043 彼女に案内してもらってるんです
「いい湯だ……」
カポン、とししおどしの竹の音が辺りに響き渡る。 ごつごつした岩の露天風呂に注がれる、天然の温泉。 音の大陸のリゾート地、ボヤージュは様々なレジャースポットがある。 夏になれば海水浴を楽しみにくるポケモンもおり、グラーヴェが訪れているような温泉を目当てに、様々な大陸からポケモン達がやってくる。
温泉はいいぞ。 つくづくグラーヴェはそう思う。 ポケモン達をミュルミュールに変え、負の感情エネルギーを集める仕事は決して簡単なものではない。 魔法使い達のジャマが入ることは日常茶飯事であり、大きな戦いになることもある。 その分、身も心も疲れているワケで、温泉の湯が全身に染み渡る。 こうして心の安らぎを求めるのは、ポケモンとして当たり前だった。
(ポケモン達の魂を暴走させることを仕事にしている自分が、何故幸せを追求する?)
ふと、グラーヴェは自分の考えに矛盾が生じていることに気付く。 この世界に幸せなんて必要ないハズなのに。 より多くの負の感情エネルギーを集めることで、自分達闇の魔法使いにとっては利益になる。 しかし、他者の負の感情をミツにして味を占めているのに、温泉のように他者が関わらない至福のひと時も欲している自分が確かにいるのだ。
(負の感情を欲している自分が、何故安らぎを欲しているんだ)
* * *
(なんでこんなことになってるんだろう)
ガルーラおばちゃんの経営しているカフェは、店内での飲食だけでなく、お菓子のテイクアウトも承っている。 このお菓子がなかなかかわいいデザインをしており、ハート型のチョコレートやバラの花びらが入ったマフィンなんかがある。 中でも一番目を引くのは、ヒトの形をしたジンジャーブレッドという名前のクッキーだった。 聖なる夜の祭り____人間のいる世界で言うクリスマスの日に、よく食べられているお菓子でおなじみだ。 こうした店に入るのは初めてなのか、ドレンテはじっとお菓子達を見つめて吟味している。
モモコは今、ドレンテと一緒に星空町のありとあらゆるお店を歩き回っているのだ。
「あらっ、モモコちゃん。 いつの間に恋ポケができたんだい?」
「ち、違いますよ! えぇと……」
弁解しようとするモモコに、ドレンテが言葉を被せる。 いつも嫌らしい微笑みを浮かべているとは思えないほど、さわやかなスマイルを添えて。
「ボク、さすらいの旅イーブイで、この辺のことよく知らなくて。 それで彼女に案内してもらってるんです。 親切な魔法使いですよね」
どれぐらいさわやかかというと、ドレンテが笑うごとにぶわっと心地よい南風が吹いてくるほど。 こんなさわやかスマイルができたなんて、いつものドレンテと同一人物あらぬ同一ポケモンとは思えない。 開いた口がふさがらない状態のモモコは、ドレンテに目を奪われるあまり1匹のポケモンにぶつかった。 ぶつかった方に目をやると、自分よりほんの少しだけ背が低い青いポケモンがいた。
そのポケモンを見て、モモコは一瞬目を疑う。 丸い頭と黄色いくちばしを携えているそのポケモンは、ペンギンポケモンのポッチャマ。 モモコにとっても馴染み深く、そして思い入れがあるポケモンだ。
「……」
ポッチャマは、ぶつかったモモコを煩わしいと思ったのか、睨みつけるように見上げる。 雰囲気はモモコ達よりも少し幼いくらい、例えるならガッゾと同い年ぐらいだろう。 しかし、ポッチャマの目つきは子どもと言うにはあまりにも大人っぽすぎる。 尖った言い方をすれば、人間達の世界では一般的なポッチャマのイメージの愛嬌がなかった。
「ジャマなんだけど」
