クサレエン
永遠の町、トキワシティ。いつからかこの町に来た人はそう呼ぶようになった。タマムシシティのように華やかではないが、それでもトキワシティは発展の一途をたどっている。その様子を見たほかの町の人々が言うのは、ただ一言。
「シゲルくんがジムリーダーになってからだよねえ。」
シゲル・オーキド。このトキワシティのジムリーダー兼町長を務める彼はマサラの誇るポケモン研究家オーキド博士の孫であり、しかも、ポケモンマスター、サトシの幼馴染だ。サトシがポケモンマスターになった何年か前に、後を追うかのようにジムリーダーになったらしい。このころハイルはほかの地方にいたので詳しくは知らないが。
「本当はおじいちゃんみたいなポケモン研究家になりたかった。」
とは、事務リーダ就任直後の本人の話だ。このカントー地方ではジムリーダー協会というものがあり、そこのリーダーに頼まれたのだとか。ぶつくさ言いながらも相手をしている彼の実力は他のジムリーダから頭一つ分ぬきんでている。
そんなことをとりとめもなく思い出すハイルの目の前では、舌戦が繰り広げられていた。
「サ〜ト〜シく〜ん?」
「なんだよ、様子を見に来ちゃいけないのかよ!」
方や、ポケモンマスター。方や、今ではカントー最強の烙印を押され始めているジムリーダー。
「きみぃ・・・・・・。
仕事はどうしたのかなぁ?」
ジムリーダの剣幕にたじたじになるポケモンマスター。これはこれで面白い。目の前の舌戦を丸無視して、ハイルはのんきにそう感じていた。
《ハイル様、そろそろ止めたほうが良いと思うです。》
いつの間にかボールから出てきていたフォルを撫でる。そうしてため息をついた。
――時は少しさかのぼる。ハイルたちがトキワとマサラをつなぐ一本道を歩いていたときサトシが追いかけてきたのだ。ぜーはー、と肩で息をしているサトシに聞いたところによると、
「久しぶりにカスミとタケシ、ついでにシゲルの様子が見たくてさ。一緒に行っていいか?」
というわけらしい。幼馴染がついででいいのだろうか、と思わないこともなかったが、一緒に言ってくれるなら、と二つ返事で了承したのだが…。
トキワシティについてすぐに現れたシゲルは、サトシの姿を見つけると、怒ったように眉をひそめて・・・。
――そうして、今に至る。
「
仕事はどうしたのかな?」
「あ、いや・・・。仕事は…。大丈夫だ!!」
「何処がどういう風に大丈夫なんだい?200字以内で説明してもらおうか?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
シゲルの鋭い質問にサトシは何も言えない。ちょっとかわいそうになってきたハイルは助け舟を出すことにした。
「サトシさんは、シゲルさんが心配だったんですよ。無理をしていないのか、って。」
ハイルの言葉にめずらしく詰まったシゲルは決まりの悪そうに頭をかく。そうして、ぼそりとつぶやいた。
「・・・。すまなかった。」
「俺は別に。でさあ、シゲルくん。ちょっと頼みたいことがあるんだけど…。」
仲直りしたのに、またサトシの『頼みたいこと』のせいでけんかを始める二人を呆れたような瞳で見ながら、ハイルは取り留めのないことを考えていた。
――腐れ縁って、なんなんだろう…。
現在目の前で大ゲンカしている二人の関係こそが腐れ縁なのだろう、とハイルは直感した。