ある青年の終わりへの道
#4 白い翼の激昴と青年の想い
(ん…。あぁ。)
気持ちの良い朝だ。太陽が輝いている。
私が起きるのはハルより少し早いので、ハルの寝顔を見るのが最近の私の日課だ。
たまに険しい顔をしているときがある。そんなときには軽く温風を送ると、穏やかな表情に戻るのだ。
さて、今日は起きているかな。
(ハルはやはりまだ寝て…)
いない…?ハルがいない!私が寝ている間に何が起きた!?
ハクはふと地面を見る。すると赤いものが落ちていて、コンビナートの外へと続いている。
(まさか…。いや、それしか考えられない…。誰かは分からないが私の逆鱗に触れたらどうなるか、その身をもって味わせてやろう…!)
私は吠えた。

タチワキシティではその朝、ポケモンの吠える声を聞いたと噂になっていた。


時間は少し遡り…………


「ふああ…。おはようハク。って今日は俺の方が早かったのか。」
じゃあ、この時間を使って食料やら色々と買いこんでおこうかな。
そう思って歩き出した瞬間。
「いましたね…。一斉に催眠術…。」
何者かに催眠術をかけられた。まさか…アクロマ!?
「…。」
薄れゆく意識の中でハクに呼びかけようと声を出そうとしたが無理だった。
俺は完全に意識を失った。


「う…うぅ…。」
目が覚めた。どうやら倉庫に連れてこられたようだ…。そして少し痛い。どうやら擦り傷から少し出血してしまっているようだ。
「おや。目覚めましたか。」
1度聞いたことのある声だ。この声は、忘れる訳が無い…!レントラーを殺した奴だ!
「アクロマっ…!」
「今回も実験のため、あなたの力を借りたいと思いましてね。ここに来てもらった次第です。」
アクロマは薄い笑みを浮かべながら言う。
「ああ。ちなみに今回の実験は、トレーナーがさらわれたらポケモンは追いかけてくるのか、ですよ。勿論来た場合は処分させてもらいますがね。」
「ふざけるな…!お前はどこまでポケモン達を苦しめれば気が済むんだ!」
いい加減頭に来てしまう。何より、こいつは自己中心的でポケモン達の事を生き物として見ていない。
反吐が出る…。

ズズー…ン

聞き慣れた着地音が聞こえ、吠えた。
「ハク!来ちゃダメだ!!」
咄嗟に叫んだ。あの時の光景がフラッシュバックする。
俺の上に覆いかぶさるレントラーの温かさ。
レントラーからとめどなく流れ出る赤いもの。
傷だらけで、いつもより軽く感じるその体。
嫌だ!
嫌だ!!
嫌だ!!!
もう大切な存在がおかしな奴らのせいで無意味に傷付くのは見たくない…!
「ハク!お願いだ…!来ないでくれっ…!」
(……私自身がハルに付いて行くと決めたのだ。そのような願い…到底聞けないな。)
倉庫の入り口付近を溶解させながら爆炎を纏った彼が鋭い目つきで現れた。

何で…来たんだ…!
(ハル!ボロボロじゃないか…!………許さない。貴様がアクロマだな…。)

ハクの纏う炎が一層激しくなり、彼の蒼い眼が赤くなる。
(貴様らのような生きる価値の無い者を相手にするのに抑制など要らない!)
彼の眼がさらに赤くなり、けたたましく吠える。
それが何かの引き金だったのだろう。ハクは暴れ狂う。これは『げきりん』だ…。辺りの物が高熱で溶けていく。

