ポケモン・ザ・ワールド〜希望の魔法使い〜





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第2楽章 星空と魔法の町−Pot pourri−
029 こんな俺を支えてくれたんだ
 シノビ村への帰省2日目。 村の「しにせ」の喫茶店で、コノハが抹茶ラテをずずずずっ、とストローですすりながらくだを巻いていた。
本当ならミツキが村を案内する約束になっていたのだが、ミツキが朝一番にフルムに呼び出されてしまった。 そのため、「すぐ終わると思うから3匹で先に行ってくれ」と言われたのである。

「あのおじいさん、一体何考えてるのかしら。 魔法使いは嫌いとか言っといて、今朝になってミツキを呼び出し? やーっぱり大人の考えてることって分かんない!」

 ゴトン、と音を立ててグラスが木のテーブルに叩きつけられる。 それにしても、テーブルの上には空になったグラスが3つほど置かれていて、モモコとライヤは飲みすぎているコノハを心配する。

「わたしはコノハがいつまで飲み続けるのか分からないよ……」
「コノハは甘いものなら無限に食べ続けます……」

 この喫茶店の名物でもある抹茶ラテは、ホイップクリームがゲレンテのように盛られていてかなり甘い。 モモコとライヤからしたら、1杯飲んでお腹いっぱいになってしまう。
コノハの飲みっぷりは、育ち盛りの男の子ばりだった。 もやもやした気持ちに任せて、一生分の抹茶ラテを摂取しているんじゃないかとさえ思ってしまう。

(でも、わたしも気になる。 ミツキ、おじいさんと何の話してるんだろ……?)

 とはいえ、ミツキの動向はモモコも気になっていた。 あれだけ拒否していたフルムが、ミツキに何を話すのだろうか。
悪いことはないと思いたいが、何となくモモコは胸騒ぎがしていた。



* * *



 忍者屋敷の中にあるフルムの部屋は、畳と線香のにおいが広がっていた。 壁には「情熱」と書かれた掛け軸がかかっており、お年寄りのポケモンの部屋であることを強調させている。
部屋は物音ひとつせず、ミツキとフルムが向かい合って互いに見つめあっているのみ。 なかなか広い部屋のハズなのに、まるでサウナにいるような息苦しささえ感じる。
それでいて2匹の間には、氷の膜でも張ってあるかのように張り詰めた空気が流れていた。
ミツキが部屋に入ってから、フルムはずっとこの調子だ。 なかなか口を開いて話そうとしない。
モモコ達も待たせているし、早いところ話を終わらせたい。 やっぱり来るんじゃなかったとミツキが後悔しかけた時、ようやくフルムがミツキに問いかけた。

「最近どうだ」
「何だよ急に」

 あまりにもざっくりとした問いに、ミツキは思わず拍子抜けした。

「お前が向こうで問題を起こす話を聞かなくなったが」
「だからどうした」
「ガンコでやんちゃなお前が、どういう風の吹き回しだ」
「どういう意味だよ?」

 わざわざケンカ売るために呼び出したのか____けなされているような言い方をされ、ミツキはムッとする。

「だから、その。 魔法使いとして努めを果たしてないのであれば、お前を____」

 そう言いかけたところで、フルムは突然お腹を抱えて苦しみだす。 おでこには汗がにじみ出ていて、顔もさらに青くなっている。
フルムはうめき声をあげながら、そのまま畳に身体を打ち付けるように倒れてしまった。
ミツキは慌てて立ち上がると、フルムを介抱する。

「じ、じいちゃん!? おい……!」



 フルムを介抱したあと、ミツキはすぐリュンヌとフォルモにことを知らせ、この村では数少ない医者を呼んでもらった。
しばらくフルムは診察を受けることになり、ミツキはリュンヌ達と別の部屋で待つことになった。
フルムは命に別状はないか、おおごとにならずに済むか。 3匹とも、不安であることは一緒だった。

「さっきじいちゃんと話してた時、魔法使いとして努めを果たしてなければーって言いかけてたんだ。 父さん達、何か知ってるか?」

 ミツキの問いかけに、リュンヌとフォルモの顔つきが変わった。 まるで、バツが悪そうなその顔は何かを隠していたか、知っていたかすぐに分かる。
2匹はミツキに、自分達の隠していることを話すかどうか目くばせをする。 しばらく沈黙が続き、悩んでいる様子が見られたが、ようやくリュンヌが重い口を開いた。

「実はフルムさんがこっちに戻ってきていたのは、ミツキを連れ戻すためだったんだ」

 あまりにも突拍子もない話に、ミツキは思わずリュンヌに詰め寄った。 そこには気迫というよりも、13歳の少年らしい焦りと戸惑い、そして不安が見られる。
連れ戻すって、魔法使いを辞めて村に戻ってこいって言っているのか。 嫌な予感がミツキの頭をよぎった。

