story9 エバ
声がする。
――こんなところで終わっちゃうのかな――
声がする。
――エバ・・・――
呼んでいる。誰かが。いや、俺は知っていたはずだ。この声を、いつも聞いていたはずだ。そいつは探検隊のリーダーで、名前は…
「リ、ン…?」
「エバ、起きたの!?」
めちゃくちゃ重い瞼に力を入れて、必死に持ち上げると、デンリュウと対峙しているリンの姿が見えた。
「これ!」
投げられたオレンのみをキャッチしてそのまま口の中に放り込む。その実を飲み込むと、何とか回復した。
「良かったぁ〜」
体の節々が痛い。ところどころから煙が上がっている。動かない体を必死に起こすと、デンリュウがニタリ、と笑った。
「あれえ〜?生きてたか〜。」
その不吉な笑顔に俺は悪寒が走った。リンも同じようで、「何なの、こいつ・・・」とつぶやいている。
「じゃあ、今度は君から行こう〜!!」
「きゃっ!?」
デンリュウが両手を掲げる。そこにバチバチと火花が散るのを見たリンは、横に飛びかわそうとした。
「へへ〜。死んでくれる?【電撃波】!」
「嘘!?」
が、デンリュウが放ったのは 【電撃波】100%当たる技だ。電撃波を受けたリンは何とか動けるようだが、もう一度受けたら持たないだろう。
「この・・・・・!」
反撃に打って出ようとするリンに、俺は叫んでいた。
「止めろ!こいつはヤバイ!」
「でも・・・。」
言い返そうとしたリンだったが、唇をかんで黙った。
「へへ〜。二人まとめてとどめを刺してあげる!」
デンリュウが両手を掲げる。そこにさっきの【電撃波】とは比較にならない電気がたまっていくのを見た俺は歯噛みした。「何か…何か、ないのか…?」
そんな時、声が響いた。
――力がほしい?――
耳を通じて聞こえる声ではなく、脳内に直接響く『声』。
――力がほしい?――
「ほしいな。」
――いいよ、貸してあげるよボクの力を――
次の瞬間、心臓をわしづかみにされるような衝撃が俺を襲った。そんなことがあったことはないが、そうとしか表現できない。だが、その強すぎる衝撃は、一瞬で終わり、代わりに溢れるような力を感じた。
――そうだ、ボクの名前、教えたげる――
聞いたはずの名前は次の瞬間には消えていた。そうして――
俺は、気を失った。
〜★〜
デンリュウがたまりにたまった電撃を放つ。エバにあたると思われた電撃は、当たる寸前にぐにゃりと曲がりデンリュウに直撃した。
「なっ・・・・!?」
「エバ・・?」
リンたちの見ている前でエバの首についているバンダナの色が変わっていく。光り輝く銀から――血のような赤へ。
次の瞬間、エバの姿が消えた。――否、一瞬でデンリュウの懐に飛び込んだのだ。その異常な速さは、エスパータイプの使う技、【テレポート】のようだった。
「ぐわあああっ!!」
そのままエバは【はっけい】を放つ。防御態勢がとれていなかったデンリュウは吹き飛び、木に激突した。
エバの周りに紫色と、青の刃が出現する。エバはその刃をデンリュウに向けて放った。
「くっ…」
それをデンリュウはうまくかわし、【十万ボルト】を放つ。が、またしてもそれはエバにあたる寸前でねじ曲がった。
「エバ…エスパータイプみたい・・・・?」
それを見つめていたリンは首をかしげながらつぶやく。デンリュウはひどく狼狽していた。
「君は、いったいなんなんだい!?」
「その問いに答える必要はないな。」
デンリュウの問いに答えたエバの声は、エバのものではなかった。デンリュウは手に雷をまとわせる。
「【雷パンチ】!!」
「【メガトンパンチ】」
デンリュウの【雷パンチ】をエバは【メガトンパンチ】で相殺し、両手を掲げた。
「終わりだ…!」
掲げられた両手に、蒼い球が現れた。その球はどんどん巨大化し、見る見るうちにエバの背丈と同じくらいの大きさになった。
「う、うわああああ!!!」
逃げようと走り出すデンリュウにエバは容赦なくその球を投げつけた。
「きゃっ!」
その瞬間に起こった爆風は遠くで傷をいやしていたリンにも届いた。リンはまだデンリュウの攻撃でしびれている体を必死に動かし、動かないデンリュウのそばに立っているエバのところへ向かった。
「エバ、そのデンリュウ…」
「死んではいない。」
リンの問いに答えたエバの声には、感情というものが一切感じられなかった。訝しんだリン
がエバの顔を覗き込むと、エバはすぐに見られないよう顔を隠した。
「あなたは…誰?」
「・・・・・・・」
姿は普通のエバだが、リンの直感はエバではないと告げていた。その直感に従い、エバをじっと見つめる。エバは沈黙に耐えられなかったらしく、口を開いた。
「俺は…エバの体を借りているだけだ。」
とだけ告げると、エバの体が急速に倒れかかった。が、少しふらついただけにとどまる。
「リン?どうしたんだ??」
いつものエバの口調にリンは胸をなでおろす。ふとエバの首元についているバンダナに目を留め、目を見開いた。。バンダナの色はいつもの銀色だった。