第26話 Nの償い〜フキヨセジムへ〜
「おはよう…。」
やっぱり寒いな…。布団に潜っていたい。
でも今日はNに付き合うことにしているからそうは言ってられない。
「さ、起きるぞ…。」
自分に言い聞かせるように呟く。別にみんなは連れて行かなくてもいいのでまだ眠らせておく。しっかりと休んでいてほしいからな。
しばらく準備をしているとノックする音が聞こえた。
「おはようN。」
「うん。おはよう。」
想像していた通り、Nが爽やかな笑顔を浮かべて待っていた。
「僕の用事に付き合わせちゃってごめん。」
「いやいいよ。俺もジムリーダーに会いたかったからな。」
ちなみにこの街のジムリーダーはフウロという名前で、飛行タイプの使い手らしい。ジムの構造とかも知りたかったしいい機会だ。
「ここで話し続けても時間が過ぎるだけだし、そろそろ行こうか。」
「うん…!そうだね。」
Nがジムリーダーに会いに行く目的。それは3年前に彼とゲーチス、そしてプラズマ団が起こした事件の償いのためだ。
3年前イッシュ地方では白い服を着たプラズマ団という組織が、ポケモンを解放するという名目で人のポケモン達を強奪するという出来事があった。被害に巻き込まれた人数は数え切れない。
そしてNはプラズマ団のボスだった。幼少の頃から外の世界と隔離され、人間のせいで傷付いたポケモン達と暮らしていたNは人間からポケモンを解放するという考えに取り憑かれてしまった。
しかしあるトレーナーのポケモンが懐いていたことに疑問を抱き何度もバトルを仕掛けた。
そして5回目のバトルにも負けてしまったNは、ゲーチスの操り人形だったことを知らされた。
自分の考えが間違っていたと確信したNはレシラムと共に旅に出た。
ん?ちょっと待て?
「そういえば、レシラムっていうポケモンはどうしたんだ?会った時から見当たらないけど。」
「ああ。レシラムは新たな英雄を探すために旅立ったよ。ちょうど1年前くらいかな。」
そうか。って熱い…。何だ?バッグの中か?
驚いてバッグの中を見てみると、あの時アララギ博士にもらったライトストーンらしきものが燃えるように赤く輝いている。
「それはライトストーン…!まさか君の手に渡っていたとはね…!」
俺の様子を見ていたNが驚きの声を漏らす。
ということはこれは本物なのか!?今の今まで偽物だと思っていたからびっくりだ。
「これが運命っていうものなのかな。今まで運命なんて不確定な未来が偶然で重なっただけのものって思っていたけど、違ったみたいだね。さて、着いたね。」
言っていることは何だかよく分からなかったが、とりあえずジムに着いた。
「じゃあ僕はフウロさんに会ってくるよ。20分くらいで戻るから君は待っててくれるかい?」
「そか。分かった。この辺で待ってるよ。」
どうやらNは1人で行きたいようだ。だったら付いて行く意味はない。
Nはフキヨセジムへ入っていった。
(レイ…!レイ!?聞こえてる!?)
しばらくするとフィルから慌てた念話が来た。
あ!昨日寝る前に、みんなに今日の予定伝えるの忘れてた!
俺何考えてるんだ…。みんなを何回も心配させて…。自分が嫌になりそうだ…。
(ごめんフィル。俺は大丈夫だ。今から迎えに行くから少し待っててくれ。あとで説明もするからな。)
俺!しっかりしろ!
俺はもうみんなを心配させない!俺はもうみんなを心配させない!よし。オッケーだ。
結論から言おう。滅茶苦茶怒られた。
ルナからは軽い頭突きを、フィルからは正論で叱責を、ラックからはジト目を、ライからは静電気を、朧からは軽い冷凍パンチを、それぞれもらった。しかし、どれも
こんな俺を好きでいてくれるみんなのためにもこれ以上はもう…あり得ない。
「みんな本当にごめん。」
『もうこれ以上、私達を心配させないでください。お願いしますよ。』
みんなを代表してルナが言葉を投げかける。
「ああ。分かった。もう絶対に悲しませない…!」
『分かってくれたらいいんだよ。さあ、あの人のところに行くんでしょ?今度はあの人に怒られちゃうよ?』
フィルが優しい言葉をくれる。本当に優しい仲間達だよ。感謝しなきゃな。
それから俺達はみんなでフキヨセジムの前へ戻った。まだそこまで時間が経っていなかったようだ。
Nが戻って来るまでみんなを、謝罪の意を込めて撫でていた。やっぱりみんな可愛い。
「あれ?みんなも連れて来たんだね。」
『お…?Nが戻ってきたぜぇ…?』
「うん。もう終わったよ。それにしても、やっぱり君のトモダチは面白いね。」
戻ってきたNが微笑みながら言う。その通りだ。俺の仲間達は優しくて面白い。
「で?どうだったんだ?」
「うん…!許してくれたよ。あと7人に謝らなければね。それが僕の償いだから。」
相変わらずいい笑顔を浮かべるN。その顔は晴々としていた。
「そっか。とりあえず、良かったな。」
上手く言えないが、いい笑顔なので良かった。
「うん…!本当に良かった。僕はこれからゆっくりと1つずつ償っていくよ。」
Nはとんでもない早口で言う。びっくりして目を見開いてNを見る。みんなも同じ反応だ。
「あ…。ごめん。興奮して早口になってしまったね…。昔からの悪い癖なんだ。」
彼は気まずそうな表情になって小さい声で言う。
別に誰にだって悪い癖はあると思うし、俺だって忘れっぽいから大丈夫だ。
「さ!宿屋に戻ろうぜ。あ、そうだ!明日は俺がフウロさんに挑むから応援頼むよ。」
「うん…!分かった。応援するよ。」
その後俺達はNと別れて部屋へと戻った。
明日はフウロさんと戦う日だ…。気合を入れてから眠ろう…。