#7 白い翼と青年の闘い VSアーティ
アーティ。それがヒウンシティのジムリーダーの名前だ。ジムリーダーと共に画家もやっているらしい。絶対変人だな。
偏見だとは思うが画家は大体変人だ。俺の親父も撮った写真を絵にすることがあって、やはり少し変な人だった。まあ、嫌いではなかったけど。
「それじゃあ、少し待っててよ。」
(分かった。念のため軽くウォーミングアップしておく。)
いつもはハクをジムに連れて行っていたが確実にヤジウマが集まるので、彼は後で連れて行くことにした。とりあえず、アーティを呼ぶために隠れ家を出る。
「はぁ…。広すぎだろ…。」
ジムを探しに出た俺は2度目のため息をついた。ここ、ヒウンシティは今まで俺が見て来たどの街より広い。田舎育ちには少々キツい。
とりあえず案内板を見てみる。するとしっかりとジムの位置が書かれていた。
馬鹿だった…。最初から案内板を見れば良かった。ふと空を見上げると、ハクがアクロバット飛行をしていた。あれってウォーミングアップ…なのか…?
気を取り直しジムに入る。率直な感想を言うと、気持ち悪い。虫の繭を模したものが沢山あって、虫が嫌いな奴は卒倒するレベルだ。俺は虫は苦手ではないけど、流石に嫌悪感が湧き出てくる。
「ジムリーダー、アーティ!この先の噴水広場で待っている!」
やっぱり変態か…。面倒臭いが大声で叫ぶ。ハクを迎えに行くために、一旦隠れ家戻ろうとすると誰かに肩を掴まれた。振り向くと奇抜な格好をした男がいた。
「今僕を呼んだのは君だよね?」
「お前がアーティか…。気持ち悪い服だな…。」
やっぱり変態だった。黄緑色の服に深緑、薄紅、黄緑のストライプのズボン、そして薄紅色のマフラーと蝶を模したベルトを着けた男。気持ち悪い以外の言葉が出ない。独特というレベルを通り越している。
「気持ち悪い!?いきなり失礼だなぁ…。それより、僕を呼び出した理由は何だい?」
「お前に勝負を挑むためだ。俺が勝ったらジムバッジを渡して持っているボールを全て壊せ。お前が勝ったら煮るなり焼くなり好きにしろ。」
お馴染みの台詞を言い放つ。悪役っぽいけど気にしない。
「そうか…。君が伝説のポケモンを連れた道場破りか…。いいよ。その勝負受けるよ。」
また伝説…。ハクはそこらへんの人間より比べものにならないほど賢くて優しい。そんな言葉で片付けるなんて論外だ。
「じゃあ噴水広場で待っていろ。」
さて、ハクを迎えに行こう。歩き出した俺の背後から、身勝手だなぁと声が聞こえた気がした。
身勝手で何が悪い。俺より身勝手な奴はたくさんいるはずだ。アクロマとかな…。
「3つ目のバッジの相手を呼んだから行こうか。」
隠れ家へと戻ってきた俺は相変わらずの、同居人達の激しい「お帰りの洗礼」を受けながら言う。
(分かった。さあ、私の背へ。)
「じゃあ、噴水広場に頼むよ。」
ハクは軽く頷くと飛び上がる。
1分程で広場へ着いた。アーティは噴水の前で待っている。ただ、アーティの周りに人だかりができていてハクが着地できない。
「チッ…。ハク。大通りに着地しようか。」
(分かった。ではあそこに降りようか。)
俺達の姿を見てもどこうとしない人達にイライラしつつハクに言う。ハクは目線で着地できそうな場所を伝えてきた。人もそれほどいないので彼に着地してもらう。
「はぁ…。この街…嫌いだな…。」
あまりの人の多さにうんざりして、歩きながら呟く。左手でハクを撫でると彼の体温が伝わってくる。
やっぱり俺はハクとポケモン達がいれば、それでいい。
「遅かったね。てっきり来ないのかと思ってたよ。」
「俺達より弱い奴から逃げる必要なんてない。」
アーティが皮肉を言ってくるが、そんなことを気にする意味はない。
「じゃあバトルと行こうか。みんなは危ないから離れてね。」
アーティは周りに集まっている人に離れるように言う。俺はたくさんの人が邪魔だと思っていたので、それだけはアーティに感謝だな。
「今回も頼むよ。ハク。」
「イワパレスお願いね。」
ハクは大きく頷き前へ出る。アーティはイワパレスを繰り出す。
「イワパレス、最初から全力で行くよ!殻を破る!」
「ハク、クロスフレイムで頼むよ。」
ハクはいつも通り巨大な火球を作り出し、イワパレスに叩きつける。が、イワパレスは重そうな殻を脱ぎ捨てとんでもない速さで動き回っている。火球は殻に当たり大きな爆発が起こる。
「(くっ…!)」
俺とハクは同時に声を漏らす。ホミカのペンドラーと同じかそれ以上の速さだ…。
(ストーンエッジを使いたい。いいか?)
どうするか悩んでいた俺にハクが聞いてきた。ストーンエッジがどんな技かは知らないが、この状況を打破できるならそれに越したことはない。
「うん、大丈夫だよ。」
(分かった。では私の背に乗るんだ。)
一瞬ハテナが浮かんだが、広範囲技なのだろうと納得して急いでハクの背中に乗る。
(落ちてしまうと危ない。しっかり掴まるんだ。)
そう言われハクの首に抱きつく。直後、エレベーターの何倍かの重力と浮遊感を味わった後ズドドドドドンと工事現場のような轟音が響いた。
(ハル。もう降りても大丈夫だ。)
そう言われ顔を上げると、整備された道がズタボロになっていてイワパレスが戦闘不能になっている。何か凄いことが起きたのは分かる。
とりあえずハクから飛び降りて少し離れる。
「これがストーンエッジ…ねぇ…。普通のとは威力が桁違いだね…。」
アーティが呆れたように言う。
「まあ、道場破りには負けたくないからこっちも本気で行くけどね…!出番だよ!ハッサム!」
「わざわざ炎に弱いポケモンを出してきたか…。負けたいならいいけどな。」
何で強力な炎が使えるポケモンに炎が苦手なポケモンを繰り出すのか…。可哀そうでならない。
「ハク、クロスフレイムで頼むよ。」
「ハッサム、バレットパンチ!」
ハッサムは背中の羽根で急加速してハクに軽いパンチを数発叩き込む。しかしハクはのけぞりもせず火球を叩き付ける。本当に死んでしまわないように少し手加減して放ったその一撃は、ハッサムの体力を刈り取るには十分な威力だった。
「何考えてんだ?あんた。もっとポケモンを大事にしろよ!」
「勿論大事にしてるさ。さあ出番だよ!ヒウンジムの守り神、ハハコモリ!」
ダメだこいつは…。ポケモンを労わろうともしない、最低な奴だ。
こんな奴はさっさと倒す。それだけだ…!
「ハク…。そこの最低な奴との勝負にクロスフレイムで決着をつけてくれ。」
「ハハコモリ、シザークロス!」
さっきと同じように手加減して放ったクロスフレイムはハハコモリをたやすく戦闘不能にした。
「最低だな…あんた。ボールを壊してバッジを渡せ。」
「悔しいけど君は強い…。だけど僕より強いジムリーダーは沢山いる。覚悟しておくんだね…。」
他力本願、それにポケモン達を道具のように扱う…。クズだ。ああ…イライラする。
「帰ろうハク…。そして寝よう。」
(…分かった。)
さっさとこの街を出よう。あいつの顔なんてもう2度と見たくない…!