042 だから、お願いがあるんだ
「さて、お前達。 一昨日まで行われた全国統一魔法使いテストの結果発表が届いた」
モミジの映画撮影から2週間が経ち、全国統一魔法使いテストも無事に終わった。 結果発表の単語を聞いた途端、魔法使い達は絶対零度を受けた気分になる。 テストそのものが終わっても、結果を聞くまでがテストなのだ。
「今回のうちの平均点は全国でもそこそこだな。 60点だ」
このテストは、マジカルベースごとに平均点も公表されている。 各科目によって全国の順位も出ており、自分の実力が他の魔法使いと比較された形で管理されているのだ。 魔法使い達がぞろぞろと、マナーレから結果が書かれている紙を受け取る。 今回、初めてテストを受けたモモコ以外の魔法使い達は、点数がグラフになっており、前回からどれぐらい変化があったか一目で分かるようになっていた。
「えーと……え?」
モモコは自分の結果を見て、一瞬目を疑った。 国語と外国語はそれぞれ80点台と90点台を取っており、かなりの高得点だった。 不安だった足型文字と地歴公民もギリギリ平均点。 楽器のテストも75点と、初心者にしてはかなりの健闘だった。
ただ、1教科だけ極端に低い科目があったのだ。
(やばい、1ケタだ……! さすがにこれはわたし以外いないかも……)
数学が9点だったのである。 もちろん、100点満点のテストでの9点だ。 今回テストを受けた魔法使いは160匹であり、モモコの数学の順位は160位。 つまりは全国最下位だ。 人間の学校に通っていた時から、モモコは数字にめっぽう弱かった。 公式を覚えられても、どんな局面で使うのかパッと出てこない。 13歳程度の数学になると、さらにアルファベットの数式も出てくるものだから、さらにちんぷんかんぷんだ。
まさかの結果に真っ白になっているモモコの傍では、ミツキとシオンがお互いの点数を見せ合っている。
「あー、やっぱ外国語今回難しかったか」
「おいおいミツキ! 外国語俺より点数低くね?」
ミツキの外国語の点数は42点、シオンは50点だった。 どちらもタネボーの背比べレベルの点数なのだが、赤点仲間として張り合っている。
「シオン! それにミツキとモモコ!」
「「は、はひっ!?」」
マナーレに名指しで呼ばれて、3匹は変な高い声を上げながら硬直する。
「あまりにも成績が悪すぎる。 しばらくお前達には、補修を受けてもらうことにする」
当然、ミツキとシオンはぎゃいぎゃいと抗議する。 魔法使いの仕事もあるのに、勉強なんてやってられるか。 こんなの勉強しても、魔法使いをやる上で全部役に立つワケじゃない。 ガンコババァ。 しかし、2匹の脳みそ筋肉に圧倒されるマナーレではない。 特にババァという言葉にカチンときたのか、このまま黙っているワケにはいかなかった。
「うるさい、私はまだ27だ! 文句は平均点が取れるようになってから言え!」
「い、いや! 今回の平均点高すぎるだろ! 60点も取れるか!」
「だいたい、技能テストはそこそこ取れてるんだし!」
怒鳴ることはめったにないマナーレが声を張り上げる。 魔法使い達は気迫に押されかけるが、ミツキとシオンはそうはいかない。
「はぁ……。 ミツキとシオンは、相変わらず筆記試験は赤点。 初めてテストを受けるモモコの方が、合計点数は高いぞ?」
やった。 心の中でモモコはガッツポーズをする。 国語や外国語といった語学系の科目で点数を稼いだことが、大きな分かれ道になっていた。 中でも、トレーナー修行の旅で覚えた『イッシュ語』が、この世界の外国語とほぼ同じようなものだった。 これなら、多少数学の点数が悪くても見逃してもらえるかもしれない。
そう思っていた矢先、マナーレは今度はモモコに矛先を向ける。
「だがな、モモコ。 お前は数学をみっちりしごいてやらないといけない。 あの点数は正直、今まで見たことがなかったぞ」
グサッ。
