心の道標
地方が変われば町も変わる。町が変わればそこに住む人々も変わる。しかしポケモンセンターという施設だけは、場所を問わずにどこか似たような空気を持っている。戦い疲れたポケモンたちの回復をお願いする者。トレーナー同士で談笑し合う者。手持ちのポケモンと一緒に次の目的地に期待を膨らませる者。ポケモンセンターのみに共通する独特の気質。様々な人々の想いがこの空間には流れている。休憩用の椅子に腰掛け地図を眺めるティエラも、その一部だった。
「次は……と」
広げているのはイッシュ地方の全体図。彼が今居るソウリュウシティは、イッシュの中でも北部に位置する発展した都会の雰囲気が漂う街。イッシュ屈指の大都会、ヒウンシティ程ではなくとも。高いビルや隅々まで舗装された道、夜でも明るい街並みなど共通点は多い。丁寧に舗装されたアスファルトやビルの無機質な外壁。人工物に溢れた大通りは何となく落ち着かなかった。ポケモンセンターに入ってようやく一息つけたような感じだ。
ティエラの持つ地図を横からぬっと覗き込む大きな影。小さなポケモンセンターでは入り口の扉を潜れないこともある。全体は黄色、腹部から尻尾の内側にかけて色合いが薄くなっている。そんな黄色の中で一か所、背中の翼の爽やかな水色が際立つポケモン、カイリューだった。もっとも、翼の色に注目せずともカイリューというだけでそこそこ目立つ存在だ。ロビーを行き交うトレーナーの中に、思わず振り返るものも少なくない。イッシュ地方に生息は確認されているポケモンではあるが、野生のカイリューとなると目撃例はごく僅か。カイリューよりは見かけることのあるミニリュウやハクリューから進化させるにしても、成長の遅いドラゴンタイプ。育てるのには相当な根気が必要になる。そうした事実もあって、カイリューを連れているティエラが腕の立つトレーナーと認識されるのも別におかしなことではなかった。ティエラもカイリューのことを見せびらかしているつもりはない。頼れる相棒と次の目的地を休憩しながら確認している、それだけのこと。真剣に地図に目を通すティエラに、何か言いたげな視線を送ってくるカイリュー。長い付き合いだ。何となく伝えたいことは分かる。
「そんな顔しないでくれよ。念のための確認だって」
基本的な町から町への道のりが頭に入っていないようでは、面目丸潰れもいいところ。とはいえ、散々見慣れてきた道でも時たまふと不安になることがあるのだ。地図を見る限りでは、目的地まで行くのに一番効率がいいのは自分が思い描いていた道のりで合っていた。通り慣れた道でも一度確かめておくと、その後余裕をもって次の町を目指せる。カイリューに頑張ってもらうのが一番早いが、それは急ぎの場合。ずっと飛びっぱなしでは体に負担が掛かるし、風や雨などの天候条件にも左右される。相棒の翼に頼るのはほどほどで、基本は歩きだった。次までの道筋も見えたし、後はもうしばらく休憩させてもらうことにしよう。次の依頼者との約束は明日の昼頃。今からならば余裕を持って向かえるだろう。
「あの、もしかして……ティエラさんですか?」
手持ちの地図をしまおうとしたところ、ふいに背後から声がかかる。振り返るとそこには男の子が立っていた。歳は十代半ばくらいを思わせる。少年と青年の中間、子供とも大人とも言い切れない微妙な年頃だろう。彼の隣には細長い緑色をしたポケモンが、静かに寄り添っていた。イッシュ地方で旅立つトレーナーに送られる最初の三匹のうちの一匹、ツタージャが成長した姿。草ポケモン特有の爽やかな匂いが微かにティエラの鼻をくすぐる。誰だろう。道はともかく人の顔を覚えるのは大して自信がない。ただ、確かに男の子の顔には見覚えがあるような気がする。少なくとも彼は自分の名前を知っていたのだ。どこかで自己紹介する機会があった相手だ。ティエラは頭を巡らせる。
