000 プロローグな件について
「申し訳御座いません!!」
何もない真っ白い世界。そんな中、俺に頭を下げる女性がいた。
何故、彼女が俺に謝るのか。全く見当もつかない。
しかし、そんな疑問よりも、俺の頭の中では別の疑問が浮かんでいた。
彼女の頭には黄金の輪が浮かんでいる。先程から良く目を凝らし、輪と彼女の頭の間を見てみるが、輪を頭に固定するような物はついていない。
背中からは羽が生えている。こればかりは触ってみないと、作り物かどうかは解らないが。
ツヤツヤひかる黄金の長い髪は、頭を下げているため地面につきそうだ。そもそも、俺の立っている”ここ“が地面かどうかも解らない。
そして白い羽衣を着ているその姿は、天使そのものだった。
何故、天使の格好をした彼女が俺の前にいるのか。
俺の頭の中はその疑問でいっぱいだった。まあ、俺が死んでここが天国って言うなら理解できるが。
とにかく俺は、何故こうなったのか、先ほどまでのことを思い出してみた。
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俺の名前は『望月俊太』。高校三年の17歳だ。
その日は普通に学校にいた。
ほとんどの生徒が、既に下校していた。
しかし、俺は皆とは一緒に帰れずにいた。別に先生に起こられるだとか、テストで赤点を採って居残り自習をしなければいけないとかではない。『大学の指定校推薦が取れたから』と言うことで先生から話があったからだ。
先生との話は15分位で終わった。どんな話をしたかは特に覚えてない。
それから、下駄箱に入っている、今月何度目かになるラブレターを鞄に突っ込んで、大して歩きやすくも無い靴を履いて普通に下校をした。
世間から見たら俺は『モテる』らしい。良くつるむ奴からうらやましいだのムカつくだのと言われる。
勉強ができる。運動ができる。顔も良い。だからモテるのだそうだ。自覚は無い。人の好意はよくわからない。
何度も告られた。けど一度も付き合った事はない。学校で一番人気のある(らしい)生徒からの告白を断った時はいろんな奴から「勿体ない」だの「どうして?!」などの事を言われた。でも俺には『三次元の女の子』がよくわからない。
おっと、話がそれた。
下校中、変な奴らに出会った。サングラス、マスク、ニット帽、全身黒ずくめの男三名。明らかに怪しく、手には拳銃を……あれは玉の入ってないエアガンだったか。
車に跳ねられそうな老人を庇って……あの時は車が直前で止まったから無事だったな。
建設中のビルの下を通ったんだ。確かあの時鉄柱が降ってきて……ギリギリ俺の手前に刺さったか。
結局無事に家についたな……。
なる程、別に死んだわけでは無いのか。
「ねぇ、君」
先程からずっと頭を下げている、見た目天使の彼女に話しかける。
「あ、はい!何でしょうか」
「まず……ここはどこ?」
死んでないと解ったので、まずはここがどこなのか聞いてみる。
「あ、え〜と…その……」
なんだ?
