空から落ちてきた彼女
出会い2
森の入り口の前に残されたエン達は、落ちてきたポケモンのところに集まった。薄青の体に長い尻尾、見たことがないポケモンだ。

「この子は誰だい?」

おやかた、フウの父ブラッキーのレウが尋ねた。

「空から降ってきたんだ。で、ちょうどここに……おとっ、おやかたは何でここに?」

「連絡があったんだよ、イーブイとガーディが森にたむろってるワル達と争っててうるさいって」

「で、あんたらがいなかったからここに来たのさ」

そう言ったのはフウの母エーフィのルウだ。

「何でと……おやかたまで来るんだよ」

「自分の息子が関係してるんだ、来て当然だろう」

「おやかた大変っ!この子すごいケガしてる!熱もあるっ!」

落ちてきたポケモンを見ていた自称ギルド一の情報屋、トリミアンのネインが声をあげた。

「なにっ?早くギルドにっ!」

ネインが背中にそのポケモンを乗せて、彼らはみんなギルドに向けて走り出した。
そのポケモンの背中には何か鋭利なもので斬られたような、大きな醜いキズがあった




ギルド、サンセットに到着したエン達は、そのポケモンを寝床に寝かせてフラエッテのレナにキズを見せた。

「……これは酷い」

「な、治せる?」

「治せるけど完治まではわからないわ、この傷痕は消えないと思う」

「綺麗なポケモンなのに……誰がこんなことを」

エンはじっとそのポケモンを見つめた。薄青の体に真一文字のキズが走り、痛々しい。おまけに熱もあり、息が乱れていた。

「たぶん明日の朝には目が覚めると思う、でもその傷じゃあ動けないわ。それにいつ容態が急変するかわからないから、一晩中誰かが見てないと……」

「僕がやる、この子を連れてきたのは僕だから」

「ここに連れてきたのは私だけどねぇ」

と、ネインが言った。

「俺も見てる」

フウも頷いてそのポケモンの横に座った。

「じゃあ頼んだよフウ、エン」

おやかた夫婦はそう言うと自分達の部屋に戻っていった。

「じゃあ私も寝るね、容態が急変したら呼んで、あと時々濡れふきん変えてあげてね、じゃあ」

「俺らも寝るな、おやすみ」

「うん、おやすみ」

そこにはエンとフウとネインと落ちてきたポケモンが残された。




みんなしばらく黙っていたが、唐突にフウが口を開いた。

「……綺麗なポケモンだよな」

「夜明けの色、朝日と夜の闇の間の色ね」

「見たことがないポケモンだね」

「他の大陸のポケモンなのかな?」

「私は知らないね、私が知らないんだからみんな知らないわよ」

自称ギルド一の情報屋のネインが自信満々に答えた。

「……起きたらびっくりするかなぁ」

「目が覚めたらいきなり知らない場所だし、背中にキズがあるしおどろくだけじゃあ済まないわね」

エンは苦しげに息をするポケモンを見つめた。目が覚めたらおどろくだろう。どんな声なのか、どんな子なのか、明日の朝が楽しみだった。

「なあエン」

「なに?」

フウがエンに尋ねた。

「お前、明日この子にパートナーになってくれるか頼むか?」

「えっ……」

(考えなかったなぁ……この子と一緒に探検、楽しそうだな)

「お前、申し込まないんだな?じゃあ俺が申し込むから」

「だっ、ダメッ!」

「エン、声大きいわよ」

「ごめんなさい」

エンはしゅんとして俯いてしまった。

「じゃあ俺言ったからな、抜け駆けすんなよ」

「フウは一人でやってくって言ってたじゃないか」

探検隊は別に数の規定はない。ギルドに所属して探検隊の名前を登録すればいいのだ。

「いいだろ別に、気が変わったんだよ」

「僕も明日申し込むから!」

「あらあら、エンがここまで言うなんてねぇ。私も立候補しちゃおうかしら」

「「ダメッ!」」

その時、部屋からおやかた、ルウが出てきて言った。

「うるさい!」

低いドスの聞いた声だった。大分怒っている時の声だ。

「「ご……ごめんなさい」」

エンとフウは頭を下げて謝った。

ルウは小さくフンと鼻息を鳴らすと、部屋に戻っていった。

「母ちゃん、寝起きというか途中で起こされるといつもあんなな感じになる」

エンはぶるぶる震えていた。

そのあとの長い沈黙に耐えられなくなったのか、まぶたが急に重くなった。

(このままじゃ、寝てしまうっ!)

エンが前を見ると、フウも同じく今にも寝そうな雰囲気だ。

((こいつには負けないっ!))

しばらくにらみあったが、お互い寝そうなので、まったく意味が無さそうだった。

にらみ合いは長くは続かず、ほぼ同時にエンもフウも寝てしまった。

(……やっぱり寝たわね)

ネインは呆れてしまったが、二匹の幸せそうな寝顔を見てふっと口元を緩めた。


ことり ( 2013/11/30(土) 22:12 )