「は? 何だよそれ、そんな……!」
「ミツキが魔法使いとして問題ばかり起こしてたから、根性を叩き直してやる、って。 ミツキが帰省するって知ったら、いちもくさんに戻ってきたよ」

 否定できない。
ユズネが石にされたあの事件から、ミツキはひねくれた。 ヤケになるように強さばかり追い求めて、憧れていたハズのクレイにケガまでさせたこともある。
どんな手を使ってでも強くならないといけないのに、周りに余計に迷惑をかけてばかりいた。 当時のミツキは、どうしていいのか分からなかった。
だが、そんなミツキにも転機が訪れた。
モモコとの出会いだった。 会って間もないくせに、自分の心にズケズケ入ってくる変わり者。 そのくせ当のモモコ自身にも、放っておけないナニカがあり、ついつい目を向けてしまう。
ミツキは、モモコ達とのかかわりを通して本来の自分を取り戻しつつある。 ちょっと前までのミツキとは、もう違うハズだった。

「お父さん____おじいさんね、ずっと『ミツキが〜、ミツキが〜』って言ってたのよ」

 大人はずるい。 物事を言うタイミングを上手く見計らっている。 どうしてそれを今言うのか。
ミツキは言葉が出かけたが、ここはぐっとこらえた。 感情任せになれば、また問題児に逆戻りになる。

「ごめん、父さん、母さん。 ちょっと頭冷やしてくる」

 ミツキはすたすたと部屋の引き戸を開けると、そのまま外へと出て行ってしまった。
このままじゃ、自分の気持ちをセーブできずに父さんや母さんにキレそう。 今は話を続けられそうになかった。

「ふぅん……。 モモコを追いかけてこんなヘンピな村に来ちゃったけど。 まさかこんな面白いことになるなんてね」

 穏やかじゃない空気の中。 家を飛び出していくミツキの様子を、木の上から見つめている影がひとつ。



* * *



 ミツキがやってきたのは、忍者屋敷の近所にある川のほとりだった。
川のふもとにはだだっ広い原っぱしかないが、追いかけっこやかくれんぼをするには十分な広さだった。
シノビ村には星空町みたいに気の利いた公園が少なく、小さい頃はよくここで遊んでいたのを覚えている。 友達と遊んでいるときもあれば、フルムとよく歩いていたこともある思い出の場所。
水面には、自分の不安そうな顔つきが、水でさらに歪んで見える。 

(ずりぃよ……あんなん。 戻ってこいって言われてるって思うじゃねーか……)

 口も目つきも悪いミツキだが、彼自身の心はとても繊細でピュアだ。 周りの目をとても気にしやすく、自分で決めたことに自信が持てない。 そのくせ、思い込みがとても激しい。
ユズネの件の時もそうだ。 自分のせいで他の魔法使い達を悲しませ、だったら自分が嫌われ者になればいい。
チームカルテットのメンバーのおかげで、ユズネのことは吹っ切れたつもりだった。 しかし、ミツキ自身の根本的なものは変えるまでは至らない。
 もし、もしも本当に自分が忍の道に進むことになれば、魔法使いを辞めることになる。 その時残されたモモコ達はどうなる? 白い帽子の女の子にもう一度会う目標は?
だが、この状況で星空町に帰ればフルムはどうなる? 何が正しいのか、ミツキには分からなかった。

「ウジウジ悩んでる魔法使い、みーつけた」
「あぁ?」

 気がない様子でミツキが振り向くと、そこにはドレンテがいた。 良くない意味でなじみがある顔だったもので、ミツキはなぁんだ、とめんどくさそうにつぶやく。

「なんだ、ドレンテか。 お前の相手してる暇ねーんだよ」
「心に余裕がないね、ミツキ。 もうすぐスピリットが黒くなりかけるのに?」

 ドレンテが不敵な笑みを浮かべると、ミツキは驚いた様子で自分の左胸を抑える。

「____ッ!?」

 ドレンテの目に映るミツキのスピリットは、確かに輝きを失っていた。 壊れた蛍光灯みたいに、輝きを失ってたまるものかとねばっているが、スピリットは今にも黒く染まりそうだった。
このままだと、ミュルミュールにされる____身の危険を察したミツキは、すぐにその場から逃げようとする。 しかし、ドレンテの方が一枚上手だった。
ドレンテはスピリットを抜き取る体勢に入ると、暗黒魔法の力で手早くミツキのスピリットを抜き取った。

「キミのスピリット、解放しなよ!」
「うわぁああああーッ!」



* * *



 暗黒魔法の力は、コノハもすぐに感じ取った。 大きく目を見開いて、身体中の毛を逆立たせる。
いつもキャピキャピしているコノハだが、霊能力者のように豹変するその様子に、モモコは未だに慣れない。

「ハッ!」
「コノハ、どうしたの?」
「デカいミュルミュールが来た……!」
「えぇっ!? シノビ村でですか!?」

 シノビ村は小さな村で、且つ魔法の文化が星空町ほど進んでいない。 そのため、ミュルミュールの被害もほとんどない。
だからこそライヤは声を裏返しながら驚いていた。 コノハはカタカタと身体を小刻みに震わせながら、さらに続ける。

