ポケモン不思議のダンジョン〜隷従と自由の交響曲(シンフォニア)〜 - 間章1
始動
「ただいまぁ!」

満面の無邪気な笑みを湛えたスカンプーが帰還した。

「ごめんねぇ、遅くなっちゃった」
「ちょっとアンタ、いつまで“外”をほっつき歩いてんのよ…って、またそれ?」

えへへと悪びれずに笑うデウに、つかつかと蹄を鳴らして近寄ったそのポケモンは、彼の脇に置かれた袋の中をのぞき込んで、半ば呆れたような声をあげた。

「ホント、アンタって物好きねぇ」
「えー? おいしいじゃん、これ。ここいらのポケモンが作ってる割には良くできてるとボクは思うよ。はい、エルヴ“わかくさグミ”のおすそわけ」

自らも“むらさきグミ”を齧りながら、デウは彼女の他の“仲間たち”にも次々と好物の色のグミを分け与えていく。

「あ、そぉだ。ねー、ボクね、さっき“サツキ”に会ったよ」

デウはいとも軽く言ったが、その内容に、ちょうどグミを飲み込んだエルヴは驚いて目を瞬いた。

「…アンタ、“アレ”に会ったの!? どこでよ!?」
「んー、『コロコロ洞窟』ってトコだったかなぁ。偶然だったんだよ。グミ探しててふらっと入り込んだら鉢合わせしたの」
「……だったらてめえ、何で引っ張って帰ってこなかったんだよ!! あぁ!!?」

いきなり、2匹の眼前に炎の壁が立ち上がった。
“仲間”の1匹から放たれたそれは、力任せに彼らの足元にたたきつけられ、火の粉を避けるため身を捻ったエルヴが「ちょっと、何するのよ!?」と甲高い声を上げた。

「逃亡者を見つけたってぇのにみすみす逃がすバカがどこにいんだよ!!」
「――お止めなさい、フロガ」

凛とした声。そこには、聴く者を従わせる絶対的なモノがあった。
彼らのいる空間の奥。
皆が注目する中、そこから、すらりとしたポケモンが立ち上がった。

「“アレ”に不要意に手を出すことは禁じる――と厳重に言っておいたはずですが? フロガ、もう忘れたのですか?」

決して“仲間”に対して向けられるものではない冷たい目線を、そのポケモンはフロガへと走らせる。
それを受けたさしもの彼も、黙って引き下がった。

「今はまだ泳がせておくのです。無論、常に監視下には置いておきますが。それにしても…」

短く、エルヴの名を呼ぶ。
呼ばれた彼女は一瞬、ぴくりと耳を動かした。

「“アレ”がいるのは、ギルド“アストラル”でしたね?」
「ええ、そうよ。出入りもしてるようだし、地元のポケモンにも確認済みよ。――心配しなくても、ちゃんと後で消したわよ」

ぞっとするほど非情な笑みを浮かべてエルヴはそう告げる。

「なるほど…。よりにもよって…ですね」
「なんでぇ? かえって都合がいいんじゃない? だってあそこにはボクらの“操り人形”がいるんでしょ?」
「それを差し引いても、という話ですよ、デウ。あそこのポケモンたちの力量はいささか厄介です。万が一我らが“計画”に支障をきたすようなことになれば…。――少々、目障りですね」

目をすがめて呟いたその言葉を受けて、今までに発されたどのポケモンのものとも違う、けたたましい笑い声が響いた。

「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!! ソウいうことなラ、オイラに任してヨ!」
「ユリン、ですか…」

空中を浮遊しながら、そのポケモンは、にたにたと始終気味の悪い笑みを浮かべていた。

「おっト、他の手出しハ無用ダゼ。そろそろ退屈してタんダ。“他の奴らはどうなっても構わない”だったナ?チョットくらい遊んデキテいいダろ?」
「ええ、ご自由にどうぞ。何でしたら、多少なり“殺して”きて貰っても、一向に構いませんが」

あっさりと告げられた言葉に対して、ユリンは歪んだ笑みを口の端に乗せる。

「――ソウ来なくっちゃあ…ネ」



こうして、誰も知らないところで、“エレメント”はごく静かに動き始めた。


しると ( 2014/07/24(木) 18:51 )