016 ボクは遠慮しとくよ
ある日のパトロールで、時間にゆとりがあったモモコとコノハは、町のアロマショップに立ち寄っていた。
魔法使いのパトロールとはいっても、ポケモンのミュルミュール化に特に敏感な音の大陸ではミュルミュール化防止の施策として、ポケモン同士が交流を深めるサロンや町おこし等の取り組みが行われている。 そのため、特別な救助依頼等がなければパトロールにあたる魔法使いは実際1日暇だったりもする。
ここ暫くのチームカルテットは、クライシスの襲撃のせいでまだ星空町を十分に紹介していないことと各店の安全確認、見回りを理由にコノハがモモコを連れ出したりしている。
「このアロマ、凄くいい匂いがする!」
「あっ、それオレンとオボン、それにウブやノメルで作られたアロマね。 スカッとしたい時におススメなの!」
町の大通りの中に位置するアロマショップは、木の実になる前の花を使ったものが売られている。 アロマが入った小さなボトルが木のチェストに所狭しと並んでおり、透明なものもあれば色をつけたものもあり、見ているだけでも目の保養になる。
「ちなみに、アタシの好みはこれ! ゴスにモモン、それから……マゴやカシブを混ぜたやつ!」
コノハもまた、ピンク色の液体が入ったボトルを手に取る。 見た目からして甘くなってきそうなそれは、コノハが好みそうなものだ。 モモコとコノハのこうした好みは決して全く同じとは言えず、正反対と言うには極端だ。 ちょっと好みがかするぐらいが話が1番弾みやすいというのが、モモコとコノハの共通の認識であり、お陰で2匹はすっかり仲良しになったのだ。
「すいませーん、ツバキさん。 このアロマ買って____」
「あぁっ! ツバキさん! あなたのその円らな瞳とお淑やかな佇まい、そしてあなたを彩る大きな頭の花! 非常に美しいッ!」
コノハがツバキなる店員を呼ぼうとすると、彼女の声に口説き文句が覆い被さる。 ツバキ____はなかざりポケモンのドレディアを甘い言葉で口説いているのは、同じマジカルベースの魔法使いにして、チームキューティのリーダーも務めているフィルだった。
「うんうん、フィルくんはいつもお上手ね」
ツバキは慣れているのか、にこにこと微笑みながらフィルの口説きに頷いている。
「どうかな? 今度のお休みの日が合えばボクとお茶でも……」
「あ、あのー……お客さんが待ってるんだけど……」
しかしながら、フィルの口説きはくどいところがあり、特にこうした公共の場となると周りのポケモンの迷惑にもなる。 ツバキも流石にやんわりと注意する。
「あー、またフィルがナンパしてるわね」
「本当にいつもあんな感じなんだ……」
少し離れたところから、モモコとコノハがその様子を眺めているとカランカランと扉のベルを大きく鳴らしながら2匹のポケモン達が入り込んできた。
フィルのチームメイトでもあるフローラとリリィだった。 フローラはフィルを見つけるとすぐに、威圧感を放ちながら彼に近づく。 リリィもおどおどした様子でフローラにくっついて行くのだが、この様子が年齢的にも種族的にもギャップを感じさせる。
「ちょっとフィル! これから依頼行くってのに、口説いてる場合じゃないでしょ!」
「す、すみません……。 うちのリーダーがとんだご迷惑を……」
フローラが靡いているフィルの頭のリボンを引っ張りながら退場させている傍で、リリィがツバキや周りのポケモン達に丁寧に頭を下げている。 ツバキの「いいのよ」という返しにリリィは安心した顔をすると、フィルとフローラを追いかけるように店を後にした。
「ナンパするポケモンって、どうして懲りないのかしら。 そんなにかわいい女の子が好き?」
「わたしにもよく分からないな……」
この一部始終を目の当たりにしたモモコとコノハは、目を合わせながら肩をすくめる。 どうもフィルがナンパする理由は、あの様子だとチームキューティのメンバーすら分からない。
***
夕方となり、チームカルテットの4匹は宿舎の居間で夕食を取っていた。 モモコはミツキ、ライヤ、コノハの幼なじみトリオにすっかり馴染んでいる。 4匹の話題には仕事以外にも各々の趣味や好きな食べ物、流行り物についてのことも増えてきた。 特に流行り物にはコノハが最も詳しく、よくモモコにも布教している。
「ねぇコノハー、『スイートピーの詩』の3巻、もう読んだ?」