「しかもね……この魔力のパターン、ミツキの魔力にそっくりなの……!」

 まさか____最悪の展開が、モモコとライヤの頭をよぎる。 3匹は切羽詰まったように、席を立つと喫茶店を飛び出していった。

「急ごう! ミツキに何かあったのかも!」



「確かこの辺よ」

 コノハの直感を頼りに、3匹はミュルミュールを探して川のほとりにやって来た。
忍者屋敷からは近いとはいえ、ポケモン達の集落から離れており、不思議のダンジョンが発生しているワケでもない。 川のせせらぎと、自分達が草を踏む音によるアンサンブルだけが、静かにこの一帯を包み込んでいた。

「____!?」

 あるものを見つけたモモコが、信じられない様子で目を見開いている。 言葉を失うモモコに、ライヤが顔を覗き込みながら「どうしたんですか?」と尋ねる。
疑問に思いながら、ライヤはモモコが見つめている同じ方向に視線を移した。 そして、ライヤもまた驚きを隠せない様子を露わにする。
2匹の視線の先には、紫色のクリスタルに閉じ込められ、気絶しているミツキがいた。 左胸には、スピリットをくり抜かれたような黒い星のマークが浮かび上がっている。
コノハも少し遅れてミツキを発見し、悲しそうに目元を歪めていた。
一番身近な仲間が、そもそも魔法使いがスピリットを抜き取られることがあるのか。 てっきり魔法使いはミュルミュールにならないと思っていたモモコは、ライヤとコノハと比べてもかなり動揺していた。
ライヤとコノハも、魔法使いの経験があり事前に知っていたとはいえ、突然の事態に心を痛めている。

「ウソ……ミツキが、ミツキが……」
「そんな……でもどうして!」
「ちょっとミツキ! これ何かのドッキリなんでしょ!? 起きて出てきなさいよ!」

 モモコとライヤが愕然としている傍らで、コノハはミツキを閉じ込めているクリスタルをぼかぼかと殴りつける。 しかし、いくら叫ぶように呼び掛けても、ミツキは目覚めない。
動揺している3匹の前に、ドレンテがミュルミュールを従えて姿を現す。 下半身と両腕は煙のようになっており、頭は手裏剣の形をしている。 忍の家に生まれたミツキらしいミュルミュールだ。

「やっと会えたね、モモコ」
「ドレンテ! ここまでついてきたの!?」
「ミツキをこんな風にしたのは、あなたなんですね!」
「魔法使いも、スピリットの輝きを失うあたりただのポケモン。 ミツキの魂は死にかけてたんだよ」

 ドレンテはフンと、ミツキを小ばかにするように鼻で笑う。
ドレンテの言う通り、魔法使いはあくまで不思議な力を持つポケモンというだけであり、ミュルミュール化に耐性があるワケではない。
また、心の闇も全くないというワケでもない。 魔法使いでも、輝きを失ったスピリットを利用されることはある。

「……ライヤ、コノハ。 戦おう」

 ここで真っ先にウェポンを構えたのはモモコだった。 いつも切り込み隊長として真っ先に先陣を切るコノハでさえ、意気消沈している今。
いつも一緒にいる仲間を相手に戦うことに、全く迷いがないと言われればウソになる。 でも、だからこそ、ミツキのスピリットをこのままにしてはいけない。
ミツキを元に戻すには、今は戦うしかない。

「絶対ミツキを元に戻そう!」
「……はい」
「もちろんよ!」

 それをすべて分かったうえで、モモコは震える手でサーベルを握っていた。
いろいろな思いがあるのは、3匹みんな同じ。 ライヤとコノハも、それぞれのウェポンを持つと、戦闘態勢に入った。
 こうしてミュルミュールとの戦いが始まる。 ライヤが能力変化の魔法でサポートに入り、モモコが接近戦に入る。 そこをコノハが遠距離攻撃でサポートする。
厄介なことに、ミュルミュールの能力は元のポケモンに依存する。 例えば、ミツキのスピリットから生まれたミュルミュールは炎系の攻撃に耐性がある。

「『マジカルシャワー』!」
「ミュルミュールが光に眩しがっています! モモコ、お願いします!」
「分かった! 『ブリーズ』!」

 いつもならばミツキが持ち前のスピードで接近戦に持ち込んでいるが、今はそれができる魔法使いがモモコしかいない。
そのため、ライヤのサポートもいつもより手堅いものになっていた。 スピードとパワーを上げる魔法を、いくつも重ねてモモコにかける。
この能力の変化に、モモコは追いつけないかもしれない____なんて思っていたが、杞憂だった。 そこはチームで一番の頭脳派のライヤ。 自分の魔法がすぐにモモコになじむように、少し間を置いてから魔法を何回かに分けてかけていた。 
おかげで、ミツキがいる時と同じぐらいにはミュルミュールを追い込むことができた。
ライヤの魔法でパワーが上がったモモコは、至近距離から風の刃でミュルミュールを切り裂く。 かなりのダメージを与えられたとみられた。

