさえ自分達の周りはくせ者揃いだというのに、またおかしなヤツが現れてしまった。

「な、何だこのハイテンションなヤツ……」
「あたしがこの店の店主! ようこそ、星空町魔法屋へ!」

 短い両腕をばっと広げながら、ランターンはチームカルテット達を歓迎する。よく見ると、ランターンの身に着けているマントはぴっとりと彼女の肌に張り付いている。水の中を生活領域にしている魔法使いは、水着のような素材のマントになっているのだろう。
 ランターンの姿を捉えた時、後方からイキのいい高い声が響き渡る。コノハがランターンの姿に心当たりがあるのか、目を丸くしながら右前足で彼女を指していた。

「あーっ! アンタ、もしかしてマジーアの魔法屋の店長の娘さん!?」
「そんなあなたはグレンさんの娘さんのコノハちゃん! この町の魔法使いだったんだ!」

 ビンゴだったのか、ランターンもコノハのことを「ちゃん」付けで呼んでは感激している。

「な、何だ? 知り合いか?」
「パパ同士が友達なの。んでもって、この魔法屋のランターンって、めっちゃ親戚が多いのよ」

 大学教授の娘でもあるコノハは、魔法使いの業界の中でも顔が広いとみられる。全ての業界ポケモンを網羅しているワケではないが、父親のツテで他にも知り合いがいるのだろうと予感させられる。

「ほら、これが音の大陸の魔法屋会議の時の写真」

 そう言いながら、ランターンはヒレをふるふるっと小刻みに震わせる。まるでそれに反応するかのように、デスクの上に置かれている1枚の写真が宙を舞った。これもまた、魔法の力なのだろうか。写真はチームカルテット達の目の前まで飛んでくると、ふわふわと浮いている。写真の中には、たくさんの数のランターンが並んで微笑んでいる。全員がおそろいのマントをつけており、ほぼ同じ顔をしている。同じ種類のポケモンでも顔つきが違うことが多いため、むしろここまで全員が同じ顔をしている方が珍しい。

「す、すごい……」

 モモコは絶句しながら、頭の片隅で似たような職業の人間が元いた世界にいたことを思い出していた。彼らも確か同じ顔の親戚が多く、研修会の写真なんかを見せてもらっても誰が誰か分からなかったような。

「で? 何を買いに来てくれたの? あなた達がこの店のお客さん第1号だよ!」
「龍の涙とまじないの粉を下さい」
「はいはーい」

 ライヤの注文にランターンは快く答えると、またもヒレを小刻みに震わせた。

「これで何ができるの?」
「龍の涙とまじないの粉だったら、たぶん混ぜ合わせて対ドラゴンタイプ用のパウダーを作るんじゃないかしら」
「こういう粉とか薬草を混ぜたり調合して、すっごい魔法アイテムが作れたりするんだよ」

 ランターンはそう言うが、魔法アイテムと言われてもモモコはピンと来ない。この世界に来てから、その手のものはお目にかかったことがないということもあるが、ほとんど自分のウェポンや楽器、本に書いてあった魔法の呪文ぐらいしか使っていないというのもある。ただ、粉や草を混ぜ合わせるという言葉から、ひと昔前のおとぎ話に出てきた魔女のようなことでもするのだろうか、とは予想できる。

「龍の涙って、ドラゴンタイプのポケモンから取れた涙ってこと?」
「そりゃそうだろ。ポケモン以外の生き物は基本的にいないハズだからな」

 ミツキの返しに、モモコは人間である自分がこの世界にいることが余計にイレギュラーだと実感させられる。ただ、ポケモンになってこの世界に来た人間はモモコだけではない。ドレンテ改め『アユムくん』も自分と同じ手順を踏んでポケモンになったのであれば、自分がどうしてここにいるのかが分かるかもしれない。
 そんなことを考えていたモモコだが、今は考えていても仕方がない。分かってはいても、少しでも気を抜くと『アユムくん』のことを考えてしまう。彼のことを知るということは、自分がポケモンになってしまったことの手掛かりをつかむことにもなる。だからこそ、これは他人事ではないのだ。

「草の大陸には魔法屋なかったんスよ。すげぇなぁ……生の魔法屋……!」
「ヒコザルくんは草の大陸から来たの?」

 興奮気味に魔法屋のランターンに向き直り、「はいっ」と元気に応える。その礼儀正しく素直な姿がかわいらしいのか、ランターンは思わず笑みをこぼした。
 ふと、ミツキはタクトが草の大陸出身ならと、ある疑問が頭に浮かぶ。その疑問には特に深い意味はなかったが、純粋に気になったため、何気なく口にしてみる。

