迫る追求者
「追求者」
「ここがチャンピオンロード…。」
ユウキは中に入って唖然とした。完全たる自然の洞窟。辺りを彷徨う野生ポケモンもかなり強そうだ。コドラ、ハリテヤマ、チャーレム…
「でも…こんなところで負けてらんないよな!」
彼は元気よく言うと、坂道を登り、木で出来た古そうな吊り橋を渡ろうとした…その時、
「待ってください。」
背後から声がして、ユウキは振り向いた。
見ると、見覚えのある緑髪に白いシャツを着た少年がこちらに向かって歩いているのが見えた。あれは…
「ミツル君…?」
「久しぶりですね、ユウキさん。キンセツシティ以来かな?」
ミツルは穏やかに笑った。
「…どうして君がここに?」
「単純な話ですよ。ほら、僕も8つバッジを手に入れたんです。」
そう言うと、ミツルは8つのバッジをすべてユウキに見せた。正直言ってかなり驚いた。キンセツでの戦いぶりを見る限りでは、そこまで強くなれるとは思いもしなかった。
「あれから僕はシダケタウンでゆっくりと療養しながら、ポケモンを育てていきました。肺の具合がよくなってからは、伯父さんの許可もとってジム巡りもしたんです。もう、僕の病気もほとんど完治したんですよ!」
手を広げてにっこり微笑むミツル。
「でもですね、ここまで来れたのはユウキさんのおかげなんです。ラルトスを捕まえるのを手伝ってくれたのもありますし、ユウキさんが前にいる、って思っただけでまた走りだせそうな気がしたんです。」
「ミツル君…」
「そのお礼も兼ねて、ここで僕とバトルをしてくれませんか?1対1で。」
ミツルは真剣な眼差しでユウキを見つめた。そしてユウキもっしっかりとミツルを見つめ返す。
「よし!やろう!」
「ありがとう!それじゃあ、行って!サーナイト。」
ミツルはボールからサーナイトを繰り出す。あれは…あの時のラルトスが進化したものか…
「ユウキさんに手伝ってもらって捕まえたラルトス…ここまで大きくなったんですよ!」
「そうか…じゃあ俺も一番信頼しているのを出すぞ、行け!ジュカイン!」
「ジュカッ!」
ユウキは最初にオダマキ博士に貰ったポケモン…ジュカインを繰り出した。
「「さあ始めよう(ぜ)!」」
二人の声が綺麗に重なった。
「先手必勝!ジュカイン、“リーフブレイド”だ!」
「ジュカッ!」
ユウキの指示と共にジュカインがサーナイトに飛びかかる。
「“テレポート”!」
「!?しまった!」
サーナイトはジュカインの真後ろに瞬間移動した。
「そのまま“サイケこうせん”!」
「甘い!“おいうち”だ!」
「ジュカァァ!」
サーナイトの瞬間移動に翻弄されることなく、ジュカインは“サイケこうせん”をかわし、攻撃を当てた。
「!サーナイト、大丈夫?」
サーナイトがコクリと頷く。事実、あまりダメージを受けているようには見えない。
(ユウキ)…“おいうち”じゃ威力が足りない…この勝負、如何に大技を当てるかにかかってるな…
(ミツル)…どう足掻いたってサーナイトではユウキさんのジュカインの素早さには勝てない…ならここは…
「よし!なら、一気に決めよう“サイコキネシス”! 」
「!!?ジュカイン、避けろ!そして“リーフブレイド”だ!」
「ジュッ!」
間一髪、ジュカインは“サイコキネシス”をかわし、腕をサーナイトに向かって振り上げる。
「させない!“かげぶんしん”!」
「ジュ?」
サーナイトの分身が幾つも現れ、ジュカインを包囲する。ジュカインは戸惑ってしまい、攻撃できない。
「ジュカイン!落ち着け、本物はただ一つだ!よく見れば分かる。」
「もう遅いよ!“サイコキネシス”!」
ジュカインの真横にいた本物のサーナイトが放った“サイコキネシス”がジュカインを直撃する。
「ジュカァッ!」