「覚えてないですか、ライゼです。ほら、一年くらい前。カノコタウンで。旅立つ俺に地図を渡してくれたじゃないですか」
ぴんとこない様子に彼は助け船を出してくれた。一年前。カノコタウン。ライゼという名前。ああ、ようやく思い出してきた。あの時カノコタウンで地図を渡した新米トレーナーのうちの一人か。となると、このジャローダは彼が連れていたツタージャか。立派に成長したものだ。ティエラの仕事は地図屋。それぞれの地方の町の配置図。道路、水道。チャンピオンロードに至るまで記した地図を売る仕事。主にこれからトレーナーとして旅立つ少年少女の親からの依頼が多い。今回の依頼者も新たに旅に出る男の子の両親からだった。そんな仕事上、旅立つトレーナーとの出会いは多い。短い期間に何人ものトレーナーと会うと誰といつ会ったかなど分からなくなってしまう。自分のことを覚えてくれていたライゼには少々申し訳なかったが、彼もまた自分が地図を送ったトレーナーの一人の中に紛れ込んでしまっていた。それに彼のような若者は、しばらく会わないだけで成長ぶりに驚かされることが多い。ライゼという名前のヒントがなければ誰だか分からないままだっただろう。
「すまないね。会ったのが随分前だったから。でも、立派になったな。君も、ジャローダも」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるライゼ。それに続いて慌ててジャローダも。この行為の意味が分かっているのかはともかく、微笑ましい光景だった。自分とポケモンの成長を言われれば、もっと喜んでもいいように思えたが。何やらライゼもジャローダも浮かない顔をしている。ふむ。何か気がかりなことでもありそうな感じだ。確かに若いうちから一人旅をしていれば、何かと悩みの種は尽きないとは思うが。
「立ち話もなんだ。君も座りなよ」
黙って頷いて、ライゼは机を挟んで向かい側の椅子に腰掛ける。視線はうつむきがちで口元はぎゅっと結ばれていた。ジャローダはそんな彼の様子を心配そうに見つめている。
「まだ旅は続けているんだろう。調子はどうだい?」
「……正直、厳しいですね」
重い口を開いて出てきたのは、厳しいの一言。それを皮切りに、ライゼは少しずつ言葉を紡ぎ始めた。
「この街のジムに勝てば、バッジは八つ揃うんです。チャンピオンリーグへの挑戦もあと少し、だと思ってたんですが……。そう上手くはいかないですね」
苦笑を交え、ライゼはふうと大きなため息をつく。旅立って一年。バッジを七つまで集められたのなら、なかなかの実力が身についているはず。最終進化形まで見事に育った彼のジャローダがそれを物語っている。旅立つ新米に送られるポケモンだからといって、軽く考えてはいけない。トレーナーの腕前が追いつかないと中間進化形止まりだったり、進化はしたものの言うことを聞いてくれない事例も決して少なくはないのだ。ただ、ポケモンでのバトルは、進化したから、長く旅をして経験を多く積んだからといって楽に勝てるような単純なものではない。
現にソウリュウシティのジムリーダー、シャガさんにはどうしても勝てず、もう二ヶ月近く挑戦しては負けてを繰り返しているとライゼは告げる。シャガさんはドラゴンタイプの使い手。草タイプで、しかも他のタイプの攻撃技に乏しいジャローダで挑めば確かに苦戦を強いられるかもしれない。ライゼの他の手持ちがジャローダを中心とした戦術で今まで勝ち進んできたのだとすれば、それは尚更のこと。
「俺と一緒に旅立った他のみんなは、もう旅をやめてしまったんです。あの時一緒にいたトレーナーの中で、残ったのは俺だけ」
確か、カノコタウンで地図を渡したトレーナーはライゼの他にあと三人いたはずだ。となるとその三人はもうトレーナーとして旅をしていないということになる。ライゼのようにジムで勝ち進めなくなったか。一人旅が孤独で耐えきれなくなったか。自分にトレーナーは向いていないと感じたか。その理由は定かではないが、自分が書いた地図を渡して見送ったトレーナーが旅をやめてしまうのはやはり少々寂しいものがあった。