「おっと。これでは実験続行は不可能ですね。それでは、またどこかで…。」
アクロマはボールからオーベムを出してサイコキネシスで逃げていった。
しかし、ハクは暴れ続ける。倉庫の中の空気が熱くなっていく。彼は完全に正気を失っていて下っ端を1人、また1人と消し炭にしていく。
「あっつ…!」
俺を拘束していた金具が溶けてきている。よし、俺も覚悟を決めよう。
「うっ…!熱い…けど!」
熱で少し柔らかくなった金具を根性で押し広げ、両手の自由を取り戻す。それから足の金具を手で掴み無理やり引き伸ばす。当然そんなことをしたら火傷する。苦痛に顔を歪める。
だが、まだだ。次はハクを止めなければ。
彼に近付く。炎が行く手を遮る。さらに近付こうとすると炎の勢いが激しくなる。拒絶の炎だ。
気合いを入れて突っ走る。炎が体を撫でていく。
だが俺は止まらない。
ハクの元へと辿り着いた。俺の事には気付いていない。彼の足を登り、背中へ乗る。
「うあっ…。あ、熱い…!」
炎を纏った彼の体はひたすらに熱い。
だが俺は止まらない。
熱に意識を刈り取られそうになるのを根性で耐えて、彼の首に抱きつく。
「ハク…。もう…大丈夫だ…。止めてくれ…!」
彼の体がビクッと震える。それと同時に纏っていた炎が消えていく。
(…ハル…か?)
良かった…。いつものハクに戻った。
安心したら急に意識が遠のいた。その時、ハクが必死に呼びかけてくれた気がした。


―――


「うぅ…。あっ…!マズい…!行かないと!」
「待って。その体で動いちゃダメよ!」
目覚めた俺は激しく痛む体を無理やり動かしどこかにいるハクを探しに行こうとした。しかし、ジョーイさんに止められた。
「ハクを…。ハクを迎えに…行かなきゃいけないんだ…!」
「彼なら外で待っているわ。心配しなくていいのよ。」
うん…?何でハクの事を知っているんだ?
「何であなたがハクの事を…?」
「え?ああ…。実はあなたを連れてきたのは彼なのよ。あの子昨日大慌てでここに来て、地面に炎で文字を書いてたの。『ハルを助けてほしい』って。」
心底驚いたというような表情をして語るジョーイさん。ハクが連れてきてくれたのか…。
「それにしても凄いわね。伝説のポケモンをゲットするなんて!」
「別に凄くないです。それとハクを伝説のポケモンって呼ぶの止めてもらえますか?あとハクはゲットしてません。」
この人も差別するのか…。呆れつつ少し声を荒らげ言う。ポケモンも人間もみんな平等なんだ。
「あら、そうなの…。ごめんなさい…。」
「分かったのなら…いいです。」
素直に謝るジョーイさんに少し好感を持てた。こういう人間もいるんだな…。
とりあえずハクの様子を見たいと思った俺は、近くにあった車いすで窓の外を見る。すると、やはりというか何というかハクは野次馬に囲まれている。
「拡声器ありますか!あるなら今すぐ貸してください!」
「へ?わ、分かったわ。」
走って取りに行くジョーイさんを横目にハクの様子を見る。親が子供をハクの背中に乗せようとしてる。
「やめろ……!乗せるな……!」
声が出ない…。どうしよう…。

「お待たせ…。拡声器よ…。」
戻ってきたジョーイさんが息を切らしながら言う。手に持っていた拡声器をすぐに取って叫ぶ。

やめろ!乗せるな!今すぐそこから離れろ!

その声に群がっていた人達はすぐにどこかへ行った。同時にハクが急上昇してきて俺の病室の前でホバリングする。
(ハル!済まなかった!大丈夫なのか!?怪我は!?)
軽いパニックになっているみたいに矢継ぎ早に聞いてくる。テレパシー全開で話すもんだから頭がキンキンして仕方がない。
「ハク落ち着け…。俺は大丈夫だから…もう少し…静かにしてくれ…。」
(済まない…。少し興奮してしまった。それで…治るまでどれくらいかかりそうなのだ…?)
落ち着きを取り戻した彼が、恐る恐る聞いてきた。心なしか瞼が震えているようだ。
「ここにいるジョーイさんが言うには2週間で退院出来るらしいよ。」
(2週間もか…。ハル…。本当に済まなかった…!)
静かに泣き出すハク。
別にハクが悪いわけじゃないんだけどなぁ…。
とりあえずハクの背中に乗り、首を撫でる。

しばらく旅はお預けか…。暇になるな…。

ささくれ ( 2019/02/02(土) 19:12 )