第27話 フキヨセジム〜風の使い手フウロ〜
「みんな。準備いいか?」
一応、最終確認を取る。まあ、みんなの顔付きを見れば準備万端なのは分かるけどな。
『準備出来ていない者がいると思いますか?』
「まあそうだよな。じゃ、行こうか!」
やっぱり聞くまでもなかったな。
ちなみに今回の先鋒はライだ。素早い動きで相手を錯乱させてくれるはずだ。
宿屋の外に出ると雨が降っていた。おかしいな…。さっきまで降ってなかったはず。
『おっ!閃いたぜ!』
どうしようか迷っていると、空を見上げて何かを考えていたライが突然大声を出した。腰抜かすかと思った…。
「びっくりさせるなよ…。で?何を閃いたんだ?」
『それはバトルまでの秘密だな!見て驚くなよ〜?』
それはずるい。気になって仕方ないじゃんか…。
『そんじゃ、俺はボールに入るからな。』
ニヤニヤしたライがボールに入っていった。それに続くようにみんなもボールに入っていった。
「ライめ…!滅茶苦茶気になる…!」
『まあまあ。気にしてても仕方ないので行きましょう。勿論私も気にはなります。』
全くもって正論だな。
大きめの傘を開いて歩き出す。勿論ルナに雨が掛からないように、だ。
「やあ。来たね。観戦させてくれてありがとう。」
「いやいいよ。ライが何か凄いことをやってくれるらしいから楽しみにしててくれよ?」
フキヨセジムに着いた俺達はNと合流した。彼は俺達の戦いを見たいらしい。これでライへの軽い仕返しになるはずだ。
「うん…!楽しみだよ。」
「お待たせー!」
お?タイミングいいな。フウロさんが来たようだ。
「多分知ってるかもだけど改めて自己紹介させてね。私はフキヨセシティジムのジムリーダー、フウロ!挑戦者、レイの勝負を受けます!」
かしこまって自己紹介をしたフウロさん。言っちゃあ悪いけど、今まで会ったジムリーダーの中で1番まともだ。
「よろしくお願いします!」
ちなみに審判はNが務めてくれた。
「それじゃ、頼んだライ!」
「ぶっ飛ぶよ、ケンホロウ!」
相手はケンホロウだ。相性はいいが、空を飛ばれたら厄介だな…。
「ケンホロウ、フェザーダンス!」
「ライ、電光石火で撹乱からの10万ボルトだ!」
速攻で行くために10万ボルトで終わらせようと思ったのだが。
『レイ、悪いけど指示を無視するぜ!俺のとっておきを見せてやるぜ!』
そう言ったライは10万ボルトを空に向かって放つ。すると、空を舞うケンホロウにとてつもない轟音を立てて雷の柱のようなものが落ちてきた。
ケンホロウは黒焦げになって地面に落ちた。
『うっし!成功だぜ!』
「いやいやいや、おかしいって!」
喜ぶライにそう声を上げずにはいられなかった。狂ったような威力と規模の大きさだ。
一撃必殺の威力はまだしも、目視直径6メートルの円をすっぽりと覆うその範囲はほとんど回避不能に近い。でたらめ過ぎる…。
『どうだ?1日1回、雨の日にしか使えないけど凄いだろ!』
「凄い…けど、これは相手に同情するしかない…。」
とりあえずそのまま「
雷柱」と呼ぶことにした。決してライチュウからもじった訳じゃない。
「君のポケモン、本当に強いね!愛情が伝わってくるよ!」
フウロさんがニコニコしながら言う。
「ライ、よくやったぞ。少し休んでろ。」
『お、おう。じゃあ少し寝るぜ…。』
やっぱりか。あれは相当な大技だ。体内の大量の電気を使ったら疲れるのは当たり前だ。
「フィル頼んだ!」
『まっかせて〜。』
相変わらずフィルは明るい。
「次はこの子!ウォーグル!」
フウロさんはウォーグルを繰り出してきた。これは嫌な予感がする…。今度も速攻で行こう。
「フィル、電光石火からサイコキネシス乱れ打ちだ!」
「風を味方に!追い風!」
ウォーグルが大きく翼を振る。すると、気流が発生して相手の後ろから吹きつける風が起こる。
予想的中か…。あの風が止むまでフウロさんのポケモンは大幅にスピードアップする…。
そう考えている間にもフィルは素早く走り回ってサイコキネシスを連打している。
ウォーグルにもだいぶ疲れが見えてきた。
「こうなったら奥の手!ブレイブバード!」
フウロさんの声を聞いてウォーグルの動きが変わった。
ウォーグルは超低空飛行で追い風の勢いと共にフィルへと突撃する。フィルは咄嗟の判断でよけてくれたが、かすっただけでも相当ダメージを食らってしまったようだ。
「フィル、交代だ。休んで体力を温存してくれ。」
『分かったよ。頑張ってね…。』
そう言ってからフィルは崩れ落ちるように眠りについた。
さて、ヤバいな…。ヤバいけど燃えてきた…!ここからは本気の本気で行こう!
