『ヨシノのエリートトレーナー』(5)
灰色の頬に手をあてて、ゆっくりと語りかける。
「あなたと一緒にこの街を歩いてみたいの。ヨシノでは大丈夫だったでしょう?
きっと、この街も大丈夫。何があっても私があなたを守る。駄目だったら飛んで逃げよう」
「きゅう」
アヤメの瞳孔が一瞬細まり目を伏せる。けれど、頷いて了承してくれた。
*
コガネの中心部から少し外れた場所をアヤメと歩く。
それでもやっぱり人が多い。アヤメを見て驚く顔になる人もいたけれど、それ以上はなかった。
「アヤメ、どう?」
「きゅうん」
凛とした目で私を見る。アヤメはいつもこの顔なので感情を非常にくみ取りにくい。うむむー。
*
「お腹空かない? もうこんな時間だし。ポケモン入れる店探そう」
「うっわあ、あんなの連れてるよ」「え、なに?」
すれ違ったカップルの男の方がアヤメを見て呟いた。は?
アヤメを後ろに下がらせて思い切り男を睨みつける。
びびった男が、きょとんとした女の手を引いてそそくさと去っていった。
*
しばらく無言でそこに佇む。なんにもできないでいると
アヤメが鼻先で私の手の甲をつついた。
「ごめん、どうする? 戻る?」
ベルトからアヤメのボールを取ろうとすると、アヤメが首を横に振った。
「アヤメ?」
そして、私を置いて先に歩き出す。
……まあ、石投げられたわけじゃないもんね。
*
それから何軒か入ろうとしたけれど全部だめだった。
「案外大型のポケモンと入れるお店がないね。地下街にいってみようか」
「きゅう」
たぶん、アヤメだから断られてるのもあるんだろう。
アヤメは♀のアブソル。災いポケモン。
昔からの伝説で、主にホウエン地方で忌み嫌われているポケモンだ。