しるし
【十四】意味はある
 ラグラージとグラエナのバトルは、居ても立ってもいられなくなったヤミラミが二体のバトルに突っ込んでいった事で中断となった。
 互角の勝負を繰り広げていただけにどちらも不完全燃焼になってしまったのは間違いないのだが、横やりが入ってしまったためヒノテはそこで終了とした。
 次は叩き潰す、とばかりにまた視線を送り合った二体は、一先ずの引き分けを受け入れ、その場は引き下がった。
 認め合っている仲だからこそ、こいつにだけは勝ちたい。それを分かっているヒノテは、両者を労う。
「ラグラージもグラエナも、良いバトルだった。次のバトルも、頼むぞ」
 ヤミラミも含め、自分のポケモン達の頼もしさを目の当たりにしたヒノテは、自分自身もしっかりしなければ、と気合いを入れ直す。下からは才能あるトレーナー達がどんどん出て来る。鍛錬を続けていかなければ、すぐに追い抜かされるだろう。
「そろそろ昼にするか。メグリ、一緒にどうだ?」
「いいの?」
「もちろん。その辺で飯を食えるところあるか?」
「ある!」
 昨日の様子を見ていたヒノテは、朝からずっと笑顔の絶えない、楽しそうなメグリを見て嬉しく思っていた。バトルをする事は、彼女にとって本当に楽しいものなのだろう。
 心の底から楽しめるならば、やっぱり続けた方が良い。
 ただ、ヒノテはそれを口にはしなかった。口で簡単に言って解決するような問題ではない上、一人で首を突っ込んだって、どうこう出来るものではない。
 最後に決めるのはメグリ自身だ。良い方向であれ、悪い方向であれ、ヒノテも進む道は自分自身で決めて来た。実際にバトルをして、メグリが本当のところどう思うか決めるきっかけの一つにでもなれば良い。
 それくらいの後押しと、協力が精一杯だろう。
「どうだった? バトルは」
「すっごく楽しかった! ポケモンと息を合わせるのも楽しいし、緊迫感のある一瞬一瞬に集中するのって、気持ちいいね」
 普通は緊迫感のある一瞬一瞬を見る事なんて難しく、集中し続ける事だって、そう簡単に出来るものではない。
「多分だけどメグリの勘が良いのは、よくバトルを見ているって事だけが理由じゃないと思うよ」
「どういう事?」
「よく山で遊んでるって言ってただろ? えんとつ山をあのスピードで駆け回れるって事は、相当な集中力と体力がなきゃ出来ない。走りながらポケモン達の様子を観察だってしてるだろうし、そういう動きの中で、勘の良さが養われてるんだと思うよ」
「……そうかな。私、サボってただ遊んでるだけなのに、意味なんかあるのかな」
「あるある。フィールドに出て走り回るのも、勉強になるもんだよ。学校の勉強だって、置いて行かれないように自分でやってるんだろ? それに加えて、実際に外へ出て動き回ってるんだから、学校の奴らなんかより、ずっと力はついてるはずだよ」
 メグリは嬉しそうに、ありがとう、と素直に口にした。大人の都合でこの子を押さえつける事ほど、可哀想な事はない。だから、あまり首を突っ込んで行くのは良くないんだと分かってはいても、言葉を続けずにはいられなかった。
「だから自信を持てよ。メグリは凄い。学校をサボる自分を、もっと褒めてやれ」
「……うん」
 ラグラージが再びひょいと持ち上げ、メグリを背中に乗せる。”町長の娘”としての顔で笑う事には慣れているが、素の自分を褒められる事には慣れていないのだろう。どういう顔をすれば良いのか難しそうに、メグリはただ頷いた。
「よし、それじゃ飯を食いにいこう。案内よろしく」

早蕨 ( 2021/03/06(土) 21:00 )