【二十一】
「貫太君。君、カツラさんと知り合いなのかい? 一体どういう関係?」
例の如く閉店作業中は、手を動かしつつ唯一店員同士で世間話が出来る時間だ。来ると思っていたが、里中さんは案の定その話を僕に振ってきた。
「一度飲み屋で隣になった程度です。会ったのも二回目ですし、そんな大した関係ではないんですよ」
「そうかあ、でも凄いなあ。グレンジムまでは足を伸ばしていなかったから、僕カツラさんを生で見るの初めてなんだ。老練な感じがかっこいいよなあ。あ、でも老人って訳でもないのか」
本当によく喋る。トレーナーにとってジムリーダーはこういう存在に成り得るということを、初めて目の当たりにした。
「後さ、これはお願いなんだけど」
里中さんは声を小さくして、僕を店の端へ誘った。
「ごめんね。盗み聞きのつもりはなかったんだけど、カツラさんの話、俺も聞いちゃったんだ。明日、何とかって店で話をするんだろう? 失礼なのは分かってるけど、なんとか僕も連れて行ってもらえないかな」
そこまで言ってくるとは思わなかった。どこかでまた会うような事があるなら、サインの一つでも貰って来てくれくらいのものだと思っていた。
「ファンとして、ということですか?」
「ファン、というか、僕がバッジを集めている頃、会った事ないのがグレンとトキワのジムリーダーなんだよ。一度くらいは、カントーのジムリーダー全員と対面してみたくてね」
珍しくおちゃらけた様子のない、真面目な返答だった。
「そういうことでしたら、分かりました。里中さんもポケモンに詳しいでしょうし、是非同席お願いします。事情は、明日話します。十四時に架け橋ってお店なんですが、大丈夫ですか?」
「ありがとう。恩に着るよ。十四時に架け橋だね。絶対に行く」
里中さんは、心底嬉しそうに仕事へ戻っていった。あとは、出来れば綾子にも同席してもらいたい。
「おーい貫太! またぼやっとしてんのか! さっさと片付けろ!」
店長の野太い声が店に響いた。今日は大変申し訳なかった。きっちり、取り返さなくては。