『俺は、自分の決めたことに自信がない!』

 ようやく、余裕がなくなったミュルミュールがミツキの心の内をさらけ出す。 そのあまりにも悲痛な叫びに、チームカルテットの動きが鈍る。

『魔法使いになって、頑張ってきたハズだった。 でも俺は途中でグレて中途半端になった! こんな俺が、魔法使いをこのまま続けていいのか分かんねぇ!』

 煙のような手から、無数の手裏剣が雨のように放たれる。 辛い気持ちを尖ったものに変えて、涙のようにこぼしていく。
手裏剣はチームカルテットに容赦なく叩きつけられる。 3匹共に、身体のあちこちに切り傷を作ってしまったが、身体よりも心が痛かった。
ミツキの心の声が、叫びが、それこそ手裏剣のように鋭く降り注がれている。

『俺は魔法使いを辞めたくない! モモコやライヤ、コノハ達と別れたくない! でも、じいちゃんが悲しむ!』

 たぶん、この言葉がミツキが本当に言いたかったことなのだろう。 魔法使いを辞めて、友達と離れるのがイヤだ。 でも、フルムのことも捨てきれない。
ハタから見れば、欲張りなヤツと思われても仕方ない。
家の問題には、モモコもライヤもコノハも、口出しすることが難しい。 ミツキもそれを分かっているからこそ、苦しんでいる。

『どっちを選んでも、悲しむヤツが出てくるんだ!』

 だからといって、何もかけてやれる言葉がないワケではない。 

「ミツキ、聞きなさいよ! 脳みそ筋肉なアンタにも分かるように、分かりやすく、一回しか言わないんだからね!」

 今のミュルミュールは、最初と比べて戦う意思が削がれている。 チームカルテットが彼に気持ちを訴えるには、今がチャンスだ。
ミツキが中途半端と自分のことを思っていても、3匹が同じように思っているかと言われれば、それはもちろん別の話だ。

「アタシとライヤなんて、ミツキと魔法使いやる前からずっと一緒にいたから分かるけど……。 1年前ひねくれちゃったけど……アンタはモモコと会ってから変わったじゃないの!」
「ユズネのことがあってからも、ミツキは魔法使いの仕事を投げ出すことは絶対になかったじゃないですか! 頑張ってきたことは、僕達が一番わかっているつもりです!」

 一番付き合いが長いライヤとコノハの言葉に、ミュルミュールの顔つきが心なしか穏やかなものになる。
ユズネの件でグレた当時のミツキでさえ、ミュルミュール化することなく魔法使いの仕事を投げ出すことは絶対になかった。 今では自分の過ちに気付くことができる。
それだけでも、十分に中途半端ではないハズだ。
自分と会って変わったかどうかは別として、よく考えたらミツキってすごいじゃん。 モモコもまた、改めてミツキのすごいところに感心する。

「えぇいうるさい! ミュルミュール! あいつらをけちらせ!」

 ドレンテの声に反応するように、ミュルミュールの戦意が戻ってくる。 再びミュルミュールは、煙状の右手を火薬に、左手をメリケンサックが装備された握り拳にそれぞれ変えた。
火薬はライヤに、メリケンサックはコノハにピンポイントで振り落とされるように襲い掛かる。

「ライヤ、コノハ! 危ないッ!」

 すぐにモモコは、2匹に忍者道具が直撃する前にミュルミュールの両腕を切り落とした。 おかげで忍者道具達は空中を舞い、火薬はチームカルテットの頭の上で爆発した。 メリケンサックも、川の底へと沈んでいき水と同化していった。
間一髪だった____そう安心したのも束の間。
ふっとモモコの足が地面から離れた。 気が付けば、モモコの全身は煙がロープや触手のように巻き付かれており、ミュルミュールに持ち上げられるような形になっていた。
これはライヤも誤算だった。 ミュルミュールが自在に形を変えられるのは、両腕だけではなかったのだ。 同じく煙状になっている下半身が、拘束の役割を果たしている。
ライヤとコノハへの攻撃に、モモコの気を向かせるためのワナともいえる。 頭を使うことが得意ではないミツキだが、ミュルミュール化されたことによる強化だろうか。

「「モモコ!」」

 素体がミツキということもあり、締め上げられる力はとても強く、全身に走る痛みと苦しみがモモコに襲い掛かる。 手裏剣の雨による切り傷が、まだ癒えていなかった。
コノハがすぐにステッキを構えてモモコを助けようとするが、ライヤがコノハの前に腕をかざし、静止する。
最初は理解ができなかったコノハだが、すぐに静止されたワケを察した。 ミュルミュールに捕まっているモモコも巻き添えになってしまう。 ましてやコノハの炎攻撃だと、モモコには致命的だ。

