#9 青年と白い翼の災難と成り行きのダブルバトル
「あぁ…。今日は…いい夢だったな。」
今日はいい夢を見ることができた。
ハクとの出会いの夢だ。あの時は本当にびっくりした。まさかハクと旅をするとは思いもしていなかった。
「ハクおはよう!」
(おはようハル。ふふ。今日はテンションが高いな。)
俺が笑顔で言うとハクは笑い返してくれた。ハクとの思い出を見ることができたからな。
今日は凄く気分がいい。アーティのことも気にならないほどに。
とりあえず、今日はライモンシティを下見しようと思っている。そして、できそうなら明日ジムリーダーを倒す。そんな感じでさっさと突破したい。
「ハク。今日はライモンシティに行こうか。」
(分かった。では行こう。)
何回目か分からないが、ようやくハクの手助けがなくても背中に乗ることが出来るようになった。
ハクは最近、ゆったりと飛ぶ。俺も景色を見ることが出来て嬉しいし、何よりハクが楽しそうなので嬉しい。
季節は春に差し掛かり、寒さは和らいで来た。
(そういえば…ハルは春に産まれたのか?)
「そうだね。だからハルなんだよ。個人的にはこの名前好きだけどね。」
春に産まれたからハル…安直だけど俺はとても気に入っている。爽やかな感じがするから好きだ。
(ふふ。私も君が付けてくれたハクという名は好きだ。安直だが何故かしっくりくるのだ。安直だが気持ちが籠もっているからだろう。安直だがな。)
「ハクわざとだな?安直安直って何度も言わないでくれよ。」
悪戯に成功した子供のような笑顔を浮かべたハクが、ちょっとした悪ふざけだと言った。何か悔しいな。
(それはそうと…そろそろ着くぞ。)
その声に反応して下を見てみると、祭りかと思うほど派手な街が目に飛び込んできた。
「うっわぁ…。これまた面倒臭そうな街だな…。」
(音はないが、うるさい街だな…。)
ハクには人のいないところに着地してもらった。
とりあえずジムの下見に行こう。それで明日ジムリーダーを倒して、さっさとこの街を出よう。目が疲れる街だ。
「ねえねえ。君、力を貸してくれないかな?」
下見をしようとハクを呼ぼうとしたら、何者かに話しかけられた。
「いきなり何なんだ?初対面の誰だか分からない奴に、誰が力を貸すと思うか。」
「お願いだよ!賞金は全部君にあげるから!」
ふむ。最近結構深刻な金欠だから嬉しいが…怪しいな。
「分かった。だが、何か問題を起こしたら焼き尽くすからな…?」
「うん!じゃあこっちに来て!」
腕を引かれて連れて行かれたのはバトルサブウェイと言われる電車の駅の前だった。
そこには車掌姿の2人がいた。
「おや?その方がパートナーですか?」
「そこで会ったようにしか見えなかった。」
丁寧な口調で話しかけてくる黒い服の人と内気っぽい白い服の人の対照的な2人だ。
「自己紹介が遅れましたね。私はノボリ。サブウェイマスターを務めさせて頂いています。」
「僕クダリ。サブウェイマスターやってる。」
ノボリとクダリ…か。名前まで反対なのか。
「私はメイだよ。よろしくね!」
「メイ。さっきの…忘れるなよ?」
「勿論忘れないよ?」
さて、賞金のために頑張ろう。
「では始めましょう。ギギギアル!」
「ノボリ兄さん、頑張ろう。ダストダス…!」
「私達も頑張ろう!オノノクス!」
「ごめんハク。頼むよ。」
こうして始まった4人によるダブルバトルなのだが…メイのクズさがよく分かったバトルだった。
「ギギギアル、オノノクスにラスターカノンです!」
「ダストダスはハク?にヘドロ爆弾…!」
「ハク、ギギギアルにクロスフレイムで頼むよ。」
「行っちゃえオノノクス!地震よ!」
先に動いたのはギギギアルだった。ギギギアルは白い光を収束させて発射した。オノノクスは耐えてメイの言葉通り地震で全員を攻撃した。
味方であるハクもまとめて、だ。
ハクは突然の味方からの攻撃に驚きはしたものの、気を取り直し火球をギギギアルに叩きつける。勿論ギギギアルは戦闘不能になった。
最後にダストダスは汚い色の球体をハクに向かって投げつけた。ハクは食らってしまったが毒は受けなかったようで一安心だ。
それよりも…!
