ポケモン・ザ・ワールド〜希望の魔法使い〜





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第1楽章・はじまりの1週間 −Ouverture−
008 俺のせいで

「いたた……」

何者かの策略で、崖から落ちてライヤとコノハとはぐれてしまったミツキとモモコ。
地盤が緩く土が柔らかかったため、幸いなことに大事には至らなかった。

「おい、ケガはなかったかよ?」
「わ、わたしは大丈夫だけど……」

自分のことを気にかけてくれるミツキに、一瞬モモコは言葉を途切れさせそうになった。
自分の身を確認してみたが、特に大きな怪我もなく、勲章のシャムルスフェールも無事だ。
次いでモモコは、改めて自分達の頭上を見上げ、その高さに驚いていた。

(随分高いところから落ちてきたんだなぁ。 それでもほぼ無傷なのは救いだよ)

辺りも決して明るいとは言えず、崖の下からも上の様子はよく分からない。 ライヤとコノハの姿も見えず、声も聞こえないことから自分達がかなり高い場所から落ちてきたということを実感させられた。

「とっととライヤ達と合流____」
「待って!」

立ち上がったミツキを見て、何かに気付いたモモコは、先を急ごうとするミツキのマントの裾を思わず掴む。
そして、そのままカーテンを開けるようにマントをめくり、ミツキの右腕をよく見てみる。
ミツキの右腕には、転落した時にできたと思われる擦り傷があったのだ。
バツが悪かったのか、ミツキはモモコに歪んだ顔を見せずに目を逸らす。 自分の怪我がバレたことで、少しばかり面倒なことになりそうだった。

「ミツキの方がケガしてるじゃない」
「こんなん、ツバつけときゃ治るっての」
「何言ってんのさ、ダメだって!」

ようやくミツキはモモコと目を合わせた。 真っ直ぐ過ぎる、しかし心配していることを隠せない目で、モモコはミツキを見上げていた。 放って置けないモモコの強情さに、ミツキは仕方なさそうに溜息を吐くと、落ちてきた時に放り出された自分の鞄を指差した。

「……俺の鞄の中に、『いやしのタネ』が入ってるハズだ。 それをすり潰せば塗り薬代わりにはなる」
「そしたらそれで応急処置しよう。 鞄借りるね」

ミツキの鞄をあさると、一口サイズの種が一粒、他の木の実や不思議玉に潰されるように入っていた。 この最低限のものを適当に突っ込みました感が溢れる鞄の中は、大雑把なミツキの性格を窺わせていた。
何かすり潰せるような、手頃なものはないか____辺りを探し回ってみると、幸運なことに、小さな石が足元に転がっていた。 とりあえず、応急処置をするのが先決とみたモモコは、その石を手にしていやしのタネに擦り合わせた。

「怪我したとこ、出してもらっていい?」

ミツキとモモコは最低限の会話しか交わさず、非常に気まずい空気が漂っていた。
散々憎まれ口を叩き合って、終いには本人達の知らないところで、クライシスの三幹部から最悪の相性とまで分析されているものだから無理もない。

「……あのさ」

ミツキの右腕にすり潰したいやしのタネを塗りながら、モモコはようやく重い口を開いた。

「ミツキがわたしや他の魔法使いのみんなに辛辣なのって、ユズネさんってポケモンのことと何か関係あるの?」

まさかモモコからユズネという単語を聞くと思わなかったのか、ミツキは声を裏返させる。

「お前、何でユズネのこと……!?」
「みんなからちょっとだけ聞いて……ごめん」

きゅっと音を小さく立てながら、ミツキの鞄に入っていたスカーフの切れ端を彼の右腕に結びながら、モモコは訳を話す。 まぁみんながユズネユズネ言っていれば、知られることだろうな____そう自分を納得させたミツキは続けた。

「別に、だからなんだって言うんだよ」
「いや、その……。 このままでいいのかなって」

思わずミツキは顔を引きつらせた。 今のモモコの話は、昨日ライヤに言われたことと繋がる。 今までこうしてミツキを気にかけてきたポケモンは、幼馴染のライヤとコノハ、それに何匹かの魔法使いぐらいのものだった。 しかし、出会って1週間も経たないモモコが自分の過去に触れることがミツキにとっては予想外であり、同時に煩わしささえ感じた。