「そうだ、そしたらブランチさんとか知ってるか? 星の調査団の」
「あ……はい。一応、名前なら……」

 ただ、タクトの返しは少しばかり覇気のないものだった。家族のことやブランチのことになるとタクトにほんの少しだけ、もやみたいなものがかかる。何か理由や事情があるのだと思うが、知り合って間もない中でズケズケ深い話をするのも気が引ける。今のミツキは、タクトの根の深いところには触れないようにしていたが、いつか聞き出せる日が来るのだろうかとも思った。



* * *



 魔法屋を後にすると、広場の方が何やらざわついている。住宅街からなだれ込むように、ポケモン達が広場へと集まっていく。彼らの姿は、まるで何かに怯えながら逃げているようにも見えた。

「何だか騒がしいですね」

 逃げているポケモン達のうちの1匹、ホルビーが走ることに疲れたのか、足を止めて呼吸を整えている。彼はチームカルテット達の存在に気付くと、言葉を途切れさせながらも何かを訴え始めた。

「や、やぁ、魔法使い……! 大変なんだよ!」
「アンタどうしたのよ、そんなに慌てて」
「ミュルミュールが現れたんだ。しかも今日は、闇の魔法使いが2匹いる!」

 ホルビーの視線の先には、確かに自分達の背丈の何倍も大きな影が動いているのが見える。あの方向は、住宅街の中__希望の時計台だ。町もポケモン達が集まりやすいが、住宅街はさらに多くのポケモン達がいる。もっと言えば、ミュルミュールに対抗できるような手段が、住宅街にはないのだ。
 あのまま放っておけば、たくさんのポケモンが傷ついちゃう。チームカルテットの意思は固まった。すぐに住宅街に向かわないと。

「タクト。ちょうどいいしアンタも来なさい。魔法使いの仕事、ちゃんと生で見てもらいたいもの」
「もちろんッス!」



* * *



 魔法屋からミュルミュールのいる現場までは、魔法のほうきを使わなくとも走ってすぐにたどり着ける距離だ。運動が苦手なライヤだけは、どうしても息切れを起こしてしまったが、ミュルミュールの被害は幸いまだ大きなものではない。住宅の倒壊が起こったり、ケガをしたポケモンがいる、ということはなさそうだ。
 本日のミュルミュールは、巨大な雪だるま型のオーナメント。聖なる夜の祭りのシーズンには、うってつけのビジュアルをしている。

『ミュルミュール!』
「さぁさぁ、ミュルミュール! もっと暴れちゃいなさーい!」
「いました、あそこです!」

 ライヤが指さす先には、やはりドレンテとソナタの姿が。希望の時計台の上で、住宅街のポケモン達に襲い掛かるミュルミュールを見下ろしていた。

「アユ……」

 ドレンテの本当の名前を言いかけ、モモコははっと口元を抑える。この名前で呼ぶのは、ドレンテにとってベターではなかったハズだ。それに、アユムくんのことをミツキ達の前で、そう簡単に言えるワケがない。
 案の定、ドレンテが怪訝な顔をしてこっちを見ているのが分かる。アユムくんの名を出すことが、いかに危ないところだったかを、モモコは痛感した。
 そう思ったのも束の間、魔法使い達が駆け付けたことに周りのポケモン達が気付いたようだ。安全な物陰などに隠れているポケモン達がざわついているのが分かる。

「魔法使いだ! 魔法使いが来たぞ!」
「あの4匹、チームカルテットじゃん!」
「でも、おマヌケなチームカルテットだぞ? あいつらに任せて大丈夫なのか……?」

 耳に飛び込んできた言葉に対して、うぐ、とモモコは苦い顔をする。自分達の町のポケモン達からの評価は『新聞にも載るくらいのおマヌケな魔法使い』。4匹がかりでも頼りなく見えてしまうのが現状だ。しかし、今ここで他の魔法使いを呼びに行ってしまえば、ミュルミュールが暴れまわり、大きな被害が出てしまうことだろう。

