1〜2話読み切り系
『アルトマーレのエリートトレーナー』(7)
ツカツカとハイヒールを鳴らして診療所を出ます。夕暮れの街中をしばらくその調子で歩きました。
しかし、そこかしこからやぁんやぁんとヤドンのまぬけな鳴き声がして
それでなんだかさっきまでの怒気を抜かれてしまいました。
ヤドンってなんであんなにまぬけな顔と鳴き声なんでしょうか……。
*
ここは野生ポケモンへの保護が手厚い街です。
街の中心部でも平気でヤドンが道路に寝そべっています。
ブルンと道行くトラックからおじさん降りて、彼らを道路の端へと転がし始めます。
ヤドンが邪魔で通れないのです。ヤドンたちはやぁんと鳴いて転がされています。
色恋沙汰とは無縁の素朴な街です。
*
私の生まれはここから南の街。水の都アルマトーレです。あの人とはそこで出会いました。
あの人も私もまだ子供で、あの人は旅の途中でした。
私たちは一緒に不思議な経験をして、
思えば、私はあの時初めてポケモンというものに
強い興味を持ったのでしょう。そして私はあの人について旅に出たのです。





気晴らしにヒワダから西の海に向かいました。
波打ち際に着くとルアーボールを2つ取り出し、
ランターンのらんとギャラドスのこいを呼び出します。
ボールから出たらんは喜び、頭の電球を点滅させて私を急かします。
私とこいは眩しくて一緒に目をチカチカさせました。
*
こいに跨り、海を泳ぎます。
もう太陽が沈みかけて、海面は黒くなり、洗濯物のしわみたいな小波がゆったり揺れ出します。
時折こいは、並走するらんとアイコンタクトを交わしています。
この2匹は生まれたときから一緒だったらしく、私には介入できない何かがあるのです。
*
周りが暗くなるにつれ、らんの電球がこうこうと輝きを増していきます。
すると黒い海面が光を反射し、そこが白い糸を編み込んだ滑らかな織物のように見えるのです。
こいが長い首をねじって私をじっと見ます。夜の海は危ないよ、と伝えたいのです。
「わかってる。そろそろ戻ろうか。……ん?」
*
遠くでハネッコの群れが水平線に消えていくのが見えました。夜の海でそれに出会うのは珍しくて、
わたしはしばらくぼやけたハネッコたちをぼおっと眺めていました。
その間中、私は、子供の頃のあの人と私のことを考えていました。
まだ、あの人をこいに乗せて一緒に泳いだことはありません。

■筆者メッセージ
サンプリング元

アルトマーレはヒワダタウン南に存在するという設定
「ギャランターン」構成
しば ( 2018/04/10(火) 06:01 )