下を向いて急にモジモジしだす見た目天使ちゃん。
何か言いにくい所なのか。そもそも言いにくい場所とは……。なんか腹減ったな。死んでないから腹も減るか。
「まず……貴方は……死んでます…。」
前言撤回。俺、死んでたわ。
「ふ〜ん。そうか」
「え?あんまり驚かれないんですか!?」
見た目天使……いや、天使ちゃんの方が驚いてるよ。因みに言うけど驚いていないのではない。
「これあれね。あまりにも驚きすぎて後から来るパターンの奴」
「そ、そうですか……」
天使ちゃんポカーンとしちゃってるよ。
俺が死んだっていうならここは天国だろう。見た目的に地獄じゃないだろう。
「あ、まだここは天国でも地獄でもありませんよ」
なるほど。天使ちゃんは心が読めるようで。
「あ、すいません……」
「いいよ。べつに。それより、結局ここはどこなの?」
「ここは狭間です。迷える死者の魂が来るところでして……主にこちらの手違いで死んでしまった方の来るとこです……。」
「うん。なるほど。そちらの手違いとは?」
「う……。」
言い辛そうに天使ちゃんは話し出した。
「実は貴方はもーっと長生きするはずだったんです。ですが私が誤って貴方を『今日死ぬ者リスト』にカウントしてしまって……死んでしまったんです。
本当にごめんなさい!」
話し終えてから、天使ちゃんはまた頭を下げる。
「いや、もう良いからさ。それより死因は?思い当たる節がないんだけど」
別に死んだことはもうしょうがない。それより今までの一番の疑問を聞いてみる。
「えーっと……寝てる間にベッドから落ちて頭部を強打して大量出血で死亡です……」
そりゃ思い当たる節が無いわけだ。寝てたんだから。それより…
「もっとマシな死に方って無かったの……」
「うう……本当にごめんなさい…」
死に方が悲しすぎるわ。
「ですがあちらの世界では鈍器で頭部を強打されて死亡したことになってますね。」
「どういうこと?」
「なんだか貴方の親御さんやお友達が『コイツがベットから落ちて死ぬなんてマヌケなことはしない』って。それで警察の方は鈍器で殴られた可能性もあるとして捜査してるみたいですよ」
うっわ〜死にてぇ……。あ、もう死んでるか。もし犯人がでるとしたら天使ちゃんくらいじゃないか。
「良いお友達をお持ちですね」
「えーっと…馬鹿にしてる?」
「そ、そんなんじゃありませんよ!」
なんだかこの天使ちゃんのキャラがつかめない。
「まあ生前の話はその辺にして…俺はこれからどうなる訳?」
俺のこの言葉を聞いて天使ちゃんは「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりの顔をする。
「よくぞ聞いてくれました!」
俺も読心術が使えるようになったかな。
「貴方には選択肢があります。一つは記憶を消して一から人生をやり直す。一つは天国に行き、何不自由無く暮らす。」
なんだか天使ちゃんが天使に見えるぞ‥…。
「ここまでが“一般的”に死んでしまった人達が与えられる選択肢です。」
「“一般的”って死せるべくして死んだみたいな?」
「そうです。貴方のようにこちら側のミスで死なせてしまった方はもう一つの選択肢が与えられます。」
ゴクリ……
「“別の世界への転生権”です」
『転生』…それは異世界でもう一度人生を始められるという事。魔法が存在する世界やドラゴン、ヒーロー、モンスターがいる世界に。そして王道なのは、基本的に『二次元』の世界だということ。
そんなことをする権利が俺に与えられたという事。
「まじすか……」
驚き桃の木なんちゃらかんちゃらだよ!
「ふっふっふ…驚きました?」
手を腰に当てて得意げになる天使ちゃん。驚いた。確かに驚いたけど……少しイジワルしてみよう。
「なるほど。その三つの選択肢の中から俺は選べばいいって訳ね?」
「はい!そうですよ!」
「じゃあ天国行きで。」
「え?」
なんとも間抜けな顔をする天使ちゃん。
「まぁそれは冗だ」
「何でですか!?転生ですよ転生!行きたい世界に行けるんですよ!天国なんて比にならないほどおもしろいですよ!」
「いやだから……」
「わかりました!特典つけてあげます!転生した世界で強くなれるような能力あげます!」
どうして天使ちゃんがこんなに必死に俺を転生させたいのかは解らないけど……冗談言っといて良かったかな?特典貰えることになったし。
「転生します。」
「本当ですか!?」
あれ、この子読心術使えるんじゃ…‥。興奮すると使えなくなるのか?
「でもどこに転生するっての?」
「転生して下さるんですね!良かったぁ……。善は急げって言いますしね!」
ちょっとまて……天使ちゃん俺の話聞いてないぞ‥…。
「ちょ、天使ちゃん?この魔法陣は何?そもそも俺はどこに転生すんの?特典は?記憶って残んの?ねぇ、天使ちゃん!?」
そんな俺にはお構いなしに足下の魔法陣はどんどん大きくなっていく。天使ちゃんは呪文らしき物を唱えており全く聞く耳を持たない。
「それでは望月俊太さん。異世界でのご活躍をお祈りしております」
完成した魔法陣が眩しく光り出し、俺の体は足下からどんどん消えてゆく。
最後にみた天使ちゃんの顔はまさに天使のような笑顔だった……。