とあるポケモントレーナーの対戦記録
僕はしがないポケモントレーナー。僕と対戦した人は必ず、僕を「狂った変態野郎」と言うんだ。何でだろう。僕はただのポケモンと暮らす紳士なのにね。
今日もライモンシティで対戦するよ。僕は3匹のポケモンをボールから出して(バトルしよう)と書いたスケッチブックを掲げる。すると僕の隣でピョンピョンと跳ねている綿毛が1匹。この子は僕の1番の相棒だ。モッフモフで触り心地がとてもいいんだ。その子を抱きかかえて撫でる。その子はとても喜んで僕の顔へ張り付く。いつも通りゆっくりと剥がす。
「だめじゃないか。いつも言っているだろう?」
軽くたしなめるとその子は頬を膨らませてふてくされてしまう。
「分かった。でもほどほどにね。」
いっつもこの子に負けてしまう。悪戯が大好きだから毎回こんな感じで甘えてくる。
「バトルお願いできるかな?」
お!そうこうしている内に今日の対戦相手が来たようだね。僕は腕の中にいる綿毛、エルくんに襷を渡す。するとエルくんは更に笑顔を増して、腕から飛び出し相手へ向く。
僕の行動に合わせて、相手もポケモンを繰り出した。なるほど…。ゼブライカねぇ…。
ああ…!気持ちが高ぶる…っ!対戦スタートだ!
「よろしくお願いしますね。」
「こちらこそよろしく。」
挨拶は大事だよ。何事も挨拶から始まるからね。
ルールは双方1匹ずつのシングルバトルで持たせた道具以外は使用禁止、というものだ。
「ニトロチャージ!」
「エルくん!宿り木の種!」
悪戯が大好きなエルくんは僕の言葉を聞く前に技を出してしまう。そんなに急がなくても大丈夫なのにね。
ゼブライカに小さな木が生える。その木はニトロチャージの炎でも燃えない。ゼブライカはエルくんに炎と共に突撃。
弱点だからつらいね…。でも、僕が渡した襷を握り締めて耐えてくれた。
「良く耐えたね!痛かっただろうけど、ここからは楽しい時間だよ!」
ここからは僕達の時間だ…!
「えっ…。何だこれ…!?」
ようやく気付いたようだね。その木はゼブライカの体力を奪ってエルくんへと渡すものなんだ。まさに宿り木だね。
つらそうな表情だったエルくんは少しずつ笑顔になっていく。
「エルくん!守ってね!」
「まだまだ…!ニトロチャージ!」
エルくんは綿毛で体を包み込み真っ白な球体になる。この姿も可愛い。
ゼブライカは再びタックルするが球体は弾んで転がるのみ。エルくんはコロコロと転がったあとシュタッ!と立ち上がる。体操選手みたいだ。やはり可愛い。そして、更に体力を奪い取る。エルくんは一層元気になっている。時々僕に向かってきて腕に乗ってくる。撫でてあげると「きゃー」と言いそうな感じで走って戻る。
相手を見てみると唇を噛んで悔しがっている。ゼブライカは鼻息が荒くなってきている。
あぁ…!気持ちが高ぶる!相手が苦しんでいるのを見ると楽しくなってくる!
「エルくん!身代わり発動だよ!」
「ゼブライカ!ワイルドボルトだ!!」
相手は顔を真っ赤にしてゼブライカに命令する。だめだねぇ。ポケモンのことを考えない身勝手な命令だね。
そしてゼブライカはエルくんに電気を纏い突撃するが、ゼブライカが激突したのは身代わりのエルくんなので本物のエルくんにはダメージが届く訳が無い。どんどんと体力を奪い取るよ…!いいね…。いいねぇ。いいねぇ!楽しいよ!
「あっはっはっはっは!いいよ!その表情っ!もっと楽しませてよ!」
「うっ…。うるせえよ!うん?ドSなトレーナー…。面倒臭いエルフーン。まさか…!お前が狂った変態野郎か!気持ち悪い…。こんな勝負止めだ!」
そう言うと相手は帰ってしまった。何だ…。ここからが楽しい所だったのに…。
少し落ち込んでいるとエルくんが走ってやって来て小さな手で僕の頭を撫でてくれた。やはりエルくんは可愛くて優しい良い子だよ。
僕はまた、エルくんを抱きかかえスケッチブックを掲げる。
「さて!次の相手は誰だろうね!」
とあるポケモントレーナーの対戦記録(狂気のポケモントレーナー)
終わり…