「今のミツキの様子、ユズネさんが見たらどう思うんだろうって思っただけ」
「それ以上言うなよ」
「ミツキは、他の魔法使いのみんなともこのままでいいの?」
「だからやめろって____」
「きっとこんなの、ユズネさんもミツキも望んでないハズだよ!」
「もうその話はやめてくれ!」

その怒りよりも心苦しさが先行しているミツキの一言は、モモコを黙らせるには十分であった。
はっとしたような表情を浮かべるミツキをよそに、モモコは今日の朝マナーレから受けた忠告を思い出す。

____お前は、過去の話に関しては関係ない。 言ってしまえば部外者だ。 一歩間違えれば、二度とミツキと分かり合えないかもしれない。

マナーレが言っていたのは、このことだったのか。 モモコは自分が踏み込もうとしていた問題の深刻さとデリケートさを痛感していた。

(わたし、何してるんだろう。 この話題に首突っ込むべきじゃないって、分かってるのに……)

「ごめん……部外者なのに言いすぎたね」
「……」

一方のミツキは黙り込み、モモコへの罪悪感で心が押し潰されそうになっていた。

(あぁそうだよ図星だよ、なんで簡単に見抜いちまうんだよ、お前。 こんなの、俺もユズネも望んでねぇ。 でもよ……俺のせいでまた誰かが犠牲になったり、悲しむくらいなら、俺は……)

ミツキもまた、こんな調子で1年間を過ごしたくなかったのだ。 自分だけでなく、他の魔法使いを含めたマジカルベース全体がユズネを失ったことで影を落としている。
こんな状況を、ユズネが望んでいるハズがないのはミツキも分かっていた。 しかし、ユズネが自分を庇ったがために、今の状況が生まれてしまったことも事実であり、そのことに対する引け目がミツキと周囲に溝を作っているのだ。

洞窟の最深部を目指す2匹は、それから一言も口をきかなかった。
ライヤもコノハもいないため、重い空気を取っ払う術がない。 モモコとしては、これ以上ミツキの心の傷口を広げたくない。 ミツキとしては、もうモモコといがみ合って傷付くのも傷付けるのも怖い。
そんな2匹の負の感情が、気まずさをより増幅させていた。

「!?」

少しばかり広い場所に、ミツキとモモコが足を踏み入れると天井からイシツブテやダンゴロ、マッギョなどをはじめとした無数のポケモン達が降ってきた。

「しまった……囲まれたか!」

モンスターハウスだった。 あまりにもポケモンの数が多いため、ミツキは余裕の無さを感じ、すぐに戦闘態勢に構える。

「待って! 相手は殆ど、じめんタイプかいわタイプだよ!」

じめんタイプといわタイプともなれば、ミツキとモモコにとっては非常に有利なタイプだ。 落ち着いて対処すれば、手こずることもない。

____ミツキとモモコがキーになりそうですね。

ライヤの言葉を思い出したモモコは、勝算があると確信した。 久しぶりにポケモントレーナーとしての頭が働きつつあった。

(これ、いけるかもしれない)

***

所変わって、諸刃の洞窟の奥底。 大きな鞄を提げている1匹のこざるポケモン・ヒコザルにがウロウロしていた。

「草の大陸を出て行ったのはいいものの……ここ、一体どこなんだろう?」

ヒコザルの声が辺りに響いているだけで、周りには誰もいない。 目の前も行き止まりであり、引き返すにしてもどっちから来たのか思い出せない。

「あぁああー! オレのバカ、バカ、バカ! 後先考えずに、なんてことしてるんだろう!」

ヒコザルが1匹で地団駄を踏んでいると、後ろから同じくらいの歳の少年の声が聞こえてきた。

「キミが行方不明になってるタクトくんだね?」
「え?」

タクトと呼ばれたヒコザルは振り向くないや、大きな目をさらに見開いて警戒心を露わにした。

「お、お前達はクライシス!」

目の前にいるのは、黒紫のバンダナを身につけたポケモン達。 ドレンテ、グラーヴェ、ソナタの3匹はクライシスの三幹部として、一部の一般ポケモンにも有名だった。

「キミのスピリット、解放しなよ!」
「うわぁあああーッ!」

ドレンテがタクトに暗黒魔法のエネルギーを溜めた前足を掲げると、それはタクトに向けて放たれた。

***

1年前のある晩、偶然ライヤは誰もいない大広間でユズネと2匹きりになり、ユズネからある話を切り出された。

「なぁ、ライヤ。 おめーにだけは言っておきたいことがあるんや」
「何ですか?」
「実はワイ、チームカルテットから籍抜いて、単独行動に回りたいって思ってるんや」
「な、何でですか!?」