「ははっ、得意の炎の魔法でも使ってみなよ? モモコにやけどでもさせたら、ボクが許さないから」

 攻撃ができず、悔しそうに歯ぎしりするコノハを見下ろすように、ドレンテは鼻でフンと笑う。
続いてドレンテは、締め付けで苦しんでいるモモコに視線を移す。 しかし、その時ドレンテが目にしたモモコの姿は意外なものだった。
確かに、苦しみで顔を歪ませていることには変わりない。 そんな状況でも、モモコはミュルミュールに必死で苦し紛れでも『笑顔』を向けようとしていたからだ。

「わたしさ……この世界に来て、ずっとミツキに助けられてきたよね」

 モモコからすれば、ミツキはこんなにも1匹で抱え込んで苦しんでいた。 自分の傷の痛みも、拘束による苦しみも、ミツキの抱えていた思いに比べればどうってことない。
自分が不安な顔でずっと向き合っていたら、助けられるものも助けられない。

「だから今度は、わたしがミツキを助けたい!」

 そうは言っても、ミュルミュールに力強く締め付けられているモモコは手も足も出ない。 時々「うぐっ」とうめき声を上げながらも、決してモモコはミュルミュールから目を背けなかった。 今まさに、ミツキの心と向き合おうとしている。
部外者だったモモコも、もう今ではマジカルベースの魔法使いであって、正真正銘ミツキのチームメイトだ。

「ミツキは……正直、そんなに頭良くないし、口悪いし、自分の気持ち伝えるのへたっちょだし……大して身長変わんないのに、わたしのことチビって言う」

 唐突な悪口の数々に、ライヤとコノハ、ドレンテまでもがポカンと口を開ける。 助けたいって言っておいて、その言い草はないだろう。 誰もがそう思っていた。

「うぇへへ……笑っちゃうよ。 だってわたし達、最初めちゃくちゃ、仲悪かったもんね……」

 でも、と前置きしてモモコは続けた。 ミュルミュールもまた、モモコの言葉に戸惑っている。

「ミツキは口下手だけど、その分態度で全部示してくれたよね。 楽器のこと教えてくれたこと……ドレンテから助けてくれたこと、風邪引いた時に看病してくれたこと……。 ほんと、ミツキには助けられっぱなしだよ……」 
「どうしてキミは、そんなにミツキミツキって……! ミュルミュール! モモコを黙らせてやってよ!」
「ねぇ、ミツキ」

 ミュルミュールは投げやりになったかのように、モモコを川めがけて振り下ろした。 やっと拘束から解放されたモモコだが、その身は川へと落ちていく。 ライヤとコノハがほうきに乗って、空中で受け止めようとしたが間に合わない。

「ミツキの本当の気持ちは、どうしたい?」

 じゃぼん、と。
川の水が音を立て、水しぶきが小さく跳ね上がる。 あいにく、みずタイプでもないモモコは泳げない。 モモコの姿は、川の中へと消えていった。
コノハが愕然とする中、ライヤは水面ギリギリまで下りてきてモモコを探す。 2匹の様子を見ながら、ドレンテはにやぁと不気味に笑っている。
ミュルミュールでライヤとコノハを仕留め、邪魔がいない状態でモモコを自分の手中に収められる。 ドレンテのモモコへの思いが、極めて歪んでいることを、ドレンテ自身は自覚していなかった。

「さぁ、ミュルミュール。 残りの2匹にとどめを____」

 ドレンテが指示する前に、ミュルミュールは動いていた。 ポケモンの魂そのものであるてまえ、闇の魔法使いの言うことを聞かないことは珍しいことではない。
しかし、ミュルミュールが取った行動は、ドレンテにとって信じられないことだった。
ミュルミュールは素早い動きで川に近づくと、煙状の下半身を川の中に突っ込んだ。 まるで何かをつかみ取るように川を探ってしばらくして。
ようやく、ミュルミュールはお目当てだった1匹のポケモンを引き上げた。

「げほっ、げほっ! な、何?」

 激しく咳き込んでいるモモコが、ミュルミュールに助けられた。 ライヤとコノハは驚きと安堵が入り混じった表情で、ミュルミュールとモモコの方に飛んで行った。
ドレンテはその様を見て、絶望の極みのような顔をしている。 まさかミュルミュールが魔法使いを助けるなんて、さすがにここまでは今までなかった。
ミュルミュールに運ばれ、陸地に戻ってきたモモコは呼吸を整える。 幸い、水を飲んだりするようなことはなかったため、そう時間はかからなかった。

「もう大丈夫?」
「うん、なんとか」
「そしたら、ミツキの浄化。 モモコにお願いしてもいい?」
「う゛ぇぇ!?」

 今のミュルミュールからは戦意がない。 まるで魔法使いに浄化されるのを待っているように、じっと3匹を見つめてたたずんでいる。
しかし、今までモモコは1匹でのミュルミュールの浄化に成功したことがなかった。 前に2回も失敗していることもあり、強い不安を抱いている。

