ポケモン・ザ・ワールド〜希望の魔法使い〜





小説トップ
第2楽章 星空と魔法の町−Pot pourri−
022 仲間が可哀想だな
「みんな……」

ドレンテの背後で、モモコは呟いた。 ミツキ達が目の前にいて、しかも自分を助けに来てくれた____その事実がどれだけ安心することか。
だが、その安心感はすぐに罪悪感が混じったものとなってしまった。 ここまで来るのにかなり苦労したのか、ミツキ達はもう既に傷だらけになっており、マントもところどころ破れている。 コノハの雨よけのレインコートも、切り刻まれた跡が残っており、隙間から雨水が入り込んでいた。
自分のために、どうしてそこまでしたのか。 危険を冒してでも、3匹はここまで来てくれた____嬉しさと申し訳なさで、モモコの心はグチャグチャになりそうだった。

「モモコ! 大丈夫か!?」
「ケガはないですか? 今助けます!」

ミツキ達がモモコに近づこうとすると、小屋に入ることを阻むようにネロちゃんが3匹の目の前に立ちはだかる。

「ヌホーッホッホッホ! ボロボロのお前達に、何ができるかっていうんだぁ?」

初対面なのか、「新しい闇の魔法使いね」と敵対心を露わにしながらコノハがネロちゃんを睨みつけ、ハートのステッキを構える。 闇の魔法使いを相手にした戦いであれば、魔法を使うことが許可されているためだ。
コノハが先手必勝と言わんばかりに『マジカルシャワー』を放つとネロちゃんがエスパータイプの技『サイコカッター』で向かい打つ。
ポケモンとしての技と魔法の技とであれば、当然魔法の方が威力は高いがネロちゃんのエスパー技はほぼコノハと互角。 話し方はどうであれ、いかにネロちゃんが闇の魔法使いの中でも強い力を持っているかが分かった。 ネロちゃんはもう一度サイコカッターを1匹1発ずつ放つ。 このうち、技を打ったばかりで隙があったコノハはギリギリのところでかわし、スピードに自信のないライヤが直撃。 ミツキはすんなりとかわしたが、避けた拍子に自分の背後の木が真っ二つに割れてしまった。

「ドレンテ! ミツキ達のジャマをするわよ!」

ソナタはネロちゃんに遅れを取られまいと、ドレンテを戦いに誘う。

(違う。 今ここでミツキ達を倒したら、モモコはユウリ様の手に渡る)

しかしドレンテは、ぼんやりとした様子でミツキ達の戦いとモモコを交互に見つめる。 当のモモコはというと、彼女もまたミツキ達が気がかりでドレンテの視線をほぼ感じていないのだが。
今ここで、ミツキ達に戦ってもらってモモコを解放する方がいいのかもしれない____一瞬、ドレンテの中にそんな気持ちが芽生えたが。

「どうしたのよ、ドレンテ!」

ソナタの声掛けで、ドレンテは我に返る。 自分はクライシスの一員であり、逆らってはいけない命令がある。 じれったそうに自分を見つめるソナタと目が合い、ドレンテの心は大きく揺れ動いた。

(でも、ここで命令に逆らったら、ボクは……ボク達は……)

煮え切らない様子のドレンテに、 グラーヴェもまたじれったさを感じていた。

「じれったいな、ドレンテ。 やはりモモコが絡むとお前はおかしくなる」

何処か上の空なドレンテには、この場を任せられないと判断したグラーヴェは再びモモコに向けて素早く糸を吐いた。 今度は腕だけでなく、上半身をしっかりとぐるぐる巻きにして。

「なっ____!?」

そして余った糸を腕のように扱い、モモコを外の木に打ち付けるように投げると、さらに縛っている糸の上から新しい糸を吐いて、木に括り付けるように固定する。

「がはっ! げほっ、げほっ!」

強く背中を打ち付けたのか、モモコは激しく咳き込んだ。 むせ上がるような苦しさで、呼吸をすることも次第に困難になってきた。

「何すんだよ! こいつ、風邪と喘息が一緒になってるんだぞ!」
「だからどうした。 返して欲しくば、俺達に勝ってみるがいい!」

つくづく卑怯な魔法使い集団だ____ミツキは心の声を押し殺すように、ギリっと歯を食いしばる。 いずれにしても、この闇の魔法使い達を撃破しなければ、モモコを助け出す事は今の状況ではほぼ不可能だ。