マナーレの現実を突きつけるような言葉が、モモコの頭に音を立てて突き刺さる。 さらに言うと、マナーレがこちらに送ってくる苦笑いも、胸にグサリと刺さった。
「そんなワケで、お前達には1週間、私の補修を受けてもらう。 最低でも2時間は時間を取るように」
「はいはいはーい! 今日オレ達、学校の同窓会あるから1日空いてませーん!」
「そういうワケなんで、明日から頑張る!」
地域のつながりを大事にする、星空町の学校の同窓会となればそちらを優先しなければいけない。 マナーレも、同窓会の重要性については分かっており、「であれば、仕方ないな」とミツキとシオンの補修を1日延ばすことにした。
ということは、この流れで自分も明日から頑張れるかも。 ちょっとずる賢いことをモモコが考えていた矢先。
「モモコは今日からだからな」
「う゛ぇえ!? なんで!?」
「お前は星空町の学校の卒業じゃないだろう」
やっぱりダメだったか。 モモコは肩をがっくりと落とす。 学校の同窓会ということは、同い年の魔法使いは1日誰もいない。 フィル達他の年上魔法使いに関しても、依頼の予定でスケジュールが詰まっているだろう。 今日1日は、モモコがポケモンになってから指折り3つに入るくらいの厄日になる予感がした。
* * *
世の中は聖なる夜の祭りが迫り、お祭り気分となっているが、クライシスのアジトは特に変わった様子もなかった。 いつものようにドレンテがソファで丸くなっていて、いつものようにソナタがファンデーションを頬にぱふぱふしている。 だが、3幹部の中で1匹だけ姿が見えないポケモンがいた。
「あれ? グラーヴェは?」
「ボヤージュの温泉。 暇を持て余しに行くって。 それで、心と身体を癒すんですって」
ボヤージュといえば、音の大陸の中でも有名なリゾート地だ。 キレイな海がよく見え、多くのポケモン達が観光に訪れるという話を、ドレンテも聞いたことがある。 特に名物の塩バニラアイスは、地元のポケモン達もやみつきになるとか。 闇の魔法使いの身である自分には関係ない話だ。 そう自分に言い聞かせるドレンテだが、正直なところ、一度でいいから食べてみたいという思いもある。
(あの社畜根性のグラーヴェも、疲れたりするんだ)
聖なる夜の祭りまであと2週間。 今日は珍しく、誰も仕事に行くような雰囲気がない。 ドレンテもこのチャンスを有意義に使おうと、ソファからすくっと立ち上がった。
「ボクも今日は、久々に気分転換してくる」
「あっそう、あたしも今日はエステないからここにいるわ」
「分かった」
当たり障りのない会話を切り上げ、ドレンテはすたすたとアジトの外へと出て行った。 クリスタルで覆われていたアジトは、まるで心に水を浴びせたような冷たさを感じるが、外の空気は少し違った。
外の空気が、自然界の理によって冷え切っていた。 何でもない時だったら、寒さに煩わしさを感じていただろう。 だが、クライシスというひとつの括りに囚われているドレンテにとっては、自然な寒さが心地よかった。 ポケモン達の負の感情が渦巻き、それを利用しようとする闇の魔法使いが世界を脅かしているが、この世界もまだまだ捨てたものじゃないかもしれない。 ドレンテは、久しぶりにそう思えた気がした。
(誕生日には早いけど……。 ソナタとボクにとって、大切な日だからね)
いつも身に着けているバンダナを外しながら、ドレンテは星空町の方へと向かっていく。 外されたバンダナが風になびいており、ドレンテを束の間の解放へ誘っているようだった。
* * *
「さーて、あたしも半身浴でもしましょうか」
一方で、1匹になったソナタはアジトの中で見つけた温泉で身体を癒すことにした。 摘み立てのハーブを混ぜ合わせて作った入浴剤を、ひとつ温泉の中に入れる。 雑誌で見たところによると、森林地帯で取れたハーブは、美肌効果があるとか。
ぴちゃり、と静かに水の音が響き渡る。 ソナタの上半身は、あっという間に湯気に包まれていた。 じんわりと温かいお湯が、ソナタの日々の身体の疲れを癒してくれる。 しかし、それがソナタの心をも癒してくれるかといえば、それはまた別の話。
