僕は、ポケモンを燃やした
【二十八】
 翌朝、何事もなかったかのように僕はアパートへ戻った。モンスターボールからケーシィを出すと、眠っていたのでそのまま部屋の隅の寝床へ。綾子は、いつもと同じようにベッドで眠りについていた。
 昨日店長とどこへ行っていたの? そう聞ける関係性ではないどころか、僕がそれを知っている方がおかしい。後ろをつけようと思って店の近くで張っていた、なんて言ったら愛想を尽かされるに決まっている。
 いくら気になっても聞けないもどかしさにどうにかなりそうだったが、夜明けまで街を歩き回っていた疲れと徹夜した眠さが、今の僕をクールダウンするには丁度良いくらいに作用していた。
 立膝で壁によりかかると、眠る綾子の横顔が見える。いつもと何も変わらない。僕の前では会った時からずっと同じだ。
 そんな綾子が、随分砕けた表情をしていた事に驚いた。あんな顔が出来たんだなあ、と寂しい気持ちでおかしくなりそうだ。
「どうしたら、いいんだろう」
 自分でも良く分からない呟きを一つ。もう意識が飛びそうな程瞼が重い。もういいか。やっぱりこのままの関係を保っていた方が楽だ。
 これまでと同じように。それだけの事。
「貫太」
 目を閉じ、意識を飛ばしかけた僕を、綾子の声が起こした。
 呼ばれた声に反応してゆっくり目を開けると、こちらを向いて僕を呼んでいる。既に半分眠りかけていると言っていい。ふわふわした頭で、僕は「なに?」と返事をした。
「おいで」
 綾子がずれて、場所を空けてくれる。
「いいの?」
「いいからおいで」
 温かい布団。綾子の隣。その大きな誘惑は僕を立ち上がらせた。迷わずベッドに潜り込む。優しく僕を抱いて、綾子は言った。
「許してあげる。だからいいの。今は眠って」
 ああ、許してくれるのか。
 夢か、現実か。
 微睡の中、その一言が僕を安心させ、これ以上ない幸せの中、深い深い眠りに落ちた。

早蕨 ( 2020/07/18(土) 22:11 )