「たぶん、ミツキの浄化にはモモコが一番最適だと思うんです」
「大丈夫、いざって時にはアタシ達がフォローするから!」

 ライヤとコノハが力強く後押しする。 
このまま2匹に任せきりでは、自分にとっても良くない。 2匹がそう言うのであれば、自分の力に賭けてみよう。
意志を固めたモモコは、光に包まれたユーフォを手に持つと、再びミュルミュールと向き合う。 すぅ、と大きくブレスを吸って、マウスピースに口を当てると、曲を奏で始めた。 

「その魂よ煌け! 『勇気のファンタジア』!」

 まだ1回も成功したことがないこの曲。 不安な気持ちが取っ払われているかと言われるとウソになる。
正直、モモコは失敗した時のことを考えると怖かった。 相手が身近な相手というのもあり、助けられなかったらどうしよう。 ミュルミュールの浄化という魔法への責任を、この時モモコは強く感じた。
それでも今は、ミツキを元に戻すことだけを考えよう。 ミツキの苦しい気持ちを受け入れる。 モモコの思いはユーフォの音色にしっかりと乗せられ、ミュルミュールを包み込む。

『ハピュピュール〜』

 光の風に包まれて、やがてミュルミュールはスピリットへと戻っていった。 ライヤとコノハが手助けすることもなく、モモコは1匹で浄化を成し遂げた。

「くっ……! ミツキがモモコの思いに応えたっていうのか……」

 悔しそうにつぶやくドレンテの顔は、まるで人間の世界で有名な『鬼』のように歪んでいた。
諦めたようにドレンテがその場を後にしてしばらく、モモコは手の中の楽器と目の前のスピリットを交互に見つめていた。

「や、やった……やったの?」
「すごいです、モモコ! 1匹での浄化に成功したの、初めてじゃないですか?」
「頑張りがちゃんと形になったのよ! ミツキを助けることもできたし、いいことだらけじゃないの!」
「よかった、よかったよぉ……!」



 忍者屋敷の離れにあるミツキの部屋まで戻ってきたチームカルテットは、引っ張り出すように布団を畳の上に敷き、すぐにミツキを寝かせた。
ミュルミュール化されたポケモンが意識を戻すには、少しばかり時間がかかることが多い。 それまでの間、3匹はお互いの傷の手当をしながらミツキが目を覚ますのを待っていた。
ミュルミュールにされるあたり、魔法使いも魔法が使えるだけであってただのポケモン。 他のポケモン達と同じように、心に隙ができることがある。
自分達もポケモン達の心を守りつつも、自分自身の心の闇を付け込まれてはいけない。 つくづく油断を許されない戦いの渦の中にいることを、実感させられる。

「……うぅっ……」

 窓から夕陽が差してきた頃、ようやくミツキが目を覚ました。 モモコは真っ先にミツキの意識を確かめようと、彼の顔を覗き込む。
前に自分が風邪で寝込んだ時、最初に目にしたのがミツキの姿だった。 こうして逆の立場に置かれることになったのは偶然か。 

「ミツキ!」

 しかし、先ほどまでスピリットが抜き取られていたこともあり、ミツキの視界は非常にかすんでいた。 意識もまだ混ざり切っていないカフェラテのようにごった煮になっている。

「白い帽子の……あの時の……」
「え?」
「あ……」

 ようやく、ミツキは自分の目に映っているのがモモコだと分かった。 次第に意識もはっきりとしたものになり、ここが自分の部屋だと認識する。

「悪りぃ、寝ぼけてたみたいだった」

 重い頭をゆっくりと持ち上げたミツキは、ようやくミュルミュールにされていた時のことを思い出した。
フルムと友達、どっちを取るか。 どちらに転んでも苦しむことになると葛藤していたが、浄化の効果もあってか、おおかた気持ちの整理はついていた。

「……ごめん、俺、悩んでるところをドレンテのヤツに付け込まれて、それで……」
「いいってことよ、元に戻ったんだから」

 フン、とコノハが鼻で笑う。 余裕のある勝ち誇ったような笑みを浮かべているが、今回の戦いがかなり厳しいものだったことはミツキも覚えている。
そのうえでこの返事なものだから、コノハは本当に懐の大きいポケモンだ。

「今日のミュルミュールは、モモコが浄化したんですよ」
「ライヤ!」

 ライヤが得意げに告げている傍らで、モモコはあわあわと顔を赤らめている。 目の前のミツキは珍しく、「そうなのか?」ときょとんとしていた。

「その、ミツキにはずっと助けてもらってばっかだったから、お礼になってればいいなっていうか、その……」
「ありがとな」

 モモコ達の身体のあちこちには、包帯やテープが巻かれており、痛々しさが伝わってくる。 そうまでしてでも、自分を助けてくれたんだ。 ミツキはつくづく、自分は仲間や友達に恵まれていると実感する。
そんな時、ミツキはもうひとつ大事なことを思い出した。