ライヤは思わず、座っていた椅子から立ち上がって驚く。 ユズネといえばチームカルテットの発起人であり、その持ち前のカリスマ性でチームだけでなく、マジカルベースをも引っ張ってきた。 何よりユズネ自身も、この幼馴染達で魔法使いになることを望んでいたハズなのに。
そんなユズネが、どうしてチームから籍を抜くなんてことを____ライヤには、それが疑問で仕方なかった。

「どーもミツキもコノハも、もちろんライヤも、ワイに頼り切ってるところがある。 信頼されてるのは嬉しいで。 けど変な話、あいつらチームのあり方も魔法使いとしての信念も、ぜーんぶワイに依存してる気がする」

ユズネの言い分には、ライヤも納得できた。
確かにチームカルテットのバトルスタイルも、魔法使いとしての在り方も、全てユズネの考えを基準にある。 逆に言うと、ミツキやライヤ、コノハが提案してチームカルテットの形になっているものは現時点では存在しない。

「……それは、否定できないです。 僕もその気がありますし」
「だから、1回ワイがメンバーから離れて自分達で考えて、自分達で決める力を身につけて欲しいんや」

それは、ユズネが1歳年上という立場でミツキ達と過ごした上で提案した『ユズネ離れ』だった。
もう自分達も町の学校を卒業する歳になる。 マジカルベース内ならともかく、チーム内ですら歳上任せになるのはいかがなものか。 ライヤも言われてみればみるほど、納得させられることばかりだった。

「それでもし、ワイらの後輩になるヤツがチームカルテットに入りたいって言ってきたら、その時は受け入れたってや」

チームカルテットは4匹のチームだからという理由で名付けられたチーム名だ。 ある意味「このチームはこの4匹でなければいけない」という一種の呪いとも捉えられる。 それでもユズネは自分がチームから離れること、また新たなメンバーを迎え入れ、ミツキ達がそのメンバーと共に成長できるようになることを望んだのだ。

「何でワイがライヤだけにこんな話したか、分かるか?」
「えっ? えーと……」
「まぁそれも考えてみたってぇ」
「……はい」

***

(ユズネが石になったのは、それから1週間もかからなかった頃だった)

ライヤはいつかのユズネとのやり取りを思い出していた。
いずれにしても、ユズネがチームからいなくなることは遠くない未来だったのかもしれない。 しかし、あんな形で、しかも早くその日がやって来るとはライヤも思わなかった。
もしあの日、ユズネが石にならないでモモコを迎え入れていたらどうなっていただろうか。 ライヤは来なかった「もし」を想像しかけたが、コノハの言葉で我に帰った。

「ミツキもモモコも、大丈夫かしら」
「……そうですね、何事もないといいんですけど……」

「アタシね、ひとつだけ分からないことがあるの。 ミツキはああやって誰にでも辛辣だけど……モモコと初めて会った時、部屋で預かりたいって言ってたの、ミツキよね?」

はい、とライヤは頷く。

「なんであの時だけ?」
「うーん、僕にも分かりませんが……そこまで考えていませんでした。 確かに不思議ですね」

確かに、あの時のミツキはここ最近では珍しく、自分からモモコの保護を買って出た。 その割には彼女に辛辣に接している。 これが分からないのだ。
何か思いがあってのことなのかもしれないが、はぐれてしまった今はミツキに問うことができない。

「それにしてもライヤは、チームに新メンバーを入れることにこだわったりはしないの? 一応このチームはユズネが作ったんだし」

ユズネという単語にうーん、とライヤは一息着いてから答え始めた。

「僕としては、新しい仲間が増えるに越したことはありませんし、このチームの新しい風って意味でもモモコがいてくれた方がいいなぁって思いました」
「なるほどねー。 それはアタシも思うわ」
「ただ、ミツキの身になって考えてもみたんです。 『カルテット』ってチーム名は、ある意味僕達への呪いのようなものなのかもしれない。 絶対に僕達3匹とユズネじゃなきゃダメ、って」
「あー……それはあるかもしれない。 気持ちは分からなくもないわね」