そんなチームカルテットのもとにリリィ、フローラ、リオンの3匹が一冊の本を持ちながら、ウキウキした様子で駆け寄ってきた。
「まだ読んでないわよ、もう最新巻出たの?」
コノハは瞬時にチーズリゾットの最後の一口を飲み込むと、食いつくようにフローラに問う。 よほど『スイートピーの詩』という作品が、コノハの気をそそるものなのだろう。
フローラは本をじゃーん、と掲げるようにコノハに見せる。
「そうなのよ! もう今、ヤバイんだから!」
「私も見せてもらったけど、もうキュンキュン加速、ってカンジなの」
「フローラは最新巻を買うのがとても早いのです」
いつもは控えめで真面目、且つ大人しいリオンでも惹きつけられるような話となると、同じ女子であるモモコも興味を持たずにはいられなかった。
「それって何? 漫画か何か?」
「そっか、これはまだモモコに布教してなかったわね。 今女の子の間で大人気の恋愛小説よ!」
コノハに続いてフローラとリオン、リリィまでもが興奮気味に語り始める。
「主役は幼なじみのエルフーンとラフレシア! エルフーンはラフレシアに思いを寄せるけど、周りに意地悪な女の子達がいて一筋縄ではいかない恋!」
「自分に自信が持てないエルフーンだけど、周りのポケモン達に支えられながら成長していくのです!」
「エルフーンとラフレシアの2匹きりのラブラブシーンにストレートな心理描写! これがまたロマンチックなの」
「恋愛モノとか全然読まねーけど、そんなにおもしれーのか?」
「ま、まぁ僕達には分からない女心、ってところでしょうか」
熱く語る女子軍に対してミツキは呆れ気味の表情、ライヤも苦笑いをしている一方でモモコは『スイートピーの詩』にかなり興味を持ったようだ。
「ロマンチックな恋愛小説かぁー、読んでみたいな」
「アタシ、1巻と2巻持ってるから貸してあげるわ」
「いいの、コノハ!?」
コノハは快く頷きながら、まるで何かを企むかのように目を光らせながらニヤリと笑っている。
「むしろモモコにもこの小説、布教したいもの」
「やったぁー! ありがとう!」
そうしてスムーズな動きで、明日の仕事が終わった後にモモコはコノハから小説を借りることになった。 コノハは「これで布教成功よ」とまるで悪の組織のボスのような顔をしておりミツキからしたら、クライシス三幹部のソナタそっくりにも見えた。
「そういえば、あの小説の作者さんの名前なんだっけ」
「あー、何て名前だったかしら。 えーと、えーと……」
フローラの一言でリリィが必死に思い出そうとしていると、1匹の魔法使いが話に割り込んできた。
「スーノって名前だよ」
可愛い見た目に似合わない、キザなニンフィア____今日の昼間にツバキを口説いていたフィルだった。
「もっと詳しく言うと、スーノはこの町の住宅街に住んでいるよ」
「本当!? 星空町に有名ポケモンがいるってだけでも嬉しくなっちゃう!」
コノハは興奮気味に身を乗り出して、ぱあっと目を輝かせている傍で、ミツキも感心している。
「よく知ってるな、流石は情報通」
「どうせなら、フィルも小説読んでみる? わたしもコノハから借りる予定なんだけど……」
モモコが軽いノリでフィルに本を勧めようとしたが、フィルは何処と無く浮かない顔になる。 フィルの真剣な顔つきは一度だけ____ミツキの胸ぐらを掴んだ時に見たことがあったが、どうも彼の真面目な表情は慣れない。 それは決して悪い意味ではなく、普段は明るく振る舞う人やポケモンのそういう顔は、どこかハッとさせられるものがあるのだ。
「いや……ボクは遠慮しとくよ。 生憎、恋愛小説には興味がないんだ」
モモコの勧めを断ったフィルに、女子組が目を丸くして珍しがっていた。
「へー、意外。 ミツキやシオンが興味ないって言うならまだ分かるけど、フィルなら食いつくと思ったわ」
「どういう意味だよ」
ケラケラと笑うフローラに、ミツキはムッとした顔をする。 そんないつも通りとも言える彼らが面白かったのか、あるいは複雑な気持ちを隠すかのようにフィルはぎこちなく笑うと一言言い残しその場をスタスタと去っていった。
「ハハッ、またおススメの本があったら教えてくれ」
そんなフィルの後ろ姿を、リリィだけは心配そうに見つめていた。 リリィはフィルと同い年に当たり、歳の離れたフローラが正式に加入する前から共に魔法使いをやっていたこともあってか、彼の真意を見抜いているフシがある。
