01
…「俺は最強のトレーナーだ」
と、「あの人」はまだ幼かった俺にそう言った。
周りにいた連中も「あのお方こそ最強だ。」「あのお方に付いていけば大丈夫だ。」とか言っていた。
…そう、三年前までは…
弱い奴らが群がったところで所詮、弱いままなのだ、と痛感した…
だから…俺は本当の意味で強くなることにした。
第三話「強さ(理論編)」
〜前回までのあらすじ〜
勝負を仕掛けてきた金髪野郎を、オーダイルで叩きのめしてやった。やっぱり弱い奴だった。
だが、負けた金髪は異様に悔しがり涙まで流した。俺はそれを見て得体の知れない敗北感をおぼえ、ポケモンセンターに向かった。
そしてポケモンセンターでも現れた金髪。そいつが言うに「俺にバトルを教えてくれ。」は?何考えてんだ?
「……。」
まだ付いてきていやがる。しつこい奴だ…。
あの騒がしい金髪が、ポケモンセンターの中で押しかけて来た、その翌日の午後。
俺は金髪に付きまとわれていた。
俺は街を出て、野生ポケモンでも捕獲しようかと思っていたのだが、俺の後方五メートルくらいをピッタリ尾けてきている。
「……」
まだ居やがる。一体何がしたいんだよ?俺のことをじっと見つめて何が楽しいんだ?
…弱い奴の考えてることは分からんな。ヒビキにしても、あの金髪にしても…
(30分後)
「…(まだ居やがる…)」
(さらに30分後)
「……(しつこい…)」
(そのまたさらに30分後)
「…いい加減にしろよ。金髪…」
我慢の限界だ。俺は振り向いて言った。あの金髪が付け回すせいで気が散って野生ポケモンの捕獲もろくに出来ない。
「金髪じゃねぇ!!俺にはジュンっていう立派な名前があんだよ!!」
「弱い奴にはそれで十分だ。」
「っ!!うるせー!!何なら、もいっかいバトルだ!!」
「…言っただろ。俺は弱い奴とバトルする気はない。ましてやバトルを教える気など、これっぽっちも無い。」
俺は昨日のことを思い出す。この金髪は信じられないことに俺にバトルを教えてくれ、と言ったのだ。何考えてんだ?と思った俺は無理やり奴を追い出した。
「分かったら失せろ。俺の邪魔をするな。」
俺は金髪を軽く睨みつけた。本当に目障りだ。
「…イヤだね。」
「はあ?」
金髪の方も俺のことを睨む。本当に何なんだこいつは?
「第一、俺にバトルを教えろだと?お前にはプライドが無いのか?」
俺は鼻で笑う。俺はヒビキに何度も負けたが、バトルを教わろうなどとは一度も思ったことはない。
すると金髪は黙り込む。暫く黙った後、ようやく金髪は口を開いた。
「…変な事言ってるかもしれない…バカなことかもしれねえ…だけど…強くなるためなら、プライドなんか要らねえ!!何とでも言え!!」
金髪は突然そう怒鳴りだした。俺がその剣幕に驚いていると、金髪はもっと驚いたことに、俺に頭を下げた。
「頼む!俺にバトルを教えてくれ!いや、教えてください!!
は?
いや、待て。
バカだろコイツ。本物のバカだ。
かなり頭がこんがらがってきた。
「…どうしてそこまでして強さを求める?」
取りあえず俺は聞いた。
「……俺に付いてきてくれ。」
金髪はそれだけ言うと、踵を返した。何なんだ?今度は?
迷ったが、結局俺は奴の後をついて行くことにした。
…まあ、こんな弱い奴がそこまで強くなりたがる理由を見てやるのも悪くは無いだろう。
俺はキッサキシティを東に出た217番道路にいた。金髪は217番道路の北の方に進んだ。
暫く進むと視界が広がった。そこは湖だった。なかなか広い。いかりのみずうみ と同じくらいだろう。看板を見ると、「エイチ湖」と書かれている。
「…この湖がどうしたってんだ?」
俺が面倒くさそうに聞くと、金髪は湖を指差した。
「あの小島が見えるか?」
何故か沈痛な声で言う。
俺が無言で頷くと、沈痛な声のまま金髪は続けた。
「あの小島には、この湖の守り神のポケモン…ユクシーが居たんだ。」
ユクシー?聞いたことのないポケモンだ。それに「居た」ということは…?
