第25話 フキヨセシティ〜謎の男との出会い〜
「おはよー…って寒過ぎっ!」
フキヨセシティでの初めての朝。それはとてもつらいものとなった。
「みんな起きろ〜。」
「お…起きてますよ…。だけど、布団から出るのが少し億劫なだけです…。」
「ルナと同じだだ…。ああ…体が震える…。」
「もう無理…。まだ寝る〜!」
「お前ら寒がりだな!俺はぜんっぜん寒くないぞ!」
「何だぁ…弱いなぁお前ら…。寒くなんかねぇだろぉ…?」
クルマユのように毛布にくるまってみんなを起こす。ちなみに昨日一緒に寝たのはフィルだ。
2人だけ変な奴がいるがとりあえず放っておく。
ライは自分の電気を纏えば熱であったかくなるはずだし、朧はそもそも体温が低いだろ。
「ルナ、フィル、ラック。固まろう。その方があったかい。」
「レイ?今日はタワーオブヘブンという所に行くんでしょう?だったら、もう準備を始めた方がいいと思いますよ。」
ルナがだらける俺を軽く叱る。そうだな…。
「ありがとルナ。ほらフィルー、ラックー。起きるぞー!」
すぐ怠けようとする体に鞭打ってフィルとラックから布団を剥ぎ取る。フィルは不機嫌そうにサイコキネシスを発動して毛布を自分の体に巻きつけ、ラックはそんなフィルと一緒に毛布に巻き込まれる。団子かよ…。まあ、幸せそうな表情だからいいか。
とりあえずそんな空中に浮かぶ団子とみんなを連れて宿屋の外へ出る。肌を突き刺すような寒い風にげんなりしながらタワーオブヘブンへ向かう。
「本当に寒いですね…。」
「そうだな…。さっさと行こうか。」
フキヨセシティの北にあるタワーオブヘブン。そこにはポケモンと人間の魂が眠っているらしい。
俺達はその最上階にある鐘を鳴らすために来た。
塔の前にいた管理人のような人に、注意事項を伝えられ書類にサインして中へ入る。どうやら墓荒らしが出たことがあるから警備を強化しているらしい。何で墓荒らしなんかするんだろう?どう考えても罰当たりだろ…。
少しイラついた気持ちを落ち着けて緩い螺旋階段を昇る。数々の墓を見ていると思わず仲間達に何かあったら…、と考えてしまう。
ダメだダメだ!そんなこと…考えたらダメだ。もしそんな事になったら俺はどうにかなってしまう。
「大丈夫。わたしたちはどこにも行かないよ。」
「え…?ああ…。そうか…。そうだよな。」
いつの間にか心を読んだフィルが優しく語りかけてきた。
団子状態のフィルを見ると、ニコッと笑顔を見せてくれた。
ああ…。馬鹿らしい。
さっきまで考えていたことが全く気にならなくなった。本当に頼もしい仲間達だ…。
「うぅわぁ…。さらに寒いな…!」
最上階に着いたのはいいのだが…有り得ないほど寒い。炎タイプのポケモンがいてくれたらと考えてしまうほどだ。
「さ、さて…鐘を鳴らそうか。」
「そうですね…。」
階の中央にある高台に登って鐘に付いている紐を引っ張る。
ガラー…ン ガラー…ン
鐘の音が響く。この音はイッシュ全体に聞こえるという噂があるらしい。
何とも言えない複雑な気持ちになる。何と表情すればいいのか…。
でも、いい気分だ。清々しい気持ちになった。
「…不思議な気分ですね。」
「ああ。何て言えばいいのか分からないけど…。」
俺達はしばらくそのままでいた。寒さなんか忘れていた。
「君!もしかしてトモダチと話せるのかい…!?」
そろそろ帰ろうと思って高台からおりた時、誰かに声をかけられた。声が聞こえた方向を向くと白黒の帽子、白のシャツ、黒のインナー、ベージュの長ズボンを身に付けた緑の長髪の青年がいた。
「誰でしょうね…?」
「そうだった。自己紹介がまだだったね。僕はN。よろしく。」
ん?今…ルナと話したよな?それにNって…!
「まさか…!あのNか!?」
「そうだよ。トモダチを解放しようとして父さん…いや、ゲーチスに利用されたNだよ。」
自嘲気味に笑いながら語るN。
「だけど…もう解放なんてしない。人間に懐いているトモダチもいることが分かったから。君のトモダチも、君といることができて嬉しいみたいだね。」
Nは、見ている俺達が清々しくなるような笑顔を見せる。
それより…何より嬉しかったのは自分以外にポケモンと話せる人間がいたことだ。
「当然です。私はレイと出会ったから人間の優しさを知れたのですから。」
ルナが胸を張って言う。滅茶苦茶照れくさいな…。
「ルナ…照れくさいから止めてくれ…。自己紹介忘れてたな。俺はレイ。よろしくなN。」
「うん…!その子、ルナって名前なんだね。じゃあ僕のトモダチも紹介しなきゃね。ここにいるのが、ゾロだよ。」
Nが名前を呼ぶと、どこにいたのか彼の後ろからゾロアークが出てきた。
「………よろしく…。」「ごめん。ゾロはまだ人に慣れてないんだ。」
Nが申し訳なさそうに言う。ゾロはNにくっ付いて目をきょろきょろさせている。
「いや大丈夫だ。ルナもだいぶマシにはなってきたけど元々人間に傷付けられた奴なんだよ。」
「今更掘り起こさないで下さい…!もう過去の話なんですから…。」
ルナが顔を少し赤らめて訴えてくる。可愛いけどこれ以上は止めておこう。サイコカッターなんか飛んで来たら嫌だし。
「それで、提案なんだけど僕も旅の仲間に加えてくれないかな?君は僕以外でトモダチと話せる唯一の人間かもしれないんだ。」
Nは真顔になって聞いてくる。その顔があまりにも真剣なので俺も真剣な表情になる。
「まあいいぜ。仲間は多いほうが楽しいからな。んじゃ、改めてよろしく。N!」
「うん…!よろしく、レイ。」
こうしてまさかの、旅の仲間が加わった。これからが楽しみだ。
ちなみにNは俺の部屋の隣に寝泊りするらしい。ゾロはあれから一言も喋っていない。相当な人見知りのようだ。