【九】
自分に苛ついていきり立ったままでは、とてもではないけど帰れない。図書館を出て外をふらつき、時間を置いてから綾子の家へ戻った。
「じゃあ私バイト行ってくるからね。ケーシィにちゃんとご飯あげるんだよ」
「わかってる」
出かけて行った綾子。残されたのは、僕とケーシィ。初めてボールから出した時と同じ体勢で、机の上に座っている。僕も同じ体勢で、そっと隣に座る。ケーシィと触れ合う事に多少慣れてきたのか、ケーシィが僕に慣れてきたのか、最初程のびくつきはないが、やはり人が近くに寄ると一瞬その場から離れようとする動きは、変わらなかった。
「お前のしたいようにしていいんだからな」
頭をわしわしと撫でると、ケーシィは嬉しそうに鳴く。嬉しそうに、なんていうのは僕の勝手な想像かもしれない。それでも、隣に座った僕の足の間へもぞもぞ入ってきて、すっぽり収まったケーシィの姿を見ていると、嬉しそうにしていると思いたい。
「外で晩飯にしようか」
少しでもケーシィが安心して、びくつかずに暮らせるようになってほしい。僕の身体が空く時間で、ケーシィの負担にならない範囲で外を一緒に出歩くのは、悪くないと思う。
家の中にずっと居るよりは、良いだろう。
「よし、行こうか」
ケーシィを抱いて立ち上がる。財布と携帯だけポケットに入っているのを確認していると、ケーシィは理解したのかふわふわ浮いて肩に両足を掛ける。頭の上に手を置いて、準備完了ということだろうか。肩車が気に入っているらしい。
「ポケモンフーズばっかりじゃ飽きるもんな。何がいいかな」
一緒に入れる店だとすると、自分の働いている店でもいいが、今日はそうじゃない。ケーシィと町を歩いて初めて入るお店が良い。
僕とケーシィだけが知っている事を作るのは、こそばゆくも嬉しかった。
昼間は随分と偉そうな事を考えていたが、どう育てるとかどう接するとか、そうじゃないかもしれない。僕の感覚的には、ただの友達でいたい。難しい事は僕にはまだ理解出来ないし、上から目線で接するのではなく、対等でいた方が良い。友達のいない僕には、それはとても喜ばしい事だった。