「みんなの分まで頑張らなきゃって思ってたんですけど、こんなにも長い間負け続けてるのは初めてで……もう、どうしていいか分からなくて」
共に旅立った仲間がいなくなってしまった今、迷いや悩みを打ち明けられる機会は減ってくる。ティエラと偶然再会して、縋るような想いだったのだろう。まだ二回しか会っていない相手に、ライゼは胸の内を包み隠さず話してくれている。誰でもいいから自分の気持ちをぶつける相手が欲しかったのか。あるいは落ち着いた雰囲気の年長者なら、もしかしたらいい助言をくれるんじゃないか。彼は密かにそんな期待をしている気がした。
「やっぱり、俺もトレーナーとしての才能がなかったんでしょうか?」
才能。人が生まれ持った能力。響きはいいが、どちらかというと言い訳として使われることが多い言葉だ。諦めた理由に、才能がなかったからと言ってしまえばそれまでになってしまう。ここまで旅を続けてきたライゼならば、相当な努力を積み重ねてきているはずだ。これまでの長い旅路を才能の二文字だけで片付けてしまうのは惜しい。確かに生まれ持ったバトルのセンスに個人差はある。ただ、才能だけで一括りにできてしまう程ポケモンバトルは単純なものではないのだ。
「難しい、質問だね」
ある。と答えればライゼの一時的な気休め程度の効果は見込める。だが、所詮は中身の伴わない言葉。ライゼのことを大して知りもしないティエラがそれを断言してしまうのは無責任以外の何物でもなかった。そして、ない。と答えればライゼは再びジムに挑戦をする前に旅を諦めてしまうかもしれない。それくらい今の彼は追いつめられた状況にある。ティエラの答えは、分からない、だ。一人の人間の才能を見極められるほど、自分は偉くも立派でもない。ただの地図屋だった。
「そういえば、僕が渡した地図はまだ使ってくれているかい?」
「え、持ってます……けど」
「見せて欲しいな」
突然の話の切り替わりに、腑に落ちない様子でライゼは鞄から地図を取り出した。机の上に置かれたそれに、皆の視線が集中する。ティエラの隣にいたカイリューも、配る前の新品ではなく誰かが使い込んだ地図は物珍しいのか興味深げに覗き込んでいた。黙ったまま彼の地図を手に取り、ティエラはそっとページを捲ってみる。色あせた表紙の文字。擦り切れたページの角。所々に彼が書いたメモらしき走り書き。雨に濡れてくしゃくしゃに萎れてしまっている部分。一年間の積み重ねが良く分かる地図。外で開くことも想定して丈夫な紙が使われているので、破れこそしていないものの状態は決していいとは言えない。それでもティエラはどこか満足げに地図を閉じたのだ。
「すいません、せっかくの地図がそんなぼろぼろで」
「いや、とてもいい地図だ。君の歩いてきた道のりが良くわかる」
道路を外れた道端にある草むらのしるし。ここの岩山は険しいので避ける。この区域は雨が多いので注意。この場所で珍しいエモンガをゲットした、等。彼の地図はその場所での状況がとても細かく書き込まれていた。ジャローダと草むらを散策しているライゼの様子が目に浮かんでくる。これほどまでに地図を有効に使ってくれたトレーナーは、もしかすると今までいなかったのではないだろうか。
「そうですか? 俺にはよく分からないですけど……」
机の上のくたびれた地図からティエラが何を感じ取ったのか、ライゼはいまいち理解できないらしく疑問に満ちた表情をしている。今度は自分が手に取ってぱらぱらとページを捲ってみた。何度開いて閉じてを繰り返したか分からない地図。旅立ちの日にティエラから受け取って、この地図を頼りにしながらここまで来た。思えば長い道のり。それがこの先も続いていくのかどうか、正直分からなくなってきている。
