015 ポンコツって言ってるけど
逃げるようにふしぎ博士の研究所を後にしたチームカルテットの4匹は、この町で最も名が知れているご飯屋『ひとつまみ』でお昼ご飯を食べていた。
今の時代では少々珍しい食券制のこの料亭には、手軽に食べられる様々なメニューが揃っている。 ミツキは人間の世界でいう焼き魚に近いものに加工された海産系の定食、モモコはよくあるカレーライス、ライヤは自分の身体のカラーリングとよく似たオムライス、コノハはお洒落なバスケットに盛り付けられたサンドイッチと、全員それぞれが別のものを食べていた。だが、午前中の疲れが残っているのか、何処と無く4匹の間には会話が少なく食もなかなか進まずにいた。
「あ、ミツキ達じゃないか! いらっしゃい!」
「随分くたびれている様子だが、どうかしたのか?」
そんな4匹の前に現れたのはカケルと、彼によく似たはどうポケモンのルカリオだった。カケルのアルバイト先でもあるこのご飯屋は、出前の注文と料亭での食事の両方を承っている。ルカリオはこの料亭の店長であり、カケルにとっては上司にあたる。
「ふしぎ博士の研究所に行ってたんです。そしたらポケモン達の苦情対応に追われちゃって……」
「あー、あの博士のとこ行ってたのか。そりゃお疲れ様」
「しかし、ふしぎ博士も懲りないものだ。よくもまぁ、何年も発明家を辞めずにここまで来ている」
カケルもふしぎ博士の名を耳にすると、やや苦笑い気味の反応を示した。星空町のポケモン達の間でも、ふしぎ博士はちょっと変わったポケモンという認識なのだろう。店長の言葉が、それを裏付けているようにも聞こえた。
「そうまでして、なんであのポンコツ科学者はあんなに発明にこだわってるのかしら?」
「……小さい頃、言われたことがあります」
コノハが首を傾げていると、ライヤが静かに幼き日の出来事を話し始めた。
* * *
まだライヤがピチューだったぐらいには幼く、ミツキやコノハと知り合ってすらいなかった頃。ふしぎ博士の研究所に駆け込みながら、ライヤは泣きじゃくっていた。ぽろぽろと涙を零し続けるライヤを、ふしぎ博士は暖かく出迎え受け止める。
「どうしたんじゃ、ネズミの子よ」
「ほいくえんの、おなじクラスのこが、ぼくはのろまピチューだからまほうつかいにはなれないって……」
ひっく、ひっくと息を上げながらライヤは話し続ける。
将来的にピカチュウになる種族にしては、珍しく“のろま”の部類に入っていたライヤは幼い頃はからかいの対象になることも少なくなかった。ほうきに乗ったり、ミュルミュールと戦ったり、他の職業に就いているポケモンの手伝いをしたり。体力や運動神経が必要な魔法使いの仕事の適性は、どちらかといえば、ライヤには向かないと言われるものだった。
「みんながなれないって言うから、お前さんは諦めるのか?」
ふしぎ博士の言葉に、ライヤは「え?」と涙を拭うことも忘れて顔を上げる。
「ネズミの子、よく聞くがいい。同じクラスの子に言われたからなれないんじゃない。それでなれないって思ったらなれないんじゃ」
その言葉は当時から物分かりが良く、且つ様々なものを吸収しやすい、幼いライヤの心に響かせるには十分だった。
「自分はできると思えば、きっと願いは叶う。もちろん、そのためには一生懸命頑張ることが、大事じゃがな」
「ぼく、がんばります! まほうつかいになるために、いっぱいはしるれんしゅうして、いっぱいおべんきょうします!」
「そうじゃそうじゃ。なりたいものになるには、努力が必要なのじゃ」
涙の跡は残っても、悲しそうな顔は笑顔へと変わっていく。ライヤの様子を見て、ふしぎ博士もどこか嬉しそうだった。
* * *
「そんなことあったのか」
野菜の煮物をもぐもぐさせながら、ミツキはライヤの話を聞いて感心していた。ミツキですら知らなかったこのエピソードは、ライヤとふしぎ博士の2匹だけであたためられたものであることが強調される。
「はい。みんなから後ろ指さされていますけど、ふしぎ博士はとても立派な発明家だと、僕は思います」