ただ、ライヤはユズネがそれを気にしていることも聞いている。 恐らく、チームカルテットに新メンバーが加わったとしてもユズネは気にしないが、ミツキもそうかと言われると別の話だ。
ミツキはまだ、ユズネに依存し切っておりそれを気にしているから今もなお、1年前の傷が癒えない。

「まぁでもアタシは、元々来るもの拒まずってタイプだし、同性増えるのもすごく嬉しいからそこまで考えてはいないかなー」

その点コノハは、物事をあまり深く考えないタイプだ。 仮にモモコが加入したとしても、ユズネの席がなくなるワケではない。 チームの紅一点として活動してきた分、同性が加わることもコノハにとっては大きいのだ。

「それに、モモコとならきっといいチームになれる気がして____ッ!?」

コノハは言葉を途切れさせると、その場で立ち止まり、大きく身震いした。
これは、ミュルミュールの魔力を感じ取っている合図。 洞窟の中に、ミュルミュールがいることは間違いなさそうだ。

「……いる! この洞窟の最深部に!」

だいぶライヤとコノハも洞窟を降りてきた。 そろそろ奥底までたどり着いてもおかしくない頃だった。

「……近いみたいですね」
「しかも、ミツキとモモコの魔力も近いところから感じるの!」

もし、ミツキとモモコに何かあったら____ライヤとコノハは、さらにペースを早めて先を急いだ。

「急ぎましょう!」

***

「『みずのはどう』!」
「つ、『つるのムチ』!」

モンスターハウスでは戦いが激化していた。
いわタイプやじめんタイプのポケモン達が、『いわおとし』だの『じならし』だのを続け様に仕掛けてきており、ポケモンを1匹倒したとしても埒があかない。
しかし、キリがない戦いが続いているのにはもうひとつ理由があった。

(ダメだ、ミツキの攻撃が全然当たらないから埒があかない)

ミツキのバトルスタイルは、はっきり言ってしまえばめちゃくちゃだ。
とりあえず技を乱れ打ちし、ポケモン達に対して自分に注目を集める。 しかしそれでは、確実にポケモン達を払うこともできず、ミツキが消耗してしまうだけだ。

「お前は引っ込んでろ! 俺だけで何とかしてやる!」

しかしながら、どうしてもミツキはモモコを戦わせたくないようで、敢えてわざと自分を狙わせているとも捉えられる。
でもこんなのは、どう考えてもおかしな戦い方で、一向に終わりが来ない____モモコは何度もミツキに呼びかけているものの、ミツキ自身が大量のポケモン相手、パーティはモモコのみという状況で冷静さを失っている。

「ちょっとミツキ! 1回落ち着いて!」

技を繰り出すことだけを考えている今のミツキは、間違いなくスキだらけだ。
案の定、そのスキを狙われて敵の1匹であるサイホーンからの『ロックブラスト』を背後から喰らってしまった。

「ぐっ……!」

防御力に長けているとは言えないミツキは、体勢を立て直そうとするもダメージがまだ残っているだけでなく、体力の消耗も激しかった。
この格好は、相手側からしたら絶好のチャンス____1匹のイシズマイがミツキ目掛けて『うちおとす』攻撃を仕掛けてきた。

「危ない!」

幸いにもモモコがすぐ近くにおり、ミツキの前に立ち彼を庇おうとする。 しかし、イシズマイの攻撃に向かい打つまでの時間は用意されていなかった。

「うぁああっ!」

イシズマイの攻撃をモロに喰らい、モモコは衝撃で飛ばされ、岩壁にその小さな身体を、打ち付け、その場に倒れこむ。
ポケモンになってから技を受けるということ自体が初めてだったモモコは、今まで感じたことのなかった痛みに、うぐぅと情けない声を出しながらも、歯を食いしばって耐えている。
ミツキはというと、すかさずモモコの元へと駆け寄り、彼女の両肩をがっしり掴むと枯れるぐらいの大きな声で怒鳴り付けた。

