第24話 電気石の洞穴〜ライの豹変〜
「ひゃっほ〜!バトルだバトルだ!」
ライが人(ポケモン)格が変わったかのように興奮しながら走り回る。どこかの暴走族みたいだな…。
「どうしてこうなった…?」
「ライ…。危ないですね。色々と…。」
俺とルナ、それとフィルとラックが呆れてため息をつく。
どうしてこうなったのか…それは20分前に遡る。
………
ホテルをチェックアウトして6番道路に出た俺達は、野生のポケモン達と戯れたりトレーナーとバトルしたりで楽しみつつ歩いていた。
「のどかだねえ…。」
「そうだなあ…。少し寒いけど、こういうのいいよなあ…。」
フィルとライはのんびりと付いてきている。
「黒はいい。ああ、暖かい…。眠くなってきたな…。」
「ラック、そのまま寝ようとしないでくださいよ?まあ、その気持ちは分かりますけど…。」
悪タイプの2人は…というかラックは黒い体毛のおかげで暖かくて目がとろんとしてきた。ルナはそんなラックを背中に乗せてゆっくりと付いてくる。
「平和だねぇ…。ま、俺はいつも通り遊ぶだけだがなぁ…!」
「朧やめとけって。」
完全に寝てしまったラックに悪戯を仕掛けようとしている朧を、背中にあるトゲトゲを掴んで止める。
「仕方ねえなぁ…。だったら、レイで遊ばせてもらうぜぇ…!」
朧はそう言うと歩いている俺の頭でボールみたいにバウンドする。
「何が楽しいんですかね…?」
「分かんないな…。まあ、本人が楽しいのならいいんじゃないかね。」
いつも通りの朧の奇行を見ていたルナが不思議そうに聞いてくるが、それは俺が1番知りたい。
ゲンガーである朧はゴーストだが体重が40kgもある。だから普通に頭の上で跳ねられると首がおかしくなるはずだ。でも、俺は少ししか重さを感じない。
朧は根はいい奴なんだ。それに、意外と面倒見もいいしな。
「何だこれ?」
次の街、フキヨセシティに行くためには電気石の洞穴を通る必要があるので来たのだが…。
「何で…蜘蛛の巣が出来ているんだ?」
入り口に蜘蛛の巣が張っていた。しかも電気を帯びている。触ったら感電すること間違いなしだ。
「どうしようかね…。」
「おいおい。俺を忘れてねえか?」
色々考えていた俺にライが心外だという感じで言ってきた。
そうだな。ライの力の1つである蓄電で何とかなりそうだ。
「ごめん。忘れてた訳じゃないよ。頼めるか?」
「勿論だぜ!」
ライは嬉々として飛び出して、地面が揺れる程のとてつもない電撃で蜘蛛の巣を消し飛ばした。
ゑ?
「何その電撃!?まるで雷じゃねえか!」
「ん…。そうだな…?何かここが…電気で溢れてるからだと思う…?」
なるほど…?電気石の洞穴って言うくらいだから大量の電気が流れ出てきているのだろう。
とりあえず、厄介なものは消えたから行こう。
「おお…。凄いな。」
「神秘的ですね…。」
洞穴に入った俺達は感嘆の声をあげた。洞穴の中は青く光り、電気を帯びた岩が浮いている。歩いていると時々バチバチと音が鳴る。
「うわ…明らかに触ったら感電しそうな岩だな…。フィル、あの岩を軽く押してくれ。」
「分かったよ〜。」
フィルは快諾してくれた。サイコキネシスで軽く押していくと、大きい岩に凄い音を立ててくっ付いた。
「びっくりした!金属がぶつかったみたいな音だったな…。ってライ?どうした?」
「………。」
岩を見つめていたライが大きい岩に触った瞬間、プルプルと震え始めた。
「おいラ…」「うおおお!」
心配になって声をかけようとしたのだがライの雄叫びにかき消されてしまった。
………
という訳だ。正直俺には何が何だかよく分からない。
「ライ、暴れるなって。」
「ひゃっほ〜っ!!」
一応止めてみたのだが、全く届いていないようだ。
「そろそろマジで怒るぞ。ライ、止まれって!いったあああ!?」
ライを止めるために抱きかかえようとしたら、静電気が発生して滅茶苦茶痛かった。
これは捕まえたらこっちがマズい…。だったらこれしかない。
「フィル、サイコキネシスだ!」
「勿論分かってるよ、っと!」
このままじゃヤバいと思い、フィルのサイコキネシスで洞穴の外へと出た。するとライは一瞬で元に戻った。そして自分が暴れ回っていたことを覚えていなかった。
原因は多分、ここ特有の特殊な磁場のせいだ。昔、本で読んだことがある。電気石の洞穴には特殊な磁場が存在して、機械などが壊れてしまったり一部のポケモンが暴れ狂ったりする。
ライは電気タイプだから、磁場の影響をもろに受けてしまったのだろう。
とりあえずライにはボールに入ってもらった。知らない間に誰かを傷付けてしまったら本人が1番悲しいだろうしな。
気を取り直して、もう1度洞穴へ入る。
みんなに異常がないことを確認してから進む。
途中うっかり岩に足を引っかけて転んだ勢いで、浮かんでいる岩に手を触れてしまったが痺れなかった。だったらフィルに無駄な労力使ってもらわなくてもよかったんじゃん…。
試しに軽く押してみると面白いほどよく動く。みんなもそこら辺の岩で遊び始めている。
「おーい、そろそろ行くぞー。」
しばらく遊んだあと、ライのためにもさっさとここから出ないといけないことに気付いてみんなを呼ぶ。ライごめん。あとで何かお詫びするからな。
それからトレーナーとバトルしたり野生のポケモンと出会ったりして、ようやく洞穴を抜けることができた。その足でポケモンセンターへと向かった。
「あら。初めましてよね?トレーナーさん!」
元気一杯の声に目を向けると、そこにはやっぱり今までのポケモンセンターと同じ顔の人がいた。これは気持ち悪さをも感じる程のそっくり度だ。
「こんにちは。俺はレイです。しばらくこの街にいるのでよろしくお願いします。」
「なるほど!君が噂のレイ君ね!アスイ姉さんから聞いてるわよ!私はアスネよ!よろしくね!」
満面の笑みでそう言うアスネさんにつられて笑顔で礼をしてからホテル(というか宿屋)へと向かう。
明日はタワーオブヘブンに行ってあの有名な鐘を鳴らしに行く。
ちなみに今日はフィルと寝る。
レイ達がポケモンセンターを出た頃………
「あの青年、もしかして…トモダチと話せるのかな…。」
1人の青年がレイを見て呟いた。