「ルナ!本気で行くぞ!」
『はい!』
ルナの声を聞いてから、ネックレスを首から外して叫ぶ。
「メガシンカ!」ルナが首から下げているアブソルナイトと反応して彼女の姿が変わる。翼の生えた神々しい姿だ。
「えええ!?メガシンカ!?」
いいね!驚いてる。やっぱり初めて見た人はみんな驚くよな。
それにこの姿、本当にカッコイイしな!
「さて…本気の本気で行きますよ!」
「いいね!じゃあ私も全力の全力で行くよ!」
本当に楽しい勝負だ…!だけど…ウォーグルはすぐに倒さなきゃな…。
「速攻で行くぞルナ!フェイント攻撃だ!」
「ウォーグル!ブレイブバード!」
追い風の影響を受けてウォーグルがとてつもないスピードで突撃してくるがギリギリで避ける。そして相手に予測ができないような動きで連続攻撃を仕掛ける。
だが、そこまでのダメージは与えられていないらしくウォーグルはまだ空を飛んでいる。
「ん…?風が少し治まったか…?」
さっきまで突風のように吹いていた向かい風が少し治まった気がした。今しかない!
「ルナ!サイコブレードだ!」
「ウォーグル、フリーフォール!」
まだまだ勢いが残っているウォーグルがルナを捕まえて上空に連れて行く。
ルナはサイコブレードでウォーグルの翼を切り裂いた。ウォーグルは錐揉み状態になって墜落する。
「まずい…!ルナ!地面に向けてサイコカッター連打だ!」
自由落下しているルナに大声で叫ぶ。彼女は俺の声に気付いたようで何発もサイコカッターを放つ。
「やるしかないか…!」
だいぶ勢いは落ちてきたがあのままだと相当な傷を負ってしまう。そう思った俺はスライディングで地面とルナの間へ滑り込んだ。
「うあっ…!」
『レイっ!大丈夫ですか!?』
激しい痛みを堪えてルナを見る。彼女は心配そうにこちらを見つめている。とりあえずルナが無事が無事で良かった…。
「うう…!俺は…まだ戦える…!」
『ごめんなさい…。私のせいでレイに怪我を…。』
痛む腹を押さえながら立ち上がる。その横で俺を支えながらルナが呟く。
「大丈夫だルナ…。まだまだ本気を見せてやろうぜ?」
『…!はい!』
何とか気を取り直してくれたようで一安心だ。
「大丈夫?一旦やめようか?」
「いえ!続けられます!」
声を掛けてくるフウロさんに気合いで声を返して再び対峙する。
「それじゃあ遠慮なく…。行くよ!クロバット!」
「ルナ、まだ戦えるか?」
『今の私はレイと一心同体です!レイが戦うなら私も戦えます!』
頼もしい。それしか言えない自分が恥ずかしくなるほど頼もしい!
「行くよ!クロバット、クロスポイズン!」
「ルナ!一撃で決めるぞ!サイコブレード!」
先に動いたのはクロバットだ。毒々しい色に染まった翼を、交差させるようにして攻撃する。ルナはかわしていたが、ついに当たってしまって毒を直に浴びてしまった。
ルナは気にすることもなく、サイコブレードを突き刺し戦闘不能にする。
「ルナ、あまり無理はしないでくれよ?」
『だったら、レイも無理をしないでくださいね?』
毒消しをスプレーしてあげていると、ルナがいたずらっぽく笑いながら言う。
そうだな、と言ってひとしきり笑い合ったあと三度フウロさんと対峙する。
「君は強いね…。だから私も、もっともっと全力で戦います!」
さっきまで笑顔だったフウロさんの様子が一変し、真剣な表情になった。覚悟をしないとすぐに負けてしまいそうだ。
「ルナ…!いけるか?」
『勿論です!』
「この子が私の切り札、スワンナよ!」
スワンナか…。相性的にはやっぱり空を飛ぶ相手の方が有利だけど…そんなもの今まで何回も跳ね飛ばしてきた。
だからやれるはずだ…。
追い風の影響が無くなったフィールドは徐々に晴れてきて明るくなってきている。
「行くよ!スワンナ、ブレイブバード!」
「行くぞ!ルナ、辻斬り!」
両社の声が重なって同時に動き出すルナとスワンナ。
ルナは爪を構え猛スピードでスワンナに迫る。
スワンナは地面すれすれの超低空飛行で突撃する。
ドゴンという車同士が衝突したような音が聞こえ思わず目を瞑ってしまった。
恐る恐る目を開くとそこにはメガシンカが解除されフラフラの状態で立っているルナがいた。
「スワンナ戦闘不能。勝者、レイ。」
Nのあまり抑揚のない声が聞こえて初めて勝ったことに実感を持てた。
「やった…。やったぜ!勝った〜!って、うおあっ!」
俺が喜びを爆発させていると、みんなが飛びついてきて押し倒されてしまった。
「ちょ…危ないだろ。いきなり飛びついてきて…。」
『みんな嬉しいんですよ。私も勿論嬉しいです。』
へとへとでみんなをどかす気力も残ってなかった俺はされるがままの状態だ。
そんな俺の隣に座るルナは心なしか嬉しそうに見える。いや、実際嬉しいのだろう。
疲労と達成感で急激に眠くなってきてしまったので、フウロさんからジェットバッジを受け取って宿屋に帰り寝ることにした。
今日はいい夢が見られそうだ…。