二章
[2-12]
 はることナオト。僕とサエさん。はることサエさん。
人は常に嘘をついている。言っている側は、まるでそれが事実であるかのように嘘をつく。嘘をついていると気分が悪い。気分が悪いから、それを本当のことだと自分をだます。自分にまで嘯き続け、やがて自分が一体何をしているのか、自分が一体誰なのかわからなくなってくる。本当のエピソードは、自分の中の長期記憶にしまわれたはずなのに。永久に忘れないはずなのに、まるで道端で見かけた花の名前のように、忘れたと偽る。
 そうしていくうちに、世の中みんなそんなものだと思い込む。幻想を見る。今度は自分が世界に嘯かれる。目が回る。気分が悪い。吐き気がする。もう嫌だ。もう、嫌だ。誰だ。叫ぶなよ。耳障りだ。そんな声聞きたくない。やめろ、もうやめてくれ。そんな悲しそうな声を出すな。出すな!


早蕨 ( 2012/11/14(水) 23:58 )