望みポケモン
クリムガンに駆け寄った青年。深く帽子をかぶり、その面差しは隠されて見えない。肩に乗っているピカチュウを撫でながらクリムガンのそばで膝をつく。
「ピカチュウ、やりすぎじゃないか?」
ピカチュウに話しかけながら手早くクリムガンの外傷を確認する。一つ頷いた青年はハイルたちのほうを振り返ると、驚いたようなそぶりを見せた。
「・・・ハイル?」
その声にハイルはうなずく。ゼーレが呆れたような声でつぶやきながらその青年のもとへと走った。
《こんなとこで時間を潰してていいのかな?今はバトルタワーの代理フロンティアブレー ンだったはずなんだけど。》
「ええ、そうですよ。サトシさん。・・・お久しぶりです。」
ゼーレの言葉に対しては聞こえないふりをして、青年に呼び掛ける。サトシ、と呼ばれた青年は帽子をとった。子供のような光をたたえた茶の瞳がハイルの前で止まり、数度瞬く。歳は18,9程度だろうか。来ている上着の端っこのほうに留まっているのはフロンティアブレーンの証のようなものだ。ぴょん、と肩から降りたピカチュウがあいさつをするかのように片手を上げた。
《久しぶり、ハイル。元気だった?》
このピカチュウ、7年以上前からサトシのパートナーを務めるベテランだ。ピカチュウのフレンドリーなあいさつに思わずハイルは苦笑する。
「ええ、心配してくれてありがとう。そちらはどうだったの?」
ピカチュウとの談話にハイルが夢中になる一歩手前でサトシからの静止が入った。
「それくらいにしてくれよ、ピカチュウ。」
呆れぎみの声にゼーレとフォルがうんうんとうなずく。まったくもってその通りだ、と言わんばかりの頷き方だ。
《えー・・・・・・。別にいいじゃんか。サトシのケチ。》
サトシの言葉にほお袋を膨らませたピカチュウだったが何も言わずにサトシの肩に上がる。ピカチュウの頭を軽く撫でながらサトシは口を開いた。
「とあるポケモンの話を聞いてさ。博士なら何か知ってるんじゃないかと思ってね。」
サトシが言う博士、とはマサラタウンの誇る博士、オーキド博士だ。齢60を超えてもまだ元気なその姿は、マサラの名物にもなっている。
「とあるポケモン?」
ハイルの胡乱げな問いにサトシはうなずき、説明を始めた。
「噂なんだけどな。このカントー地方のどこかに、「望みポケモン」と呼ばれるポケモン がいるんだってさ。そのポケモンに出会うことができれば、どんな望みも叶うらしい。」
《まあ、ただの噂だろうけどね。》
ピカチュウが言ったことと全く同じものをサトシもいったため、ハイルたちは苦笑した。呆れたような声でフォルがつぶやく。
《似た者同士、なのです。》
まったくもって、その通り。心の中でつぶやいたゼーレはハイルの肩に飛び乗る。ぺしぺしと尻尾でハイルの頭をたたいた。
《ハイル、こんなところで話すより、博士のところで話したら。》
少したしなめるような響きを持った声にハイルは苦笑して頷く。ゼーレが言った言葉をサトシに向けて反復した。
「サトシさん、こんなところで話すよりは、博士のところで話せ、ってゼーレが。」
「ああ、そうだな。」
苦笑して頷いたサトシは膝を追ってゼーレを撫でる。瞳が一瞬煌めいたが、結局何もせず、されるがままになっていた。
《〔シャドーボール〕ぶち込むぞ、この…。》 そんなゼーレが物騒なことを呟いたため、急いでハイルはサトシをとめる。サトシが持っていたモンスターボールでクリムガンを捕獲するのを見届けた後、そ半ば引きずっていくような形でハイル達とサトシはオーキド博士のいる研究所へ向かった。