『炭職人のおじさん』(7)
ヒワダの道を行くこと、これすなわちヤドンをころころ転がすことと同じ。
そのせいで、コガネから帰ってくる頃にはとっぷりと日は暮れていた。
家に帰ると息子とカモネギとワンリキーが絵を描いている。
俺が帰ったというのに、みんな顔も上げないで絵を描くのに夢中になってる。
*
「なに描いてるんだ?」
「マサムネギ!」
「ま…?」
「ギャウギャウ!」
「ケーケー!」
息子、意気揚々と答える。ポケモンたち、嬉しそう。俺、きょとんとするばかり。
*
「カモネギはまだ進化が発見されてないでしょ。
だから進化したらきっとこうなるねって描いてたの」
「…へぇ」
カモネギの進化が発見されてないことも知らなかった。
というか進化しないポケモンなんていたっけな。なんかいたはずだけど、ぱっと出てこない。
息子が緑のクレヨンを手に取る。
*
「ワンリキーもいつかゴーリキーになるよね」
画用紙に長ネギを描きたす、息子。ぐっと胸を張るワンリキー。
恨めしそうにワンリキーを見つめるカモネギ。
…食い扶持が多くなるから、ワンリキーにはデカくなって欲しくないんだけど。
まあ、こいつが進化したらそれはそれで喜んじゃうんだろうなあ。
*
「お父さん、旅に出るときはどっちか連れてってもいい?」
「ダメだ。二匹ともお父さんの仕事仲間なんだぞ」
というか家族がいきなり二人もいなくなったら寂しい。
「えー、二人だって旅に出たいよね?」
息子が二匹に話題を振る。
ワンリキーもカモネギも、不安げな顔になり俺と息子の顔を見比べた。
*
迷っているのか、気を遣ってるのか判断が難しい。
そもそもこいつらどこまで人間の会話を理解してるんだろ。
俺が二匹の反応を待っていると、カモネギが脇に置いていた長ネギを掴んで俺を指した。
って、おおん!?
*
このカモネギ。生意気で小憎たらしく仕事中でもそれ以外でもなかなか言うことを聞かない。
そのカモネギがなんと俺を選んだ。え、ほんと「もっ」に? 意味ちゃんと分かってるか?
これには息子もワンリキーも目を丸くして驚いている。
長ネギを掴むカモネギの羽は、茶のクレヨンの汚れが付いていた。