「ミツキ……」

心配そうに自分を見つめるコノハに、ミツキは決意を露わにしたような顔を向ける。 コノハのすぐ隣にいたライヤもまた、ミツキの表情がよく見え、その顔に何処か頼もしさを感じた。

「やるしかねぇよ。 マスターやマナーレとの約束、果たさなきゃいけねぇからな」
「そうね」

ミツキとコノハが闘志を燃やす傍で、ライヤは空を、今の状況をよく観察しながら、今自分が何をすべきかを、頭をフル回転させながら考えた。
バトルの面では足を引っ張ることはあれども、状況の把握と何が1番いい判断かを見極めることは、ライヤからすればお手のもの。 切り込み隊長のコノハや速攻型のミツキとは違ったライヤの強みだった。

(雨が激しくなってきた。 あの様子だとモモコは、きっと熱も下がってなさそうです。 ここは刻一刻を争いますね……コノハの炎攻撃は弱まるので……)

雨は時間を追うごとに激しさを増し、同時に気温も気圧も一気に落ちている。 外に引きずり出されて木に括り付けられているモモコは、自分達が最後に目視した朝よりもさらに具合が悪そうにしている。 咳も止まっておらず、かなり体力を削られているのだろう。 外に出たことで身体に雨粒が叩きつけられており、身体もすっかり冷えていると思われる。 かくいう自分達も、ここまでたどり着くのに暗黒魔法の影響を受けたポケモン達の襲撃に遭い、未だ傷が全て癒えていない____この雨の中で長期戦は避けたいところだった。
しかも雨ということもあり、ほのおタイプのコノハの魔法の威力は落ちてしまう。 コノハにはサポートに徹してもらい、少しハードな戦いにはなるが、ミツキを中心とした戦いができれば____上手くいくかは分からないが、ライヤはミツキに賭けることにした。

「ミツキを前衛に、お願いします!」
「っしゃ! いくぞ!」

ライヤが『アレグロ』よりもさらにスピードを上げる『アレグレット』でミツキのスピードを重点的に上げる。 元々攻撃力の高いミツキで畳み掛けさせると同時に、追加効果を狙え、戦いを有利に持って行きやすいコノハにも攻撃力向上の魔法『アニマート』を仕掛ける。
まずはコノハが遠方から、ドレンテ、グラーヴェ、ソナタ、ネロちゃんの4匹の命中率を落とすために『マジカルシャワー』をステッキから放つ。 ソナタやグラーヴェ、ネロちゃんは自分達の攻撃技で向かい打ち、マジカルシャワーは相殺されて光の粒となって宙を舞う。
なお、ドレンテの動きだけがどうも鈍い。 以前、『諸刃の洞窟』で戦った時はミツキに敵意をむき出しにしていたドレンテだが、今の彼はまるで戦いを放棄しているかのようだ。 彼も隙だらけであるため、丁度いいといえば丁度いいのだが、ミツキにも彼の不振な様子は察することは難しくなかった。
隙を見逃さなかったミツキが『霞爆弾』を放つことで、本格的にクライシス側の視界を奪うことに成功する。 『流星群落とし』を地面に仕掛け、撒菱代わりにすることで4匹をその場から動けなくする。 ソナタ達は撒菱代わりの手裏剣を弾いていこうとするが、そうなれば隙だらけ。 頭上からミツキの『みずのはどう』がクライシスの4匹に直撃した。
砂埃が微かに混じり合い、間合いを取るミツキはもしかしたらと期待を寄せる。

「やったか!?」

霞爆弾から放たれた霧が晴れ、そこにはコテンパンにされたクライシスの面々が____。

いなかった。
ピンピンした様子のクライシスならば、ミツキ達の目の前に立ちはだかっている。 そんなバカなとうなだれるミツキを煽るように、ネロちゃんはカッカッと特徴的な笑い声を上げた。