「おマヌケでも、アタシ達がやらなきゃ!」

 こんな時、いつもチームのメンバーを鼓舞してくれるのはコノハだ。おマヌケがなんぼのもんじゃい、と言わんばかりに、魔法のステッキを前足に持って先陣に立つ。

「タクト、安全なところに下がってろ」
「は、はい……!」
「そうはいかないわよ!」

 先手を取ったのは、ドレンテとソナタだった。各々の楽器であるテナーサックスとヴィオラを構えると、まがまがしいメロディを奏で始める。

「ヤバい! この曲、あの時の!」

 コノハはメロディを聴いた途端、すぐに察しがついた。それこそ、タクトを助けに行った時に自分達を苦しめた拘束魔法。闇のオーラが自分達にまとわりつき、力を吸い取っていくやっかいな魔法だ。
 コノハが気付いた時には、既に遅かった。チームカルテットの身体は、ドレンテとソナタの奏でるメロディに包まれるように動けなくなっていく。

「身体が絡めとられていきます!」
「どうしよ、動けない……!」

 徐々に力が吸い取られていくことで、チームカルテットの表情が苦しいものになっているのが分かる。ずっと続いてきたミュルミュールとの戦いで実力をつけてきたつもりだったが、クライシスも強くなっているのは同じだった。これだけ強力な魔法が相手だと、やはり自分達では力は及ばないのか。後輩になったタクトもいるっていうのに。
 やられっぱなしでいることで、チームカルテットの身も心もボロボロになりそうだった。ドレンテはそんな4匹の姿を見て、憂いを帯びた表情をする。他愛もない、と言いたいのだろか。

「ボク達のジャマをするから、こんなことになるってのに」
「さぁ、ミュルミュール! 動けないチームカルテットをペシャンコにしちゃいなさーい!」
『ミュルミュール!』

 ソナタの号令に合わせるように、ミュルミュールがその巨体をジャンプさせる。着地点は、チームカルテット。自分達の身体の何倍もあるミュルミュールの下敷きになれば、ひとたまりもないだろう。これは万事休すか、みんなそろってペシャンコか。チームカルテット全員がそう思っていた。
 ところが、ここで思わぬ助太刀が入ることとなる。

「そうは……させるかぁあああああぁッ!」

 タクトだった。その小さな両手でミュルミュールをぐぐぐと持ち上げる。あれだけ大きなミュルミュールは、並みのポケモンでも持ち上げるのは難しい。力持ちという言葉では、とても片づけられない。
 タクトはそれだけにとどまらず、ミュルミュールをそのまま投げ倒したのだ。ミュルミュールの巨体は地面に叩きつけられ、地面にはヒビが入っている。ライヤはあっけにとられており、コノハも「すごい」と声を落としている。

「タクト! お前すげぇけど……まだ儀式もしてねぇのに、いくらなんでも無茶だろ!」
「オレだって、魔法使いになるポケモンなんです! 町のポケモンを守るチームカルテットの皆さんのために、オレも今できることをやりたいんです!」

 タクトの目には、まっすぐすぎると言ってもいいくらいの情熱が浮かび上がっていた。同じように情熱的なミツキやコノハとはまた違った、幼さを前面に出した、ありったけの思いが。
 チームカルテットのために。自分が「してあげたい」と思う誰かのために。その気持ちをぶつけられた時、ソナタは心がうずいたような気がした。この感覚は、実はデジャヴ。コノハが自分の姉を守ろうとした時に感じたものと同じだった。

(また、この感じ……?)



__ソナタ、キミはボクにとって、かけがえのないパートナーなんだよ。



「うぅっ!」

 頭を抱えて、ソナタはうめき声を上げる。ズキズキと痛む頭に流れ込むのは、どこか懐かしい、でも何だかよく分からない光景。とても大切で、忘れちゃいけないものだったハズなのに。
 栗色の髪の少年が、柔らかい微笑みを自分に投げかけている。この少年のことも、知っていたハズなのに。どうして思い出せないのか。そう考えるたびに、胸の奥がキュンとするのが分かる。恋愛小説を読んでいるときのようなキュンキュンではない。まるで『ドリのみ』でも丸ごと飲み込んだような苦しさが、ソナタの心を覆っていた。

「ソナタ! どうしたんだい!?」
「分かんない……。胸がキュンって痛くて、頭も割れるように痛いの……」

 このソナタの異変には、モモコが真っ先に気付いた。ドレンテはというと、ものすごく焦ったような顔をしてソナタを介抱する。ソナタよりもずっと小さな身体ではあるが、ソナタに寄り添おうとしていた。その姿が、モモコには健気に見えると同時に、心がキュッと締め付けられるかのようだった。