「どしたの、リリィ。 ぼんやりして」
「えっ?」
フローラにひょこっと上目遣いで顔を覗き込まれ、リリィは我に返る。
「何でもないわ、大丈夫よ」
平然を装うリリィであったが、繊細な心の持ち主の彼女はやはり一度気になったフィルの様子が気がかり。 一連の会話の流れから、あるひとつのことにリリィは気づき、1匹でひっそりと憂いる。
(フィル……やっぱり、スーノの名前を出すと元気がなくなるのね)
***
「ううっ! 泣ける、泣けるわッ!」
所変わって、クライシスのアジトと思われる暗い色のクリスタルが敷き詰められた場所では、ソナタが1冊の本を読みながら号泣していた。 薄いピンクの色をしたその表紙には『スイートピーの詩 スーノ』とゴシック体で印刷されている。
「何だそれは」
グラーヴェがドン引きした様子で尋ねると、ソナタは鼻声でこう答えた。
「今、女の子のに大人気の恋愛小説よ! 知らないの?」
ソナタが自慢気に本を紹介すると、グラーヴェはふ、ふ、ふ、と堪えるように笑って居た。 ソナタにとってそれはどうも癪に障るものであったらしく、眉間にシワを寄せながらソナタは尋ねた。
「何がおかしいのよ?」
「女の子……お前が女の子……!」
「何よ、何よ! あたしだって女の子なのよ!」
「ソナタが女の子? おばさんの間違いじゃなく?」
ドレンテも馬鹿にしたようにソナタを鼻で笑う。
「キーッ! あんた達、なんなのよ本当! 腹立つから今日はあたしが星空町に行くわ」
まだ笑いを抑えられないドレンテとグラーヴェをよそに、ソナタはアジトを出て行き星空町へと赴いた。
***
「チームカルテット、早く早く!」
翌日の朝イチでフローラの元気な声に呼ばれ、チームカルテットはマジカルベース敷地の出入り口まで駆け足で向かう。 出入り口にはフローラだけでなく、フィルとリリィも出待ちしていた。
「まさか今日の依頼がチームキューティの同行なんてね。 珍しいわ」
コノハの言う通り、チームカルテットは経験が浅かったりミツキの問題行動があったためか、これまで他の魔法使いの依頼に同行したことがない。 ましてや、ランクが上のチームキューティとの依頼となれば尚更のことだった。 ランクが上がれば上がるほど、課される依頼の難易度も高くなる。
「チームカルテットからしたら、久々の掲示板からの依頼なのね」
おどおどした様子のリリィは、まだ特にモモコに対して人見知りをしているようだ。 殆どの魔法使いと打ち解けてきたモモコだったが、どうもリリィとは他の魔法使いと比べて話す頻度が少ない。 同じ金管の女子同士、ましてやユーフォニアム担当のモモコとチューバ担当のリリィであれば、楽器の音域や構造が若干似ているため関わりも多いかと思われたが、あまりそんなことはなかったのだ。
「今日の依頼の確認をするよ。 ここから西にある『陽だまりの丘』で赤いリボンの落し物を見つける依頼さ」
チームリーダーがいないブロンズランクのチームカルテットが一緒となれば、この合同チームの指揮官はチームキューティのリーダー、フィルとなる。 フィルはメンバーに向けて依頼の確認を行うが、何処か覇気がない。 いつものナルシストで自分を優雅に魅せることを意識しているフィルではなかった。
「……?」
「どうしましたか? モモコ」
「いや……フィル、元気?」
そのことに勘付いたモモコは、フィルに彼自身の状態を問う。 その表情は、やはりリリィがずっとフィルに向けていたそれと同じく心配そうなものだった。
リリィも、まだマジカルベースに来て日が浅いモモコがフィルが元気がないことに勘付いていることに内心では驚いている。
「えっ?」
「なんかいつもよりも覇気がないっていうか、元気ない気がして」
「そ、そんなことないよ。 ボクはいつだって優雅なボクのままさ」
まさかモモコに見抜かれるとは思っていなかったのか、フィルは慌てていつもの自分を取り繕おうとする。 この様子から、フィルが何か引っかかることがあるということが、質問したモモコと何か知ってそうなリリィ以外のメンバーにも露見された。
「お前のこと優雅って思ったこと一度もねーわ」
「ミツキには優雅というものが何か分かっていないようだね」
