旅立ちのトキ
マサラタウンとトキワシティを結ぶ道路の前に立っていたハイルは肩に乗っているゼーレにのみ聞こえる声でつぶやいた。ちなみに、フォルはモンスターボールの中に入っている。
「マサラは真っ白、始まりの色…。」
《ハイル、どうしたの?》
じっと見つめてくる瞳に笑みを返して、ハイルはかすかに歌う。
「トキワは碧、永遠の色」
その
詩はとても有名な詩だ。
――マサラは真っ白 はじまりの色 トキワは碧 永遠の色 ニビは灰色 意志の色 ハナダは水色 神秘の色 クチバは橙 夕焼けの色 シオンは紫 尊い色 タマムシ虹色 夢の色 セキチクはピンク 華やかな色 グレンの赤は 情熱の色――
町の色を詩うこの詩は、親から子へと受け継がれていった詩だ。曲はついていないので、自分の好きなテンポで詩う。懐かしいこの詩を最後に詩ったのはいつだったろう。
「何でもないわ、ゼーレ。ちょっと、歌いたくなっただけ。」
首をかしげるゼーレを軽く撫でたハイルは歩き出した。ここから一番近い町、トキワシティへと。
歩き出したハイルの後ろから、
何かが来ていた。吹き荒れる突風に目を細めたハイルは、見た。
「・・・・・・!!」
鹿のごとき体躯に狐の耳。風とともに走り抜けて。自分の横を通り過ぎる一瞬に目が、あった。青い瞳が面白そうに瞬く。そのまま駆け抜けていく、風を見つめていたハイルは、震える声でつぶやく。
「ベーテン・・・。」
《ハイル、どうしたの?》
肩にしがみ付いていたゼーレが微動だにしないハイルを見つめる。頭を振って気持ちを切り替えたハイルは、なんでもないというようにゼーレの頭を撫でた。
「・・・・・・。行きましょうか、ゼーレ。」
あまりにも不自然な様子のハイルに対し、不機嫌そうに尻尾を揺らすだけで何も言わなかったゼーレをもう一度撫でて、ハイルは歩き出した。
――サガシテイルモノヲ、ミツケダスタメニ――