(つまらないわね)
ぼうっとしながら、ソナタは天井を眺める。 このアジト、壁や床だけでなく天井にも暗い色のクリスタルが敷き詰められており、まるで鏡のように自分の姿が映し出されている。 天井に見えるのは、浮かない自分の顔。 何で美しくない顔が自然に作られてしまうのか、ソナタには分かっていた。
ここ最近、星空町の魔法使いと対峙する時に目にし、感じた『誰かを思う気持ち』。 チームジェミニしかり、コノハとモミジしかり。 誰かを思う気持ちとは無縁の自分が、何でこんな気持ちに振り回されているのか。 自分さえよければ、それでよかったハズなのに。
いや。 それは嘘だ。
それよりも前から、自分は何故かドレンテのことが気がかりになったことがある。 理由は分からないが、ドレンテが元気がないと、自分ももやもやする。 季節が秋に変わって、少し経ってからだろうか。 その頃から自分のことのように、ドレンテの元気のなさに比例して自分もしゅんとしてしまう。 そんなことが多くなった。
____ソナタ。 キミはボクの大切な____。
「うぅっ!?」
ばしゃっ、と音を立てて、ソナタは頭を抱える。 頭が割れるような激しい痛みが、ソナタに襲いかかった。 長風呂をしすぎた、なんてものではない。 間違いなく、人間の声と姿が頭をよぎったから、こんな目に遭っているのだと思われる。 呼吸を荒げながら、ソナタはまだどくどくと痛む頭を押さえていた。 自分の心臓の鼓動も、聞く余裕がない。
「今のは……何なの? 懐かしいハズなのに、どうして思い出せないの……」
* * *
「あ、あのー……。 お客様、何かお探しですか?」
星空町のアロマショップで、ドレンテは棚に並んだアロマ達とにらめっこしている。 こうした店に入る男といえば、彼女へのプレゼントを探すイケメンさんか、美意識の高いヤツぐらいだ。 一番いい例を挙げると、チームキューティのリーダー、フィルだろうか。 身だしなみには最低限気を遣うが、あいにくドレンテにはフィルのような趣味はなかった。 だからこそ、オシャレな店に入るまでにもかなりの度胸と勇気が必要だったのだ。
この店で働いているツバキが、苦笑いを浮かべながらドレンテを覗き込む。 ツバキの視線に気づいたドレンテは、「わっ」と声を上げ、我に返った。
「すっ、すみません! 女の人って、こういうのもらうと喜ぶんですか!?」
「……ヒト? ヒトって、人間のことかしら?」
とっさに出た言葉に、ドレンテははっと口元に前足を当てる。 しまった、今この世界でヒトだの人間だのと言えば不信感を持たれるのは、目に見えていたハズなのに。 それほど自分の心に余裕がなかったのだろうか。
「人間は、おとぎ話の世界にしか出てこない存在かと……」
「あ……そう、ですよね」
えへへ、とドレンテはわざとらしく笑う。 とてもではないが、この場に居づらくなったドレンテはそそくさと店から出て行く。 ドレンテの探し物は、ふりだしに戻ってしまった。
これまでポケモンの世界で、多くのポケモン達の心に触れることはあっても、他のポケモンと同じような生活をしてこなかった。 ましてや、女の子への贈り物なんて、ここ数年したことがない。 学校に行っていた頃、バレンタインデーのお返しにお菓子を買ったくらいだ。 だがそれも、結局親のチョイスだった気がする。
一方で、モモコはたった1匹で星空町の大通りまで来ていた。 ミツキとシオンの裏切りを受け、モモコはマナーレの補修を1匹だけで受けていたのだ。 ようやく解放されたときには、もう他の魔法使いはいなかった。 特に依頼が来ているワケでもなかったため、町中でも散歩しようと思い、外に出てきたのである。
「はぁ〜っ……。 やっと終わったよ、マナーレの補修」