ライヤの謳う“立派”とは、発明家とした腕が優れているだとか、そういったことではない。一本筋の通ったものを持ち、それを今まで折らずに努力し続けている、“ポケモンとしての生き方”を指していた。
「今にして思えば、ふしぎ博士は他のポケモンを励ますことで自分自身も励ましてたんじゃないかな、って」
ライヤの話を聞いてから、何処と無くコノハの顔つきが変わった。先程まではふしぎ博士のことをメーワクな大人としか思っていなかったが、今では少しではあるが彼の真意に近づいている。だからか、コノハはもうふしぎ博士に対する文句を言わなかった。言えなかった。
「もう一度、研究所に戻らない? アタシ、謝りたいな」
「行こうよ行こうよ! その前にご飯食べてから!」
コノハに賛同しながらカレーを食べるペースを少し早めるモモコを、店長は目を丸くしながら見つめ、驚きを隠せない声色で呟いた。
「……ウチのカレー、かなり辛いって前にテレビ取材入ったけど、さらにタバスコ混ぜるポケモンはあのハリマロンが初めてだ……」
* * *
研究所では、ふしぎ博士が庭で発明品の整理をしながら深い溜息を吐いていた。ふしぎ博士が手にしている発明品達は、側から見ればガラクタに過ぎない。何かしらの役に立てるのであれば役に立つガラクタになるが、何度も故障と爆発を繰り返すふしぎ博士の発明品は、ただのガラクタだ。
「分かっているのじゃ。ワシには」
ふしぎ博士もまた、そのことを自覚しており分かっていた。散々町のポケモン達からクレームを喰らい、結果的に巻き添えにしたチームカルテットからも憎まれ口を叩かれるとなれば、自業自得とはいえ心に深い傷を負うものだった。
それでも、自分は発明したいから。周りにどれだけダメと言われても、この仕事を続けていたいから__その一心でふしぎ博士は発明を続けていたが、そろそろ潮時なのかもしれない。そう思っていた。
「おいお前、チームカルテットの4匹を見かけなかったか」
1匹のアリアドスがふしぎ博士に声をかけてきたのは、そんな時だった。彼はクライシス3幹部の中では最年長且つ、ドレンテやソナタよりも前から闇の魔法使いとして暗躍していた。そんなこともあり、特に星空町のポケモン達からの認知度も高い。
「お、お前さんは闇の魔法使いじゃな?」
「ふむ、オッさんのスピリットが輝きを失っているのも悪くないか」
グラーヴェは後退りするふしぎ博士をよそに、彼の心の中を覗き込む。ふしぎ博士のスピリットは輝きを失いつつあり、ミュルミュールにするには十分であった。グラーヴェはスピリット強奪の構えに入り、ふしぎ博士に向けて暗黒魔法の力を解き放つ。
「お前のスピリット、解放するがいい!」
「のわぁああああーッ!」
「ミュルミュール、お前の思いをぶつけるがいいッ!」
身体から分離されたふしぎ博士のスピリットは、グラーヴェが掲げたことにより暗黒魔法のオーラを纏い、ひと昔前の四角いロボットのようなミュルミュールへと姿を変えた。少しでも動く度にガコン、ガコンと鈍い音を立てており、レトロな雰囲気を醸し出しているのはふしぎ博士のセンスだろうか。
「ああっ!? 博士さんが!」
「よくもふしぎ博士をッ……!」
チームカルテットが研究所にたどり着いたのは、同じ頃だった。生まれたてホヤホヤのミュルミュールと、クリスタルの中に閉じ込められているふしぎ博士を目の当たりにして、4匹は驚きを隠せない。特にふしぎ博士を慕うライヤは珍しく怒りの感情を露わに、ミュルミュールを睨みつけるように見上げていた。
「来たな、チームカルテット!」
愕然とするチームカルテットの目の前に、グラーヴェが姿を現した。お決まりと化したパターンから読み取れば、チームカルテットの方から「またお前らの仕業か」「スピリットを返せ」と言われることが常なのだが。
「……オッさんのスピリット取ったのはおっさんかよ……」
「ただでさえ今回出てくるポケモンの平均年齢高くて絵面が地味だってのに……」
ミツキが頭を抱えている傍で、モモコも一緒に溜息を吐いている。確かに今日だけで関わったポケモン達は、カケル以外はほぼチームカルテットよりも上の世代である。何となく絵面が冴えないのも無理もない。