つららのように冷たく、しかし幼さを残した鈴のような声でポッチャマはモモコに言い放つ。 子どもながらに物怖じせずにズバッと言ってくるポッチャマの姿勢に、モモコは逆に圧倒される。 あくまで相手は子ども、生意気なことを言われても言い返さずにガマンするのが大人の対応だ。 そう自分に言い聞かせたモモコだが、未だに自分の頬辺りが引きつっているのが分かる。
(やっぱり今日は厄日だ……。 風邪の日以来かも)
そもそも何でモモコがドレンテに付き合っているのかというと。 話は10数分ほど前まで遡る。
* * *
「ソナタにプレゼント?」
星空町の路地裏で受けた、ドレンテからの頼み事。 その内容がとても闇の魔法使いらしくないもので、モモコは拍子抜けする。 反面、目の前のドレンテは至って真剣だ。 何度も深々と頭を下げて、すがるような思いでモモコに繰り返し頼み込む。
「ちょっと特別な日が迫ってるんだ。 頼むよ」
「え、もしかしてドレンテとソナタって付き合ってるの? 歳の差カップル?」
「そっ……そんなんじゃないよ! 誕生日とはちょっと違うけど……ボクとソナタが初めて会った日なんだ」
「ふーん」
闇の魔法使いでも、仲間と出会った記念日は大事にするものなんだ。 ドレンテはやたら、闇の魔法使いにしては他のポケモンを気にかける優しさや気配りの精神が強い。 こういうところがにじみ出ているからこそ、クライシスなのにクライシスっぽくないと思わされるのだろう。 それにしても、聖なる夜の祭りの時期が初めて出会った日なんて。 つくづくロマンチックな出会いだと思わされる。
「女の子の欲しいものは、女の子が一番分かると思って。 だからお願い!」
「……べ、別にいいけど。 本当に今日一日、悪いことしない?」
「うん」
ここまで真剣に頼んでいるのなら、プレゼント探しの手伝いくらいいいだろう。 モモコはドレンテの言葉を信じ、彼の頼みを引き受けることにした。
* * *
(それにしても、ソナタにプレゼント贈るなんて。 ドレンテもいいとこあるんだなぁ)
星空町の大通りを歩きながら、モモコは隣に並んでいるドレンテを横目で見ていた。 こうしてプライベートで関わっていると、たとえクライシスのポケモンでも純度100パーセント悪いポケモンではないことを実感させられる。 とはいえ、今までやってきたことを帳消しにして許せるかといえば、また別の話だが。 ドレンテもドレンテで、本当に悪いことだけを考えているポケモンではないのだと改めて思った。
すると、モモコとドレンテの目の前から、1匹のポケモンが歩いてくる。 大柄な白黒の身体を持つ、こわもてポケモンのゴロンダ。 彼の姿は一度直接ではないが見たことがあった。
「おっす! お前、チームカルテットの子だよな?」
「あ、はい! 師範さんですよね。 こんにちは」
町の道場の師範だった。 あまり話したことがないポケモンだからか、とっさにモモコが交わした挨拶はかしこまったものだった。 一方で師範は、普段あまり見かけないポケモンだからか、ドレンテをじっと凝視する。 イーブイという種族から、師範には心当たりがあるようで。
「隣の坊ちゃんは……ん? クライシスのドレンテに似てる気がするが……」
ギクリ。
モモコもドレンテも、師範の言葉に思わず身体が固まる。 実際は心臓が飛び出そうなくらいに動揺しているが、何とかモモコはぎこちなく笑ってごまかした。
「そ、そうですかね?」
「そうかそうか。 都会ってよりは下町ってカンジだけど、ゆっくりしてってくれよ」
師範はそう言うと、軽く右腕を振りながら通り過ぎて行った。 去っていく師範を横目で追いながら、モモコとドレンテはまだドキドキしている。 特に悪いことをしているワケではないが、闇の魔法使いというドレンテの肩書きが大きな枷になっていた。
ようやっと、師範の姿が見えなくなると、2匹は緊張の糸が解けたように深い溜息を吐く。 危なかった、町の魔法使いが闇の魔法使いと一緒にいることがバレたら大騒ぎになるところだ。