「すごく大切な気持ちだったハズなのに……虫唾が走って……苦しい……」

 もちろん、モモコにもソナタが苦しんでいる直接の理由は分からない。ただ、もしかするとドレンテがアユムくんだった時と、何か関係があるのかもしれない。でも、今の自分にはそれを確かめるすべはない。
 ドレンテの正体だけを中途半端に知っているからこそ、歯がゆいものがモモコにはあった。たぶんだけど、クライシス側もクライシス側で何か抱えているものがあるんだ。それがわかれば、今よりはスッキリするのかもしれないけど。

「モモコ? モモコってば!」
「えっ」
「よく分かんないけど、拘束が緩んだの! 今がチャンスよ!」
「あっ、え……うん」

 コノハに呼び掛けられて、モモコは我に返る。確かに気が付けば、自分達を動けなくしていた闇のオーラは緩んでいた。ソナタは弱っているため、今ならジャマなしに動ける。
 シャムルスフェールの力でユーフォニアムを呼び出し、構える。いつもと同じように浄化をするだけなのに、この気持ちは何だろう。確かに、仮死状態になっているポケモンも元に戻さなければいけないのは間違いない。だが、突然苦しみだしたソナタを、放っておいてもいけない気がする。
 とはいえ、今は目の前のことに集中しなければ。既に楽器を構えているミツキ達にならうように、モモコは浄化に取り掛かった。

「情熱と!」
「勇気と!」
「英知と!」
「純愛を!」
「「4つの心から生まれる希望!」」

 青、黄緑、黄色、ピンク。4つの光る魔法陣が重なり、ミュルミュールの足元で光っている。それぞれのソロを奏でた後は、一気にフィニッシュだ。

「「チームカルテット・エスポワールアンサンブル!」」

 溢れんばかりの光がミュルミュールを包み込み、失っていた魂の輝きを取り戻していく。ミュルミュールは安らかな顔をして、光の中へと消えていった。代わりに戻ってきたのは、ミュルミュールの媒体になったポケモンのスピリット。

『ハピュピュール〜』

 またもチームカルテットにジャマをされてしまった。その気持ちが全くないというのは言い過ぎだが、今のドレンテもソナタもそれどころではない。

(あの様子だと、モモコはミツキ達にボクのことを話していないようだね。いや、それよりも……今はソナタを)

 横目で見るソナタは、今もなお冷や汗をかいて短い呼吸をしている。いつも高飛車なその姿からは想像もできない、見ているドレンテにとっても辛い顔だ。
 ドレンテは「帰ろう」とソナタに静かに声をかけながら、彼女に寄り添う。
 


* * *



「やっぱりミツキさんは、オレが思ってた通りの方でした」

 スピリットをポケモンに戻し、マジカルベースに帰る途中。タクトがふいに口にする。目をぱちくりとさせながら、ミツキは疑問の言葉にして返す。

「どういうことだ?」
「自分がピンチの時でも、オレのこと気にしてくれて」
「そりゃ、お前に何かあったら心配するさ。これから仲間になるんだから」

 仲間、という響きにタクトは嬉しそうにえへへ、と声を漏らす。コノハもまた、「ミツキにしてはかっこいいこと言うじゃないの」と感心したように目を丸くしていた。
 ミツキもまた、自分が告げた言葉にあることを気付かされていた。仲間になる相手に対して、もやもやした気持ちを抱くのもいかがなものか。ましてや自分達は先輩になる。タクトのことを自分達から知ろうとしなければ、いつまでも本当の意味で心を開けないままだ。

「なぁ、タクト」

 ミツキに呼ばれ、緊張気味にタクトは何でしょうかっ、と返す。あまりに緊張していたのか、その声は裏返っていた。

「どうして俺達のこと、そこまで追っかけてるんだ?」
「あー、そういや聞いてなかったわね」
「俺達は見ての通りブロンズランクだし、あのマジカルベースの中じゃキャリアも浅い方なのに」

 えっ、とタクトは言葉を詰まらせた。それを聞いてくるのか。一応理由はあるにはあるが、納得してもらえるだろうか。目上のポケモン相手に変なことを言って、怒らせたりしないだろうか。
 でも、遅かれ早かれ、チームカルテットに憧れる理由は知られることになるのかもしれない。だったら、今言ってしまってもいいのかもしれない。ぐっと拳を握りしめ、タクトは意を決してチームカルテットに向き直った。

「……実はオレ、あの後助けてもらって草の大陸に帰ってから、チームカルテットの皆さんのことを調べたって言いましたよね。そこで、皆さんに昔なにがあったのかも知ったんです」

 昔というと? チームカルテットは4匹そろって首をかしげる。

「チームカルテットを作ったポケモンのことも、初めて会った時のモモコさんがまだ仮加入の段階だったことも。魔法使いについて、ちょっとだけ詳しい知り合いがいるもんで、教えてもらったんです」

