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具合の悪そうな色をしたビルが両側に建ち並ぶ路地で、僕はぼんやりと空を見上げていた。
「……窮屈な空」
数秒間そのままでいると、口からは自然とそう漏れ出た。嫌な感じがした。上から何かに抑えつけられ、体が重くなるような不快感が僕にまとわりつく。漏れ出た言葉もこの空も好きではない。狭いのは嫌いだった。
僕は少し不機嫌になって、視線を下ろす。
狭い。窮屈。気持ち悪い。この左右に並ぶ偉そうなビル。温かみの欠片もない暗い色のアスファルト。生温かく固い空気。ぜんぶ壊したい。このシティ全体の、地面から不気味に生えているようなビルを、全てなくしたい。こんな嫌な地面も壊し、まっさらな、広い場所にしたい。そうしたらどれだけ気持ちがいいだろう。そう考えただけで、僕の気分はふわりと浮かんだ。もう一度空を見あげると、その気分は一瞬で陰る。暗いその路地に棒立ちになりながら、僕はベルトについているモンスターボールを掴んだ。この中に入っている僕の友達ならば、きっとそれが出来る。少しずつ少しずつ壊していけば、いつかは僕が望む土地になる。
僕はずっとそう願っていた。全てなくなって、綺麗になって、どこに行くにも縛られず、何をするにも文句を言われない。そんな場所が、僕は欲しい。でも本当はそんな場所はなくて、作ることだって出来ない。僕にだってそんなことは分かっていた。
「お空はね、広いんだよ」
僕の記憶の中の彼女は、ずっとずっとそう言っている。僕の中で、ずっとずっと言っている。地上からほんの少ししか飛べない足でかわいく跳ねながら、小さな手で大きく身を振って、「広いお空を、私は見たいの」って、言っている。
今、彼女はその空を見ているだろうか。
僕はきっと、見ていないと思う。そんな空はないし、見ることはできない。そんなことはわかっている。わかりきっている。それでも、嘘でもいい、僕がどれだけ嘘吐きになっても、それでもいつか、本当の空を見せてやりたいと僕は思う。
あの子が喜ぶ、広いお空を。