「ふふっ」
ふと、ドレンテが吹き出すように笑い始めた。 モモコは目をぱちくりさせ、何がおかしいんだろうと疑問を抱く。
「どしたの?」
「いや、溜息がハモったから。 何かツボっちゃって」
ツボにハマったドレンテは、堪えられなくなったのか笑い声をクレッシェンドさせる。 何気ないことなのに、こんなに大笑いできるものなんだ。 素直に大笑いするドレンテを見て、モモコもつられておかしくなったのか、気づけば一緒に笑っていた。
その光景を上空から見ていたポケモン達がいた。 魔法のほうきに乗って依頼へと向かうフィルとリリィが、モモコの姿を捉えて目を丸くしている。
「おや? あれはモモコじゃないか」
「なんか、イーブイと一緒にいるけど……。 もしかしてドレンテかしら?」
不安そうに両手を頬に当てるポーズを取るリリィ。 逆にフィルは、リリィの思い違いじゃないのかと彼女をたしなめる。
「いや、まさか。 ドレンテはもう少しいやらしいカンジのヤツじゃないか。 さわやかな笑顔してるよ。 あのイーブイ」
確かにフィルとリリィが目にしているイーブイは、ドレンテとは思えないほど少年らしい笑顔を見せている。 ニヤリと口元を歪ませているようないやらしさとは違う、年相応のあどけない、心からの笑顔だった。
それもそうかもしれない、とリリィはすんなりとフィルの言葉を受け止める。 この数ヶ月で、リリィも考えが少しずつではあるが変わりつつあった。 人見知りあらぬポケ見知りで、おどおどしていた彼女だが、頑なに疑ってかかるだけでなく、周りの言葉や反応も取り入れて物事を考えるようになっていた。 フローラが墓参りに行き、モモコと晩ご飯を作ったあの日が、大きなキッカケになっていた。
その後もモモコとドレンテは、星空町のあらゆるお店を回っていた。 家具屋でゼロがたくさんつくほどの値段のドレッサーに、13歳の自分達にはまだ早そうな高級化粧品。 カクレオンのきょうだいが営むお店では、ダイエット用のサプリなんてものもあった。
ただ、どれもピンと来ない。せっかくドレンテとソナタが初めて出会った記念日なら、サプリや化粧品といった消耗品よりも形に残るものがいいと思ったのだ。 しかし、ソナタの好みそうなもので形に残るものというと、ドレンテの予算では厳しいものが多かった。
このプレゼント探し・イン星空町の様子はモデラートとマナーレも魔法の水晶を通して見ていた。 水晶の中には、現在進行形で星空町の大通りを歩いているモモコとドレンテの姿が映し出されている。
「ふぅん、モモコがさすらいのポケモンを町案内か」
「モモコも星空町の生活に慣れてきたからね。 もともとがしっかりした子だから、すっかり板についてるよ」
おおかた星空町の店を回りつくし、モモコもドレンテもへとへとになっていた。 体力を消耗するだけならまだいいのだが、プレゼントを考えることで頭もたくさん使い、かなり疲れた様子が見られる。 だが、まだ回っていない店が一件だけ残っていた。
きらびやかさ、というよりもナチュラル・アンド・ビューティーをコンセプトにしたようなアクセサリーショップ。 大人の女性のため、という格調高さよりもモモコ達ぐらいの歳の女の子達でも手軽に店に入れるような雰囲気を醸し出していた。
「あのアクセサリーショップなんだけど、ソナタぐらいの歳のポケモンも出入りしてるのよく見るんだ」
「なるほど……そこに掛けてみよう」
全てをかけるように、モモコとドレンテはアクセサリーショップの扉を開く。 扉についていた鈴の音が、快く2匹を迎え入れた。
ネックレスにイヤリング、髪飾りにブレスレット。 この世界のアクセサリーは不思議なことに、身に着けたポケモンに合わせて大きさを変えるらしい。 モモコはテストの勉強中、ミツキ達からそう教わったことを思い出した。 実際、魔法使い達のマントや勲章もポケモンによって大きさが違う。
