ポケモン・ザ・ワールド〜希望の魔法使い〜





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第1楽章・はじまりの1週間 −Ouverture−
012 これが魔法の力なんだ
今日は日曜日。
モモコが魔法使いになって7日目、モデラートとマナーレに結論を正式に出す日だ。
新生チームカルテットとなった4匹は結論を伝えるために、朝イチでモデラートの部屋を訪れる。

「結論が出たのだな」

頷くモモコを見て、モデラートとマナーレは直ぐに4匹が出した答えがどんなものか予想がついたようだ。 それでも、ちゃんと魔法使い自身の口から選んだ答えを聞くのがマスターと側近の務め。 2匹はモモコの言葉を受け止めようとしていた。

「わたしは、チームカルテットに入ることにする。 4匹で助け合いながら、頑張っていきます!」

きっとそうなると思っていたのか、モデラートは顔のにこやかさをさらに一段階上げると、モモコの答えに承諾した。

「分かった。これから、正式にモモコもチームカルテットの一員として扱うことにするね。 そして____」

モデラートがモモコに向けてパチン、と一回人間の指パッチンのように手を鳴らすと、モモコのマントにミツキ達と同じオレンジ色のラインが入った。

「キミをブロンズランクに昇格させる」

チームカルテットはブロンズランクの魔法使いチームであり、これまでモモコは無地のマントを身につけていたノーマルランクの魔法使いだった。 正式にチームカルテットに入ったことでランクもまた、ミツキ達に合わせたものにするべきだというモデラートの考えからの特例昇格だった。

「ただし、これは実績ではなく責任と自覚を感じてもらうための処置だ」

相変わらず厳しめの口調でマナーレが補足する。 これはもしや、厳格でお堅いマナーレにはよくある長い話が始まるのでは____ミツキは思わず身構えた。

「いかんせんお前は、魔法に関しては素人だ。 それを覚悟の上で既にブロンズランクのチームカルテットに入るということになるから、それ相応の責任は負うことになる」
「マナーレの言っていることも確かにそうなんだけど……そこまでキツく言わなくてもいいんじゃない?」
「うっ……」

流石にモデラートにそれを指摘されてしまっては、マナーレも何も返せない。 確かにマナーレも魔法使いのてまえ悪いポケモンではないのだが頭は固く厳格で、音楽記号に例えるならモルトやトロッポ、ピゥを付けたくなるほど気難しい。 その真面目さが時に空回りすることを、モデラートも知っていた。
たとえ経験を積んでいる魔法使いでも、完璧ではないのだ。

「ブロンズランクになれば、ウェポンも使えるようになる。 魔法を使う上での制約がひとつ外れるから、ミュルミュールとも戦いやすくなると思うよ」
「ウェポン?」
「ミュルミュールとの戦いの時、楽器以外に武器を使っているのを見たと思うんですけど、あれがウェポンなんです」
「ミツキだったら手裏剣とか忍者道具、ライヤだったらバット、アタシだったらハートのステッキ、ってね」

なるほど、と相槌を打ちながらモモコはライヤ達の説明を聞く。 今まで自分は魔法を使って戦ってきたことはなかったが、ブロンズランクになったことでそれが解禁されるのだ。 マナーレの言う通り、ランクが上がったことでそれ相応の責任を背負うことにはなるが、魔法使いとしてはほぼ使い物になっていないと思っていたモモコにとっては、できることが増えるに越したことはなかった。

「早速だが、チームカルテットに依頼が来ているんだ。 週末出勤はあまり好まれないが、今日はタイミングがいい」
「ちょうど魔法を使う依頼なんだよね」

モデラートはそう言うと、テーブルの引き出しにしまっていた依頼書と思われる一枚の紙切れをチームカルテットに手渡す。
偶然モデラートに1番近かったモモコが、紙切れ____依頼書に書かれている内容を音読する。

「星の調査団草の大陸支部・ブランチ団長から『開拓の手伝い』……?」
「全く、相変わらずこの手の集団は魔法使いを便利屋か何かと勘違いしているのだろうか……」

星の調査団は、その名の通りこの星の全体的な治安や環境を調査するポケモン達の総称である。 かなり母体が大きいのか各大陸に支部があり、ほぼ全ての大陸で活動がなされている。 モモコの読み上げにはぁ、と仕方なさそうに深い溜息を一息吐くマナーレの様子から、こうした依頼は少なくない様子が伺える。