「それで勝ったつもりなのかァ? ヌホーッホッホッホ!」
「今度はこちらから行くぞ!」

次いでクライシスもまた、各々のウェポンを手に持つ。 彼らのウェポンはクライシス共通であり、どこかの本の中で死神が持つような大きな鎌だった。 グラーヴェ、ソナタ、ネロちゃんは素早い動きでミツキ達を取り囲み翻弄する。 どこから攻撃を仕掛ければいいのか、ミツキ達も分からず困ってしまう。 グラーヴェの動きがコノハの目の前で止まったため、コノハが「しめた」とグラーヴェに炎の魔法での攻撃を仕掛けようとするが、その背後をソナタに取られ、斬り付けられてしまった。
ほんの一瞬の出来事だった。
あとは動きが遅いライヤを秒で狩り、クライシス側としては残るはミツキのみ。 4対1____正確には、ドレンテが実質戦闘放棄状態のため、3対1。 クライシスの相手をミツキは1匹でできるか不安になる。
四方八方にみずのはどうや手裏剣を投げつけ、満遍なくダメージを与えようとするミツキ。 何とか狙いを定めて直撃に成功した。
かと思われた。
突如として、ミツキが攻撃したクライシスの面々がまるで溶けるように消え飛んでしまった。 ミツキの目の前にいるクライシスは、みんな『みがわり』だったのだ。
頭上を取られたミツキは、グラーヴェ達から鎌で滅多打ちにされる。 ただでさえ体力を消耗している中での戦いだったため、判断力と行動力も鈍ってしまったのだろう。

「ぐぁあっ!」
「ミツキ!」

絞り出すような声で叫んだモモコは、拍子に激しく咳き込んでしまう。 自分が捕まったばかりに仲間達を危険な戦いに晒し、自分が体調が悪いばかりに仲間達が長期戦を避けようとしている。 心も息も苦しくなってきたモモコの耳元で、グラーヴェが同情するように囁いたのは、そんな時だった。

「仲間が可哀想だな、モモコ。 お前のせいで傷付いているのだから」
「……えっ」

あまりにも丁度良すぎるタイミングの声掛けというのもあったが、『お前のせいで』という言葉にモモコは内心では大きく反応する。 動揺を押し殺すように、モモコがグラーヴェに視線を合わせると、グラーヴェはさらに追い討ちをかけるように続けた。

「お前が風邪を引いたばかりに、お前が攫われたばかりにミツキ達はこんな目に遭っているのだ」
「……あ……」

より具体的に事実を突きつけられたモモコは、もう返す言葉もない。 言葉を返すだけの元気がない、というのも語弊はないが、自分の不甲斐なさでミツキ達を危険な目に遭わせている事実の方が、モモコにとっては心にズシンと重くのしかかる。

「グラーヴェ 、てめぇ!」
「分かってるんだろう? お前は魔法使いとしてはお荷物なんだ」

ミツキの制止も虚しく、グラーヴェのその一言は、モモコの心を砕くには十分だった。
モモコはというと、まるで目の前の景色がひっくり返ったかのような錯覚に陥る。

「そうだ……わたしは……わたしは……」

(苦しさと、負の感情が追いかけて来る。 わたしが……わたしじゃなくなっていく……)

それが発熱によるものなのかそれ以外のものなのか。 モモコにも分からない。
ただ不思議と、グラーヴェの言っていることは図星を突いていて心にストンと落ち着いてフィットする。
意識が朦朧としてくる中で、ただ『自分は魔法使いとしてお荷物』という言葉だけが頭の中でエコーしている。

「わたしは……」

モモコ『として』の意識はそこで途絶えた。

____ワタシハ____

意識が負の感情で支配されたその時。 モモコの身体を中心部に集うのは、強大な魔力だった。 その力は底が見えなくて、深くて、見ている者達も飲み込んでしまいそうなほど暗くて。

「うぁあああああーっ!」

すっかり枯れ果てた声になったモモコを叫ばせるほど苦しめるその力は、暗黒魔法そのものだということをミツキ達はすぐに理解した。
モモコ____正確にはモモコを飲み込んだ暗黒魔法の力は、拘束している糸どころか、括り付けられていた木さえも引き裂く。
引き裂いた反動で、モモコの周りには強風が吹き、小柄なミツキ、ライヤ、コノハなんかは吹っ飛んでしまった。

「な、何だ!? 何が起きてるんだ!?」
「魔力が……暴走してるッ! でも、この魔力……いつものモモコじゃないわ!」

動揺しているミツキ達をよそに、ドレンテは「恐れていたことが起こってしまった」と誰にも聞こえないピアニシモで呟いた。
バチバチと火花のような音を立てながら、暗黒魔法のオーラを放っていること以外、モモコの見た目に変化は見られないが、よく見ると目は何処か虚ろで、まるで何かに操られているかのようにも見えた。 自身のウェポンのサーベルを構えるモモコは、突風を発生させ刃状にし、それをいくつも作り四方八方に飛ばす。 無造作に飛ばされた風の刃はミツキ達の方にも飛んでいき、3匹はワケが分からないままながらもすかさず刃をかわす。 そして、飛ばした刃のひとつがグラーヴェに直撃した。

