あるポケモンの気ままな旅行記
私はレシラム。真実の世界を築こうとする者に力を貸すポケモンだ。人間達からは伝説のポケモンと言われている。まあ、私は滅多に人間の前へ姿を見せることはないからな。
私は旅が好きだ。旅は自分の知らないことを教えてくれる。それに新しくなってゆく町並みを見ることも出来る。
今日はあのトレーナーが暮らしたというカノコタウンに行こうと思う。あのトレーナーは気高き理想を真実にする力を持っていた。Nというトレーナーの自分勝手な理想を打ち砕き、真実の世界の実現に尽力していた。それに私が伝説のポケモンだからといって差別せずに他の仲間と同じ扱いをしてくれた。私はそれが嬉しかった。私は今まで、伝説のポケモンだという理由だけで崇め、奉られてきた。なぜ人間は私を特別な存在として扱うのか…全く理解出来なかった。
私は人間の文字と言葉が分かる。有り余る寿命のおかげだ。
ある人間に、何故人間は私を特別扱いをするのか、筆談で聞いたことがある。答えは、あなた様は伝説に語り継がれるお方だからです、と。
まただ。伝説、伝説、伝説…。だったら私は伝説のポケモンをやめたい。そんな風に思ったこともあった。
だが、あのトレーナーに出会ったことで全てが変わった。
「俺は伝説のポケモンでも特別扱いはしないよ。伝説といっても1人の仲間だからね。」
あのトレーナーは私を捕まえた後そう言った。衝撃だった。
人間は誰しも私を特別扱いするものだと諦めていたから。
私はその時、このトレーナーと共に真実の世界を築きたいと切に思った。
それから私はそのトレーナーを背に乗せて全国を飛び回った。目的地に着いた時そのトレーナーは必ず、ありがとうと言って私を優しく撫でてくれた。その手がとても温かかったのを今でも覚えている。礼などいらないよと伝えようとも人間に私達ポケモンの言葉は理解出来ない。だから私は気持ちを伝えたい時そのトレーナーを優しく抱擁する。人間の間では感謝などの気持ちを伝える時に抱擁をすることもあるらしいからな。
あのトレーナーは私に抱擁されたことに驚いていたが、意味を理解したのか体格差で大きく見えるであろう私の手を抱きしめた。
「なるほど。じゃあ分かった。これだけは受け取ってもらうよ。これからも頼むよ。」
そしてはっとした表情になり私の手にモモンの実を握らせて言った。
まさか私の気持ちが伝わったのか!?久しぶりに驚いた。どうやらこのトレーナーは何らかの方法でポケモンの気持ちを察することが出来るようだ。私は受け取った木の実を食べる。その味はいつもより優しい甘さのようだった。
私達は全国に散らばったNの従者である7人の賢者を1人ずつ捕まえていった。やがて最後の1人を捕まえた後、あのトレーナーは私以外の仲間を野生へと返していた。その元仲間はいい笑顔で去っていったのが印象的だった。
それから私とトレーナーはリュウラセンの塔の頂上へ降り立った。
「レシラム。ここでお別れだ。」
あのトレーナーは唐突に言った。いきなりのことに少しパニックになってしまった私は塔の床に人間の文字で理由を教えてくれと書いた。するとそのトレーナーは少し考えて、俺が他の地方に行くからだと答えた。ますます訳が分からない。私は言葉が伝わらないことも忘れ、問い詰める。しかしあのトレーナーは答えずにいつもの優しい笑顔で最後のポケモン、ウォーグルで飛んでいってしまった。その時私は生まれて初めて泣いてしまった。私の力が弱くて見捨てられてしまったのだと。
だが、今なら良く分かる。あのトレーナーはあるべきものをあるべき場所に戻したのだ。私がイッシュを離れてしまったら生態系が崩れてしまう。それを危惧しての行動だったのだろう。あのトレーナーとの旅を思い出すと自然と笑顔になってしまう。出来ることならもう一度会いたい。
さてそろそろ私の時間が終わる。私は死ぬということはないが一定の時間が過ぎると石になる。石の状態で次なる英雄を探すのだ。
出来ることならあのトレーナーと似た人間と共に旅をしたい。
では、しばしの眠りにつくとしよう…。