「救助隊や探検隊、冒険団や調査団からの依頼は割と多いんだ。 ポケモンの持ってる力だけじゃどうにもならないところを、魔法使いが手伝うってことがよくあってね」

モデラートが補足して説明した。

「僕は割とこういう依頼は好きです。 いろんな専門職のポケモン達と関わることができて、いい勉強になるんです」
「草の大陸の調査団は真面目でしっかりしたポケモンが多いから、きっといい勉強にもなると思うよ」

何気にモモコからすれば、ポケモンの世界に来てから魔法使い以外のポケモンと一緒に仕事をするのは初めてだ。
今回の仕事で、自分達のためになるものが何か得られれば____これはモモコだけでなく、ミツキ達も同じことを考えていた。

***

星の調査団達との待ち合わせ場所に設定されていたのは、星空町の隣町にあたる少し小洒落た港町『サニーハーバー』にあるスイーツショップ『ドルチェ』だった。 スイーツの見た目や味だけでなく、店内もピンクやリボン、フリルなどで可愛らしくデコレーションされているところにここの店主のこだわりを感じる。 コノハはこの店の常連らしく、店の定番から限定スイーツまで熟知している様子だ。

「ここのオススメはね、イチゴのショートケーキ!」
「おおっ……めっちゃ白い」

正直コノハを驚かせてしまうほどの辛党であるモモコだがその反面、甘すぎるスイーツは見ているだけで胸焼けしそうだった。 甘いものが嫌いなワケではないが、この店のスイーツにはアラザンだの大量の生クリームだの砂糖菓子だの、まるで砂糖の塊のようなものが宝石箱のように飾られている。 流石にこういう類のものは一口で十分____モモコはそう思っていた。

「で、ブランチ団長達はいつ頃来るんだ?」
「えーと、そろそろなのですが……」

ライヤが辺りを見回しながら星の調査団らしきポケモン達を探していると、外のテラスから何やら騒々しい話し声が聞こえてきた。
可愛らしい店内の雰囲気には不釣り合いな、成人オスポケモンのテノールやバスともいえる声である。

「ブランチ! いつも言ってるだろう! いくら食べれば気が済むんだ!」
「これぐらい腹ごしらえしないと、オレの身体がもたない」
「まず私のサイフがもたない! 星の調査団の支給ポケじゃなくて、私のポケットマネーなのだぞ!」

そんな2匹の声に混じって、鈴のように可愛らしいメスポケモンの声も一緒になって聞こえてくる。

「あら? ノクターンは支部班長だからそれなりに給料もいいハズでしょう?」
「エレガ! 貴様は……」

声のする方にチームカルテットが向かうと、外の屋根下にあるテラス席を3匹のポケモンが陣取っていた。
頭の長い葉っぱが人間の頭髪のように見えるもりトカゲポケモン・ジュプトル。 ふくよかな身体つきと一つ目が特徴的なてづかみポケモン・ヨノワール。そしてモモコの元いた世界では幻と言われるほど珍しい、ときわたりポケモン・セレビィまでもがそこにいた。 さらにそのセレビィ、普通のセレビィとは違い鮮やかなピンク色の身体をしている色違いの個体だった。
テーブルの上には、ジュプトルの手前に大量の皿が回転寿司のように積み重なっており、皿のミルフィーユを形成している。 恐らく会話とこの光景からして、あの皿にあったと思われるスイーツは、全てジュプトルが平らげたのだろう。
先程、ノクターンと呼ばれたヨノワールはジュプトルのことをブランチと呼んでいた。 まさかとは思いたいが____モモコはひっそりコノハに耳打ちをする。

「もしかして、あの3匹が星の調査団……?」
「多分ね」

声をかけていいのかどうか立ち往生しているチームカルテット。 ようやく自分達を見ているポケモンの存在に気付いたのか、ブランチがチームカルテットと目を合わせる。

「ん?」

そして、白い生クリームたっぷりのケーキを一気に口に放り込むと、チームカルテットの元へと近づいていった。

「お前達がチームカルテットか?」
「は、はい!」

真っ先にライヤが、少し緊張しているのか声にビブラートをかけて返事をする。

「オレが星の調査団草の大陸支部の団長をやっているブランチだ。 よろしく」
「私は地区班長のノクターン。 以後お見知り置きを」
「わたしは地区担当のエレガ」

団長のブランチはクールなイメージなのだが、あれだけの量のスイーツを平らげているあたり頭のネジが少し飛んでいる。 ノクターンは紳士的でしっかりした雰囲気の初老のダンディさが漂う。 エレガはブランチと同じくらいの歳だろうか、快活で気の強そうな女性____チームカルテットが星の調査団に抱いた印象は、そういったものだった。 星の調査団の3匹が軽く自己紹介を終えると、モモコはエレガに対して感嘆の声をあげた。 珍しいと言われているポケモンと遭遇して喜ぶのは、ポケモントレーナーのタチなのかもしれない。