「ぐはっ!」
「グラーヴェ!」

ソナタは吹き飛んだグラーヴェを心配しているが、グラーヴェとしては今のモモコの様は望んでいたモノに近いようだった。
不敵に笑いながらグラーヴェは体勢を整え、改めて暴走しているモモコをまじまじと見つめる。

「これだ……この力を俺達は、ユウリ様は求めていたんだ!」
「そうだ、それでいい! でもまだまだ力が足りないもんねー!」

ネロちゃんも隣でハイテンションになっていた。 虚ろな目のモモコは、無差別に周りの木々を伐採するように切り落とし、剣から放たれる爆風はミツキ達をも巻き添えにする。 しかし、そんな魔力の暴走もそう長くは持たず、強すぎる力に耐えられなくなってきたモモコは次第に身体にふらつきが見られ始めた。
最後の悪あがきをするように、モモコが刃の先端に強大なエネルギーを集中させ、一帯に放とうとしたその時だった。

「『コンキリオ・ケーラ』!」

空から魔法の呪文がモモコに向けて唱えられる。 ミツキ達が空を見上げると、魔法をかけた張本人あらぬ張本ポケ____ほうきに乗っているトストがそこにいた。 トストだけではなく、クレイとチームキューティの面々もまた、空から駆けつけている。

「チームカルテット! 大丈夫か!?」
「あまりにも帰りが遅いから、マスターに頼まれて様子を見にきたのよ」

あぐらをかくようにほうきに乗っているトストと、横向きに女の子らしくほうきに座っているリリィが、空からチームカルテットに呼びかける。

「『ケーラ』は封印の魔法ですよね。 じゃあ、モモコの魔力は封印されたんですか……?」

魔法の知識が豊富なライヤは、モモコにかけられた魔法が封印魔法であることを確認すると、もしかしたらモモコは魔法が使えなくなってしまっているのではと危惧する。 しかし、クレイの補足でその心配は杞憂に終わることになる。

「その場凌ぎだ。 それに、今発されていた魔力を封印しただけだ。 シャムルスフェールの力までは封じていない」

モモコはというと、呼吸こそはしているものの非常に苦しそうにしており、暗黒魔法の力に身体がついていかず激しく消耗ことと、それに伴い風邪が悪化してしまったこともあるのか、その場で倒れてしまった。
ミツキ、ライヤ、コノハの3匹は慌てた様子でモモコの元にすぐに駆け寄り、ミツキは「しっかりしろ」とモモコを抱きかかえる。

「モモコ、おい!」
「……気を失っていますね……」

ライヤは力無く呟いた。 ミツキ達がモモコを介抱している傍では、グラーヴェが今の状況を不利と察していた。 他の優秀な魔法使いが救援に来てしまったため、自分達の勝ち目がないと判断したのだ。

「まずいな、他の魔法使い達が来てしまった。 ここは一旦引こう」
「い、いいの?」
「今日のところは、だ」

ソナタはやや不満げに、未だ唖然としているドレンテに「早く行くわよ」と声をかける。 ハッとしたようにドレンテは、ぱたぱたと急いでソナタ達の後を追いかけた。
時折、ミツキに抱えられているモモコの姿を目に焼き付けるように確認しながら。
クライシス一行がいなくなったことに気付いたミツキ達は、身体の力がすっかり抜けてしまったのか、その場に情けなくへなへなと座り込む。

「な、何とか助かった……のか?」

ミツキが安堵していると、チームアースの2匹とチームキューティの3匹が着陸してチームカルテットのもとに駆け寄る。
特にミツキとは普段憎まれ口を叩いているフィルが非常に心配そうに、しかし力強く声を上げている様は、どれほどチームカルテットのことを心配していたかを表している。

「酷いケガじゃないか! それにみんな、雨でびしょ濡れだ!」
「アタシ達は何とか大丈夫。 それより、モモコを早く……!」

そうだった、と魔法使い達は視線をミツキの腕の中で浅い呼吸をしているモモコに移す。 ぜい、ぜいという喘鳴音は、聴力に優れたポケモン達が耳を澄ましてみると聞こえる。 クレイはぐったりとしたモモコの様子を一目見ただけで、かなり衰弱していることを見抜いた。