フィルはミツキの言葉にぴくりと長い耳を動かすと、まるで何かのスイッチが入ったかのように熱く語り始めた。 フローラは傍らで「めんどくさいのが始まった」とバツが悪そうに顔を歪める。
「いいかい、優雅というのはまず雰囲気から! このようにリボンを秋風に靡かせるだけでも、ポケモン達の目を惹くのさ!」
残暑が収まってきた星空町に流れる秋風が、フィルの頭や胸元のリボンを靡かせる。 確かにリボン『だけ』を見れば何となく優雅かもしれないが、チームカルテットとチームキューティの一同は、フィルのテンションについて行けず「ほー」と聞き流すだけ。
「そしてこの流し目、レディに対する気遣い」
続いてフィルは流れるようにモモコの目の前に移動すると、彼女の右手をくいと持ち上げ、口付けをする。
「ぐげぎょえ!?」
「添えるような相手を褒める言葉。 『モモコ、今日もキミのあどけない表情には心が水のように浄化されるよ』ってね」
指先に口付けをされたことの方で頭がいっぱいになっているモモコは、フィルの甘い口説き文句も頭に入ってこない。 あわあわと紅潮しながらたじろいでいるモモコを、フローラがポンと手に肩を置き落ち着かせようとする。
「モモコ、落ち着いて。 相手はフィルだから気にしたら負けよ」
「わ、分かったフローラ」
「とりあえず、さっさと行こうぜ」
ミツキの声掛けで、合同チーム一行は敷地内から出て依頼へと向かい始めた。
「ちょっと待たないかキミ達!」
***
星空町から見て西にある『陽だまりの丘』は、名前の通り太陽に照る様が美しい丘だ。 近辺の治安は比較的穏やかであり、学校に通う子ども達が遠足でよく出かけたり、デートスポットの穴場としても有名な場所である。 そのためか、ミツキ達にとっても馴染みのある場所でありものすごく苦戦するダンジョンかと言われれば、そうでもない。
「……?」
仲間達が先を急ごうとする中、コノハはふと足を止めて何かを感じ取った。 まるで何らかの気配に似たものではあるが、ミュルミュールのような邪気は感じられないため不思議に思ったコノハは、眉間にシワを寄せる。
「どうしたの? コノハ」
怪訝な顔になったコノハに、真っ先にモモコが気がついた。 呼びかけられてふっと我に返ったコノハは、一旦一呼吸置きながら答える。
「あ、いや……ポケモンの気配を感じたの。 でもミュルミュールとかじゃないから、大丈夫よ!」
一行は落し物を探すために、丘の探索を始めた。
チームカルテットが以前訪れた『諸刃の洞窟』は、暗黒魔法の影響が広がっていたからかポケモン達も気が立っていたものの、陽だまりの丘付近の地域はその影響を殆ど受けていない。 ここいらを住処やナワバリにしているポケモン達も、依頼中の魔法使いが来ていることが分かると道を教えてくれたり、赤いリボンについての情報を提供してくれる。
「ここのポケモン達は、前の洞窟よりも穏やかだね」
「この辺はピクニックに使われることもあるぐらいだからねー、 優しいポケモン達も多くて暗黒魔法の影響もそこまで届いてないのよ」
確かに、秋のピクニックに訪れているポケモンも何匹かいた。 シートを広げて弁当に舌鼓しているいつかのニャオニクスのカップルや、野原を駆け回っている子どもポケモンも何匹か見受けられる。
ようやく、しばらく歩いているうちに大きな木の幹の下に、赤い布切れのようなものがひとつ落ちていた。
一行が駆け寄り確認してみると、それが目的の赤いリボンであることが分かった。
他のポケモンのモノであるため、フローラがリボンを大切そうに拾い上げる。
「きっとこれが落し物ね」
「思ったより早く見つかったな」
「念のために、この丘の周りもパトロールして帰りませんか? 暗黒魔法の影響はそんなにないので大丈夫だと思いますが……」
ライヤの言うことにも一理ある。 暗黒魔法の影響は受けていなくとも、丘には何匹かポケモンが訪れている。 ポケモンが集まれば集まるほど、負の感情も生じやすく闇の魔法使いのいいエサになってしまうため、念を押しておくに越したことはない。
「もー、ライヤったら心配性ねぇ」
コノハが肩をすくめてくすりと笑うと、ライヤは「ある意味褒め言葉です」と笑い返す。 こうしたやり取りも、幼い頃からの積み重ねで慣れっこなのだろうとチームキューティの面々は感じていた。 その傍で、ふとモモコがハッとしたように何かに気付き、思わず声を上げる。