それはそうとして、ソナタが喜びそうなアクセサリーはここにあるか。 モモコもドレンテも、あれやこれやと考えながら必死になって探した。 比較的ワガママで高飛車なソナタには、もっとキラキラしたダイヤモンドのようなアクセサリーの方がいいのかもしれない、なんてモモコは思っていた。
その頃ドレンテは、ふたつのネックレスに目がいく。 ひとつは小さな花のモチーフがある金色のネックレス。 もうひとつは、アルファベットのU字を逆さにさせたような音楽記号のフェルマータをモチーフにした、銀色のネックレスだった。
「それ、気になるの?」
ドレンテが目星をつけたことに気付いたモモコが声をかける。
「一応。 どっちの方がソナタらしいかなって」
「うーん……」
モモコも一緒になって考える。 ソナタに似合う、となると格調高い金色のネックレスなんだろうと思うが、花のモチーフがちょっと派手めかもしれない。 そう思うと、少し落ち着いた雰囲気の銀色のネックレスの方が、モモコは好みだった。 フェルマータのネックレスなんて、なかなかお目にかかれない代物だろう。
「わたしだったら、こっち選ぶかも」
モモコが銀色のネックレスを指し示すと、ドレンテは「なるほど」と納得する。
「そしたら、モモコのチョイスにかけてみるよ」
「う゛ぇえ!? いいの!?」
「ボクが選ぶよりも、ずっと信頼できるからね」
そう言いながらドレンテは得意げに笑うと、右前足でネックレスをつかみ取った。
その時。 モモコはほんの一瞬だけ見えたものに対して、自分の目を疑った。 ドレンテの右前足の裏側。 普通のイーブイであれば、薄桃色の丸い肉球のようなものがあるハズだ。 だが、ドレンテのそれは、普通のイーブイとはちょっと違った。
(えっ、まさか)
その後もモモコは、ドレンテに気付かれない範囲で彼の右前足に意識を向けていた。 お会計をする時、ラッピングが施されたネックレスを受け取る時。 彼の一挙一動に注目していたが、やはり何度見ても、彼の右前足の裏側は普通ではない。
ここでモモコは、星空町での慌ただしい生活で忘れていた、人間の時の記憶のひとつを思い出す。
(ソナタ、ドレンテ、誕生日じゃないけど特別な日。 もしかして……!?)
* * *
すっかり日は暮れ、空の色は星空町のマントのような色をしている。 星空町を彩るイルミネーションの灯りは、さらに目立つものになっていた。 ずいぶん長いこと歩いたモモコとドレンテは、希望の時計台の高台で一息つきながら、町の風景を眺める。 名前の通り、町そのものが星空のように光でいっぱいになっている。 町の反対側に広がる海には、灯りが映し出されておりとても美しい光景だった。 こういうシチュエーションは、カップル同士によるものであればロマンチックだったかもしれない。
「ごめん、ボクもう帰る時間だ。 久々に心の底から笑うことができたよ。 やっぱりキミは、ポケモンも『ヒト』も癒すことができる、ステキな女の子だね」
ドレンテの笑い顔は、彼の名前のようにどこか悲しげに見える。 本心で言っていることは何となく分かるのだが、言葉の端々からまだ彼の心が乾いているとモモコは思った。 それらを踏まえたうえで、気づけばモモコはドレンテを呼び止めていた。
「ど、ドレンテ! ……ううん、違う。 ドレンテって、本当の名前じゃないでしょ? それに、ソナタって……あなたのパートナーだよね?」
ドレンテの顔が強張る。 敵意をむき出しにした顔つきではなく、隠していた秘密がバレてしまった時の顔そのものだった。 やっぱり。 憶測を確信に変えたモモコは、さらに言葉を続ける。
「あなたの本当の名前って____」
「ごめん! それだけは、それだけは言わないでくれ!」
