【二十六】
ある休日の夜、モンスターボールを使って、部屋でケーシィとキャッチボールをしている時の事だった。
ほとんど頭を空っぽにしてモンスターボールを投げていたものだから、ふわふわ浮かぶケーシィからずれたところに投げてしまった。
おっとっと、とボールに飛びついたケーシィは、そのまま部屋の隅に掛けてある綾子のバッグに引っ掛かって、一緒に床へ落ちた。
バッグの中身からは、散らばった綾子の私物がいくつか。やばいやばい、とすぐにケーシィを片手で抱き抱え、散乱した荷物をバッグの中へ戻していると、一つ、気になるものが目に入ってしまった。
「これって……」
モンスターボールが一つ。ケーシィが入っていたボールではない。綾子がポケモンを? そんな話は聞いていないが、なんのためだろう。
ポケモンを捕まえるために買った物なのか、誰かに貰った物なのか。
理由は思い当たらない。なんだろう。僕がケーシィと一緒にいるようになったからか、それ以外の理由なんて……。
考え続けているうちに、またどんどん気になって仕方がなくなってきた。こうなってくると止められない。モンスタボールの事だけでなく、その他の事まで考えてしまう。
だめだだめだと思いつつ、やってはいけない事が頭を過る。
ケーシィがバッグと共に床へ落下した事に驚き、泣きながら僕にしがみ付いてくるその力強さが、僕を咎めているようで一瞬躊躇いかけるが、すぐに思考は上書きされる。
バレなきゃいい。一度だけだ。それで満足するんだ。
人としてどうかと思う。だがもうその方向に僕は向いている。どうしようもない。
気付けば外に出る準備をしていた。時間も丁度いい。落ち着いたケーシィをモンスターボールに入れ、リュックの中へしまう。財布と携帯も放り込んで、それをしっかりと背負いこんだ。最近、夜にケーシィを連れて出歩く時は、購入したリュックを背負うようにしていた。
家で留守番させておけばいいのかもしれないが、先日ちょっとした買い出しのためにこっそり外に出た時、ケーシィは僕を探して外へふらふらと出てきてしまった事があったので、せめてもの防御策だ。
僕のこんな姿をケーシィに見られたくはない。本当は一緒に連れて行きたくはないが、仕方がない。
今の僕は、それだけで止まれる程落ち着いてはいなかった。
とにかく気になる。綾子の事が気になって仕方がない。
準備は出来た。電気を消した。大きく息を吐いて、ドアを開ける。
僕は、バイト先へ向かう。
夜も深まったタマムシへ、綾子の後をつけるため、僕は歩き出した。