「何だ、今は居ないのか?」
つまらない話だ。強そうであれば捕まえようと思ったのに。
「ああ…捕獲されたんだよ。ギンガ団っていう連中にな。」
「…!…何だそのギンガ団とかという連中は?」
金髪は説明した。「新たなる宇宙の創造」とか何とか怪しげなことを言って、人のポケモンを奪ったり…など様々なことをしているらしい。
…どこの地方にも、そんな連中は居るものだな…どうせそのギンガ団とやらも、どこぞの黒服集団のように、弱い奴で群れて強くなった気でいる連中か…
俺は思わずため息をついた。
「それで…俺、博士に頼まれてここエイチ湖を調査してたんだけどよ、そこにギンガ団が現れて…」
金髪はそのユクシーを捕獲しようとしていたギンガ団を止めようと戦ったが、ギンガ団幹部の女に返り討ちにされたらしい。
「…俺のせいで…俺が弱かったせいでユクシーは捕まっちまった…ユクシーは…かなり悲しそうな顔をしていた…」
「もう…イヤなんだよ…俺が弱いせいで誰かが傷付くのを見るのは…俺が弱かったばかりに…」
金髪は苦しそうな表情をして、頭を抱えた。
「だから何だ?その状況は理解してやるが同情する気にはなれないな。」
俺は思わず吐き捨てるように言っていた。金髪が驚いたように顔を上げる。
「それもこれも、お前が弱いから起きた事なんだろ。それが分かってんだったら勝手に強くなれよ。他人を巻き込むな。」
「…!!巻き込んでるつもりは…」
「つもりはない、とでも言いたいのか?お前にその気が無くとも巻き込んでんだよ!いいか、弱い奴がいくら群がろうと、所詮烏合の衆だ。同じ様に強くなろうと人を頼ったって強くなれねえんだよ!」
そう、弱い奴が集まろうと結局弱い。強い統率者が居ようと関係ない。あんな一時は勢力を誇っていた例の黒服集団でさえ、たった一人の少年によって壊滅させられてしまった。
「…分かったか?お前も万が一、俺がバトルを教えたとしても、絶対強くはなれない…結局、人間は1人なんだよ。強くなりたいなら、1人で強くなるんだな。」
気が付くと俺は言いたいことをまくし立ていた。おかしい…何で俺はこんなにも感情的なんだ…?
これ以上話すと、気が変になりそうだ。俺は踵を返した。
「ま、待てよ!」
後ろで金髪が叫ぶが俺は無視する。弱い奴の相手をしたところで俺が強くなれる筈がない。時間の無駄だったな。
「こら、待てったら!待たねぇと罰金100万円だぞ!!」
後ろで金髪が意味不明なことを叫んだその時だった。
突然、頬を何かが掠めた。
「!」
何だ!? 俺は頬を掠め、地面に落ちた物を見る。これは…氷?
「ニュラッ!」
見ると、俺の左斜め前方にニューラが3、4匹ほど群れていた。随分と反抗的な目で俺を睨んでくる。どうやら今のはニューラ達の「こおりのつぶて」のようだ。
…?何だあのニューラ達は…?何を怒ってるんだ?
「ニュラッ!」
そうこう考える暇もなく、ニューラ達が攻撃を仕掛けてくる。
「チッ…やれ、ニューラ。」
「…ラ。」
俺はボールを投げて、ニューラを繰り出す。残念ながら俺の手持ちに炎タイプも格闘タイプもいない。だが同じタイプ同士の攻撃は効きにくい。なので当座はニューラで防げるだろう。
「「れんぞくぎり」だ。」
「…ラッ!」
俺のニューラが素早く動き、自慢の爪でまず一匹に攻撃。そして連撃、さらに連撃…。
悪タイプに虫タイプの技は抜群に効く。野生のニューラ達は怯んだ。
とそこに、
「ゴウカザル、「かえんぐるま」だ!」
「ゴウッ!!」
炎を纏ったゴウカザルがニューラ達に突っ込み、打撃を与える。ニューラ達はまとめて吹っ飛ばされる。
「へへっ!見たか、赤髪!」
得意気な表情で金髪野郎が近づいてくる。
「余計だ。今のは俺のニューラで充分事足りた。」
俺は冷たく言い放つ。今のくらいで俺のことを助けたとでも言いたいのか、コイツは?
見ると、傷付いたニューラ達が何やら声を掛け合い、茂みの方へ逃げていった。その呆気なさに、俺は少し拍子抜けする。
「…ったく、今のニューラ共は何なんだ?いきなり群れをなして襲い掛かるのは不自然すぎる。」
俺がそう呟くと、金髪は少し俯いて答えた。
「多分…さっき言ったユクシーがギンガ団に捕まったからだろな。キッサキシティの人たちが言ってたけど、ユクシーがいなくなってから、ここのポケモンたち、相当気が立ってるらしいんだ。湖の守り神が人間に捕まったんだ。あのニューラ達が怒るのも無理はないな。」
「…フン、そんなギンガ団とかという弱そうな集団に捕獲されてる時点でその守り神も相当弱いポケモンだったんだな。そんな守り神を信仰している、あのニューラ共も烏合の衆と言うわけか。」
俺が鼻で笑うと、金髪は心外そうな表情をして、何か言いかけたが、ガサゴソ、という茂みの音に遮られた。俺も金髪も思わず茂みの方角を振り返る。
そこには信じられない風景が広がっていた。
「なっ…何だあれ?」
金髪も絶句している。
先ほどのニューラ達が、何やら見たことのないデカいポケモンを連れてきていた。察するにニューラ達のボスのようだ。
そのボスポケモンは宙に浮いていた。デカい体は茶色がかっており、黄色く模様が描かれている。そして…目のあるべき部分には赤く丸い玉のようなものがあるのみであった。
…雰囲気的にはゴーストタイプといったところか?