「馬鹿野郎! 俺『なんか』庇うんじゃねぇ! お前が傷ついたらどうすんだよ!」
「だって危なかったから……って」

ミツキに揺さぶられながらモモコは、彼の顔を見て驚いていた。 何故ならミツキは、うな垂れるように泣いていたからだ。
プライドが許さなかったのか、顔は絶対にモモコに見せなかったが、ぽた、ぽたと涙が地面に吸い込まれていくこと、ミツキの肩が震えていることから泣いていることがすぐ分かった。

「なんで泣いてるの?」
「だって……俺のせいで……。 お前に何かあったら……」

ようやくモモコは、ミツキの言葉の端々から彼の気持ちが分かった気がした。
ミツキはユズネを失ったトラウマから、それを自分のせいだと思い込み、もう誰にも守ってもらわないように周囲を突き放していたのかもしれない。
そして、誰も傷付けないように自分1匹で目の前の敵と戦おうとしていたのかもしれない。
思い返せば、ミツキは自分に辛辣になることはあれども、見捨てることは絶対になく、むしろクライシスから守ってくれたり、甲斐甲斐しく楽器のことを教えてくれたりなんかもした。

「ミツキのせいじゃない、わたしが危ないと思ったから前に出たの。 だからこれは、わたしの自分勝手」
「でも____」
「……もしかしたらだけど、ユズネさんも同じ気持ちだったんじゃないかな」

さっきの今でユズネの名を出すのは気が引けるが、きっとユズネも彼の『自分勝手』でミツキを助けたのかもしれない。
守ってもらえる相手がいるミツキは、つくづく幸せ者だとモモコはつい、そんなミツキのことがいじらしくなった。

「それは……」

ミツキはモモコの肩から、力なく手を下ろし、涙を拭う。 感情の高ぶりはようやく落ち着いたものになったようだ。
今まで自分のせいにすればいいと思っていたが、ミツキのせいじゃないと初めて直球に言われたことで、まるで今まで自分にのしかかっていた重りがすうっと消えたかのようだった。

「ミツキ、落ち着きながら聞いて欲しいことがあるんだ。 わたしが『やどりぎのタネ』で奴らの動きを止める。 だから、その隙に確実に狙いを定めて攻撃して欲しい。 どうしても守りが固いのがいたら、わたしも攻撃する」
「何でお前が指図するんだよ」
「いいから」

いつになく強気なモモコに、ミツキは渋々ながら「任せてみよう」と思い、何も言い返さなかった。
モモコは改めて、モンスターハウスを見渡しながら今の状況を整理する。

(数ばっかりだけど、落ち着いて対処すれば簡単に蹴散らせるハズだ。 トレーナーの時のバトルの経験が、ここでも生きてくればいいんだけど……)

モモコが相手の出方を伺おうとする間もなく、ポケモン達は再び2匹目掛けて岩を落としてきた。

「いくよ!」

2匹は仕掛けられた岩をさっとかわした。
ミツキもモモコも、割りかしスピード勝負に有利だった。 ミツキに関しては能力的にも速攻型の戦闘スタイルを確立しており、モモコはミツキほどの素早さには届かずも、攻撃力もそれなりに備わっており、非常にバランスの良い能力に恵まれていた。
技を放った後の隙を見て、モモコは次々とポケモン達に『やどりぎのタネ』を仕掛ける。 生えてくる宿り木は、ポケモン達の動きを封じつつ、体力を奪っていく。 くさタイプだからこそ出来る、トリッキーな戦い方だ。

「今だよ、ミツキ!」
「うらぁっ!」

動けなくなったポケモン達を、ミツキが確実に『みずのはどう』で仕留めていく。 しっかり直撃、効果はバツグンだ。
モモコもまた、『つるのムチ』で攻撃を続ける。 『やどりぎのタネ』のおかげで、先程負ったダメージも回復した。

「ふーん……お前、段取り上手いじゃん」
「これでもポケモントレーナーですから」

ミツキが感心すると、モモコはえへんと得意げに胸を張る。

「じゃあ、ミュルミュールへの対処法は熟知しているのかな?」

ミツキとモモコの目の前には、嫌らしい目つきでこちらを見つめるドレンテと、隣に並んでいるグラーヴェ、彼の上に足を組んで座っているソナタが待ち構えていた。
彼らの後ろには、鞄の形をした大きな怪物が聳えるように立ちはだかっている。
クライシスの三幹部が、ミュルミュールを従えてそこにいた。

「あ、あんたは!」

花鳥風月 ( 2018/05/28(月) 21:09 )