「大丈夫か!?」
ジュカインは吹き飛ばされたものの、何とか立ち上がる。
(ユウキ)…もう一発は耐えられそうにない…けど…
「サーナイト、トドメの“サイコキネシス”だ!」
(ユウキ)…ジュカインとサーナイトの距離が遠すぎる。物理攻撃の“リーフブレイド”は当てられない……何とかしてサーナイトの動きを止めれば…
ユウキは辺りを見渡し、そして気づいた。…これしかない。
「ジュカイン、真上に向かって“リーフブレイド”!」
「え?」
「ジュッカァァァ!!!」
ジュカインが指示通り、跳躍し、腕を真上に振り上げる。
洞窟の天井の岩肌が裂ける。そして、大量の岩がサーナイトに落下していく。
「!?」
サーナイトは“サイコキネシス”に集中していた為、上からの落石には対応出来ず、押しつぶされてしまう。
「そんな…これはまるで…“がんせきふうじ”…」
(ミツル)…だけどまだ僕らに勝機はある…
「サーナイト、立って!そして“サイコキネシス”で岩を取り除いて!」
サーナイトの体から青白い光が放たれ、岩が徐々に取り除かれていく…
(ユウキ)…やっぱり、あれも威力不足。効果抜群でも“おいうち”じゃダメだろう…となると、効果抜群でなおかつ威力の高い技…でもそんな技は…
サーナイトが立ち上がる。その周りには取り除かれた岩が浮いている。
ユウキは再び、辺りを見渡す。薄暗い洞窟…薄暗い……薄暗い?…そうだ、その手があった。
「今度こそトドメだ!サーナイト、”サイコキネ…」
「“しぜんのちから”!!!!!」
サーナイトが“サイコキネシス”を放つよりも、ジュカインが“シャドーボール”を放つ方が僅かに早かった。
ジュカインの放った“シャドーボール”はサイコキネシスを吹き飛ばし、サーナイトに直撃した。
しぜんのちからは…使う場所によって効果が違う技…今は薄暗い洞窟…それ故に”シャドーボール”となったのだ。そしてゴーストタイプの技はエスパータイプに効果抜群。”シャドーボール”も十分火力のある技だ。
「!!サーナイト!」
サーナイトはゆっくりと倒れた。おそらく戦闘不能だろう。
「…僕の負けですね。やっぱり勝てなかったか…ごめんね、サーナイト。」
ミツルが至極悔しそうに言って、サーナイトをボールに戻す。
「何から何までユウキさんは、僕を上回っていた…あの“がんせきふうじ”も…最後の“しぜんのちから”も…」
「いや、直前で閃いただけだけどな。ただ、ミツルは少し正攻法が多すぎた。俺はあんまり型に拘ったバトルとか、好きじゃないから、臨機応変その場に適したバトルをしたい、それだけなんだ。」
「臨機応変…ですか、分かりました。勉強になりました。ありがとうございます。」
そう言うと、ミツルはユウキのもとを通り過ぎた。
「じゃあ、僕はもう行きますね。僕のような未熟者がチャンピオンロードを抜けられるかどうかは分かりませんが…「臨機応変」に頑張って行きたいと思います。ユウキさん、運がよければリーグで会いましょう。僕はいつまでも貴方を追いかけますよ。」
「ああ、そして俺はいつだって逃げ切ってやるさ。」
「ははは…さすがですよ。では健闘を祈りますね!僕以外の人にやすやすと負けないで下さいよ!」
そう言って笑うと、ミツルは奥へと消えていった。
ユウキはミツルの言葉を反芻していた。未熟者?とんでもない…今のバトルは紙一重だった。現にジュカインの体力はごく僅か、あの時先にサーナイトの攻撃が当たっていたら確実に負けていただろう…
それに今はお互いに一体のみ使ったが、6vs6のフルバトルだと勝負はどう転ぶか分からない…。
いずれにせよ…また強敵が一人増えた、というわけか…
改めてそう実感し、ユウキは歩みを進めた。
…ポケモンリーグへと
「追求者、ミツル」完。