「そうだ、じいちゃんは!?」

 倒れたフルムの容態だ。 これだけ時間が経っていれば、何かしらの診断もついたことだろう。
ミツキはがばっと布団から飛び出すと、忍者屋敷へと大急ぎで駆けて行った。

「ま、待ってよミツキ! 寝起きなのに大丈夫なの!?」



 バン、と大きな音を立てて、ミツキがフルムの部屋の引き戸を開ける。 命にかかわっていたらどうしよう、大したことありませんように。 不安から呼吸が浅いものになっていた。

「父さん、母さん! じいちゃんの具合は……」
「ミツキ、帰ってきてたのか。 ちょうどよかった」

 リュンヌとフォルモの少し奥では、フルムが上半身だけを起こして布団の中にいる。
父と母に連れられて、ようやくミツキはフルムとちゃんと対面した。 最後に会った時と、そこまで大きく変わっていないが少し痩せている気がする。
もう大丈夫なのか、起きてていいのか、何も問題なかったのか。 たくさん聞きたいことはあったが、何から聞けばいいのか分からない。 言葉を詰まらせているミツキが、なかなかに面白い顔をしているようで、フルムは怪訝な顔をする。

「何じゃ、ワシの顔に何かついてるか」
「ただの過労だって。 忍の仕事に没頭しすぎて、家に帰ってこない日が多かったからね」
「俺がどんだけ心配したと思って……」

 ともあれ、何事もなく、大事にも至らなかった。 今日1日のミツキの心配は杞憂に終わったことになるが、結果オーライだった。

「フン、家を捨てた孫に心配されても____」
「よかった」

 まるで小さなビー玉でも落とすように放たれたミツキの声は、とても重みのある声で。 流さないように耐えていた涙は、続けた言葉と一緒になって、畳の上にこぼれ落ちた。

「何もなくて……よかった……」



* * *



 その日の夜。 ミツキはフルムの部屋の縁側にたたずんでいた。
隣にはフルムが座っていて、目の前に広がる庭には忍者道具が並べられている。 ミツキからしたら、久しぶりに見る景色だった。
夜空には満月が雲にかぶさりながら浮かんでいる。 月の周りには、星がいくつか散らばっていた。

「俺、やっぱり魔法使いを続けたいんだ」

 ミツキはフルムの目を見て、はっきりと伝えた。

「問題ばっか起こして、ロクでもなかった俺だけど。 きっとこれからも、自分の目的みたいなの見失うことがあるかもしれねぇけど」

 でも、と前置きをしてミツキは続けた。

「ライヤとコノハと……新しく仲間になったモモコってヤツもいる。 あいつらは、こんな俺を支えてくれたんだ。 あいつらと一緒に頑張りたいんだ」

 こんなつたない自分の言葉で伝わるだろうか。 フルムに分かってもらえるだろうか。 ミツキは自分の言葉に自信はなくとも、情熱は込めたつもりだ。
フルムはしばらく黙りこみ、応えようとしない。 まるで思いをはせるように、満月を見つめながら何かを考えている様子だ。
その表情は、心なしか昨日よりも少しだけ穏やかになっているようにも見えた。

「そんなん、お前がここに帰ってきたときから分かっていた」

 ようやく出されたフルムの言葉に、ミツキは思わず「えっ」と声が出た。

「リュンヌくんやフォルモからも、最近になってお前の問題がピタッと止まったことも聞いていた」
「じゃあ……!」
「ただし! お前がまた問題を起こしたら、連れ戻しに星空町まで飛んで行ってやるからな」

 これだから大人は、とミツキは思う。 いつだって「何かあったら」「問題が起きたら」と最悪のことを考えている。
それでも、フルムはミツキが魔法使いとしてこれからも頑張っていくことを認めてくれた。 それがミツキにとって、どれだけ嬉しいことか。
一番認めてほしかった、分かってほしかった相手なだけに、自分の顔が笑いたがっているのが分かる。

「ミツキ、お前の名前の由来は話したのは覚えているか」
「なんだっけ、月から取ったんだよな? じいちゃんが付けたって父さん達から聞いた」
「その通り」

 フルムはもう一度、視線を夜空の満月に移した。

「月は明るい。 美しく輝いているように見えて、その実態はクレーターで傷だらけだ」

 そんなこと、学校に行ってた頃理科の授業で聞いたような____なんて思いながら、ミツキはフルムの話に耳を傾ける。

「傷が隠れるほどに、永遠に優しく輝き続ける。 月のような強さを持った子になるよう願いを込めてつけたのが、お前の名前だ」

 思っていたよりも、自分の名前に深い意味があったことを知り、ミツキは照れくさい気持ちになる。 強さという言葉なら、まだ何となくしっくりくる。 しかし優しさなんて、自分のガラじゃない。
そう思うと、マジカルベースの魔法使い達は優しいポケモンが多いのかもしれない。 つくづく自分は、本来なら魔法使いと縁がないポケモンだと実感した。