「……これはまずいな、かなり弱っている」
「早くマジカルベースに運ぼう!」

フローラの声掛けで、一行はほうきに乗ってマジカルベースへと戻っていった。 ミツキはモモコを抱えながらほうきに乗り込み、仲間達の後を追う。 何とか今回の窮地を乗り切ったとはいえ、ミツキはマジカルベースに戻るまで気を抜く事はなかった。

***

マジカルベースに戻ってすぐ、チームカルテットは4匹まとめて宿舎内の医務室に放り込まれた。 ミツキ、ライヤ、コノハは傷の手当て、モモコはそれにプラスしてディスペアが処置を取っている。 チームアースは別の仕事があるからと再び外へ出向き、チームキューティがチームカルテットの付き添いで医務室に同行していた。
この医務室、学校に見受けられる保健室よろしくベッドを囲うようなカーテンが設置されており、患者を簡単に隔離できるようになっていた。 ミツキ達はマジカルベースに戻って来てから、モモコの様子をまだちゃんと見ていない。
外は雨風の激しさはなりを潜めたものの、未だしとしとと雨が降り続いている。

「ミツキのおにーちゃーん!」
「ライヤとコノハも、大丈夫か?」

バタバタと医務室に殴りこむように、ガッゾとシオンがやってくる。 それを見たディスペアは、「しーっ」と口元に手を当てるポーズを取り、静かにするよう2匹に示した。 2匹の後ろでは、リオンが「やれやれ」と仕方なさそうに溜息を吐いている。

「荒野地帯に行ってきたって聞いたけど、よく生きて帰って来れたな!」

ライヤが浮かない顔を押し殺すように作り笑いを向けながら「ありがとうございます」とシオンに礼を言う。

「結局、モモコは大丈夫なのですか?」
「風邪と喘息がダブったから、かなりこじらせたみたい。 あと少し遅かったら、肺炎になるところだったって……」

シオン達が保健室破りをする前に、ミツキ、ライヤ、コノハとチームキューティはディスペアから告げられた診察結果を、コノハの口からチームジェミニとガッゾに伝える。
もっと詳しく言うと、アレルギー性の喘息から引き起こした気管支炎であり、ドレンテに拉致されたり雨に打たれたことでかなりこじらせてしまった____といったところである。
あと少し遅かったらどうなっていたことか。 その場にいる魔法使いは、想像するだけでも恐ろしく感じた。

「今はディスペアが付き添ってくれています。 さっきまでは発作が酷かったんですけど、だいぶ落ち着いたみたいです。 ただ……仕事に戻れるまでには、何日かは安静にしないとダメみたいで……」
「身体が弱かったなんて、知らなかったわ……。 あの子、そんな素ぶり全然見せなかったのに」

あまり自分からモモコに関わらず、それこそ元気に振舞っている彼女しか知らないリリィは、特に信じられない様子だった。

「ミツキ達も初めて知ったのかい?」

フィルの問いに、ミツキは小さく頷く。

「……結局俺は、俺達は。 ユズネの時から何も変わってねぇのかな。 あいつが具合悪いのにも気づけないで、あんな危険な目に遭わせて……」
「正直、僕も怖かったんです。 またあの時みたいに大切な誰かを失うことになるのが」

ミツキとライヤが力無くぽつりぽつりと自分の気持ちを吐露している傍らでは、コノハが何も言えなくなるぐらいの嗚咽を上げて涙を零していた。 しっかり者のように振舞っているコノハも、常に冷静であろうとするライヤも、そして誰よりもモモコのことを考えて行動したミツキも。 誰もが怖かったのだ。

「チームカルテット、そんなに自分を責めないで」
「マスター……」

マスターとして、それ以前に一つ屋根の下で暮らしているポケモン同士として、ユズネの二の舞を踏みそうになってしまったことをモデラートは申し訳なく思っており、心を痛めている。
彼の笑顔がどこかぎこちなく寂しそうで、目元に涙の跡がうっすらと見えることが、何よりの証拠だった。

「今回のことは、ボク達にも責任がある。 ううん……今までマジカルベースで起こってきたアクシデントは、本当なら全体の連帯責任のハズだった」
「それを、チームメンバーだけが背負うようになってしまった。 いつからかは分からないが……」

普段クールなマナーレが悲しそうに、涙を堪えながらはっきりと言い切った。

「この空気も、見直さないといけないな」

花鳥風月 ( 2018/08/10(金) 19:44 )