「何なんだ、あれ…図鑑に載ってない…あれもシンオウ地方のポケモンじゃないのか?」
金髪がポケモン図鑑を見ながら言う。
ボスポケモンは俺ら2人をジロリ、ジロリと睨むと俺らを敵と認識したのか、気味の悪い声で咆哮した。
「…ノワーッッ!!」
そして襲いかかってくる。
「くっ…」
「ゴウカザル、「かえんぐるま」!」
「ゴウッ!!」
ゴウカザルも負けじと吠え、炎を纏って回転する。
両者が激突する。僅かにゴウカザルが押し負けた。
「なっ…!?」
「やれ。「つじぎり」。」
「…ラッ。」
ニューラが跳躍し、素早い動きでボスポケモンに急接近し、爪で攻撃を与える。ボスポケモンが痛そうに呻く。やはり、悪タイプの技が効いていることを考えると、ゴーストタイプだろう。
…あのポケモンは遅い。ゴウカザルに押し勝ったパワーも要注意だが、素早さで翻弄すれば何とかなりそうだ。
「ぶちかませ!!「インファイト」だ!」
「…!?馬鹿、止めろ!」
しかし遅かった。ゴウカザルが大きいモーションで拳の連打をボスポケモンに叩きつけようとした…
が、
「ゴウ?」
拳はボスポケモンの体をすり抜けた。
…馬鹿な奴…
攻撃が空振りになってしまったゴウカザルはバランスを崩す。そこに、ボスポケモンが黒く丸いエネルギー体のようなものを放つ。あれは…シャドーボールか?
「ニューラ、攻撃を緩めるな。「つじぎり」。」
「…ラ。」
ニューラが跳躍する、しかしボスポケモンが振り向く方が速かった。
「…!?速い?」
「ノワーッッッ!!」
ボスポケモンはニューラの方に手をかざす。すると、そこから青白い炎が現れ、ニューラを直撃した。
「ラ?」
ニューラが地面に落下する。見ると、シャドーボールを受けたゴウカザルが既に地面に倒れていた。
「…ごめんな、ゴウカザル。」
金髪が苦しそうな顔でゴウカザルの元へ駆け寄り、謝る。
…これだから弱い奴は…
俺は思わず大きくため息をつく。
ニューラを見ると、確かに攻撃は直撃したがダメージはあまり無いようだ。このまま押し切るか…
「油断するな。「つじぎり」だ。」
「…ラ。」
ニューラは立ち上がり、ボスポケモンに対し、爪を振った…
が
「…ラ?」
「…馬鹿な…効いてない?」
俺は呆然とする、先ほどと違い、ボスポケモンは「つじぎり」を受けてもピンピンしている。
…まさか…
俺はニューラを見る。俺の予想通り、右腕の一部が赤黒く変色していた。
「さっきの攻撃は「おにび」だったのか…それで火傷を負ったのか。」
「おにび」は主にゴーストタイプが覚える技。相手に確実に火傷を負わせる厄介な技…火傷を負ったポケモンは痛みによるダメージのみならず、攻撃力が大幅に低下するのだ。
…戻すしかないな。
俺はニューラをボールに戻そうとした。金髪も隣でゴウカザルを戻そうとした
が、
「「!?」」
ボスポケモンの目が黒く光る。
「!?な、なんだってんだよ!!ゴウカザルを戻せねぇ!」
「…「くろいまなざし」だ。あのポケモン、俺らを逃がすつもりは無いようだな…」
まずい。状況が厄介過ぎる…
金髪も焦った顔でキョロキョロしていたが、地面に落ちていた「何か」を見つけ、それを拾い上げた。どうやら先程の群れた野生のニューラ達が落としていった物のようだ。
「これは…?」
金髪がその「何か」をジッと見つめて、ぶつぶつ呟いていたが、こっちはそんな事を構っている暇は無い。
俺は急いでニューラの元へ駆け寄り、「かいふくのくすり」を使用する。これで火傷も治り、体力も回復したはず。
「くろいまなざし」で逃げ道を封じられた今、残念ながら俺が頼れるのは、このニューラ一匹のみ。
…コイツに賭けるか…
「…さあ行け、「つじぎり」だ。」
「…ラ!」
ニューラが跳ぶ。
To Be Continue…?