(優しい輝き……)

 優しい輝きでポケモン達を照らせるような、月のように強いポケモンになれたら。 それがミツキのフルムへの、一番のおじいちゃん孝行だろうか。

「周りの助けを借りること、そしてその恩を返すこともまた強さであり優しさ。 あの子達と一緒なら、お前も強くなれるだろう」

 ミツキに優しく語りかけるフルムの目元には、光るものが見えた。
ミツキも、自分が家を継ぐことを期待していたフルムに、全くの罪悪感がなかったワケじゃない。 それでもじいちゃんは、涙をこらえて俺のことを応援してくれるんだ____。
そのことに気付いたミツキは、ミュルミュールにされている場合じゃないと強く思った。 フルムの思いを無駄にしないぐらいに強くなろう、そう誓うように夜空を仰いだ。



* * *



「じゃ、次の連休の時にまた来るよ」
「お世話になりました!」
「モモコちゃん、ライヤくん、コノハちゃん。 ミツキをよろしくね」
「いやぁ、アタシ達のがミツキによろしくされちゃいますって」

 あっという間に3日目となった。 星空町に夕方には着くように、チームカルテットは昼の電車で帰ることになっていた。
見送りにはリュンヌとフォルモだけでなく、フルムも出向いてくれた。 病み上がりだから無理しないように、と一同は止めていたが次にいつ会えるか分からない。 

「……また遊びに来てくれ」

 チームカルテットをじっと見つめる目は、優しさと力強さが伝わってくる。 孫思いのおじいちゃんそのものだった。
最初はミツキともども突っぱねられていたが、最後の最後で受け入れてもらえた。 今日のところはもう帰らなければいけないが、また会いたいとモモコ達は思った。

「「はいっ!」」

 チームカルテットが電車に乗り込むと、すぐに電車は動き出した。 窓の外から、リュンヌ達が手を振っているのが見える。
チームカルテットもまた、リュンヌ達が見えなくなるまで手を振り返していた。 コノハは窓に張り付くほど、リュンヌ達の姿を目に焼き付けておこうとしていた。



「なんだかんだ、ミツキのおじいさんもいいポケモンだったわね」
「最後に『また遊びに来てくれ』って言われると思わなかったです!」

 電車の中では、ライヤとコノハがたわいもない話をしている。 モモコも相づちを打ちながら、2匹の話を聞いていた。
一方で、ミツキは窓側の席で外を眺めながら物思いにふけっている。 やっとフルムと分かりあえて、よかったと思っているのだろう。 その横顔は、どこかスッキリしたような、すがすがしさを感じさせられる。
モモコはライヤとコノハの話を聞きながら、昨日の戦いを思い返していた。 ミツキがミュルミュールになるとは思わなかったが、フルムと和解できてよかったとつくづく思う。
そう考えていたら、無意識のうちにミツキに目がいっていたのだろう。 ミツキがモモコの視線を感じたのか、目を合わせる。

「なんだよ、俺の顔に何かついてるか?」
「別に? ミツキとフルムさんが分かりあえてよかったなーって思ってただけ」

 ミツキは遠慮がちに、でもまんざらでもなさそうに軽く笑う。 初めて会った時から、やたら自分以外の誰かのことには一生懸命なヤツだ____。
するとミツキは、何かを思い出したようにモモコにあることを確認しようとする。

「……なぁ、モモコ」
「んー?」
「俺がミュルミュールにされてた時さ、俺がお前を川から引き上げたじゃねーか」
「え? うん」
「なんか……あの時、すげー懐かしい感じがしたんだけど、何でか分かるか?」

 モモコには、その時のミツキの声が軽口をたたくようなものには聞こえなかった。 きっと、何か深い意味があってミツキは自分に聞いてきている。
しかし、いきなりそうは言われてもモモコもどう返していいのか分からない。 ただ、ミツキの質問に対してどう答えるべきか。 そもそも懐かしい感じとはどんなものなのか。
聞きたいことはたくさんあっても、何から聞いていいのか。 

「ミツキ、モモコ! もう星空町着きましたよ!」
「早く出ないと車庫行きよ!」

 モモコが返事を出す前に、ライヤとコノハの呼ぶ声が聞こえる。
気が付けば、窓の外は見慣れた風景。 カラフルな町並みと希望の時計台が、チームカルテットを出迎えていた。 夕日のスポットライトというおまけつきだ。
今は分からなくても、いつかちゃんと答えを知る日が来るかもしれない____ミツキとモモコは、とりあえず今は自分達の荷物を手に取り、電車から飛び出していった。

「ま、待ってよ!」
「今行く!」

花鳥風月 ( 2019/02/23(土) 20:06 )