【零】
僕は、ポケモンを燃やしたことがある。
動いているものを燃やすとどう反応するのか見たかった。動いているものを見ると襲いたくなる子どもだった。小さな生き物を理由なく殺す征服感が堪らなかった。道徳心のかけらもない浅はかな子どもだった。
半ば他人事のように、客観的な言い訳はいくらでも並べられる。ただ、当時の自分を顧みて、何故ポケモンを燃やしたのか正確に説明することは、今の自分には不可能だった。
記憶の中にはその光景が油汚れのようにベトついていて、まるで神になったかのように、俯瞰した光景が記憶の中に現れる。その状況を説明出来ても、何故そうしたのかは説明出来ない。
あれは幼い自分が行った事で、今の僕とはなんの関係もない。言ってしまえばそんな気持ちが強かった。ひどい事をしてしまった。それは理解できるのだが、ひどい事をしてしまった、という罪に苛まれるような、自己嫌悪に陥るようなことは決してなかった。正直に言えば、反省していないんじゃないかと思う。気持ち悪い、楽しい、悲しい、いろんな気持ちが撹拌され、言いようもない、何かを超越した感覚に陥った。燃やす前、その感覚が手に入ることだけは、わかっていたような気がする。どうしようもなく抽象的だが、そんな気分を味わいたかったのかもしれない。僕が出来る説明は、これで精一杯だった。
僕は、ポケモンを燃やしたことがある。タマムシシティにある大きな公園の林の中で、キャタピーを燃やした。ゆらゆらとした赤い炎に包まれ、ぐにゃりぐにゃりとうねる姿は、二十歳になった僕の記憶から、未だ消えない。