「ええい、うるさい! ミュルミュール、やってしまえ!」
グラーヴェはミツキとモモコから零される不満を振り切るように、ミュルミュールに指示を送る。ミュルミュールはグラーヴェに促されるように、電撃攻撃をチームカルテットめがけて放つ。
「やべっ! 電気ショックだ!」
「ここはアタシが迎え撃つわ! 『チャーミングフレイム』!」
電気系の攻撃に弱いミツキに代わって、コノハがハートのステッキから炎を放ち迎え撃つ。炎と電気ショックは相殺され、まるで花火のように美しく空中で火花を散らす。ミュルミュールによる電気ショック攻撃が、なかなかの威力を誇っていることがよく分かった。
「ミツキには『リゾルート』で防御力を! モモコとコノハには『アニマート』と『アレグロ』を!」
「サンキュー、ライヤ!」
ライヤの判断は冴えており的確だ。雷攻撃に弱いミツキの防御力を上げ、攻撃はモモコとコノハに任せる。極力ミツキを前線に出さず、遠方からの攻撃に徹してもらうことで彼の攻撃力もしっかり生かす。仲間に頼る力を取り戻したミツキも、それで納得していた。一方のコノハは、魔法による攻撃であれば右に出る者はいない程の才能がある。それに違わず、華やか且つ迫力のある炎の魔法でミュルミュールをも魅了していた。
「『チャーミングフレイム』!」
「えーと……『トゥールビヨン』!」
もちろんモモコも負けていない。剣を軽く振り、刃の周りに渦を発生させるとその渦をミュルミュールに飛ばし攻撃する。経験不足から来る不器用さは否めないが、魔法の威力自体はコノハに引けを取っていない。元々大きな魔力を持っているとクレイやストゥッツから評されていたのは、間違いなかった。
「何? それ」
モモコの唱えたような呪文のようなものが不思議だったのか、コノハは首をかしげる。
「カロス__えっと、元いた世界のある国の言葉で“渦”って意味だよ。みんなが魔法の必殺技に名前つけてるから、便乗っていうかなんていうか……」
えへへ、とモモコは照れ臭そうに答える。元々、面白そうという理由も少し含めて魔法使いの世界に足を踏み入れただけあり、なんだかんだモモコも魔法使いに対する憧れのようなものがあったと見られる。幼い頃からイマドキの子どものように、魔法を使って困っている人々を助ける物語に触れてきたのだろう。
「チッ、ちょこまかとすばしっこい……せめてモモコ、お前だけでもッ!」
グラーヴェが舌打ちをしながら、得意の糸でモモコだけでも捕らえようと奇襲を仕掛けようとする。コノハがそれに気づき、声をかけたお陰でモモコは対策を取る体勢を作ることができた。
「気をつけて! 足元狙われてるわよ!」
「『ミラージュ』!」
モモコが目の前にサーベルを突き立てると、辺りを白い霧が覆い始めた。グラーヴェが毒針だの黒い霊気の塊だので振り払おうとすると、目の前にモモコが現れる。しめた、と思ったグラーヴェがモモコを捕らえるべく彼女目掛けて糸を吐くと。
「……なっ!?」
モモコはその場から消えてしまったのだ。グラーヴェは驚き、思わず糸を吐くことを止めてしまった。その隙に後ろに回り込んでいた“本物のモモコ”が、グラーヴェの脳天に爪を立て、『シャドークロー』を仕掛ける。直撃だったため、グラーヴェはその場で伸びてしまった。
「蜃気楼を使って相手を惑わす魔法ですか……攻撃技も備わって、バランスの取れた能力ですね」
ライヤはそれまで未知数だったモモコの能力を戦いの中で分析する。風の力による攻撃だけでなく、変化の効いた技も扱えるため魔法での戦い方は多彩。元々のハリマロンの特徴としては防御力に優れており、それまでのチームカルテットのメンバーにはない、バランスの取れた戦いができるのだ。
チームカルテットが体勢を整えていると、ミュルミュールがふしぎ博士の気持ちを4匹にぶつけるように叫び出す。
『ワシは! 何年発明家をやってきても! 成果をまともに出したことがないッ!』
やはりか。