 そうなると、ユズネのことやミツキが問題児と呼ばれていた時のこと。果てやモモコが途中加入のメンバーであることも知っていることになる。この業界は情報が回るのが早すぎやしないか、なんて思いつつもライヤはタクトに質問を続ける。

「ってことは、まさか最近の新聞も見られてますか……?」
「あ、はい。これッスよね?」

 そう言いながらタクトは、自分の懐から1枚の新聞紙を取り出す。少しシワになっているそれには、いつかのチームカルテットの無様ともいえる姿がでかでかと載っている。うげっ、と顔を引きつらせる4匹を見て、タクトはわたわたと「あっ、す、すみません!」と頭を下げる。そして、素早くぱっと顔を上げると、「でも」と前置きして続けた。

「どれだけ周りにいろいろ言われても、仲間同士で支え合って頑張るのスゲーかっこいいなって」

 憧れの魔法使いを相手に、自分の思いを伝えることは緊張するものだ。もしかしたら、無意識に失礼なことを言ってしまっているかもしれない。でも、伝えられずにはいられない。気持ちが高ぶっているのか、タクトの声はだんだん震えていた。しかし、一生懸命に自分達を慕ってくれるその姿は、間違いなくチームカルテットに伝わっていた。

「ミツキさんの悪いウワサが途絶えたのが、モモコさんが来てからっていうのも聞きました。ミツキさんがモモコさんやライヤさん、コノハさんに支えられながら一気に這い上がっていくのを見て、オレも元気をもらったんです。だからミツキさんは、オレの中で命の恩人でもあると同時に、マジリスペクトなんです」

 タクトの言葉は、チームカルテットが抱いていた疑念や緊張を取っ払っていた。もしかしたらタクトのことを、心のどこかでうがった見方をしていたのかもしれない。何かの冷やかしか、誰かと間違えたのか。完璧でもない自分達に、惹かれるものはそう多くないハズなのに。
 だが、タクトの尊敬する気持ちは本物だった。むしろ、完璧ではないありのままのチームカルテットだからこそ、タクトは心打たれていたのだ。自分達がおマヌケなりにも頑張っている姿が、誰かの原動力になった。4匹に、特にミツキにとって、これほど嬉しいことはないだろう。

「ミツキ」

 ポン、とライヤがミツキの肩を叩く。ミツキを見つめるライヤの顔には、安堵したような、嬉しいような、いろいろな感情が入り混じっていて一言では形容しがたかった。ライヤの言いたいことを代弁するかのように、コノハが一言一言噛みしめるように告げる。

「アタシ達の頑張り、ちゃんと分かってもらえてたのよ」
「だからオレも、チームカルテットの皆さんのようなスゲーチームを組みたいッス! マジリスペクトしてるチームカルテットの皆さんのように、支え合えるようなチームを!」

 ミツキはまたひとつ、心が救われたような気がした。ユズネの一件以来、頑張れば頑張るほど空回りして行き詰っていたこともあり、自分の行動や決断に自信がなかった。だが、自分の過ちも決して無駄なことではなかった。問題児だった時の自分もひっくるめて、認めてもらえたような気がした。 

「頑張ってください! 僕達も応援します!」
「分かんねぇことあったら、こいつが教えてくれるってよ」

 ニヤリとミツキは意地悪そうに笑うとモモコを指で指す。もちろん、モモコからすれば寝耳に水だ。

「う゛ぇえ!? 何でこの流れでわたし!?」
「あのなぁ、お前だってもう先輩なんだぜ?」

 そうか、今まで自分が一番の新米だったが、もうそうではないんだ。
 ミツキの言葉で、モモコは改めて実感する。長い間魔法使いをやることになれば、いずれそんな日が来ることは分かっていたが、もう自分は先輩なのだ。自分よりもキャリアを積んだ魔法使いの方が多いとはいえ、いつまでも後輩気分ではいられない。

「もちろん俺にも聞いていいからよ」
「僕も勉強に関することでよかったら、教えられると思います」
「ちょっとー! プリティー魔法使いのコノハちゃんのことも、頼ってよねっ!」

 タクトはお辞儀で綺麗な直角を作り、また顔を上げる。その太陽のように眩しく、町のイルミネーションよりもずっと輝いている笑顔は、チームカルテットの気持ちもさらに明るくさせるものだった。

「はい! これからもよろしくお願いします!」

花鳥風月 ( 2020/02/17(月) 19:11 )