ある青年の終わりへの道
#2 白い翼の想いと青年の想い
「ガル。」
レントラーが呼んでいる。今行くよ!
あれ?声が出せない。どうなっているんだ?
「ガル…。」
レントラーは厳しい顔でゆっくりと首を横に振る。来るな、っていうことか?
何でだよ?
俺達いつも一緒だっただろ?
何か言ってくれよ!
俺の前からいなくならないでくれ!!



(ハル!どうした…!?何故泣いている…?)
気が付くと俺は純白の毛の上にいた。どうやらレシラムの背中で寝てしまっていたようだ。
レントラーとの思い出と、涙がとめどなく溢れ出てくる。
「レントラー…。何で…。何で…!」
(落ち着け。ここにはレントラーはいない…。目を覚ますんだ。)
レシラムが優しく語りかけてくる。何だかほっとする温かさで、再び睡魔が襲ってくる。

目が覚めたら何故か少し落ち着いていた。夢と現実がごっちゃになって混乱していたようだ。
(少しは…落ち着いたか?)
レシラムは振り返って聞いてくる。
「ごめんレシラム。取り乱して…。もう大丈夫だよ。」
(そうか。それなら良かった。)
レシラムは微笑み、歩み始める。
レシラムは俺のことを詳しく聞こうとはしなかった。
だけど俺にはそれが嬉しかった。
聞かれたとしても答えることが出来なかっただろうから。
「本当に…ありがとう。レシラム。」
(だから言っただろう?礼は必要ない。全く…ハルはおかしな人間だ…。)
彼は言葉とは裏腹に微笑んでいる。

ようやく気付いた。俺はポケモン達の笑顔が大好きなんだ。
俺の言葉で、行動で、笑ってくれるのが嬉しいんだ。
だから、俺はポケモン達を笑顔にしていきたい。
人間の事情なんか関係ない。
「さ、レシラム。ここからは歩いて行こうか。」
タチワキシティはすぐ近くだからね。
(了解だ。では…。)
「あ。そのままで大丈夫だよ。降りる時までレシラムの手を煩わせる訳にはいかないからな。よっ…と。」
降りようとする俺を手伝おうと、レシラムがしゃがもうとしてくれていたがこの位の高さなら飛び降りても大丈夫だ。
(凄いな…。前に乗せた人間は私から飛び降りることなんて出来なかったぞ。)
レシラムが感心した様子で言う。
そして、少し考えるような素振りをして。
(それとだな。レシラムというのは種族名であって名前ではないのだ。だから…ハル、君が私に名を付けてくれないか?)
「俺が…お前に…名前を…?」
レシラムの突然のお願いに固まる俺。俺でいいのか…?
「俺で…いいのか…?人間なのに人間不信で…ポケモン達としか関わらない面倒臭い俺なんかが…お前の名前を決めて…いいのか?」
思っていたことが言葉に出てしまう。
(勿論いいさ。君は優しい。途方もなく、な。ただ、その優しさが私達ポケモンに向いているというだけの事だ。それに、人間不信になってしまったのはハルのせいではない。アクロマとやらのせいだ。君が気に病むことはない。もしもハルが善の心を持っていなかったのならば、私は君の仲間にはならなかった。君は気高き善の心を持った最高の人間だ…!私が保証しよう!)
興奮して炎を纏い始めたレシラムは、自分を落ち着けるかのように一呼吸置く。
(私は君に名を付けてもらいたい。どうか…頼む。)

彼は、その白い翼で俺を包み込む。
抱きしめられた。
彼の、炎タイプ特有の少し高い体温が伝わってくる。
心に温かいものが広がる。
それは心に巣くう黒いものを塗り潰していく。
彼は俺を信用してくれている。
俺もレシラムを信頼している。
なんだ…。
だったら、悩む必要なんて…ないじゃないか。
渋っている自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
「分かった。だけど、大事な名前なんだ。すぐには決められない。少し考えさせてくれ。大事な仲間の、一生使うかもしれない名前だからな。」
俺は抱きしめてくれている大きな白い翼を抱きしめ返す。
彼に、にっこりと笑顔を向ける。
笑うことにも、もう抵抗は無くなった。
これも彼のおかげだ。
彼は抱きしめられた瞬間はっとした表情になって、顔を俺に近付けて優しく微笑むと。
(ハル、ありがとう。本当に…感謝する…!)
彼は嬉しさで体を震わせる。
そして、俺を抱きしめる白い翼に込めている力を強める。
少し痛い。だが、力強さの中に優しさが溢れている。
力強くて優しい白い翼。
そうだ…!
「ハク。」
(うん?どうした。)
首を傾げるレシラム。
「名前。ハクっていうのはどうかな?白いからハク。凄く安直だけどいいと思うんだけどな。」
(ハク…か…。うむ!いい名だ…!では、私はこれからハクだ!今後私をレシラムと呼んだら許さないぞ?)
いつもの優しい微笑みを俺に向ける。

俺の『いつも』は無くなった。
だけど『いつも』はまた、戻って来るらしい。


―――


私はずっと名が欲しかった。トレーナーがポケモンを呼ぶために使う種族名などではなく、仲間としての名が。

ハルと言う人間は面白い。いや、面白いと言ったら失礼だな。
ハルは不思議だ。相棒の無念を晴らすため復讐をしようとする人間なのだが、心は優しい。ポケモンには憎しみなど一切見せない表情で接している。
私はハルが好きだ。守りたい。ずっと一緒に旅をしたい。
だがそれは出来ない。
私は真実を追い求める者と行動を共にするポケモン。ハルの求める真実は彼の相棒のように殺されるポケモンがいない世の中にすること。それはいつかは叶ってしまう。

だから私は彼をいつまでも忘れぬように、ハクと言う名を与えてもらった。白いからハクだそうだ。安直だが心が籠っているからいいのだ。
私は真実を追い求める者と行動を共にするポケモンとして、ハルの仲間として、彼を真実へと辿り着かせる。それが私の役目だ。

隣を歩く彼を見る。するとハルも私を見る。そして意味もなく互いに笑う。
私は幸せだ。少しの間でもハルと居られれば幸せだ。


―――


「さて…タチワキシティに着いたな。レs…ハク!コンビナートの方で待っててくれないか?必要な物を買ったら俺もすぐ行くから。
(分かった。飛んで行けばいいのだろう?それと…私はもうレシラムではないからな…?)
ハクは顔をぐっと近付けて薄く笑いながら言う。怖いです…。
「ごめん。以後気を付けるよ。じゃあ行ってくるよ。」



白い翼と青年の『いつも』は始まった。
だがそれは、早くも音を立てて崩れようとしていることに彼らは気づいていない。

ささくれ ( 2019/01/28(月) 17:56 )