マナーレの教え方は分かりやすいのだが、まるで鬼教官のようだった。 ちょっとした息抜きも許さず、マンツーマンで緊張した空気が漂う。 マナーレに「どこが分からないのか言ってみろ」と言われた際に「まんべんなく分からない」と答えたところ、同年代のポケモンと比較してもかなりマズいと言われた。 これはかなり頑張らないと、次のテストも補修行きになりかねない。 ミツキ達じゃないけど、エックスだのワイだの、代入だのを覚えたところで何の役に立つのだろうか。
大通りを歩いていると、建物や木に飾り付けられているイルミネーションが目に付く。 人間のいた世界でも、寒い時期になると色とりどりのイルミネーションが町を輝かせていたような。
(それにしても、町中にイルミネーションが増えたなぁ。 聖なる夜の祭りって言ってたし、たぶんこっちの世界でも、クリスマスみたいなのがあるんだろうな)
今までミツキやライヤ、コノハと一緒に星空町を歩いてきたが、こうして1匹でアテもなくぶらぶらするのは初めてだ。 夏の終わりから星空町にやってきたモモコも、ようやくこの世界での生活に慣れてきた。 今では1匹だけでも、星空町の中であれば歩き回ることができるようになっている。 町のどのあたりに、どんな施設や店があるのか。 全てではないが、おおかた分かってきたのだ。
「あぁぁぁあーっ! 何をプレゼントすればいいんだろう!」
しばらく歩くと、流星広場の方からポケモンが嘆いているような声が聞こえる。 目を凝らしてみると、流星広場に設置されているベンチで、1匹のポケモンが頭を抱えている。 まるで悩んでいるような姿に見えるが、今どき人目____もといポケモンの目につくような場所で、分かりやすい独り言を言う者がいるのか。 てっきりマンガだけの世界かと思っていたが。 大通りを行き交うポケモン達も、ベンチのポケモンに冷ややかな視線を送ったり、ドン引きするようにひそひそ話ながら通り過ぎたり。 何事なのだろうと、モモコは流星広場へと近づいて行った。
「だいたいソナタってどんなモノが好きなんだ? 化粧品? ダイエット食品? それとも……」
ポケモンはブツブツと、声のトーンを落としたかと思うと、また頭を抱えて絶叫する。 ちょうどその時、モモコも流星広場にたどり着いた頃であり、他のポケモン達から事情を聴いている。
「あぁぁああああーっ! 分かんないよ! ソナタが喜びそうなモノなんて! だいいちボク男だし! 女心なんて!」
「……やぁ、魔法使い。 あのポケモンなんだけどさ、1匹でギャーギャー騒いでるんだ。 この辺のポケモン達は、みんなビックリしてるよ」
声をピアノくらいまで落として、モモコに説明するのはうさぎポケモンのホルビー。 この町の住民の1匹だ。 何が起こっているのかはよく分からないが、とりあえずあのポケモンに事情を聴いてみれば何か分かるか。 そう思ったモモコは、意を決してベンチのポケモンに声をかける。 よく見ると、そのポケモンは自分と同じぐらいの背丈で、キャラメル色のもふもふした毛並みが特徴的だ。 何か心当たりがあるような気がするが____。
「あのー? 大丈夫ですか?」
「あ……。 すみません」
モモコの声に、ポケモンは顔を上げた。 目が合った2匹の間には、長いゲネラルパウゼが割り込んでくる。 それもそのはず、モモコが声をかけたポケモンはドレンテだったのだから。
なんで、ドレンテが、ここに。
よりにもよって、モモコが、ここに。
お互いにしばらく固まっていたが、モモコがようやく啖呵を切るように言葉を発する。 声が裏返っていることから、よほど動揺しているのだろう。
「って、ドレンテ!? また悪さしに____!?」
ドレンテからすれば、モモコの反応は予想通りだった。 せっかく身分を隠してプライベートで星空町に来ているのに、暴露されては元も子もない。 それを見越したドレンテは、モモコと目が合った時から小さな声で呪文を唱えていた。 声を出せなくする『コンキリオ・シレント』。 テレビのボリュームを落としていくように、モモコの声は聞こえなくなっていた。
「ちょっと、声大きいよ!」