「ちょっと気になってたんですけど、どうしてあなたはこんな書き方を? もっと詳しく出来そうなのに」
ライゼが開いて見せたのは、とある道路のページ。二股に分かれた道路があり、その横を川が流れている。地図から読み取れる情報はそれだけだった。シンプルで見やすくはある。見やすくはあるが、それ以外の詳しいことが分からない。ライゼが言いたいのはそういうことだろう。ティエラの書く地図は必要最低限の情報しか載せていない。町に隣接しているのは何番道路で、どの方向に進めばどの町に出るか、程度。分かりにくい地図と言われてもいた仕方がないことだとは思っている。手を抜いているのではなく、あえてこうした書き方にしているのだ。
「最初から完成された地図なんてない。旅の地図は旅人が歩きながら完成させていくものさ。新たに旅立つトレーナーには冒険の醍醐味を分かってほしいからね」
時間が経てば道も街も風景も変わる。今は最新情報の載った正しい地図でも、いずれは完璧なものでなくなってしまうだろう。ならば、最初から情報で埋め尽くされた地図ではなく、トレーナーが自由に作り上げていける創造的な地図の方がずっといい。それがティエラの持論だった。もちろん彼も自分の意見が絶対だとは思っていない。一般的な地図と比べると、分かりにくいことは事実。旅立つトレーナーに送りはしたが、評判がいまいちで他の地図に乗り換えられてしまったことも少なくない。分かり辛いと言われようと、使い勝手が悪いと言われようと、ティエラの意思は変わらなかった。今後、どんな地方へ行っても、どんなトレーナーに出会っても。彼は同じように書いた地図を渡すことだろう。
「それに、地図は綺麗でなくたっていい。むしろどんどん汚してくれて構わない。楽しかったこと、嬉しかったことだけじゃなくて、辛かったこと、悔しかったことすべて含めて君の冒険なんだから」
ティエラの言う冒険、が何を指すのかは目の前にあるライゼの地図がすべてを物語ってくれている。初めてのジムに挑戦して勝った。この場所でツタージャがジャノビーに進化した。ページの隅の走り書きの一つ一つが今のライゼにつながっているのだ。旅が楽しいことばかりでないのは、ライゼはもう十分理解しているはず。ぶつかった壁は高く厚い。どうすれば乗り越えられるかの見通しもつかない。
「俺の、冒険……」
ライゼは一言呟くように零すと、地図を手に取ってじっと見つめる。ページが折れ曲がって擦り切れて色あせた、古ぼけた地図。その表紙を穴が開くほど眺めた後、そっと鞄の中にしまった。ずっと俯きがちだった目線はいつの間にか前を向いていた。
「もし次にシャガさんに挑戦して勝てなかったら……俺、カノコタウンに戻ろうと思ってるんです」
次の挑戦で勝てなければ、カノコタウンに。それはつまり、彼の旅の終着駅がソウリュウシティになることを意味する。トレーナーとして旅立つ少年少女の多くは、チャンピオンリーグに挑戦して優勝することを夢見て旅立つ。しかし、リーグは狭き門。リーグ挑戦権であるジムバッジでさえ、すべて集めきるのは苦難の道のり。ほとんどのトレーナーは、旅を続けるうちにどこかできっと行き詰まるときがくる。そこで乗り越えるか引き返すかは自分次第。冒険を重ねて成長したライゼはもうあの時の少年ではない。夢を叶えることの難しさ、現実の厳しさもどこかで悟っているはずだ。
「そうか。それも一つの道、だろうね」
引き留めはしなかった。もちろんティエラとしてはまだまだライゼには旅を、挑戦を続けて欲しいと思う。ただこれはライゼの問題。自分が口を挟むべきではない。もしここでティエラが精いっぱいの声援を送れば、ライゼは思いとどまってくれるかもしれない。ここまで来られた君には実力がある。だから諦めるな。勝てるまで挑戦するんだ。思いつく言葉はどれも薄っぺらい。自分の無責任な発言で彼の気持ちを振り回すことだけはしたくなかった。旅を続けるにしても、やめるにしても、ライゼ自身が答えを出さなければ意味がないのだ。