付き合いの長いミツキ達はもちろん、今日が初対面であるモモコにも分かっていた。ふしぎ博士は、自分の不甲斐なさを理解している。子どもの部類にギリギリ入る自分達が、自分のワガママにしぶしぶ付き合っていることも恐らく分かっている。昔からこんなに苦しんでいたのに、どうして分かってやれなかったのだろう。ミツキは不意に、ふしぎ博士の叫びを聞いて申し訳なさを感じた。
『もう……ワシは……』
「みんなからダメダメ言われてるから、アンタはそこで引き下がるの!?」
うじうじし始めたふしぎ博士に、啖呵を切るようにハート形の炎で攻撃を仕掛けたのはコノハだった。
「アタシ達、アンタのことヘボとかポンコツって言ってるけど……でもね、その往生際の悪さは見習った方がいいって思ってるの!」
「こ、コノハ……。それは褒めてるんだか貶してるんだか……」
「だから、だから、とっとと目ぇ覚ましなさいよぉ!」
ライヤの言葉にも耳を貸さず、コノハはステッキからハート型の炎の輪を連射する。以前にモモコがミュルミュールに歩み寄っていたのとはまた違う形で、コノハもまた、ミュルミュール__ふしぎ博士の魂を相手に思いをぶつけに行っているのだ。
ミュルミュールも流石に連続の炎攻撃に応えたのか、よろよろと足元をふらつかせる。
「す、凄いコノハの気迫……」
「あれがコノハのスタイルなんだ。全力で悩んでいるポケモンに体当たりで真っ向からぶつかっていく」
ただでさえ血の気が多めのコノハが、先程まで憎まれ口を叩いていたふしぎ博士を相手に立ち向かう姿は凄まじい気迫がある。ああいうコノハの姿を見たことがなかったモモコは、完全に圧倒されていた。
ミツキはコノハのそういったスタイルも理解しているようであり、慣れているのか割と落ち着いていた。その様子は、付き合いの長さを感じさせる。
「コノハ、ふしぎ博士の浄化は任せました!」
「任せて!」
コノハが自分の手元に楽器が来るように念じると、彼女の目の前に紅色の光の塊が現れる。それは形を細長い一本の棒状のものに姿を変え、横笛とも呼ばれている銀色の楽器__フルートとなった。フルートを前足で取り、演奏体制に入るコノハ。今こそ浄化の絶好のチャンスだ。
「燃えたぎる炎のように! 『純愛のワルツ』!」
コノハがフルートで奏でる浄化専用の持ち曲は、彼女の賑やかなイメージとは正反対のワルツだった。遠くで透き通るような、しかし炎のように力強いコノハの音色は、ミュルミュールでなくてもその場にいる魔法使いポケモン達の心に響く。もちろん、ミュルミュールも無事に光り輝く炎に包まれてスピリットへと姿を戻した。
「ハピュピュール〜」
ライヤがすかさずふしぎ博士のスピリットが入ったクリスタルを手に取る。たとえ子どもであってもオッさんであっても、ポケモン達のスピリットの輝きの強さは同じだった。
「今日はお手並み拝見といったところだ。次はこうはいかないぞ」
グラーヴェはというと、自分の負けを悟ると捨て台詞をチームカルテットに吐き捨てその場を後にした。チームカルテットの4匹は、グラーヴェがいた研究所の屋根の上をしばらく険しい顔つきで見つめていた。
* * *
スピリットをふしぎ博士に戻すと、気を失ったふしぎ博士がクリスタルから飛び出してきた。ミツキとモモコでふしぎ博士を運びながら、チームカルテットは近くにある住宅街内の公園のベンチに、ふしぎ博士を横たわらせた。ほぼミツキが頑張ってくれたとはいえ、やはり13歳の少女が中年のオッさんを運ぶのはかなり体力が必要だった。そのせいか、モモコはかなりへとへとになっている。
「重かったぁ……」
「でも、ふしぎ博士を元に戻せてよかったです」
「一時はどうなることかと思ったわ。あのミュルミュール、結構強かったもの。無事浄化出来てよかった……」
コノハは安堵の表情を見せる。今回のふしぎ博士のミュルミュール化は、自分達の態度も多少は要因になっていたこともあり、罪悪感や責任を感じていたのだろう。そのこともあってか、自分達の手でふしぎ博士を助け出せたことに安心したのだ。
ようやく、ふしぎ博士が呻き声のような低い声を上げながら目を覚ます。照れ隠しか、コノハはいつもの強気な表情を作り、ふしぎ博士の顔をのぞき込む。
