story10 [花咲の都]の長老
「リン、何があった?俺には途中の記憶が消えてるらしくてな。」
「えええええええええ!?」
正気を取り戻した?エバの言葉に私はめちゃくちゃ驚いた。お、覚えてない!?あんなにフルボッコにしてたのに!?どういう事!?
「……聞かないほうがいいらしいな。」
あたふたしている私を見かねたのか、エバが追及するのをやめた。なんで言わなかったんだ?とか思ってる皆さん!考えてみてください!!いきなりあなたはめちゃくちゃ強くなってデンリュウをボッコボコにしましたなんて言って信じてもらえると思いますか!?答えはノー。ま、あたりまえだけどね。
「もう、何も聞かない。行くぞ、リン。」
ため息をついてエバが歩き出すのを追って私は歩き出した。あのエバであってエバではない誰かのことを思い浮かべながら――。
〜★〜
「ここが・・・・。」
『[花咲の都]・・・。』
エバたち、チーム『エクシード』は目的地の[花咲の都]へとたどり着いていた。目の前に広がる光景に唖然とするエバたち。[花咲の都]には、草タイプしかいなかったのだ。右も左も草タイプ。呆然としているエバたちの前に一匹のポケモンがひょこひょこと出てきた。
「えっと、あなた方はもしかして、チーム、『エクシード』の方でしょうか?」
「うん、町長さんに用があるんだけど…?」
出てきたポケモン――チュリネはこくりとうなずいた。
「あ、はい。私はリ―アと申します。よろしくお願いします。」
「よろしくね。私はリン、っていうの。でそっちの無愛想なほうが…。」
「無愛想は余計だ。エバ。よろしく頼む、リーア。」
リンとエバが自己紹介。リーアはエバに名前を呼ばれたとたんぽっと赤くなったが、すぐにうなずく。
「はい。えーっと、長老のところへご案内します。」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて移動するリーアの後を追ってエバたちも歩き出す。ところどころで声がかかった。
「リーアちゃん、その人たちが客人かい?」
「はい、キノガッサさん。チーム『エクシード』のリンさんとエバさんです。」
と、リーアが二人を紹介するとキノガッサは豪快に笑いリンゴを投げてよこした。
「もってけ!セカイイチには劣るがそのリンゴ、シャインもうまいぞ!」
ぱしっとキャッチしたリンはそのリンゴを一口。食べた後、涙を流し始めた。
「お、おいしい・・・・・。キノガッサさん、このリンゴはどこで手に入るんですか…?」
「そのリンゴはな、[林檎の森]というところで手に入る。地図はもっとるか?」
エバが出した地図を見ながら赤い実がなっている森の絵が描かれているところを指差した。
「ほら、ここだ。ここにはお前らのギルドの親方、ププルが好きなセカイイチもあるぞ。」
光る瞳でキノガッサが示したところを見つめるリン。口からよだれ。
「リン、よだれ。」
リンはよだれをふき取り、キノガッサに頭を下げた。
「ありがとう!キノガッサさん!!」
「おう、じゃあな!!」
手を振って見送ってくれるキノガッサに手を振りかえしながらリンたちは町長のいるところまで急いだ。
「あそこにいます。」
とリーアが頭についている葉っぱで示したのは、大きな大木…いや、巨木といったほうが正しいかというような木の根元だった。よく見ると、その木の根元には大きな穴が開いており、人(ポケモン)が住んでいるような雰囲気だ。そこから一匹のポケモン――ドレディアという――が出てきて、リンたちの前に立つと優雅に一礼した。ドレスのような葉っぱを持ち上げて優雅に一礼するそのさまは、とても美しかった。
「初めまして、チーム、『エクシード』の皆様。わたくしはここ、[花咲の都]の長老を務めさせていただいています。リースと申します。」
唖然としているリンをエバがどつく。
「あ、は、初めまして!ププル親方から手紙を預かってきました。これを。」
と、リンが渡した手紙を受け取りないように目を通すリース。エバがばれないようにリーアに耳打ちした。
「リーア、リースさんって長老っていう年じゃ…?」
リースは笑ってこう答えた。長老はここでは町長みたいなものなんですよ。と、それを聞きエバはうなずく。
「そっか。教えてくれてありがとな。」
と、リーアは顔を真っ赤にしながらうなずいた。
「皆さん、今日はお休みになってはいかがですか?疲れているご様子ですし・・・。」
ププルからの手紙を読み終えたリースはリンたちにそう申し出た。リンたちはその心遣いに感謝することにして、その申し出を受けた。
〜★〜
「親方様。」
くるくると大好物の林檎「セカイイチ」を回していたププルは後ろから聞こえた福親方の声に瞬きをした。
「ペラフィ、どうしたの?」
「エクシードは大丈夫でしょうか…?」
少し心配そうな声音にププルは笑ってうなずいた。
「大丈夫だよ。いざとなれば…。」
ププルは[花咲の都]の長老のことを思う。若くして長老の座に就いたが、昔はププルとともに探検隊をやっていた頃もあった。そんな彼女の実力は自分が一番理解している。ププルは繰り返し、心配性の福親方に言い聞かせた。
「大丈夫だよ、だって、あの二人には…」
これ以上ないほどの心強い味方が付いているのだから、と。
〜★〜
朝。リンたちはリーアの声で目が覚めた。
「リンさん!!エバさん!!起きてください!!」
「ふあああ・・・・。どうしたの?」
「リーア、どうしたんだ?」
いつになく切羽詰まった様子のリーアの声に起こされたリンとエバは目覚めたばかりで腫れぼったい目をこすりながらリーアに問いかける。
「都が…。襲われてるんです!!」
次の瞬間。リンとエバの目が変わった。すぐにトレジャーバックをとり、首にいつもつけているものを巻き、外へ出る。リンの投げたリンゴをキャッチしてかじりながら外に出たエバたちは瞠目した。
「あれは…!」
リンたちの視界には、大暴れしているザングースが映った。リンは震える声でエバに問いかける。
「エバ、あれ・・・・。」
エバも震える声で応じた。
「ああ、あのザングースが…」
そこから先はいわなくてもわかった。暴れているザングースは、エバたちが退治を命じられたSランクのお尋ね者だったのだ――。