喉を抑えながら声を出そうと試みるモモコだが、魔法で声が出せなくなっていることから、とても難しい。 その間にもドレンテは、荷物の中から青緑色をしたひとつの玉を取り出す。 それは、ポケモンであれば誰でも使うことができる『ふしぎだま』のひとつ、『ひかりのたま』だった。 ドレンテがひかりのたまを地面に叩きつけると、辺りは眩しい光に包まれた。 周りにいたポケモン達はその眩しさに、目元を覆っている。
他のポケモン達が混乱している隙に、ドレンテはモモコを引っ張るように連れ去り、路地裏の方へと向かった。
* * *
星空町にも数は少ないが路地裏がある。 ここならポケモン達の目もないだろうと、ドレンテは辺りを見回して確認する。 誰もいないことが分かったドレンテは、自分がかけた魔法を解くための呪文『コンキリオ・リベルタ』をモモコに向けて唱えた。 ひとまず声を取り戻したモモコだが、ドレンテに拉致まがいのことをされたのは初めてではない。 ただ今回違うのは、今のモモコにはドレンテに噛みつくだけの元気があるということだ。
「いきなり何するんだよ! また悪さしに来たの?」
開口一番に、モモコはドレンテに強めの口調で言い放つ。 悪さをしようとしていることを前提に言葉をぶつけられ、ドレンテも負けじと言い返す。
「ちーがーう! 今日はプライベートだよ! いつもボクが悪いことしてるみたいに思わないでくれないかい?」
「いやだって……ねぇ? 日頃の行いがねぇ」
(まぁ……それはあるけど)
そう言われると否定はできない。 モモコの視点で考えれば、ドレンテは悪者以外の何でもない。 ましてや、一度寝込んでいるところを連れ去って、チームカルテットとクライシスの両方を巻き込む一大事になったこともあった。 闇の魔法使いである自分が、悪いことばかりしてると思うなと言われても、厳しいものはあるだろう。 ただ、ぷんすかしているドレンテの様子には、誰かを欺くような雰囲気は感じられない。 クライシスの証のバンダナも身に着けていないため、一見すれば普通とみられるイーブイがここにいる。 ドレンテのプライベートという言葉には、ウソ偽りはなさそうだ。
「それにしても、今日はミツキ達は一緒じゃないのかい?」
「たまたま。 学校の同窓会に行ってるんだって」
そうなると、今日は1日チームカルテットのメンバーの目が届かない。 これはクライシスとしての視点で見ると、モモコを連れ去るには大きなチャンスともいえる。 だが、今日のドレンテの目的は別にあった。
(これがクライシスとしてのボクだったら、モモコを連れ去っていたのかもしれない。 でも、今は……)
今はクライシスとしてのドレンテではなく、本当の自分としてここにいる。 ましてや、ポケモン達を襲うなんてことは微塵も考えていない。 ただ、日頃の行いにいろいろと問題がありすぎたのか、ドレンテがモモコから得ている信用はほぼゼロに近い。 紅の荒野での一件で変わったのかもしれないが、結局また、ただの敵同士の関係に戻ってしまっている。
ここでモモコを解放し、また1匹に戻っても別の魔法使いが同じ反応をするだろう。 そのうえ、このままでは自分が今日星空町に来た本当の目的も果たせないかもしれない。
(そうだ)
そこでドレンテは、あることをひらめいた。 この状況を打開し、モモコが損をすることもなく、自分にとっても得になる方法を。
「モモコ」
「何」
「約束する。 絶対キミをどこかに連れてったりしない。 ポケモンをミュルミュールにもしない。 だから、お願いがあるんだ」
全力で訴えるドレンテの気迫に、モモコは圧倒される。 それは、闇の魔法使いとして対峙するようなものではなく、ドレンテという1匹の少年としてのものだった。 以前、風邪を引いた時もそうだったが、ドレンテはこんなに真剣な顔ができるのかと再認識させられる。 ここまで頼み込んでいるドレンテを、頭ごなしに拒否するのも違う気がする。 モモコは自身の良心にかけ、話だけでも聞いてみることにした。
「お、お願いって?」