「メイ…?あんた何考えているんだ?地震なんて使うなよ。」
「だって相手の弱点を付ける技だよ?少しくらいはいいじゃん。」
ダメだこいつ。いかれてる。
オノノクスは悪くないが…メイを止めなければ!
「ダストダス、オノノクスにギガインパクト…!」
「ハク、竜の波動でオノノクスを倒してくれ…。」
俺の言葉の意味を察したハクは波動を放ちオノノクスの体力を刈り取る。
ダストダスは戸惑いながらも標的をハクに変更して、全身を使ってとてつもない衝撃を与えた。ハクはその威力で半歩程後ろに下がってしまったがまだまだ平気なようだ。
「ハク、クロスフレイムで頼むよ。」
「ダストダスは反動で動けない…。」
ハクが火球を作り出し、大技を使い動けなくなっているダストダスに叩き付ける。
当然ダストダスは戦闘不能になった。
「なるほど…。コンビネーションはダメダメでしたが個々の能力が光っていましたね。特にそのポケモン…ハク、でしたか…。とてつもない力を持っているようですね…。」
ノボリが不思議そうに語る。だが、今はそんなの気にならない。
メイ…!こいつだけは絶対に許さない!
大切な存在を効率のために傷つける…。最低のクズだ…!
俺の人生で2度目の殺意が湧いてきた。
(ハルやめるんだ…。)
俺の心中を察してかハクが俺を止める。
だけど今は止まるわけにはいかない。こいつからはアクロマと同じ感じがする。自分のためだけに関係ない人やポケモンを巻き添えにする。
「ハク止めないでくれ。こいつはアクロマと似ているんだ!今止めないと誰かが不幸になる…!」
(ハル!そんな事をしてはいけない…!)
ハクが何か言っているが今の俺には聞こえない。
(仕方ない…。ハル少し痛いだろうが我慢するんだ。)
ハクは俺に噛みつきそのまま空へと羽ばたく。俺は完全に頭に血が上っていて、俺を助けてくれたはずのハクを何度も殴りつけていた。
(ここまで来ればいいだろう。さて、ハル。頭は冷えたか?)
「うん。ごめん。ハクの事を何回も殴って…。それと、ありがとう。あそこで連れ出してくれて。」
ハクは俺を咥えて隠れ家へと
俺は馬鹿だ。
何で守ってくれたハクを殴ったんだ…。
これじゃあプラズマ団みたいじゃないか…。
(気にする必要はない。私に凶暴な面があるように、君にも凶暴な面があったというだけだ。)
やっぱりハクは…優しすぎる…。
そんな事言われたら…謝れない…。
「ハクは…本当に優しいね。」
(優しいのはハルも同じだ。さっきだって私のために怒ってくれたのだろう?)
そうか…。さっき、俺はハクが無意味に傷付けられたから怒ったんだ。
ということは…俺は優しいのか…?
いや…違う。俺は優しくなんかない。
(とにかく、明日はジム戦なのだろう。早く寝た方がいいと思うのだが。)
ニコリと笑って言うハク。
そうか。ハクは最初から怒ってなどいなかったのか…。
何だか馬鹿らしくなってきた。
「それもそうだね…。こんなこと考えるより…寝た方がいいな…。」
寝たら忘れるはずだ…。
(そうだな。私も一緒に寝よう。おやすみハル。)
「うん。ハクおやすみ。」
やっぱり…ハクは優しすぎる。