「ティエラさんはチャンピオンリーグを目指したことはなかったんですか。強そうなカイリュー連れてますよね?」
傍らのカイリューをちらりと見やるティエラ。地図を配達するときは飛翔能力もあり、とても頼れる相棒だ。ただバトルになると、外見通り穏やかでのほほんとした所があって、あまり戦い向きの性格ではないように感じられる。今はどうだろう。旅をしていた頃ならばその辺のトレーナーと戦っても負けない自信はあったが。もう何十年も前の話だ。ポケモンバトルから離れて久しい今。自分にトレーナーを名乗る資格があるかどうか。
「さあ……どうだろうね」
かつてはティエラも、チャンピオンリーグを目指して旅立った少年の一人。勝利と敗北を積み重ねながらバッジを集め、何とかリーグまでこぎつけはしたものの。結局予選一回戦で敗退と苦い記憶が残っている。全てのジムリーダーに勝つだけでもやっとだったというのに、その先にあったリーグの頂点は果てしなく遠かった。目標を見失ってトレーナーを引退してからは、その時共に戦ったカイリューと運送屋のような仕事を転々としてきた。地図を配り始めたのは数年前。配達でさまざまな地方に赴いていたため、自分が旅をしたイッシュ地方以外の土地にも自然と詳しくなっていた。あえて余白の部分が多い地図を考えたきっかけは。旅を進めることや強くなることばかりに囚われずに、冒険そのものの楽しさを知ってほしかったから。
「話したくないなら無理にとは言いません。でも、先輩トレーナーのティエラさんから、何か僕にアドバイスを頂けませんか?」
もうティエラが先輩トレーナーであることがライゼの中で確定になっている。無理もないか。違うなら否定すればよかっただけのこと。確かに苦い思い出ではあるが、消し去りたいほど辛い過去というわけでもなく。胸を張って答えられない後ろめたさが曖昧な返事に繋がったのだ。アドバイスと言われても難しい。おそらくライゼは一番の相棒であるジャローダで勝ち進みたいと思っているはず。しかし、ドラゴンタイプへの相性を覆すほどまで育て上げるのは至難の業だ。やはり他のメンバーで補い合う必要が出てくる。二ヶ月近く挑戦し続けているライゼのこと。それくらいのことは当然彼も試しているだろう。安易な言葉は掛けられない。
「頑張れ……とは言わないよ。きっと君は十分頑張ってるだろうから」
勝つために作戦を練って、努力して。それでも勝てないからこそ苦悩しているのだ。既に頑張っている相手にどうして頑張れと言えようか。ティエラは椅子から立ち上がった。そろそろ次の配達に出かけなければならない。ライゼは晴れない顔をしたままだった。自分はこんなにどうしていいか分からず困っているのに、結局何も伝えずに行ってしまうのか。そう言いたげな表情。誰かを頼るのは悪いことではない。ただ、これからの道を大きく左右する事柄に対してはあまり口出しはしたくなかったのだが。とはいえここまで関わって、後は自分で考えろと突き放してしまうのも酷な話。ティエラなりに深入りしすぎない言葉を探り出した。
「じゃあ最後に、一つだけ」
顔を上げるライゼ。ジャローダも同じようにティエラを見上げて、じっと言葉を待っていた。
「僕が渡した地図が、君の思い出の品になってしまわないことを願ってる」
ライゼは何も答えなかった。ただ黙って、隣のジャローダと目を合わせただけ。今まで見たことがないような表情の主人を不思議そうに眺めるジャローダ。そんな相棒の姿にふっと笑うと、ライゼはそっとジャローダの頭を撫でたのだ。地図を持つか、手放すか。旅をやめるか、続けるか。返事は聞けなかったが、おそらく彼の心は決まっているだろう。
いつの日かライゼの名前をチャンピオンリーグで見られることを祈って。ティエラはポケモンセンターを後にしたのだった。