#6 白い翼と青年の隠れ家と小さな同居人
「ふぅ…。やっと着いたな…。気遣いありがとうハク。」
(礼は要らない。それより…海を渡ったからか少し遠かった気がするな…。)
いつもより速度を落として飛行してくれたハクのおかげで凄く快適だった。景色も見ることができて、マンタインやケンホロウの姿も見つけた。
「とりあえず、街の周りを旋回してみてくれるかな。」
(分かった。寝床としていい感じの場所を探すよ。)
俺の言葉の意味を察して、ハクは周囲を見渡しながらゆっくりと旋回する。理解が早くて本当に助かる。
俺も探してみていると街の中央、公園のようなところの右に四方を高い壁に囲まれている場所を見つけた。
「ハク、あそこに降りよう。」
(なるほど。いい場所だな。分かった。)
街の人に気付かれないように勢い良く降りる。
草むらからチュリネやイーブイが飛び出してきて慌てているが、軽く撫でるとすぐに落ち着いてハクへと登って飛んだり跳ねたりしている。
何だか凄くほんわかしてる。
「はは。写真撮りたくなるな…。」
(ふふ。可愛い奴らだ。)
俺とハクはくすりと笑う。
チュリネ達がハクの頭に登り、髪飾りのようになっている。可愛いな…。
人間がいない場所にはポケモン達が沢山棲んでいる。俺にも懐いてくれてチュリネ達が何匹か頭に乗った。笑い声が聞こえたのでハクを見るとクスクスと笑っていた。
「おいおい…。笑わないでくれよ。」
(済まないハル。君の頭に乗っているチュリネ達が花飾りのようになっているからな…。)
笑いながら言うハクにむすっとした顔を向ける。俺のその顔を見てツボにハマったらしく、珍しく大笑いするハクとその上に乗っているチュリネとイーブイ。
俺も耐えきれなくなり爆笑する。凄く楽しい。ここを俺達の隠れ家にしたい!こんな楽しい場所…放っておけないな。
ポケモン達にここに寝泊まりしていいか聞いてもらったのだが、ずっとここにいていいよということらしいので今日からはここに寝泊まりする。これからの活動拠点はここだな。静かで凄く居心地がいい。ハクもそう思っているらしく、今にも目が閉じそうになっている。しばらく見ていると彼は寝てしまった。
ここは下水道に繋がっている。とりあえず俺は買い出しに行ってこようと思い、ハクの上に乗っているチュリネにハクが起きたら買い出しに行ってると伝えておいてとお願いした。
さて、下水道から出てきたはいいけど…広すぎる。案内板がないかどうか探していると街の方に小さくだが案内板らしきものが見えた。急いで近付くとやはり案内板だった。
目的の建物を見つけた俺はフレンチトーストの材料を大量購入しておいた。俺の分とハクの分。それとチュリネとイーブイ達、同居人達の分だ。
蝶番とベニヤ板、ネジ、ドライバー、取っ手、ロープも買った。結構な出費だったが気にしない…ことにする。したい…。
「ただいま。ってうわ!」
俺が帰って来たのを見つけた同居人達は俺へ一斉に飛びついてくる。
(お帰りハル。その荷物…もしかして明日の朝はフレンチトーストか…!?)
「はは。そうだよ。」
荷物の中に卵とパンを見つけたハクは俺に顔をぐいっと近付けて興奮した様子で言う。顔が近い…。鼻息が顔に当たる。
そんな彼の様子に笑いながら肯定する。すると彼は嬉しそうに鳴きながら、『大将討ち取ったり!』といったような感じで白い翼を掲げる。そこまで喜ばれると何だか恥ずかしい…。
俺は恥ずかしさを隠すようにある作業に取り掛かる。
まずはベニヤ板に蝶番と取っ手を取り付ける。そしてそのベニヤ板をこちら側から取り付ける。よし。大きさはバッチリだ。
最後にそのベニヤ板の隣にも取っ手を付けて、2つの取っ手にロープを通しぐるぐる巻きにする。ふぅ…完成だ。
(ほう。なかなかいいな…。)
「だろ?これでポケモン達以外は入って来れなくなったはずだよ。」
俺が作っていたのは下が開いている扉だ。これがあれば多少は人間が入って来る時の妨害になるはずだ。
同居人達は早速扉の下を何回も通り抜けて遊んでいる。
そろそろ夜が更けてきたので寝よう。フレンチトーストも漬け込んでおいた。扉も作った。今日やりたい事は全て終わった。
ハクの足に寄りかかる。やっぱりハクは温かい…。
「ハク…あの…。」
(遠慮など要らない。さあ、私に乗るといい。)
相変わらず察しがいいハクが、俺が何かを言う前にしゃがんで地面に手をつく。
「ありがとう。」
俺はハクに素早く登り、うつ伏せになる。さっきよりもハクの温もりを強く感じる。
「おやすみハク。」
(ああ。おやすみハル。明日を楽しみにしているよ。)
やっぱりフレンチトースト大好きなんだな…。
嬉しい気持ちを噛み締めながら眠りにつく。
「おはようハク。やっと起きたね。」
(おはようハル。さあ食べよう。今すぐ食べようじゃないか!)
いつもより早く起きてフレンチトーストを焼いているとハクが起きてきた。そして速攻で訴えてきた。まだ出来ていないんだけどなぁ…。
「もう少しでできるから、ちょっと待っててくれよ。」
(ぬ…まだなのか…。分かった。待っているよ。)
ハクは心底がっかりしたような感じで言うと、すぐに同居人達と戯れ始めた。その様子も見つつ急いで焼きまくる。
20分後…
「ようやく全部焼き終わった…。」
そう呟くとハクが食べ始めようとするが止める。まずは同居人達からだ。
ハクは完全に忘れていたらしく同居人達に謝っていた。どうやらハクはフレンチトーストの事となると周りが見えなくなるらしい。
何だか俺と少し似ている…。
俺も何かに夢中になると周りが見えなくなる。小さい頃からそうだった。
今もそうだ。ハクの事しか考えられていない。
でも…。それでいい。
「さあ、みんな。ご飯だぞ。」
そう言うと同居人達が恐る恐る近付いてきて一口。そして、『美味しい』を体全体で表現してパクパクと食べ始める。草むらから次々とポケモン達が出てくる。
それにしても多いな…!15匹程か?
「うお…。ここにこんなにポケモン達がいたのか…。」
(大体の数は把握していたが…。これは下水道の方から来たのか…!)
予想外の数に若干驚いたが、大量に焼いておいたので何とか大丈夫だ…。
これまた20分後、同居人達+αは満腹になって寝てしまっている。
さて…次はハクの分だがちょうどいい量が残っているのでそのまま食べさせよう。
「ハク。食べていいよ。俺の分も残さなくて大丈夫だからね。」
(分かった。では頂こう。)
やっぱりフードファイター顔負けのトンデモスピードで、こんもりと盛ってあったフレンチトーストを平らげていく。
「相変わらず凄まじいなぁ…。」
(褒めなくてもいい。ハルのフレンチトーストが美味しいだけだ…。)
褒めてはいないのだが…。まあ、美味しいならいいんだけど。
それから5分足らずで皿は空になった。この間のように、爪で挟んで猛烈な勢いで食べていた。やっぱり周りは一切汚さない。凄い。凄い…としか言えない。
(ふぅ…。やはりハルのフレンチトーストは最高だった。)
「そうか。それはよかった。んじゃ、ジム行こうか。」
今日はヒウンジムへ行く。ジムリーダーをぶっ倒してさっさと次の町へ行きたいからな。
ハクと一緒に頑張ろう。