「まさか幻のポケモンって言われてるセレビィと一緒に仕事が出来るなんて……!」
「あら、キミわたしのこと知ってるの? 流石は地区担当1番でカワイイって言われてるわたしなだけあるわねっ! ウフフッ!」

モモコに喜びの眼差しを向けられて、エレガもご満悦の様子。 マジカルベースの魔法使いもなかなかアクの強いポケモンが揃っているが、星の調査団も負けず劣らずだった。

「こ、濃いメンツだな……」
「圧倒されそうです……」
「早速だが、お前達に手伝って欲しいのはこのサニーハーバーの南の開拓だ」
「切り替えが早い。 流石はせっかちなブランチさんね」

一同はブランチの呼びかけでサニーハーバーの大通りから外れた、南に見える雑木林の方へと向かって行った。

***

一行がやってきたサニーハーバーから見た南の地区は、大きな大木が無造作に生え散らかっており、行く手を阻むかのように立ちはだかっているかのようだった。
だが、星の調査団の調べではこの先はもしかしたら誰も見たことのない秘境に繋がっているのではないかという見立てである。

「雑木林なんだが、ここの木は岩のように頑丈でなかなか調査団では開拓出来そうにないんだ」
「そこを、アタシ達の魔法で何とかしようってことね」
「そうだ、物分かりが早いな」

ノクターンがコノハの話の理解力に感心しながら頷くと、ミツキ、ライヤ、コノハの3匹は各々のウェポンを召喚させた。

「モモコ、お前もブロンズランクになったからウェポンが使えるんだ。 楽器の時と同じように自分のウェポンが出て来るように願ってみろ」
「わ、分かった!」

ミツキに促されながら、モモコもウェポンを出すために心の中で願い始めた。 まだ見ぬもうひとつの自分の心を、その目に映し出すために。

(わたしのウェポン……一体どんなものなの?)

願いのために神経を集中させた次の瞬間、モモコの目の前に黄緑色の光が放たれた。 光は徐々に形を変え、一本の刀剣となった。
モモコが反射的に手に取ったそれは、持ち手に大きな護拳があるサーベル。 必要ない時は収納できるように、刃はすっぽりと鞘に収まっている。

「ほう、サーベルをウェポンに使う魔法使いは星空町にはまだいなかったな」
「へー、ちょっと意外かも。 モモコのイメージだと、アタシみたいな魔法のステッキだとばかり思ってたわ」

何となく剣を使う魔法使いというと男性的なイメージが連想されるためか、血の気の多いコノハと比較すると気質は穏やかなモモコにはサーベルは少し意外かもしれない。 案外モモコの根本的な性格は、剣士のように勇ましいものなのかもしれない____一同はそんなことを考えていた。

「よし、開拓を始めるぞ」

ブランチの号令で、早速ミツキが切り込み隊長として手裏剣で雑木林を切り開こうとする。

「『流星群落とし』!」

だがこの周辺に生えている木々は、ブランチの言った通りまるで岩のように固く、手裏剣が当たった反動で軽くその身体を揺らす程度に留まっていた。

「『アニマート』で威力を上げますか?」
「そうね、その方がいいかも」
「分かりました!」

要望に応えるように、ライヤはバットを振り赤い光を発生させるとミツキ、モモコ、コノハにそれを放つ。 ライヤのサポート魔法を受け、ミツキとコノハは次々と木を伐採していくことに成功している。 モモコはというと、慣れない剣の重さに時々よろけており、上手くコントロールができていない。

「今までオレも何匹か剣を使う魔法使いを見てきたが、要領は『リーフブレード』と同じなんだ」

立ち往生しているモモコに、そう助言したのはブランチだった。

「木を切り倒したいなら、若干斜めに剣を入れるといい。 真っ直ぐだと、ぱっくり真っ二つに割れる」

腕の葉を刃に見立て、葉を斜め上に向けて振り下ろすポーズを取りながら、ブランチはモモコにレクチャーする。 戦い慣れしていないモモコのキャリアと言い難いキャリアを一発で見抜いたあたり、団長としての鋭さも感じられる。

