襲撃
(……どうしてこうなっているんだろう)
ミユはおやかた夫婦が出ていってから、ミユの他に誰もいない部屋の布団にごろりと横になった。
(誰かと行って足手まといにはなりたくないけど、私だけじゃ不安だもんな。でも……)
彼女の頭の中はぐるぐるだ。ああすればこうなる、別のを選べば別の問題が浮かんでくる。
(やっぱりダメだなぁ、チャンスはたくさんあるのに選べないなんて……)
そう落ち込んでいたとき、何か、遠くの方で鈍い音がした。
ドガッ
何かを無理やりこじ開けたような音だ。
「なっ、何?」
ミユはうまく動かない体を何とか動かし立ち上がった。
「出てきちゃだめっ!」
勢いよく扉を開けて、そこから入ってきたのはギルドメンバーのクチートだった。
「何で?」
「尻尾の長い薄青い体のポケモンを出せって」
それはミユの特徴とぴたりと一致していた。
「わ……私?」
「ここにいるポケモンで考えるとあなたしかいないでしょう?とにかく、ここから絶対に出ないで!みんな戦ってるから」
「みんなが戦ってる……?」
「あなたのために戦ってるの、だから絶対出ないで!みんなの思いが無駄になるから」
「でも……」
「じゃあ私も行くから、全体にここから出ないで」
そう言い残すと、クチートは出ていった。
残されたミユはとても申し訳なくなった。
(このまま、何もしないでいいの?みんな私のために戦ってる。私は守られてるばっかで、ほんと、役立たず)
ミユはちらりと扉を見た。そこから音が聞こえてくる。激しく争っているのか、ものがいくつも落ちる音もした。
(……私が行けばこの争いは収まる、でも出ていったらみんなの思いが無駄になってしまう。仮に今回は追い返せても、また来るかもしれない)
ミユはここに来て見たたくさんの幸せそうな顔を見た。このままだとここの笑顔が消えてしまうのかもしれない。
(私のせいで、みんなから笑顔を奪う……そんなの嫌だ!)
そう考えた時には、すでに体が動いていた。
(でも急に動くと背中が……)
歩くと背中に響く、そう思ったとたん、ミユの体が宙に浮いた。
(浮いた?でもこれでさっきより痛くない)
ミユは扉を開けた。
そこにはたくさんのポケモンが戦い、倒れていた。サンセットのポケモンも、知らないポケモンも争っている。整っていたギルドの内装もぐちゃぐちゃになっていた。
「あいつだ!」
「ばかっ!何で出てきた!」
ミユが何かを言おうとした時、知らないポケモンの集団のトップだろうか、身体中古傷だらけのオドシシの朗々とした声が響いた。
「どこに行っていたのですか?探しましたよ」
「ミユ、知り合いなのか?」
近くにいたニョロゾが聞いてきた。
「わからない、覚えてない……」
「事故で行方がわからなくなっていたので探していました」
オドシシがそう言うと、フウが息も絶え絶えに聞いた。
「事故?ミユの背中のキズと関係が?」
「ええ、私達はこの方を守れませんでした。無事居場所がわかったのですが、私の部下の説明不足でこのような事態に……詫びの品を用意しますので」
その時、レウがミユの方を見て尋ねた。
「なあ、ミユ、お前ここに残りたいか?」
「……え?」
「ここにいるか、こいつらに付いてくか」
ミユの頭の中を、この三日で出会ったこのギルドのメンバーの笑顔が駆け巡った。
「ここにいたい」
それは震えるような小さな声だった。でもここにいるすべてのポケモンの耳に届いた。
「だってさ、というわけでお引き取り願えますか?」
「いや、だが……」
「……このオドシシ、うそついてる」
キルリアのオルトが言った。
「本当かい?オルト」
「絶対うそついてる」
「なっ、私達は嘘などついていない!」
「それもうそ」
「それとも何だっ、こんな子供の言うことを信じるのか?」
レウはふふっと笑って言った。
「そりゃあそうだろう、見ず知らずのあんたらよりは信じるさ。それにオルトが嘘を見抜けないはずがない」
「ちっ、退くぞ」
オドシシがそう言って走り去ったとたん、その仲間のポケモン達も、オドシシの後を追って出ていった。
「おい、詫びの品は?仲間のポケモン置いてっていいのか?」
レウが大きな声で言ったが、返事は返って来なかった。