「ね、ねぇみんな! あそこ!」
「どうしたんだ、モモコ。 マメパトが豆鉄砲食らったような顔して____!?」
モモコが指す方向を見たミツキも、『それ』に気付く。 恐らく、この陽だまりの丘で1番大きく高い崖。 そこは落下する危険性があるからか、ポケモンの姿が見られない____と思われたが、佇んでいるポケモンが1匹、確かにそこにいた。
「あの崖の上に……誰かいるよ!」
その場にいた他の魔法使い達も気付いたようで、遠い位置からではあるがそのポケモンの影を凝視する。 この位置からではよく見えないが、それなりに小さなポケモンと見られた。 何の意図で崖で佇んでいるのかは分からないが、いずれにしても危険な場所にポケモンがいるとなれば、放ってはおけないのが魔法使いのタチだ。
「急いで向かおうぜ!」
「ここからなら、そんな遠くないよね!」
ミツキとモモコは、他の誰よりも早くほうきを手に取り、空を飛ぶための『コンキリアット・ウォラーレ』の呪文を唱えると、先を急いだ。
「ちょっと、ミツキ! モモコ!」
だが、ほうきの扱いにまだ慣れていないモモコは相変わらず自分の魔力で動かしているハズのほうきの力に振り回されており、ミツキに手を取られながらヨレヨレ運転で空を飛んでいる。
ミツキもミツキでヒヤヒヤしながら、モモコをリードしていた。 もうモモコが加入する前のギスギスした空気は流れていない。 つい最近のことではあるが、ライヤは感慨深いものを感じていた。
「あの2匹も、今ではいいコンビになってきましたね」
「アタシ達も追いかけましょう」
他の魔法使いの面々も、ほうきを手に取るとミツキとモモコを追いかけて丘の最上部へと向かった。
***
ほうきの暴走に振り回されぱなしのモモコと、そんな彼女をリードするミツキは他の魔法使いよりも一足早く、崖に辿り着いていた。
崖で佇んでいるポケモンの正体は、黒と黄色を基調とした、大きな青い瞳を持っているはつでんポケモンのエリキテル。
「そ、そこのお前……! 何してんだよ?」
「確かにいい天気かもしれないけど……でも、落ちそうじゃない! 危ないよ!」
ほうきから降り、着地したミツキとモモコが声をかけるとエリキテルはその大きな瞳をさらに大きく見開き、かなり2匹に怯えているようだ。
「ッ……!」
だが、エリキテルの雰囲気はミツキやモモコよりも少し歳上のお姉さんのようであり、魔法使いとはいえまだ子どもの部類に入れられそうな2匹に怯えているとなれば、相当気が小さいポケモンであると伺える。
すると、ミツキとモモコを追いかけて来たライヤ達の声が空から聞こえてくる。
「ミツキー、モモコー!」
ライヤ、コノハ、チームキューティの3匹もまたほうきから降りて着地する。 エリキテルの姿を確認する一行だが、フィルとリリィは息をのんでエリキテルを凝視していた。
そんな2匹をよそに、コノハはミツキとモモコに真っ先に駆け寄り、やれやれと溜息を吐く。
「もー、アタシ達置いて行かないでよー」
「スーノ……? どうしてここにいるの?」
そんなコノハをよそに、リリィは深刻そうな顔で、おそるおそるエリキテルをスーノと呼び、問いかけた。
スーノと呼ばれたエリキテルも、リリィに合わせるようにおどおどした様子でリリィの問いに応えようとする。
「リリィさん……それに、フィルさんまで……」
「まだ、この丘に来る習性があるんだね」
「……」
スーノが何か言おうとする前に、フィルはぴしゃりとスーノに冷たい口調で言葉を投げかける。 普段はどんな女の子にも丁寧に対応するフィルが、まさかこんなにつっけんどんにするとは思わず、ミツキとライヤは「タダゴトじゃないな」と目を見合わせて内心ではハラハラしている。
「あ、あのー? ちょっと状況が読めないんだけど」
そんな空気を壊そうとしてか、別の意図もあるのか、コノハが険悪な雰囲気の3匹の間に割って入る。
「もしかしなくても、そこのスーノさん? って」
「小説家のスーノさんだったり……するの?」
モモコとフローラも順に問いかける。 女子組トリオは苦し紛れに温かい目と微笑みを投げ掛けようとするが、どこかぎこちなくかえって不自然にも見える。
「そ、そうですけど……」
「「えぇえええええええーっ!?」」
スーノの「そう」という言葉を耳にしたと同時に、女子組トリオの絶叫が陽だまりの丘中に響き渡った。