「は、はい!」

ブランチに言われたことを頭に入れながら、モモコはサーベルの鞘を抜き、その星のように銀色に煌めく刃を露わにすると、斜め上から目の前の木に切り込みを入れた。
サーベルはまるで風のように勢いを増し、光を散らしながら目の前の木を切り倒す。 この時発生した風の力がモモコの魔法なのだろう。

「す、凄い……これが魔法の力なんだ……」

初めて使ったウェポンの力に、モモコは驚くばかり。 数日前に教えてもらった日頃使える呪文とはワケが違う、これはれっきとした高度な技術を求められる魔法だ。

「ふむ」

ノクターンは、モモコの魔法の威力を見て彼女の魔力の強さを感じ取っていた。
星の調査団は魔法に関しては素人だが、ノクターンは非常に優秀な調査団員であり、且つヨノワールとしての特性で頭のアンテナから霊界からの情報をキャッチできる。 ノクターンほどのキャリアがあると、霊界だけでなく魔法のような可視化できない不思議な力の大きさも感じ取ることができるようだ。

「よーし、この調子で開拓していくわよ!」

チームカルテットが次々と雑木林を切り開いたところを、星の調査団トリオが調べる。 3匹は作業をしながらチームカルテットを見つめ、彼らに何か思うところがあるようだった。

「……あのハリマロン、雰囲気がかつてのアイツらに似てるな」
「オレもそう思っていたところだ」

ノクターンの呟きにブランチが反応し、さらにエレガも話題に混ざり始めた。

「っていうより、あのチームの雰囲気自体が何となく似てますよね」
「あぁ」

ノクターンもエレガも同じことを感じていたか____やはり自分の考えは気のせいではなかったと思ったブランチは、木々の隙間から見える青い空を見上げながら、あるポケモン達に想いを馳せていた。

(何となく、またタダモノじゃなさそうな奴らと出会ってるぞ。 『ポケダンズ』)

***

雑木林がある程度切り開かれ、すっかり辺りは薄暗くなり始めていた。夏が終わりに近づいているのか、日が暮れるのは日に日に早くなっており何となく感じる風も冷たくなってきた。
そしてようやく、ずっと切り開かれた荒れ地の一角を探索していたブランチがあるものを見つけた。

「見つけた、見つけたぞ!」

チームカルテット、ノクターン、エレガがなんだなんだとブランチの元に駆け寄ると、ひとつの石壁が聳え立っていた。 そこには、人間の世界に例えるとまるで歴史の教科書に載っているような壁画が彫られていた。

「ブランチさん、これは……遺跡か何かですか?」
「まるで五線譜の上で、ポケモンのようなものが走っているみたいだ」

壁画の内容は、五つに並んだ細い線____まるで楽譜の五線譜のようなものの上で4匹のポケモンと思われる影が闇のオーラを表しているようなものに向かって走っていく様子が描かれている。 これが何を意味しているのか、モモコには分からなかったがライヤには何か思い当たるものがあるようだった。

「そういえば、星空町に有名な昔話ありますよね!」
「あー、もしかして4匹のとにかくすげー魔法使いが闇の魔法使いを倒すやつか?」

ミツキも話に乗っかる。 その『星空町の昔話』とやらは町のポケモンにとっては馴染み深いものなのだろうか。 同時に、ミツキの『闇の魔法使い』という言葉に、今起こっているポケモンのミュルミュール化現象は昔から起こっているものだと、モモコにも推測できた。

「昔から闇の魔法使いとの戦いは起こっていたんだね……」
「ポケモン達の負の感情は、あらゆるところで利用されやすいからな。 2年前にも水の大陸を中心にしたポケモン石化事件があったし」

当時を思い返すようにブランチは語る。

「あの時は大変でしたね。 永遠に夏が続くんじゃないかと思いました」
「な、なんか凄いんだね……ポケモンの世界って」
「そうかしら? でもその度に、強い心を持ったポケモン達が世界を救ってきたのよ」

そう言うエレガの表情は、どこか誇らしかった。
ポケモンの世界でも、人間のいる世界と同じくらいかそれ以上に壮絶な出来事が起こっており、今もなお闇の魔法使いは猛威を振るっている。
それでも闇の力の増幅を食い止めるために、魔法使い達は日々全力を尽くしているのだと、モモコは納得したのだった。

「そっかぁ」

花鳥風月 ( 2018/06/24(日) 18:04 )