モモコが言いかけたところで、ドレンテ____『ドレンテとして生きてきた』少年は声を荒げる。 少年の叫びは、こっちが心を痛めるほどに悲痛なものであり、モモコもこれ以上は何も言えない。 ただ、何故かは分からないがこれでハッキリした。 少年は、好きで『クライシスのドレンテ』を装っているワケではない。 あれだけ拒絶するのには、きっと何か深い理由があることは間違いないだろう。
少年はハッと我に返る。 向き直ったときに目に入ったモモコは、未だ驚いた顔でこちらを見ている。
「……取り乱してごめんね。 でも、今日はありがとう」
それだけ言い残すと、少年は外していたバンダナを再び右前足に巻き、モモコの前から姿を消す。 1匹取り残されたモモコは、呆然としていたところから我に返った。 ただ、あの反応からして自分の確信は間違いないだろう。
(ポケモンになった人間はわたしだけじゃないって、ディスペアが前に言ってた。 たぶん、間違いない)
逆に、どうして今まで気が付かなかったのだろう。 ソナタという名前のサーナイトで、すぐにピンときてもおかしくないハズなのに。 少年がドレンテを名乗っていたことで、カモフラージュされていたのだろうか。 ただ、遅かれ早かれ憶測を立てても、それが確信になるのは今日だったのかもしれない。
ドレンテとして生きてきた、あるいは生きていかざるを得なかった。 悲しげな運命を背負うことになった少年の正体を知ることで、ようやく尻尾をつかんだ。
「アユムくん……」
それが、ドレンテの本当の名前。 未だにモモコは信じられない気持ちの方が勝っているが、これが現実だ。
懐かしい響きのある名前を、モモコは自分にしか聞こえないような声でつぶやく。 すぐにその声は、17時を告げる鐘の音によってかき消されたのだった。
* * *
ドレンテが浮かない顔でクライシスのアジトに帰ってくると、グラーヴェが先に戻ってきていた。 お土産のような大きな箱をテーブルに広げ、ソナタが箱から白くて丸いものをつまんでいる。 きっと、グラーヴェが買ってきたのだろう。 自分は正体を看破されかけたというのに、のん気な大人達だ。 ドレンテはジト目でくつろぐ大人2匹を見つめる。
「何、それ」
「ボヤージュの温泉まんじゅうだ。 お前の分もある」
珍しく、グラーヴェが自分達にお土産を買ってきている。 せっかく上司が自分達のために用意してくれたんだから、もらえるモノはもらっておこう。 ドレンテは、テーブルに近づくと箱の中に入っているひとつのまんじゅうを右前足でつかむ。 クライシスの証である黒紫のバンダナが目に入るたびに、自分は悪い魔法使いなんだと自覚させられる。 同時に、このバンダナがあるからこそ、グラーヴェは自分のことを仲間として少しでも認識してくれている。 それはソナタも同じだった。 自分のしていることが悪いと思いつつも、グラーヴェとソナタのことを考えると心がチクチクする。 今まで抑えていた葛藤が、今になってドレンテの心のハリ山になっていた。
それでもドレンテは、グラーヴェが買ってきてくれた温泉まんじゅうにかぶりつく。 口の中でほろっとこし餡が崩れ、甘さが広がる。 おいしいハズなのに、だからこそドレンテは胸が苦しかった。
「最近、俺達も失敗続きだが……ポケモン達の負の感情エネルギーは集められている。 まぁその、お互い頑張ろうじゃないか」
休みの日だったというのに、このオッさんはどこまで社畜根性なんだろう。 グラーヴェの原動力になっているものが何なのかは分からないが、たぶん自分にとってのモモコやソナタと同じようなものが、グラーヴェにもあるんだろうな。 そんなことを考えながら、ドレンテは小さくうなずくだけにとどめる。 他に何か言うと、心のハリ山が自分をめった刺しにしてきそうで、泣き出しそうだった。
「……うん」