「んごぉ……?」
「あ、気が付いたわね」
「ワシは……さっきまで……何てことを……」
ミュルミュールになっていたポケモンは、その時の記憶が残っているようだ。ふしぎ博士は自分がミュルミュールになって町で暴れていたことを思い出しては、信じられない様子でいた。大暴れしてしまったことに、罪悪感を抱いているのだろう。
「大丈夫です。もう終わりましたよ」
「……ワシは、どうせいくら努力してもダメだと、心の奥で諦めていたというのか……」
自分の言葉に責任を持っていなかったと、ふしぎ博士は罪悪感を感じていた。コノハは一見憎まれ口とも捉えられるような言い方ながらも、ふしぎ博士を励ますように声をかける。こんな言い方しかできないが、自分の本当の気持ちをさらけ出すのは恥ずかしいものがある。
「もう、しょげてるとまたミュルミュールにされるわよ?」
「いつかすっごい発明品が作れるようになるって、信じて頑張ろうよ!」
「まぁ、あれだ。俺たちも、凄え魔法使いになれるって信じて頑張るからさ。それに、何度失敗しても今までめげなかったお前のこと……その、ちょっとは尊敬してる」
コノハの言葉に、モモコとミツキも続けた。自分よりも若い子ども達とはいえ、温かい言葉に励まされ、ふしぎ博士は心なしか涙が出そうだった。大人のプライドか、敢えて感情を全てさらけ出すことはしなかったのだが。
「カエルの子……ハリネズミの子……電気ネズミの子……キツネの子。4匹共、本当にありがとう」
ふしぎ博士は感謝の言葉をチームカルテットに伝えると、昼間のようなあどけない笑顔に表情を切り替える。そして何を思ったのか、夕日に向かって宣言するように叫んだ。
「よーし! 星空町一番の、いや、ポケモン一の発明家になっちゃうもんねー!」
つくづく自分達以上に子どもっぽく、それでいて純粋な心を持つオッさんだ。ミツキとコノハは「やれやれ」と肩をすくめる。とはいえ、ふしぎ博士が自信を取り戻してよかった、チームカルテットはそう思った。
* * *
それから数日が経った頃、チームカルテットは再びふしぎ博士から新作発明品お披露目会の招待状を受け取って、彼の研究所に足を運んでいた。
「全自動お掃除マシーン?」
ミツキが首を傾げながら怪訝な顔で見つめる先には、これまたメカメカしいマシンが用意されている。それは一般的な掃除機のようなものに、スチームやチューブのようなものがごちゃごちゃと装飾されていた。
「そうじゃ! このマシーン一台で、細かい埃もガンコなカビも一発でキレイになるのじゃ!」
「早速使ってみましょう!」
ふしぎ博士とライヤは早くこのお掃除マシーンとやらの性能を試してみたいようで、うずうずしている様子だ。ミツキ、モモコ、コノハの3匹はというと、また爆発したりしないかと思わず身構える。
案の定、ふしぎ博士によってスイッチが起動されたマシンは、周囲のありとあらゆるものを吸い込もうとしている。人間が開発した掃除機よりも強い吸引力を誇っているように見えるが、マシンが暴走しているようにも見える。
「ちょ、強すぎない?」
思わず自分自身が吸い込まれそうになるほどの吸引力の強さに、コノハは若干引いていた。案の定、ミツキのマントがマシンに巻き込まれて吸い込まれそうになっていたのは同じ頃だった。
「ぎぇえええ!? 吸い込まれる!」
「い、今引っ張るね!」
「いでででで!」
慌ててモモコがミツキの両腕を力強く引っ張る傍で、ふしぎ博士がマシンのカバー等を取ったりなんかしながらマシンの暴走を止めようとする。
しかし、間に合わなかった。オーバーヒートを起こしたマシンは、ミツキや彼を助け出そうとしたモモコをも巻き添えにして爆発。当然ながら、近くにいたライヤとコノハもこの爆発に巻き込まれ、またも身体中が煤だらけになったり頭がバッフロンのようになってしまったり。
「もう! やっぱりヘボ科学者はヘボ科学者よ!」
耳の毛がバッフロンスタイルになったコノハの怒声は、星空町の市街地までしっかり届いていた。