『アサギの男の子』(9)
夜の9時がすぎて、お腹がへったのをごまかしきれなくなりました。
お母さんはまだ帰ってきません。
今日は何時頃に帰ってくるでしょう。今何をしてるんでしょう。
お仕事かも知れませんし、友達とご飯に行ってるかもしれません。
*
しょうがないなぁ、と思うのと同時に、
なんだかおなかが空いたのがきえていきます。
このまま、ずっとご飯を食べないままでいても、
きっとぼくが倒れるまでだれも気がつきません。
……そういうわけにもいかないので、おうどんを作ります。
しかたがないです。これしか作れないのです。
*
スマートフォンで動画を見ながら、おうどんをすすっていると、動画の途中で広告が入りました。
うっとうしいけれど、飛ばすのがめんどうなのでその広告を見ます。
『ポケモンリーグ ハイパーボールカップ開催!』
スマートフォンの中で、強そうなポケモンたち、強そうなトレーナーたちが戦っています。
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そして、その中にはぼくより少し年上の男の子もいます。
……すごいなぁ、ぼくはポケモンすら持っていません。
お母さんはぼくに、ポケモンと一緒にお留守番していてほしいみたいです。
けど、そんなにカンタンにいかないと思います。エサ代だって、かかるし。
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それでも、ポケモンバトルを見るのはかっこよくて好きです。
ぼくは少し気になって動画サイトで、その年上の男の子の名前を、ムシメガネのところに入れました。
【ハイパーボールカップ公式】新星・フスベシティの……という動画が出てきます。
ゆびで押して動画を見ます。
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年上の男の子と、水色のポケモンが一緒に海で泳いでいます。
水色のポケモンはおっきくて強そうです。
年上の男の子が「たつや」と呼びかけました。
すると「たつや」はその声にこたえて、男の子の持つ青いモンスターボールにかえります。
男の子は何かをボールに話しかけます。
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ボールの中の水色のポケモンが、うれしそうにからだをゆらします。
なんだかお話しているみたいです。
『あっ、実はこいつをハイパーカップに連れてくって約束と、
海を見せるって約束しててこれで二つともかんりょっす!』
男の子がカメラに向かって、ニコニコ笑います。
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『えー、初参加で最年少ですがフスベの名に恥じないように
頑張りますんで、応援よろしくお願いしまーす!』
男の子がボールを持っていない方の手をふって、動画がおわりました。
ぼくはその動画を、初めからもう一度見ました。
*
この水色のポケモンはなんなのか、
フスベってどこにあるのか、
なにをしたらこんなに大きなポケモンと仲良くできるのか、
まったく分かりません。
ぼくは、明日学校がおわったら図書館に行こうと決めて
それでめずらしく夜更かしせずにおふとんに行きました。