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チャンピオンロードの中でアイツに負けた後、俺は何をすればいいのかサッパリ分からなくて、アテもなくブラブラとほっつき歩いたり、ぼんやりとして過ごしていた。
そしてアイツがチャンピオンになったというニュースを聞き、俺の中で何かが動いた。
……どうして勝てない?あんな弱い奴に……どうして……ドウシテ……?
……勝ちたい……カチタイ……俺に足りないものって何なんだ……?アイジョウッテイッタイナンナンダ?
チャンピオンになったアイツが今度はカントー地方に渡って、ジムを制覇するつもりらしいと聞いた時は追いかけてやろう、と思った。そして打ち負かしてやろうと。
だが…何か…何かが俺を思いとどまらせた。
…俺はこのままでいいのか?このままでアイツに勝てるのか?
そう、俺は既に自信を無くしていた。
それに…カントー地方は…個人的に嫌な思い入れのある土地であった。「あの人」が社会的に敗北した場所…そう、俺にはその場所に行く勇気が無かったのだ。
アイツと同じ場所に行ったって、それではアイツと同じ道を進むだけ。それではアイツに勝てない…だから俺は…
ここ、シンオウ地方にやって来た。
第2話「悔しさ」
〜前回までのあらすじ〜
俺はシンオウ地方の最北端、キッサキシティにたどり着いた。ポケモンセンターで長旅の疲れを癒そうと思ったが…突然金髪の騒がしい少年が勝負を仕掛けてきた。一体何なんだ?コイツは?
「さあ、行くぜ!ゴウカザル「マッハパンチ」!」
「ゴウッ!」
ゴウカザルからの鋭い打撃がオーダイルにヒットする。先手を取られたからか、オーダイルが一瞬怯む。
「…焦るな。所詮は先制攻撃。威力は大したことはない。「たきのぼり」だ。」
「…ダイル。」
オーダイルが指示に従って、水を纏ってゴウカザルに突進。まともに攻撃を受けたゴウカザルは吹っ飛んだ。
「くっ!大丈夫か?ゴウカザル!?」
「…ゴウ!」
少々苦しそうな表情をしているが、まだ何とか戦えそうな雰囲気である。
「…死に損ないが。弱いくせに無茶すると痛い目にあうぞ。」
「うるせえ!俺はともかく、このゴウカザルを馬鹿にすんなよ!よしいけっ!お前のパワーを魅せてやれ!」
「ゴーウッ!」
ゴウカザルは跳躍し、オーダイル目掛けて拳の連打を放つ…あれは…「インファイト」か?
「…ダイ…」
オーダイルがかなり苦しそうに呻く。この威力…あのゴウカザルは格闘タイプが含まれていると見た方がいいだろう。
「まあいい。トドメだ。「たきのぼり」。」
「インファイト」は高威力と引換えに、自らの守りが薄くなる。この「たきのぼり」を耐えることは無理だろう。
「そうは行くかぁー!!ゴウカザル「マッハパンチ」!」
「!!」
しかしゴウカザルがすかさず、俊敏な動きでパンチを繰り出す。
「ダ…イ…」
オーダイルが態勢を崩す。これは…少しまずいか。
「よっしゃ!こっちこそトドメだぜ!「インファイト」!」
「…これだから弱い奴は…やれ。「たきのぼり」。」
「はっ!お前のポケモンは態勢を崩してるぜ。ただでさえ素早さなら、俺のゴウカザルの方が速いぜ!」
ゴウカザルは再び俊敏な動きで、オーダイルを攻撃しようとした
が、
突然ゴウカザルの動きがピタっと固まる。
「!?お、おい、どうしたゴウカザル?」
金髪が焦ったように言う。やはりコイツも大したことはない。この程度の仕掛けに気付けなかったとはな。アイツと似た強さがあると思ったら大間違いだったな。
「…「こわいかお」だ。相手を威嚇し、大幅に素早さを下げる効果がある。勝負あったな。」
俺がそう言った直後に、オーダイルがゴウカザルに「たきのぼり」で攻撃し、そこでゴウカザルは崩れるように倒れた。
「!!ゴウカザル、大丈夫か?」
金髪はゴウカザルを助けおこし、様子を見る。俺は思わず舌打ちする。コイツもそうか。弱いくせに自分のポケモンには甘い奴。こういう奴を見ると虫唾が走る。俺はオーダイルをボールに戻して、踵を返した。さっさとポケモンセンターへ向かうつもりだった。
その声を聞くまでは…
「…!…畜生!なんだってんだよぉ!なんで勝てねえんだよぉ!…どうしてだよぉ!」
俺はそれを聞いて思わず振り返る。
見ると、金髪はボロボロと涙をこぼし、悔しそうに拳を地面に叩きつけていた。何度も…何度も。
「…なんでいつもこうなんだよ…コウキには一度も勝てねえし…挙げ句の果てにはあんな連中に負けっちまう……なんでだよ…なんでだよぉ…」
金髪はもはや涙声であった。見ている此方に、悔しさと悲しさがストレートに伝わってきて、俺は思わず目を逸らした。
何でいつも負けてしまうのか?
俺も常に持っている疑問だ。アイツに…ヒビキに…俺は結局一度たりとも勝てなかった。あんな弱い奴に…
だが…何度負けても、俺はあの金髪のように悔しさを表現することは無かった…悔し紛れに言い訳をしてその場から逃げただけだ。
悔しさを全身で表現する金髪を見て、俺は得体の知れない敗北感を感じた…。
「…やっと一息つけるな。」
俺はリュックをベッドに放り出して、寝転がった。
数分前、あの金髪を置き去りにしてポケモンセンターに到着した。得体の知れない敗北感は拭えなかったが、あのまま一緒にいて知り合いと勘違いされるのは嫌だった。
「…。」
寝転がりながら、あの金髪のことを考える。
…もしかしたら、あの金髪は俺に似てるのかもしれないな…
ふとそんな考えが浮上し、俺は慌ててそれを打ち消した。そんなわけない。俺は最強のトレーナーになる男だ。あんな弱い奴なんかと似てたまるか。
不意にトントンと、ノックの音が聞こえた。
ポケモンセンターの職員だろう、と思って、俺は起き上がってドアを開けた…
が、
「よう。やっぱこの部屋だったか。」
そこにいたのは例の金髪だった。目にはまだ泣き腫らした跡が残っている。
「…!!」
俺が大急ぎでドアを閉めようとする直前に金髪は一歩前に出て俺に向かって叫んだ。
「俺にバトルを教えてくれ!!!!!!!」
「…はあ?」
あまりに呆れて、俺は返事をするのが大分遅れてしまった。
…何を考えてんだ、コイツは?
To Be Continue…?